バイクを語るには、まずメーカーから、メーカーを語るには、まずお国柄から。ということで、今回はトライアンフというメーカーと英国について私なりに考えてることをつらつらと書いていきます。まぁ相変わらず主観的かつ大雑把でメチャクチャな分析ですが、皆様の暇つぶしになれば幸いです。

トライアンフは2020年の1月時点で従業員数2000人年間生産台数は6万台。どこの大グループにも属さない独立資本。近年日本では勢いがありますが、世界的にはドカティやKTMより小さいメーカーなんですね。

ヒンクリーで復興した1990年からこれまでコツコツ地道に業績を上げ、一昨年度からはMOTO2のエンジンサプライヤーとなり、レース畑ではトライアンフの完全復活を印象づけてますね。

このトライアンフ、大航海時代から世界を股にかけて商売してきた英国企業だけあって、ものっ凄くしたたかなんですよね。生産台数は僅か6万台しかないのに、創業地のヒンクリーだけじゃなくてタイにも製造工場を作り、ノックダウン工場をブラジルとインドに置いてるんです。(ノックダウン工場とは部品の製造こそ行いませんが、部品をゼンバラの状態から完全に組み上げられる能力のある工場のこと。)自国にこだわらず、人口があり、労働力が安く大型バイクが将来売れそうな、東南アジアと南米にキッチリ拠点を置いてるんですよ。

それ故、コロナウィルスの感染拡大下でイギリスの工場が止まっても、タイ工場から日本にガンガン出荷して、販売台数を伸ばしてる。とにかくイギリス国内の雇用やナショナリズムにこだわることなく、グローバルで利益を上げるという路線を徹底してるのは、さすが大英帝国の企業だけはあります。

アメリカ製であることを前面に出し、トランプにも「アメリカから出て行くな!」なんて圧かけられて、海外へのシフトが遅れたハーレーがコロナ禍で全然バイクを作れていないのと対照的といえるでしょう。

トライアンフは昨年インドのパジャージとバートナーシップ協定を締結してますが、パジャージは世界第3位で年間生産台数が230万台に達する巨大企業です。

これ普通に考えるとおかしいですよね。だって6万台の企業と230万台の企業が対等のパートナーシップって、バジャージ側がかなり譲歩しないとありえない。プレス発表みてもいろんな面でパジャージがトライアンフに気を遣ってるってのがわかります。

トライアンフはストリートトリプルのアバンギャルドでアクの強いデザインを万人受けするように修正し、価格を抑えた丸目3気筒の戦略モデル、トライデントを市場投入しましたが、戦略モデルっていうのは量産体制が前提じゃないと作れません。トライアンフはパジャージと提携することによって、過大な設備投資をしなくてもパジャージの工場の軒先を借りて、効率よく量産するっていう方法を選んだわけですね。

パジャージもトライアンフのミドルクラスの製造を担うことにより大排気量バイク設計のノウハウが学べるし、大型バイク製造の実績が得られる。パジャージはこれまでカワサキの大型バイクを国内の代理店で販売していましたが、2017年にカワサキとの販売提携が終了しており、売り物は自社が大株主であるKTMのバイクくらいしかなかったんですね。でも、KTMはパリダカでの名声はあっても、歴史的は浅く保守ウケしないんで、伝統のあるカワサキに代わるようなメーカーではない。そこでトライアンフに目をつけた。パジャージはトライアンフのミドルクラスバイクの製造委託を受けて、自社の販売網で売るつもりなんでしょう。

高額趣味商品というのは価格の正当性をひたすら並べ立てるところがありますが、パジャージはまだレースでの実績も、歴史もない、大排気量で切り札になるエンジンもない。しかしトライアンフにはそれが全部ある。パジャージブランドでは50万円でしか売れないところ、トライアンフブランドで製造すれば90万円の商札をつけられる。パジャージはインド国内のライバル企業であるヒーロー・モトコープやTVSとのつばぜり合いもあるんで、独立資本の大型バイクメーカーであるトライアンフをなんとしても取り込みたかったんでしょう。

