今回はダブルウィッシュボーンのインプレッションの第2回目です。前回から随分と間が開いてしまいました。前回は構造的な部分を書きましたが、今回は「その脅威の乗り味」「テレスコピックサスとの違い」について書いていきたいと思います。

フロントサスのセッティングにおいて最近の私の一番のテーマは運動性と乗り心地。若い頃は乗り心地捨ててましたんで、割と簡単だったんですが、おっさんになって、運動性一辺倒ではなく、乗り心地との折衷を考えるようになると、サスセッティングって苦悩に満ちたものになるんです。乗り心地と運動性ってどうしてもバーターの関係になっちゃうから、結局は妥協の産物になるんですね。

テレスコの一番の問題点は、サスがタイヤを支える構造材そのものであるため、走行時に可動部分に強烈な外力がかかるということです。バイクは200㎏にならんとする重量物で、そこに人が乗り、公道のうねる路面を走った日には、サスペンションはありとあらゆる外力に襲われる。その理不尽なまでの暴力に耐えつつ、テレスコちゃんは日々献身的に衝撃吸収と操舵を行ってるわけです。

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(ある日のきんつば嬢、このヒーローバイクのようなスタイリングの中に秘めらてるのは魔性の乗り味です。)

この外力はざっくりいうと、縦横からフォークをへし折らんとする力なんですが、フルブレーキング時と、高速コーナリング時は特に外力が高まり、サスは非常に厳しい状況に置かれる。そんな中で、運動性をあげようとすれば、外力に負けないようにサスをハードにセッティングしなきゃならない。しかもバイクが重ければ重いほど、サスへの負担は二次曲線的に増大していくので、サスはどんどんぶっとく重く固くなっていく。これでは乗り心地が良くなるはずがないんです。

どんな人でも大荷物を手に持って、背中に70㎏のおっさんおんぶして、トライアスロンやれっていったらキレますよね?それでやむなく体鍛えたら、「君ィ、ゴツくって乗り心地悪いね。ゴリラかね?」って言われるんですよ。普通は殺意が湧きますね。浄化槽に放り投げられてもやむを得ないですよ。重量級のバイクのテレスコに要求されていることってまさにこういう理不尽なんです。

そんなテレスコを高次元でバランスさせようとすれば、バイクを軽くするしかない。重いバイクはサスをいじめるだけの悪いご主人。多くのバイクが軽さにこだわるのも、運動性を上げ、サスをより良い動きにしようとすれば、軽さが一番の特効薬だからです。

でも、市場における商品力は常に贅沢感を求める。特にツアラーなどは安定性と乗り心地と余裕が大事だから、排気量のあるエンジンと、防風のためのフルカウル、ロングホイールベースの車体に快適装備満載とバイクが重くなる要素しかない。そうなるとサスの負担は増えるばかり。

前モデルのゴールドウィングには、ブレーキングで踏ん張らせるためにアンチノーズダイブ機構が採用されてました。ちょっと格好いい名前だけど、これって「外力がサスの限界を超えちゃって補助機能が必要でーす♡」って宣言してるようなもんですから。アンチノーズダイブつけなきゃいけない時点で車体が重すぎるわけですよ。

一応擁護しておくと、昔の少々違和感のあったアンチノーズダイブ機構に比べて、F6Bのアンチノーズダイブの動作はかなり自然でした。しかし、強めにブレーキングした時の安定感やギャップを踏んだときのステアリングへのキックバックは高級バイクというにはいささか苦しいものがあったのも事実。

ハーレーみたいにまったりとバイクなりに走るんなら良いけど、385㎏の重量級バイクで「スポーツ性能や乗り心地を高めていきたい」なんつっても無理があるんです。テレスコちゃんがあまりに過酷な職場環境と無茶ぶりに労災を申請しかねない状態になっちゃうわけですね。

では、ご主人として、この過酷な職場環境をどう改善するか?そりゃ人を増やして分業するしかないわけですよ。テレスコちゃんがこれまで1人で全部抱えていた作業を3人でやっていこうってのが、ダブルウィッシュボーンサスです。剛性を担う人と衝撃を吸収する人と操舵を担う人を分担配置して、職場環境の大幅改善を狙ったわけです。

今までは極太のインナーチューブとアウターチューブをフォークオイルで減衰しながら、外力に耐えつつ、ぬっちょぬっちょのずっぷずっぷで動かしていたものを、ダブルウィッシュボーンではタイヤを挟んだ極太一本棒のフォークを上下から太いアームで挟んでガチガチに支えた。これによって縦剛性と横剛性が確保されるため、衝撃吸収を担うサスペンションには下方向以外の一切の外力が伝わることなくなり、適正動作する環境が整います。

