前回のブログでも申し上げましたが、トライアンフって小規模メーカーなんですが、企業経営的には、相当な試合巧者。私が抱いているトライアンフのイメージはこちら。

①ことさらプレミアム路線を目指していないが、量を追う路線でもない。

②日本に約25店舗くらいの販売網。正規販売にこだわらず業販も行う。

③バーチカルツインとトリプルという人気と実績のある2つの主力エンジンを使い分ける。


④古典系デザインと革新系デザインの2つのデザイン路線を持ち、イメージの偏りがない。


⑤クルーザーやアドベンチャーカテゴリーにも戦えるモデルを投入し、ラインナップの穴がない。


⑥顧客層は老若男女幅広く、割とライトなイメージ。

他のバイクメーカーに対しシェアで勝利を収めるとか、過度にプレミアムな路線に打って出るとか、そんな重たい方向を目指してないように見える。要は「トライアンフらしいバイクをつくりゃやっていけるでしょ?」っていう自然体です。大成功を求めるより、常にいろんなところのバランスと効率に配慮している感じがします。必要なバイクは作りコストをかけるけど、不要なものは作らないとか、顧客層が薄いところには無理に出店しないなど、メリハリのついた経営をしてる感じですね。

ちなみにトライアンフと対照的なのがハーレー。私から見てハーレーの特徴は次の通り。

①自らキング・オブ・バイクを名乗り、プレミアムを強調している。

②日本に約120店舗の販売網(一時は200店舗くらい存在した)。ハーレーディーラー以外の販売はしない。

③エンジンの売れ筋は空冷大排気量Vツイン。その他水冷Vツインもあるがあまり力を入れている風には見えない。

④デザインは保守的。

⑤ラインナップは大小クルーザーのみ。(本年度からアドベンチャーも。)


⑥旧車に拘るファン多数。顧客層は全体に濃いめ。

イメージ的には、老舗の「うなぎ専門店」って感じ。こだわりのうなぎ屋ってメニューは蒲焼きと白焼きと肝吸いくらいしかない。それでいて単価もそれなりに高い。土用の丑の日が来て、世の中が「うぉぉ!うなぎだぁ!うなぎ食いてぇーー!!」って雰囲気になれば、専門店だけに他を寄せつけない。利益率も高いから、その時期はどーんと収益を伸ばせます。

2000年からの数年間がハーレーにとっての土用の丑の日でした。しかし、いったん逆回転期に入ると経営の柔軟性や選択肢がほとんどない。昔ながらのうなぎ単品勝負だから、顧客も金銭的余裕があって、うなぎ好きの高齢の常連層に固定化する傾向にある。

そこでハーレーは、パン・アメリカやBronx、ライブワイヤー等のニューモデルを投入し、クルーザー専用メーカーから脱却するという方向にシフトしたわけです。それは確かに一つの方法論ではある。短期的に売上げ出せって言われたら、私だってそうすると思う。しかし、それはある意味「うなぎ屋がサブメニューですき焼きを出す」という苦渋の決断でもある。当初は成功が見込めるかもしれませんが、それが成功すればするほど、「うなぎ屋としての専門性が薄くなる」というジレンマを抱えるわけです。

ハーレーニューモデル
(ハーレーのスポーツクルーザー。個人的にはパン・アメリカより、こっちを先に出して欲しかったけど、スポーツスターが販売終了してからの登場なんでしょうね。)

BronxやPan Americaが失敗すれば、経営的に大打撃だし、成功しちゃうと、「うなぎを求める客筋の足が止まる」おそれがある。要は主力商品の訴求力が薄まりかねないわけですね。

それじゃ困るから、ちまたのうなぎ屋はサブメニューを作らず、不況下でもうなぎ屋のまま頑張ってるわけですよ。「脇目も振らずうなぎ焼いてるから支持されてるんだ」って腹をくくってると思う。個人的にはハーレーは他の領域にモデルラインナップを広げるより、クルーザーでの地位を死守することに全力を上げた方が結果的に良いと考えてる。うなぎ屋ですき焼きを出すんではなく、若者に受けるような前衛的なうなぎレシピを考案した方がいいんじゃないか?ってことなんですね。

