今回はSC79=きんつば嬢の最大のウリ、水平対向6気筒エンジンの走行インプレです。もう題名からしてMTー09のパクリというか、ホンダさんが聞いたら怒りそうなとんでもなさで申し訳ありません。

だって、水平対向6気筒1800ccって乱暴に言えばMTー09の並列3気筒エンジンを右と左に2つ並べちゃったようなもんですよね。で、あっちがマスター・オブ・トルクを名乗るなら、こっちはマスター・オブ・バカトルクって命名すべきなんじゃないかと。

このエンジンは前作のF6Bの水平対向6気筒と比べて明らかに異なる所が2つある。一つは「フリクションのなさ」、もう一つは「アイドリングから2000回転までの超低回転域で発揮されるアホみたいにブ厚いトルク」です。あ、ちなみにこのインプレ、純粋な私の体感なんで、「エンジンのトルク曲線と合わんだろ?」なんていわれても、「考えるな!乗って感じろ!」って逃げ去るしかないんで、その点はご理解下さい。

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(能登方面を走ってきました。外気温4度。バイクはストリートグライドに出会っただけ。この気温でも否応なく500kmを軽々走破できるのが冬バイクの帝王。ゴールドウィングの実力です。)

納車されてから今日まで約4500㎞。このエンジンであらゆる乗り方を試してきました。上まで回して走ってもみましたし、最高速アタックもしてみました。ワインディングでも頑張ってステップのバンクセンサーも随分削りました。で、私が得た結論はこちら。パンパカパーーーン。

「えー、このエンジンわぁ~、1000回転から2000回転の間でぇ~、半笑いでヨダレ垂らしながらぁ~アホヅラでぇ~走るのが最も気持ちいいでぇ~~っす!!」

はい、もう完全にバカになってますね、トロけてますね。フロントダブルウィッシュボーンの乗り心地も含め、まるでヌルい温泉につかってるような快適さですね。もうね。このバイクは目を尖らせて走るんではなく、タレ目になって走るバイクですよ。

にやけ
(このバイクで流してるときの乗り手の顔。ブ厚く心地よいトロトロのトルクに任せたクルージングはまさに極楽への旅路。)

皆さんご存じのように、6気筒エンジンの特徴は、大排気量でも気筒のあたりの排気量が少ないため、ボアとストロークの数値を小さくできるところです。

ピストンスピードが下がるため高回転を回せるし、パワーも稼ぎやすい。特に6気筒エンジンは回したときの完全バランスが持ち味なので振動がありません。それ故に高回転でパワーを稼ぎたくなるわけですが、6気筒エンジンの利点は実はもうひとつあるんです。それは「ボアが小径になるため、ノッキングが起きにくい」こと。つまり、6気筒エンジンは、低回転域でもノッキングを気にせず使えるって特徴があるんですね。

しかし、バイクのエンジンでは低回転域で6気筒の長所を生かしたものってほとんどない。だって低回転を使用してるときってアクセル開度が僅かだからポンピングロスでそもそもパワーが出ないし、6気筒はフリクションでパワー食われるんでその領域での本領発揮はさらに難しい。マナーは良くても、力を出すのが難しいわけですね。

そんな悪条件で低回転モリモリをやるためには、アクセル開度が低い段階でのポンピングロスを電子制御技術を駆使して打ち消し、ロングストローク化し、低回転域での空気の吸入効率を上げ、フリクションを徹底的に取り去る必要がある。低回転の吸入効率を上げると、高回転で吸えなくなるんでフツーは無理にこの領域でパワーを求めず、中回転域から本領を発揮する仕立てにするわけですよ。

実際旧型のF6Bのエンジンは、2000回転から上の中回転域に美しさすら感じるトルクを盛った非常に扱いやすいエンジンでした。低回転も十分力があって、とにかくナチュラルかつ爽快に回り、スポーツライドも楽しめるという素敵なユニットで、既存のエンジンをさらに洗練した方向性ともいえました。しかし、今回のきんつば嬢は違う。電制スロットルというハイテクを採用し、これまで到底できなかったような味付けを実現してきてるんです。

今回のきんつば嬢のエンジンSC79Eは「多気筒エンジンは回してナンボ」という常識を覆すべく作られた、低回転バカトルク型内燃機です。

私は高回転を作り込むのと同様の情熱で低回転域を作り込んでいくというのは、大排気量エンジンの重要な方向性だと考えてるんで、これは大いにアリだと思ってますが、ホンダさんは、こだわりだしてマジになると、タマにおかしくなっちゃいますから。いやもう凄いの。このエンジン。

