今回はいよいよ新型ゴールドウィング最大のウリ、ダブルウィッシュボーンサスペンションに関して書いていきます。私にとって新型のきんつば嬢の推しは、なんといってもこのサスですね。きんつば嬢の誇る水平対向6気筒と、新規設定のダブルウッシュボーンのタッグは、まるで往年のハンセン&ブロディのような最強感があります。ここからはこのタッグの何が最強なのかをクドクドと語っていきたいと思います。

ダブルウィッシュボーン車

(こちら一般的な車のダブルウィッシュボーンのポンチ絵。後輪駆動車のリアサスから引っ張ったので、車輪を回すドライブシャフトが描かれてますが、当然バイクにはありません。)
ダブルウィッシュボーン・バイク
(上の絵にゴールドウィングのフォークをぶち込んでみました。濃いトーンの部分は、まったく車と同じ絵で、サスの取り付け位置と傾きを変えただけ。これでほぼほぼ新型のフロントフォークになる。要は車のダブルウィッシュボーンとゴールドウイングのダブルウィッシュボーンの違いは、タイヤの向きが90°変わってることと、タイヤの取り付けが直付けか、フォークを介してるかだけってことですね。)

今回ダブルウィッシュボーンを採用するにあたってゴールドウィングを設計した技術者には2つの思惑があったと思うんですよ。それは

「ライダーの足下で邪魔になってる水平対向6気筒を何とかしたいの。もう耕運機スタイルなんてこりごりよ。」

「フロントサスがテレスコじゃ、剛性と乗り心地のバランスがもう限界。エンジンフィールも余裕を作り込んでるんだから、サスにも十分な余裕が欲しいわよね・・。」

の2点です。設計者がなぜオカマ言葉なのか?特に意味はない。

ハーレーが「耕運機のようなエンジンのバイク」だとするなら、先代ゴールドウィングって「スタイリングが耕運機なバイク」だったんですよ。カウルで誤魔化していたけど、カウル取っ払うとアメリカントラクターみたいなカッコしてるんですよね。ダイナが好きで、かつF6Bが好きな自分は「結局俺って耕運機が好きなのかー。確かに子供の頃よく乗せてもらったけれども。農耕民族乙。」って自問自答することになるわけですけど、農家のDNAがこんな晩年に発現するとは、この海のリハクをもってしても・・。

先代の耕運機スタイリングをベテランがうなるような乗り味に調整したホンダの執念も凄いと思うけど、持って生まれた巨大さと異形さだけはどうしようもなかった。まぁ私に言わせりゃ、あの異形さが魅力なんですが、一般の方はビビりますよね。

なんでこんなことになってしまったかというと、大排気量の水平対向エンジンは横幅が広くて前後に長いからです。エンジンが車体からはみ出てライダーの足下をエグってくるわけですよ。しょうがないので「ささ、エンジンを避けて後ろにお座り下さい」ってなる。一方で、タイヤとエンジンの干渉も避けなきゃならないんでステムシャフトも凄く前にでちゃうから、黒ミサに出てくる化物羊の角みたいなステアリングにして、おりゃあとライダーの手が届くところまで引っ張ってこなきゃならない。結果トラクターみたいなスタイリングになると。

とにかく下方向にかさばるってのが水平対向大排気量エンジンの致命的な弱点です。

乗り手の着座位置とステムシャフトの距離があるんで、インパネメチャクチャ遠くなるし、遠くなればなるほど防風のためにカウルはでっかくしなくちゃならないんで、その威圧感たるや異常。「ナニコレ!でけぇえぇぇえぇえええ!!こんなもの乗れるわけねぇええええ!!!」と、多くの人が跨がった瞬間にバイクに飲まれて購入を諦めちゃう。