いろんな大人の事情でパジャージはトライアンフの下請けに入ったんですね。この提携のミソは「お互いに株式の持ち合いをしないパートナーシップである」ってこと。パジャージ側はKTMの時のように、株の持ち合いを提案したはずですが、トライアンフ側が蹴ったんでしょう。トライアンフのプレスリリースでも「株式持分によらない」ってところを真っ先に強調してましたからね。トライアンフはパジャージの軍門に下ったわけではないぞ!!って強調したかったんだと思います。

ここら辺にイギリス企業のソフトパワーとしたたかな知恵がある。相手の事情を見透かして、自らを徹底的に高く売りつけるのは、英国やイタリアの老舗企業のお家芸ってイメージがあります。

トライアンフは経営の身軽さを維持しながら「トライアンフ・ブランドを世界に浸透させていくこと」に注力する一方、パジャージは「単価の高い大排気量の製造ノウハウを学び、利益率を上げていくこと」を重視してる。スタンスが違うからパートナーシップが結べるわけですが、明らかにトライアンフの方が戦略的には一枚上って感じがする。

自分たちの企業を維持するのに十分な固定資産は所有するけど、それ以上の資産は持たず、第三者に工場を稼働させて自社ブランドのソフトパワーで利益を出していく。これってバイク売れてるうちは、生産とインドでの販売を丸投げして売っただけのマージン取れるし、売れなくなればパートナーシップを解消して、おさらばすればいいだけ。経営って拡大することよりも縮小することの方が難しいんですよ。潰れない企業の筆頭は利益に応じて規模や形を変えることができる企業なんです。だから、人に設備投資を押しつけ、上前だけハネるトライアンフのやり方は理にかなってる。

ジョンブル(イギリスと言えば、しっかりした現状認識と分析力とキレのある皮肉。仕事もこなしつつ、自分の好きなことは譲らないし、要求することはキッチリ要求するってイメージですね。)

英国企業って小さいんだけど、ソフトパワーが凄くて「会社潰れても名前が残る」ってケースが非常に多い。つまり、「器はつぶれても名と魂は死なない戦術」なんですよ。だから、クラフトマンシップから生まれるブランド価値を大事にする。イギリス人はレースに積極的ですが、売上げ台数や利益は歴史に残らないけど、世界の多くのメーカーが参戦したレースリザルトは永遠に残るってことをわかってるんです。ブランドは実績とポリシーからしか生まれませんからね。営利企業が赤字を垂れ流しながら、レースに参戦する最大の意義。それはとりもなおさず「レースが企業の歴史を作り、ブランドパワーを上げる」からなんです。

高いブランド価値さえ維持していれば、経営危機になっても会社ごと他の資本が買い取るし、後世にメーカーの築いたアイデンティティを引き継ぐことができる。これって単一民族の日本人から見ると屈服のように見えますが、英国からすれば、他企業の生き血を吸いながら、効率よく生き延び、世界にイギリスブランドを浸透させてるって感覚なんじゃないでしょうか。

大航海時代から栄華と凋落を繰り返してきた英国は、企業には永遠はないけどブランド価値は永遠であるっていうことがわかってる。大事なモノは門構えじゃないんですよ。だから、英国の老舗はブランド価値が下がるような生き恥をさらさない。つぶれ際や離れ際の鮮やかさがあるんですよね。

EUが英国の理念と相容れなくなれば、犠牲を飲み込んででもEUをあっさり見限って出て行くのは非常にイギリスらしい。経済力で劣っても「ドイツの軍門には絶対に下らんぞ!」という、ジョンブルの啖呵を久しぶりに聞いた気がする。滅びるとしても自らの意志で未来を選択する。それこそが独立国家です。英国が守るべきものは食い扶持ではなく、英国の誇りと在り方なんですね。

トライアンフの経営も英国的で、自国生産や、自社生産、自社販売にはまったくこだわらない姿勢が鮮明です。日本国内でも正規店とレッドバロンを併用して売上げをゴリゴリ伸ばしてますが、利益を囲い込むことにこだわらず、既存のものを最大限有効に使ってくってやり方は私は嫌いじゃない。Win-Winの発想で、市場を壊さないからです。

