トライアンフのトリプルについてシミジミ語るブログの第二弾。ぶっちゃけ駄文です。

近年のトライアンフの躍進は、主力エンジンを3気筒に定めたことが非常に大きいわけですが、ヤマハが3気筒やる前までは、このエンジンはマイナーでしたよね。日本でもトライアンフの根強い愛好家はいましたが、そこまで多数派でもなく、トラのトリプルはハッキリ言ってマニアックなエンジンの一つだったといってもいいでしょう。

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(今回は3気筒についてのブログ。それにしても、こうやって見るとコンパクトもコンパクト、大型バイクには見えない。ヘタすると400の方が車体でかいですよ。車重も今度発売されるGB350と10㎏くらいしか違わない。スズキのGSXーS750に比べても、車体のスレンダーさは際立ってます。)

私も「いつか3気筒乗りたいなぁ・・」と思ってましたが、どっちかというとキワモノエンジンとして味わってみたいという感覚の方が強かったわけです。しかし、実際自分が所有してみると、これは公道エンジンとして、相当な強みを持つことがわかってきた。

3気筒は4気筒に対して「中低速トルクが厚い」という明確なアドバンテージがある。ザラブ嬢は高回転でギョワアアアアアアーーンと強烈にパワー出してくるのに、中低速トルクが十分あるし、SPORTSモード入れると、スーパーフラットトルクになる。どの回転域からでも同じ感覚でアクセルを開けていけるんで、コーナーでのフレキシブルさは比類ない。4気筒の感覚では可変バルタイぶち込んだとしても、このレベルのフラットトルクは難しいと思うんですよ。

「これなんでやねん?」と、ずっと不思議に思ってたんですが、よくよく考えると3気筒は4気筒の吸気過程で大問題になる「排気干渉がない」んです。

高出力のハイカムでバルブのリフト量を大きくして空気を沢山吸おうとすると、必然的にバルブが開いている時間が多くなります(カムの作用角が210°~230°くらい)。4気筒は構造上クランク軸回転180°ごとに爆発してますから、バルブの開いている時間が長くなると「どれかの気筒が排気しようとバルブを開いた時に、まだ他の気筒の排気が終わってない」という「両開けの状態」が生じてしまうんですね。

こうなると別の気筒で勢いよく排気されてる燃焼ガスが、これから排気しようとしてるシリンダーに逆流して、排気のヌケを妨害する。これが排気干渉というやつで、スムーズに燃焼ガスがシリンダーから抜けていかない原因になるんです。

うまく排気されないと、新たな空気も吸えず、エンジンの熱も逃げないという悪循環にハマる。空気の流れがぐちゃぐちゃですから、これじゃパワーが出るはずない。これがハイカムぶち込んだ4気筒エンジンが下スカスカになる原因の一つです。

一方の3気筒は爆発間隔が240°なんで、高回転のパワーを求めてハイリフトのカム入れて、作用角をちょっと過激な230°くらいでとったとしても、240°ごとの爆発だから排気バルブの両開け状態が生じない

このためハイカムでもスムーズに排気され、理想的に空気が流れていく訳ですね。ストリートトリプルRSはエキマニを途中からサイドパイプで連結しちゃってますが、あれって連結することによってエキゾーストを擬似的に太くして、排圧の高くなる高回転域での排気抵抗減らしてるんだと思うんですよ。

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(ザラブ嬢の豪快なサイドパイプ連結。「え?こんなとこで集合しちゃってんの?これなんぞ?」って感じですよね。)

でもあんなの排気干渉で燃焼ガスの逆流が生じる4気筒エンジンでやったら低回転がグズグズになりますよ。4気筒でハイカム入れるんなら、燃焼ガスの逆流対策に集合部分をできるだけエンジンから離すというのが定番対策なんです。

ストリートトリプルRSはリッターあたり160馬力を絞り出しつつ高回転域のパワーと低中回転域の実用性を両立してますが、これはトライアンフが3気筒がもつ構造的な優位性を長年の設計ノウハウによって徹底的に引き出しているからに他ならない。上もそこそこ伸びて下もあるって公道の速度域では実に理想的。リッターオーバーなら排気量にまかせてどうにでもなりますが、低回転域のトルクを誤魔化せるほどの排気量がなく、そこまでコストをぶち込めない600cc~750ccクラスで、素で低速トルクがあるというアドバンテージはデカい。

あと、3気筒は極めてコンパクトであることも使い易さに拍車をかけてます。クランクも短く、ジャイロ効果が薄いので、倒し込みも軽快。4気筒に比べて横に短く、LツインやVツインと比べると縦にも短いから、エンジン搭載位置の自由度が非常に高い。4気筒に比べて1気筒少ないから部品点数も節約でき、コスト面も有利だし、量産性にも優れる。

とまあ、ここまで良いことづくめですが、大きな欠点もあります。それは「騒音と振動がかなりデカい」ということです。つまりうるさくて、ガサツで高級感を出すのが難しいんですね。これが長年車の世界で3気筒が敬遠されていた理由でしょう。

3気筒はクランク軸が2回転する間に3回爆発し、回転的には非常に変なタイミングでクランクに衝撃が加わるんで、上下方向にかなり大きな偶力振動が出てしまう。たまにカラオケでリズム感おかしい奴がいますが、そんな感じですかね。

ジャイアントスイング2(パワーはあって動きも軽快なのに、リズム感が独特というのが3気筒の特性。なぜジャイアントスイングなのか?特に意味はない。)

「いや昔のカワサキのマッハⅢやスズキのGT380は3気筒だったけど、そんなデカい上下振動なかったぞ?」って仰る方もいるかもしれません。それは、マッハやサンパチが2ストロークだったからです。