加えて、ゴールドウィングは快適装備をてんこ盛りにしてる関係で、車重が365㎏というおデブさん。常軌を逸するほど重いんで、フロントサスにかかる負担が半端ない。

テレスコピックサスペンションは単純な構造なんで、この車重に耐えるように剛性を上げようとすると、どうしてもゴツて固くて重くなり、乗り心地が悪くなっちゃう。

「それじゃダメじゃん」ってことで、乗り心地を重視すると、剛性をある程度見切るしかないわけですよね。テレスコみたいなシンプルで単純な構造のものって、あちらを立てればこちらが立たずになっちゃうから、広範囲にバランスとるってのがとても難しいんです。そんな単純サスに運動性と高級感までプラスして、バカみたいな車重に耐えろ!ってのはどう考えても無理がある。

テレスコは「コンパクトで軽く、コストも安く極めて合理的な代わりに、割り振れるパラメーターの合計ポイント数にかなり縛りがある」んです。攻撃にたくさんパラメータ振り分けたら、知恵とか素早さにはパラメータ振れないのと一緒。脳筋キャラに設定してるのに、戦いながら呪文詠唱しろっていっても無理なんです。何を求め、何を捨てるのかを熟慮しつつ、目指すところを達成するのがシンプルなテレスコ機能の良さであり、だからこそ設計者の苦悩や哲学が見え隠れして味わい深いんですよ。自分も性格が単純ですから、テレスコは大好きです。

しかし、バイク離れしたでかさと重量を持つクルーザーのパラメーターを全方位的に底上げしようとすると、テレスコで割り振れるパラメーターのポイント数では役不足になってくる。前に乗ってたF6Bは乗り心地とのバーターで高速領域の剛性感を割り切ってるところがあり、この割り切りを私は高く評価してたんですけれど、リミッター付近でフロントからヨレてくるんで高速移動が主体の欧州での評価はかんばしくなかったでしょう。

で、この旧型のネガな部分を17年ぶりに一気に解決しようと試みたのがきんつば嬢のダブルウィッシュボーンサスというわけですね。

このサス、名前の通りで、車のダブルウィッシュボーンサスとほぼ同じ。取り付けの部分の構造は先ほどの図の通り車と同じで、タイヤの方向を90°回転させて、タイヤを支持するフォークを加えただけですが、操舵とタイヤ支持と衝撃吸収をバラしてあるんでそれぞれを別個に作り込める。テレスコのようにパラメーターを総合的に割り振る必要がないんです。

ホンダの広報資料では、このサスを搭載した理由の一つが「エンジンを前方に寄せるため」だったって書いてある。これ見たとき正直私は「はぁ?」って思いましたよ。だって、ダブルウィッシュボーンは凄くスペースを取っちゃうサスだから、フツーに考えればエンジンは前に来ないんです。

テレスコピックがフォークとサスを一体化し、「棒2本だけ」で全てをになうというシンプル&コンパクトな構造なのに対し、ダブルウィッシュボーンはこれらの機能を全て一つ一つ分離したものですから、サスペンションや操舵機構を設置するスペースが別に必要になるんですよね。スペースに制限のある軽自動車でダブルウィッシュボーン採用してる車がほぼないのは、コスト高もさることながら、サスが横方向にかさばって軽の寸法に収まらないからです。

んで、横方向にかさばる車のダブルウィッシュボーンをくるりと縦方向に90°回転させたのがSC79のダブルウィッシュボーンサスなわけですから、必然的に車体前後方向にかなりのスペースをとるわけなんです。

BMWのKシリーズ見て頂ければわかりますが、デュオレバー採用して4気筒や6気筒エンジンを普通に積もうとすると、バイクの前方に展開するシリンダーヘッドやエアクリーナー、ラジエターなどがサスと干渉しちゃう。で、干渉させないように整合性を取って配置しようとすると、シリンダーヘッドを寝かせるしかないんです。

K1200r
(デュオレバー機構との干渉を避け、シリンダーヘッドを寝かせて搭載したBMWのK1200。結果エンジン搭載位置がドカのLツインみたいに後方にオフセットしています。)
BMW
(BMWのK1600GTL。エンジンがゴロンと寝そべってますね。バイクってスペースが限られてるから、特殊な機構を入れようとするとレイアウトも特殊にならざるを得ないんです。そんな限られた枠の中で、多くのメーカーが苦悩を抱えながらスペースを切り盛りしてるから面白いわけですね。)