このフォークを支えるアームの可動部分には煽動抵抗がほとんどないベアリングを仕込んである。このためフォークとアームの上下動作が極めて軽く、路面とサスペンションがダイレクトかつ繊細に衝撃吸収をやりとりできる。剛性高くて動きが軽くて動作正確。これで乗り心地が良くならないわけがない。

このダブルウィッシュボーンサスペンション、ただ直進してるだけの時でも、その仕事量は凄まじい。乗り手がヨダレ垂らして頭カラッポでボーッとしてるってのに、サスは狂ったように動いてる。カウルの隙間からサスを覗くと北斗百裂拳みたいに

「あたたたたたたたたたたたたたたたたたた!!」

って路面を突きまくってます。その時の動きの細やかさが異常。じっと見てるとこっちの動悸が激しくなるんで最近はサスの方を見ないようにしてるくらい。このサスの微細領域の細やかな動作は路面の荒れをことごとく吸収してしまう。結果として、乗り心地はこれまで乗ったバイクの中でダントツ。ふわふわしてるんじゃなくて、ガッツリ路面をとらえつつ、しっとりとした感触で安心感も高い。

しかも、ブレーキングでは、スポーツバイクみたいなハードさを微塵も見せないのに、鬼のように踏ん張る。そこでも無理してる感じはまったくないから、サスの能力の底が見えません。入力が操舵に影響を与えないから、握りゴケの時みたいに前輪のグリップ限界超えてハンドルが一気に切れるみたいな挙動もない。乗り心地が良いのに高入力時の安定感が凄いわけですね。

これまではまず両立不可能と妥協し、あきらめていた理想のサス性能がそこに確かに存在してる。もう感動でウミガメのような涙を流すしかないですよ。乗り心地と性能を共に諦めないという、夢にまで見た世界線に到達しているのがダブルウィッシュボーンサスの一番のアドバンテージでしょう。まさにシュタインズ・ゲートが開いた感じですね。

シュタインズゲート5
(きんつば嬢の表の顔。ただのイタい中二病患者。シュタインズ・ゲートは超名作アニメですので、皆さん機会があれば、是非ご視聴ください。10話くらいまで耐えればめちゃめちゃ面白くなります。)

とにかくサスがあまりにも良く動くんで、このバイク、走ってるとメチャメチャ軽く感じる。F6Bでは重いバイクがセッティングの妙により軽く動くことに衝撃を受けましたが、このバイクはそもそも車重が消えたような走りをする。車体は鯨みたいなのに、足回りはまるで鋼鉄のハツカネズミ。リンク式のステアリング機構のおかげで操舵もスムースで重量級バイクにありがちな路面からのキックバックもほとんどないんで、結果的に、バイクを「軽い」と錯覚してしまうんですね。

ただし、軽く感じるからといって、軽いバイクみたいにグリグリ曲がるような設定ではありません。サスの安定感が高く、正直曲げるきっかけが掴みづらいところもあります。前のF6Bのように、積極的に姿勢変化させてグリグリ曲げていこうとするとこのバイクは安定方向に流れる。Uターンとかの低速取り回しではサスの落ち着きがプラスに作用して、スッゴク扱い易いんですが、走行中はシャーシの反応は入力に対して、よく言えば安定、悪く言えば鈍めです。コーナーの途中でアクセルを入れたり抜いたりしても姿勢を維持しようとするので、コーナー途中でバンク角を調整しづらいところもある。サスの懐が深すぎて、軽めの入力ではなかなか動いてくれないっていう感じなんです。

また、分業体制ってのはインフォメーションが曖昧になるという欠点もある。1人体制のテレスコだと、ステアリングに瞬時に多くの情報量がダイレクトに伝わるけれども、分業体制を敷くとタイヤ支持とサスの情報が伝言ゲームになり、ダイレクトにステアリングに入らないんで、細かな情報がいささか曖昧になるわけです。

路面からのキックバックを減殺し、素晴らしい乗り心地を手に入れたかわりにテレスコのようなダイレクトなインフォーメーションはない。まぁサスの構造的にやむを得ないことなんで、文句をいうのは筋違い。機械の構造上に当然発生するデメリットは許容しなければならない。大事なのは欠点に対して利点がどの程度上回っているかです。