2ストはクランク軸1回転で爆発行程が全て完結しますんで爆発間隔は4ストの半分の120°になる。これは直列6気筒と同じで、爆発間隔のバランスが極めて良いんですよね。爆発のリズムがとれてるんです。だから2スト3気筒には偶力振動はあまりなかったわけですね。

ストリートトリプルは、エンジンをフレームにガッチリマウントするため、振動の質を粒の揃った4気筒寄りにして、偶力振動をバランサーで消しにいってる。でもやっぱり3気筒なんで微振動は出るし、耳をつんざくような高周波の音が出まくってます。しかし、バイクだとこういうのが特段マイナスにならないというか、逆に麻薬のような個性になっちゃうんですよねぇ・・。そもそもドコドコと振動が大きい2気筒が喜ばれるのがバイクの世界です。

どの回転域でもアクセルひねればギャンギャン吠えまくる排気音はまさに地獄のチェーンソーマンで、高回転域になるほど高まるビートは昨今のスムースでお行儀のいいエンジン達に対する見事なアンチテーゼになってる。

これがアドベンチャーのタイガーになるとあえて2気筒に近い振動をだし、ユルめのエンジンマウントでそれをまろやかに車体に伝えることで、心地よさに変換してる。3気筒のキャラクターを車種ごとに作り分けてるんですよね。

現在のトライアンフのラインナップを見ていただければ、この3気筒エンジンの汎用性がすぐわかる。バーチカルツインがアイデンティティのボンネビル系は除外して、上から下までぜーーんぶ3気筒ですからね。つまり、この3気筒エンジンが、「いかにキャラの振り幅が広く、潰しが効くエンジンなのか」ってことなんですよ。

ハーレーとトライアンフの違いは、ハーレーの空冷Vツインはデカくて重く、エンジン振動の味を重視したアメリカン・クルーザーに特化したエンジンなのに対し、トラの3気筒は軽くコンパクトで、味出しの幅が広く、どのカテゴリーにも使えちゃうっていう、汎用性の違いに他ならない。

特定カテゴリー特化型メーカーは王道一本で勝負するため、個性が強く、味と深みは比類なく、ブランドアイデンティティも高いですが、経営上は小回りがききません。一方フルラインナップメーカーは多彩なエンジンを製造し、オールマイティにあらゆる方向に作り分けますが、多彩すぎて、メーカー自体の色や個性、インパクトを出すのが難しいところがある。しかしトライアンフは「特化型エンジンでフルラインナップをやる」という非常にオイシイことになってるんですよね。

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(ザラブ嬢のトリプルは超高効率で吠えまくる生粋のスポーツユニットで、ファイティングスピリッツが求められるストファイにピッタリ。一方のタイガーではゆったりドロドロした回転感で、アドベンチャーにドンピシャなエンジンに仕立ててる。芸域が広いんですよね。)

3気筒は雑誌等で、2気筒と4気筒のいいとこ取りの性能がもてはやされていますが、どっち寄りにも振れるんですよ。しかも、コンパクトだから、いろんなカテゴリーのバイクに搭載可能で実用トルクを出すのも容易、コスト競争力も十二分にある。いや~経営者にとってはこんな有り難いエンジンありませんよ。

でもねぇ・・。これまで3気筒の優位性についていろいろと考えてきましたが、「3気筒作るメーカーは今後増えないな・・」とも思うわけですよ。確かに3気筒っていろんなメリットがあるエンジンなんですが、大型バイクに最も必要なのは合理性より個性です。

3気筒って公道用にとても適した性質を持つエンジンだけど、今までどのバイクメーカーもほとんど手を出してなかったんで、90年代以降、唯一コツコツ作っていたトライアンフに強烈な個性がついちゃってる。

バイクは車みたいに「排ガス規制を乗り越えるために3気筒にせざるを得ない」という状態じゃありませんから、既に4気筒や2気筒をラインナップにそろえるメーカーが、これからあえて3気筒をやるか?っていうと、それはないだろうなと。

市場じゃトライアンフとヤマハが3気筒で盤石の地位を築いているし、トライアンフなんて3気筒一本で既にいろんな味のメニュー出しちゃってるんですよ。3気筒専業メーカーとして劇辛カレー味、うま味の味噌味、さっぱり塩味、と他のメーカーが新しい味付けす考えるの難しいくらい、いろんな味を用意してる。

他メーカーがいくら頑張ってエンジン作っても、「トライアンフの3気筒と味わい似てますね」って言われちゃうと、トラが本家なんでどうしようもない。要は他メーカーが商品開発で個性出せるだけのスキマが既にないんですね。

そんなこんなで、「トライアンフ=3気筒」の地位は将来的に揺るがないだろうなぁと私は思います。30年近く3気筒で苦労しながら一人旅してきて、それが今ちゃんと報われてる。私はトライアンフはこれからそこそこ堅調に売れると思うんですよ。だって、やっぱ3気筒って、2気筒と4気筒をがっつり乗ってきたバイク乗りに「1回は乗ってみたい」と感じさせるエンジンだと思うんですよね。で、3気筒選ぼうとすると一般の方はアグスタいかないだろうから、トラかヤマハの二択でしょう。さぁどっち?ってなったら、トライアンフ選ぶ人はそこそこいるんじゃないでしょうか。

ということで、今回はなんかとりとめもなく3気筒についてダラダラと書いてみましたが、いかがだったでしょうか?次回は先日ようやく突き上げのひどかったリアサスを調整したので、その顛末でも書いてみたいと思います。