BMWのKシリーズも思いっきりシリンダーヘッドを寝かせてますが、これは低重心を狙うということだけでなく、
デュオレバーといろんな補機類が干渉し、そのスペースを稼ぐためにエンジンのヘッドを下げざるをえなかったからでしょう。エンジンの前にはラジエターという壁が立ち塞がってるから、エンジン寝かせてくと、これに伴ってクランクケース部分が後ろに下がって前輪荷重が不足する。必然的に安定志向のハンドリングにならざるを得ない。それをできるだけスポーティにしようとするとエンジンをコンパクト化したり、重量配分考えたりといろいろ面倒なことになるんです。

結局デュオレバーのスペースを確保するために、そこから後ろにあるものでスペースを圧縮しなきゃならなくなり、すべてが少しずつ歪んでくわけですね。

まぁ私はこういうチャレンジングでアクの強い変態系バイクは嫌いじゃないんですけどね。でもこの手のチャレンジって技術アピールにはいいんだけれども、

「コスト高の割には効果が出ない」

「メリットもあるがデメリットもそれなりにある」

「それほど販売に繋がらない」

っていうのがこれまでのバイクのお約束なんですよ。高額でかつイマイチ変わったモノって買う側からしたら手を出しにくいんですよね。バイク乗りって単純でアホですけど、感性が優れてますから見た目の違和感にはとても敏感なわけですよ。

ところが新型のきんつば嬢には、変態機構搭載車的な違和感がない。水平対向エンジンは低重心を意識して下にエンジンをつるせばつるすほど、エンジンの上に広大なデッドスペースが広がるんで、新型は、このデッドスペースにダブルウィッシュボーンのサス部分を食い込ませてきたんですよ。これによってダブルウィッシュボーンサスの「前後方向にかさばる」という欠点を吸収し、テレスコと同様のスペース効率でこの変態サスを納めちゃった。これは上下にコンパクトな水平対向エンジンを積み、ラジエターを側方展開するゴールドウィングだからこそ実現できた2階建て構造なんです。

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(きんつば嬢の側面透視図。平たいエンジンの上にダブルウィッシュボーンのサスペンション部分が食い込んでるのが良くわかる。これにより、ほぼテレスコと変わらない位置にダブルウィッシュボーンサスを納めてるんですね。)

しかも、ダブルウィッシュボーンはテレスコと違って直線的にサスが縮むわけではなく、穏やかに円を描くようにストロークするんで、テレスコに必要だった斜め方向のタイヤ稼働スペースが不要で、その分エンジンを前進させることができてる。前後にかさばり、通常ならエンジンが後退するはずのダブルウィッシュボーンを採用してるのに、エンジンがなぜか前に出てきちゃうという不思議。技術説明見てても、知恵の輪のように組まれた緻密な構造に神々しさすら感じますね。

この隙のない組み合わせにより、新型は旧型より長いホイールベースを確保しながら、前輪荷重比率が高いという運動性重視の重量配分を実現してるわけです。

しかもですよ。ダブルウィッシュボーンはテレスコみたいに二本の棒でタイヤを挟む必要がないんで、フォークはどんな形でもいい。新型はここに二股の極太一本棒を採用して横剛性を確保しつつ、巨大なベアリングをそこら中に仕込んで、操舵周りのフリクションを徹底的に低減すると共に、支持機能と操舵機能が独立してるメリットを生かし、ロッドを介してステアリング操舵軸を後方にオフセットしてきました。

ステアリング切っても一本棒の極太フォークがステムシャフトを起点に回るだけだし、ロッドで繋いだ操舵軸も前後にスライドするだけなんで、横方向のスペースもほとんどいらない。旧型より前方向と横方向のスペース圧縮が可能となり、一気に小顔になってます。