よく雑誌のインプレで「アイドリング付近でも十分な粘りを発揮し、3000回転から実用的なトルクをともない吹け上がっていく」っていうインプレがありますが、これって、フレキシブルによく粘るエンジンに対する定番の褒め言葉ですよね。実際、普通のエンジンはいくら低回転の力があるっていっても、せいぜい粘るレベルですよ。

だって多気筒エンジンは高回転を楽しむためにわざわざコストかけてんだから、パワーはある程度上に振るのが常道。そうすると必然下は薄くなるから、本領を発揮するのは3、4000回転から上になることがほとんどです。

これが低回転が得意な単気筒や2気筒になると、回さなくてもトルクは出るわけですが、ピストンのボアがデカいので今度はノッキングの問題がある。ノッキング起こすと気筒あたりの爆発力があるだけにエンジンへの攻撃性も高いんで、ノッキングが起きる極低回転まで実用領域を下げることはせず、使える実用回転域を2000回転から上くらいに持ってくるケースが多いと思います。

しかし、きんつば嬢の水平対向6気筒エンジンはヤバイです。5速巡航してるときに、前が詰まってアクセル全閉にするじゃないですか。そうすると5速でアイドリングの800回転あたりまで回転が落ちていきます。で、ここからアクセル開けると信じられないようなトルクを吐き出して加速していきますから。トップギアでの70km/h巡航フツーにOK。その時の回転数は1500。「1000回転から2000回転の間使ってるだけで、どこでも走れてしまう」というバイクとしては常識外の低速トルクを秘めてます。「1000回転でも粘りますから」ってんじゃないんですよ。そこはもうパワーゾーンなんですよ。こんなのおかしいでしょ?

旧モデルのF6Bだってさすがに1000回転だと不安定で、やっぱ気持ちよく安定走行するには1500回転くらいは回したかったし、そこでのパワー感もそれほどじゃなかった。でもSC79のエンジンは仮面ライダー電王じゃないけど、「最初からクライマックス」なんですよ。

燃費や安全が叫ばれる中、ホンダは「エンジンを極力回さず走る」という方向性を模索し、それを突き詰めた結果、「低回転から発生するブ厚いトルクの波にどっぷり浸って走りましょう」って提案に至ったと思われます。ツインのドコドコと突き上げるような力強い低速トルクってのは割とありますが、津波のように押し寄せるフラットでブ厚い低速トルクってバイクにおいては今までなかった個性なのではナイカ・・とシミジミ感じる。だって365㎏のバイクが旧型以上にメチャ軽く感じるし、贅沢感と極楽感が凄いんです。

新型ってデザインがキュッと絞られてて、旧型に比べるとラオウがダイエットしてケンシロウになったみたいじゃないですか。多くのオーナーがこのスタイリングとフロントのダブルウィッシュボーンに欺されて、初めはエンジンをブンブン回したり、ワインディングを攻めたりすると思うんです。でも紆余曲折の果てにオーナーはやがて辿り着くことになる

「こやつは、ケンシロウに擬態した山のフドウである」

という驚愕の結論に・・。フドウがどう擬態すればケンシロウになれるのか理解不能だけれども、そんなバイクなんだからしょうがない。このバイクはフドウのオジサンに肩車してもらってはしゃいでる子供みたいな気分になれるんです。

山のフドウ
(このエンジンの底力はまさに山のフドウ。笑顔の怪力。ここまで力があると、荒々しさをまったく出さずに日常を暮らしていける。)

「ふむふむなるほど・・低回転は凄いのわかったけど、じゃあ上は回らないの?」
っていうと、これがちゃんと回るんですよ。しかも回り方も4気筒みたいにカムに乗せて「シュワーーン」と回るんじゃなくって、「ふうううぅううぅううぅぅうん」って怪力トルクで押し上げるという山のフドウ的なナニカです。徹底したフリクション対策の成果でF6Bに比べても回転の伸びはスムースなんですが、吸排気を低速側に振ってる関係で、高速で本領発揮するような吹け方ではありません。あくまでフラット&スムースに回りきる感じ。

このバイク、高速巡航100km/hでは約2000回転。そのまま6速で開けてくと、スルスルと速度が上がってメーター読み180km/hちょっとで点火カット入るんですが、その時点の回転数は僅か4000回転程度です。エンジンが高回転域に入る前にリミッターが作動しちゃう。この速度でもエンジンは余力たっぷりだし、ギア落として回したところで完全バランスの6気筒はまったく破綻いたしません。ナチュラルで優しくて僅かなトゲすらないんです。