アドベンチャーより、コンパクトで下もあって上もそこそこ回るスポーティな水冷Vツインを搭載したデザインコンシャスな第二世代のスポーツクルーザーとドラックレプリカあたりを提案するべきじゃないか?と思う。ホンダのレブル1100に予約殺到してるんだから、もう無理して空冷なんかじゃなくていいんですよ。大事なのはコンセプトとデザインと質感と乗り味です。

現在のハーレーの方向性に文句をいうつもりはありませんが、ハーレーが業界第三位の規模になれたのは昔ながらのうなぎ専門店」だったからこそです。

以前も申し上げましたが、私だったら、チェーン店整理して、業界第三位の地位も手放して、こじんまりしたうなぎ専門店に戻りますね。ハーレーブームが異常だっただけで、実力相応の売上げに回帰するのは当然なのだから。でも、ハーレーとしては、とりあえずすき焼きを出してみて、やるだけやらないと株主は納得しないのかもしれない。

四コマ2y
(今回はハーレーとトライアンフが題材なので、ダイナ嬢とザラブ嬢のおバカな1ページ漫画です。バカは勢いが重要ってことで勢いだけのマンガ。スマホで見づらい方はクリックで拡大して下さいね。)

一方のトライアンフは特化型の専門店ではなく、割と何でもあるビストロ風居酒屋。リーズナブルで料理の品数はそんなに多くないけど、味にはこだわりがあり、前菜からデザートまでキッチリ揃えてます。料理は英国風で、競合するような料理を出す店舗はない。規模もこじんまりしててちょっとした隠れ家風。ことさら目立つことはない。

ボンネビル等の古典的ネイキッドには伝統のバーチカルツインを搭載し、古き良き価値観を演出してるけど、空冷にこだわりを見せることなくさっさと水冷化。「当たり前でしょ?パワーもトルクも出るんだから」って感じで判断もスマート。空冷だろうが水冷だろうが、美味い味付けをすればいいんでしょ?って感じで選択が極めて論理的です。

もう一本の柱、スピードトリプル系はストリートファイターの元祖として、アバンギャルドなデザインとレースイメージを打ち出し、真逆の路線を爆走中。これにより、まったり走る保守層と、走り好きの革新層、両方の取り込みに成功してるわけですね。乗り手の嗜好が変化しても、安定的に顧客を呼び込める構造になってるわけです。

スピードトリプル
(新型エンジンを投入したストリートファイターの元祖スピード・トリプル。トライアンフ最強の武闘派。先にレースベースエンジンのストリート・トリプルで話題を振りまいてから、新設計エンジンを搭載したスピード・トリプルを投入するあたり、トライアンフのマーケティングの上手さを感じる。)

ことさら車種を増やさず整理されたラインナップは理路整然としてムダも隙も無く、個性重視のバイク作りで勝負。製造もイギリス本国にこだわらずコスト追求の多国籍生産で、販売も直営にこだわらない。

価格設定も国産より少し高い程度で敷居が高いわけではなく、老若男女問わず顧客層も幅広い。このような肩の力の抜けた柔軟な形態は、販路拡大に時間がかかるけど、粘り強く危機にも強い。私が見る限り、現在のトライアンフは危機耐久度が非常に高い体制になってます。これはコロナウィルス感染拡大防止下で、着実に販売を伸ばしてることからも証明できてますね。

新型コロナも東日本大震災もそうですが、リスクの発生を予測することはどだい不可能なんです。しかし、リスクに対する脆さは計れる。私が商売で重視してるのは、売上げよりも安定経営なんで、トライアンフというメーカーに対しては共感するところが多いんです。

今苦しんでるハーレーはトライアンフの柔軟さがうらやましくてしょうがないでしょう。それはハーレージャパンがトライアンフから野田一夫CEOを引き抜いて、自社のトップに据えたことからも明らかです。

ただですねぇ。ハーレーはトライアンフじゃないですからねぇ・・。融通の効かない頑固一徹な部分がこれまでのハーレーの最大の武器でもあったんです。今ハーレーは危機に際して、戦える武器を増やしマルチプレイヤーになるのか、既存の武器をもう一度研ぎ直し、威力をかさ上げして出直すのか?って選択を迫られてるんですね。