この大手術によりゴールドウィングはトラクターのようなライディングポジションから、ミドルクラスのバイクのように違和感のないスタイリングとポジションに大改造され、フロントのサス剛性もバカみたいなレベルに仕上がったというわけなんですよ。

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(きんつば嬢のダブルウィッシュボーンサスペンション。いやもうこれバイクっていうよりメカゴジラの一部ですよ。ホンダの技術者が出てきて「素材はスペースチタニウムです!」って言い出しても納得する感じ。いずれにせよトンデモない剛性を確保してることは見た瞬間に理解できる。)

私ねぇ。これはじめてみたとき「凄ぇことやってきたなぁ」と感じる反面、「仰々しすぎるだろ?」とも思った。私は根がバカだから複雑な機構嫌いなんです。シンプルなテレスコを愛してるんですよね。ホント、こんなんでスッキリした乗り味になるんか?という疑問しかなかった。でも、子細に見ていくと、ホンダらしく全てが理路整然として緻密に設計されてるんですよ。異形な者達がメリットを生かしながら、デメリットを殺し合い、綺麗に噛み合い積み上げられ、テトリスのように隙間なく噛み合った収まりの良さがある。機械と物理の神が笑いながら握手してるんですよね。

新型のきんつば嬢は「水平対向6気筒」「ダブルウィッシュボーン」という2つの変態的機構を車体に組み込んでいるにもかかわらず、姿形は
変態バイクから脱却しているんです。通常、このレベルの変態サスを積むとK1600やヤマハのGTS1000やビモータのテージみたいに、レイアウトがいまいちフツーじゃないバイクになる。

GTS1000

GTS100
(フロントにスイングアーム式のサスペンションという変態サスを搭載したヤマハGTS1000。カウルで誤魔化してるけど、カウル外したときの変態度は凄まじい。まさにバイク界のエイリアン。販売は鳴かず飛ばず。良いところもあったけど、特定速度域の操作性と作動性に深刻な弱点を抱えてたんですよね。)


これまでの常識だと変態エンジンの水平対向6気筒と変態サスのダブルウィッシュボーンを組み込んだら、うる星やつらのエンディングじゃないけど「ヘンとヘンを集めて~♡もっとヘンにしましょ~♡」っていう変態おバカバイクになるはずなんです。

しかし、ダブルウィッシュボーンを搭載したきんつば嬢は、おバカにはならなかったんですよ。この2つの変態機構の親和性があまりにも高かかったが故に、変態と変態が合体して正しいバイクになっちまってる。これは一体どうしたことか??「諸星あたると亀仙人がフュージョンしたらタキシード仮面になった」くらいの摩訶不思議な奇跡の合体芸ですよ。

なんでこんな当たり前のことを賞賛してるのかっていうと、物理の世界では、歪みなく正しく組み合わされたものは正しく動くってのがお約束なんです。無理くり感のある変なモノって操縦性のどっかに必ず弱点抱えるハメになるんですよね。実際、このバイクはあらゆる局面でフツーに走ります。異形の機構を組み込んで、どのシュチュエーションでもフツーに走るって、それはそれは凄いことなんですよ。

そして、それによって実現したサスの動きはこれまでのバイクで経験したことのない感覚。バイクに長年乗って、サスで苦労してきた人ほど「畏敬の念に打たれ、ウミガメのような涙を流す」と思う。

ここからその凄さをツラツラ書いていきたいんですが、このブログ既に7000字になろうかっていう異常な長さになちゃってるんですよね。やっぱ一つのブログでこのサスの感想を収めるのは無理でした・・。このサスの乗り味については次回のブログで述べていきますね。

ハイキック4
(イラストの中でダイナ嬢が呟いているように、「単にパンチラハイキックが描きたかっただけ」。硬派なフリしてた昔の私なら、「パンチラなんて恥ずかしくて描けるか!」って息巻いてたと思うけど、もう完全に恥の概念捨ててますんで、積極的に描いていきたい。)