新型の操縦性はエンジンの味付けと同じで、軽やかさより余裕を作り込む方向で調整されてると感じる。ブンブン振り回したいのなら旧型の方が操作に対してダイレクトに反応し、アグレッシブに走れるから楽しいと思う。だから新型が「面白いか?」って問われると「うーん、スポーティさなら旧型かな・・」って思う。ただし、ちょっと変わったサスに乗ってるって感覚は特別感があるし、長距離を走り抜く大陸横断ツアラーとして評価するなら、岩のような安定感と超極楽な乗り心地を高次元で兼ね備えたこのバイクの乗り味は圧倒的なんですよ。いやだって、もうとにかく楽なんだもの。納車から今日までの間に私の体は確実にこのバイクに浸食されて、ぐにゃぐにゃになってしまってる。

F6Bの時は乗った瞬間「こりゃすげぇ!」って思ったんです。既存のバイクの感覚でその実力が計れたから。でも、きんつば嬢は乗ってしばらくはその良さがイマイチわかんなかった。それはエンジンもサスも過去に乗ったことのない価値観で作られてて、「私自身がことさらそういう価値観を求めていたわけじゃなかった」からなんです。そういう意味では、最初にきんつば嬢を試乗したときに感じた、「進化がいまいち刺さらない」という感想は今も変わっていない気がする。

しかし、「自分の求めてる方向とナニカチガウ・・」と呟きながらも、いつしか体はこの乗り味に確実に汚染されていた。アタマにハテナマークをつけながら、気がつくとあっという間に5500㎞。このクソ寒いのにムチャクチャ乗ってるんですよね。ストリートトリプルの倍くらいのペースで距離が伸びてる。それは、このバイクの乗り味を自分の体が受け入れてるからだろうと思うわけです。

水平対向6気筒という変態エンジンとダブルウィッシュボーンという変態サスが織りなす摩訶不思議ワールドは、ゴールドウィングの乗り味をなんともいえないものにしてる。これなんでしょうねぇ・・。あえていうなら「ぱふぱふなもの」って感じ。

なんか温泉つかってるみたいにトゲがなくって快適で、どんなに走っても疲れないんですよね。バイク小屋で「どのバイク乗ろうかなぁ」って見渡すと、ダイナはスカッとしたけりゃ俺に乗れ!」って訴えてくるし、ザラブ嬢なら「峠なら私にお任せを!」って強く主張する。でもきんつば嬢はにっこり笑って「ぱふぱふはこちらです♡」って耳元で呟いてくるんですよ。

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(こちら、きんつば嬢の裏の顔。ぱふぱふとは何か?というのは、人類永遠のテーマだと思いますが、気持ちいいことなのは間違いない。)

いえね。私は先ほど申し上げたように、バイクには人生の気晴らしや束の間の享楽を求めてて、ことさら「ぱふぱふ」を求めていたわけじゃないんですよ。しかしここで私が力説したいのは、いくら熱き魂が大事だといっても、「目の前のぱふぱふに逆らえる奴などいるか?」ってことなんです。まだ若く硬派を気取ってやせ我慢してた頃ならともかく、ジジイになってからでは到底この魔力には抗しがたい。

ストリートトリプルRSが「スポーツ女子とレッツダンス!」だとすれば、ゴールドウィングは「メイドさんとぱふぱふしながらゴー・トゥ・ヘブン」なんですよ。こんなの抵抗するの無理じゃない?もうリムルダールの村から動けませんよ!!

新型ゴールドウィングはジワジワと乗り手を虜にしていく浸食型バイクです。エンジンもサスペンションも乗り手を徹底的に甘やかすために惜しみなく手間がかけられてる。初めは「こんなの堕落じゃぁあああ!!」と拒んではみても、やがては「はにゃぁあぁあぁああん♡」その甘やかしに身も心もすっかり持っていかれてしまうんです。

デザインは随分若返ったかもしれませんが、旧型より確実に年寄りに優しいバイクですよ。「これこそホンダが作った万能椅子ではないのか・・」とマジで思いますから。

(私のブログにタマに出てくる万能椅子は宇宙猿人ゴリの乗り物。そしてゴリのテーマは、高齢者バイク乗りの行進曲。「万能椅子及びラー」をバイクに置き換えて聴くとジワります。3題目の歌詞など高齢のハーレー乗りは涙なしには聴けないでしょう。ノーベル作詞賞決定。)

とういうわけで、これまできんつば嬢のダブルウィッシュボーンサスについて2度にわたって書いて参りましたが、次回はきんつば嬢のライディングモードについてご報告しようと思います。