ハーレーはクルーザーの世界では威光は衰えてきたとはいえ今もって王者です。でもアドベンチャーやストリートファイターではチャレンジャー。もしそこで大きな痛手を負えば、クルーザー部門にもその影響が波及しかねない。牛丼屋は節操なくなんでもやってるけど、あれは牛丼にまったくプレミアム性がないからです。牛が売れなきゃ豚、豚も売れなきゃ鳥でまったく問題がない。

でもハーレーそうはいかない。長年クルーザーでのプレミアム性を打ち出して、そこを強調した商いをしてきました。私は、ハーレーは「プレミアムな存在を維持したいのか、そうでないのかどっちなの?」って問いかけたい。プレミアムであることを貫くのなら販売数を絞るのも一つなんじゃないかと思う。

昔フェラーリの会長だったルカ・ディ・モンテゼーモロが「中国で年に500台も売れては独創的な存在たりえない」との名言を残しましたが、
そもそもちまたに溢れればプレミアム性などなくなるんです。プレミアム路線を突き詰めてくと、最後は「人が所有していない」というところに落ち着く。それは「必要以上に売らない」ってことです。プレミアム=高収益性ですが、人はちまたに溢れているものにはインセンティブを出しませんからね。大量販売とプレミアムは本来相容れないんです。

現状ではプレミアムなのに売れまくったハーレーより、売れてないトライアンフの方がよっぽど希少性があるんですよ。行きつけの道の駅では、カスタムペイントしたダイナより、ドノーマルのストリートトリプルRSの方が目立つんです。だって、ストリートトリプルなんて乗ってる奴はほとんどいないんだから。私のドヘタ技術で製作されたガレージキットの記事にそこそこアクセスあるのもガレキのブログなんてほとんどないからです。そんな状況の中で、ハーレーの逆回転はもはや必然ではないでしょうか?

この状況を改善する一番手っ取り早い方法は市中にあるハーレーの数を絞ることだと思う。商売っていうのは、売れない時期も受け入れてはじめて商売なんですし、生き馬の目を抜くようなマーケットでは長期にわたって勝ち続けるという傲慢が許されたことはない。

「ずっと俺のターン」がは続くほど市場は甘くないんです。ハーレーが安定して経営を続けたいのであればトライアンフのような危機に強い路線を目指すしかないけど、ハーレーは、そんなメーカーじゃないと思う。

ハーレーはやっぱりどこまでもクルーザー・メーカーなんですよ
。だからうなぎ屋みたいに売れるときに利益稼ぎ出して、売れないときはじっと耐えることが求められるし、安定的にプレミアムやりたいのなら売れない時期もハーレーのプレミアム性を維持するために必要な痛みであると逆にプラスに考えるべきでしょう。今は販路広げてどしどし売りすぎた結果、ヤケドしてるところが大きいと思う。

これをリセットするには逆回転が止まるとこまで耐えるしかない。AMFの頃なんて成績ガタガタで3軍落ちでしたけど、ヘロヘロでもフルスイングを止めなかったからファンが離れなかった。それが今更コツコツバットの芯にあてていこうって路線変更してもいいことがあるとは思えない。

これはトライアンフとハーレー、どちらの経営が優れているという話ではありません。バイクに絶対がないように、この世の販売形態にも絶対などない。それまでの強さは、環境によっては弱さに変わるし、弱さが強さに変わることも当たり前のようにあるわけです。大事なのはそのメーカーのアイデンティティを生かしたまま、日々刻々と変化する経営環境を生き抜いていくことなんです。トライアンフが売上げを伸ばせばハーレーの売上げは減少するでしょうし、逆もしかり。これは、繰り返される勝ったり負けたりの中で、自分らしく生き続けるには何が大事か?っていうことを問いかける哲学的な問題なんですよね。

うなぎ屋とビストロが真逆の体質で商売が成り立っているように、ハーレーとトライアンフが選択すべき戦略は決して同じではないと私は考えているんですよね。