もうね。アイドリングの極低速からトップエンドまで、余裕のトルクと綺麗な回転上昇でしっかりと答えてくれる。でもやっぱり特筆すべきは低回転域の中に込められた猛烈な底力ですよ。高速以外で上回す必要ないし、回さないから全然疲れないですね。

ハーレーの空冷Vツインは「回さずにステイさせる」エンジンの筆頭格だったわけですが、このエンジンは「まったく回す必要がない」エンジンの筆頭格。でも、面白くないかというとこれがなかなか趣が深いんですよ。アメリカの映画でカマロやキャデラックあたりに乗って、音楽かけてオネーちゃんとビーチをまったり流して走るシーンがあるじゃないですか。その後にカーセックスするようなやつ。まさにあれなんですよ。あのシュチュエーションをバイクでやってるのがこのエンジンなんです。

ホンダは開発の過程で「せっかく6気筒残すんだから思いっきり贅沢なエンジンにしてやれ!」って思ったんじゃないでしょうか?「で、これからの時代の贅沢ってなんなの?」って問いかけ、導き出した結論が「とにかく上から下まで真の余裕ってものを作り込もうじゃないか」ってことだったんじゃないかと思うんです。ガソリン死ぬほど食わしてた頃の古き良き大排気量のV8エンジンみたいなフィールをバイクでやっちゃってるんですね。

ゴリマッチョ2
(新型きんつば嬢を評するなら、マッチョなメイド系ナチュラルゴリラ。ハイテク装備で頭も悪くはないんですが、基本筋力にものを言わせつつ家事全般を処理していく。そんな感じ。)

実は私、大排気量の低回転型エンジンって、すごく評価してるんです。だってバイク乗りをゆっくり走らせる一番のお薬って乗り手に「回さなくても楽しいエンジンを与えること」ですから。低速での豊かなトルクは空気の流速が遅い時に取り込める空気量が決め手ですから、排気量にものを言わせるか、電動スーパーチャージャー付けるくらいしかない。せっかくの大排気量エンジンなら、使い切れない上を盛るより、下でまったり楽しむのも一興だなんて考えてます。

新型はマフラーを調整してエンジンがドロドロ回るよう味出しをしたそうなんですが、このドロドロがエンジンの生命感とトルク感につながり、極低回転でも「エンジンに仕事をさせている」という満足感を演出してる。綺麗に回りすぎるエンジンは、上まで回しきらないともの足りないんですけど、そこに僅かに雑味を混ぜてドロドロと回すことによって、低回転メインでも十分お仕事させてる気分になれるんですね。

このエンジン、旧型と全然違うんで、F6Bのイメージを引きずって乗っちゃうと「なんだこれ?」ってなるんですよ。特に6MT購入した私は、どうしたって乗り手主導で走らせるから、バイクの提案がなかなかわからない。しかし、このエンジンの目指したものがわかってくると、一気に謎が解けたような、視界が開けたような気になるんです。

山のフドウくらい溢れる力があれば、技に頼る必要なんてない。そしてその提案に乗り手がどすんと乗っかってバイクが望む走りをした瞬間、きんつば嬢は究極の快楽マシンに変わる。私がそこに至るまでの試行錯誤が4000㎞くらいの走行距離だったわけなんですね。

旧型のF6Bの初期モデルはバックギアなしで乗り手をゴリラに限定してましたが、新型はいろんな便利アシストと体感の軽さを備えて誰でも乗れるバイクになりました。しかし、その一方で心臓がスーパートルクでマッチョゴリラと化してますから、旧型から乗り換えたオーナーとタッグを組むとダブルタイフーンならぬ、ダブルゴリラという酷いオチになるわけですね。

・・・とまぁそういうことで、今回はきんつば嬢の水平対向6気筒のエンジンインプレをお送りいたしました。納車してからもう4ヶ月。随分ブログの歩みも遅いんですが、やっぱり自分が納得できるまで、いろんなシュチュエーションで乗らないとバイクってその真の姿がわかんない。特に大排気量バイクっていろんな引き出しがあるんで、1日や2日じゃ引き出しを開けきれないんです。そのバイクの持ついろんな可能性を試してみて、ようやく落ち着き処がおぼろげながらがわかるようになる気がする。まぁ私の感性が鈍いってのもあるんでしょうが・・。

昔私が務めてたバイク屋の店長が「バイクは最低でも1万㎞乗らないとわかんないよ~。チューニングはそれからにしたらどう~?」なんてよく言っておられましたが、付き合ってしばらくしないと実像が見えてこないってのは、男女の関係にも似てるのかもしれないですね。