これは過去に囲い込みの植民地政策で痛い目に遭っている英国ならではの感覚なのかもしれない。もしトライアンフが正規店販売に必要以上にこだわっていたら、Moto2メモリアルバイクともいえるストリートトリプルRSの販売機会を大きく逸していたでしょう。

極論するとトライアンフは、パジャージとのパートナーシップ協定と同様の考え方で、正規代理店を出店しても利益効率が悪いところは「ハナからレッドバロンにおんぶに抱っこしてれば良い」と割り切ってるんようにも思うんですよ。だってその方がコスト安だし、不都合もないんだから。国産メーカーみたいに日本の全ての地域に操を立てる必要もないんで、利益の帳尻が合うエリアでだけ正規店出してればいいんです。現状でロクに正規販売店を整備してないのに販売台数はドカ超えちゃってるわけですから、この選択はある意味正しい。他のブランドが広がりすぎた正規店維持に汲々としてるのを横目で見ながら、「アハハハ・・ブランドの誇りは店構えにあるんじゃなくてバイクそのものにあるんだよ。そうだろう?ワトソン君・・」なんて、ニヒルな笑いを浮かべてるかもしれない。

正規店販売って諸刃の剣で、「正規店でしか販売しない」って縛りをつけるとブランド価値は上がるし、ケアもしっかりできるけど、その一方で正規店を潰せなくなるんです。出店したエリアの正規店を潰しちゃうことは、その地域の正規店で購入した顧客のメンテナンスやリコールを放棄することですから、売り手責任が果たせなくなり、一気にブランドが崩壊するんですよ。勢いがあるときは利益が上がるけど、逆回転したときに巨額のマイナスを垂れ流すことになる。トライアンフのやり方なら正規店が撤退しても、最悪そのエリアのレッドバロンに頼めばいいんだから、出店と撤退にもの凄く柔軟性があるんです。

利益出るとこだけ正規店で稼いで、利益薄いところは寄生商法。他メーカーにしてみたら「こんなのズルくない?」って感じですけど、小規模で個性のあるニッチブランドを効率よく全国で販売することを考えるとトライアンフの割り切りは実に理にかなってると思う。

このトライアンフのやり方では、利益マシマシの超高級品は売れないと思うし、高級バイクとしての認知は上がらないでしょう。でもトライアンフはそれでいいと考えてるはず。トライアンフは大企業になるよりも「小粒でもピリリと辛い」ところを目指してるんでしょう。もともと技術系のメーカーですから、高級店舗はマストじゃない。正規店を整備せず、ブランド価値が上がらないところは、「ガチの商品力勝負で望めばいいのだ」と割り切ってるはずです。レッドバロンとトライアンフが裏で握ってるのもそんな考え方がベースにあるからだと思うんですよね。

実際、トライアンフの売上げ見ると、レッドバロンでトライアンフを購入した顧客が相当数いるはずですが、特段の不都合報告は聞かない。トライアンフはレッドバロンにもちゃんとノウハウと部品供給をしてるってことであり、それはすなわち「正規店を必要以上に全国展開するつもりがない」ってことでしょう。

投資に対して販売効率が非常に良いから、他のブランドに対して価格を抑え、コストバリューを実現できる。昨年はストリートトリプルRSがよく売れたそうですが、あんなの売れるに決まってますよ。だってMOTO2のベースエンジンとして初のトリプルエンジン積んだメモリアルバイクで、かなり良いパーツを奢ってるのに、他の海外メーカーに対して随分お買い得なんですから。あのデザインも見慣れて馴染むと麻薬のような良さがありますしね。

で、売れるから利益が出て、これを雑誌等の広告媒体に投入してさらなるアピールをすることができる。目的はガツガツ売ることより、目立つこと、認知させることなんです。ストリートトリプルのヘッドライトなんて、フロントホックの脇盛りブラみたいですが、一般ウケを完全に割り切って差別化を優先してる。要は変だろうが、なんだろうが、インパクトのあるデザインで顧客の脳裏に刺さることが大事なんです。

street-triple-rs-5
三角ブラ2
(ある時期からブラジャーにしか見えなくなったトラのトリプル系異形ヘッドライト。これ慣れてくると凄いハマってくるんですよ。まぁブラジャー嫌いな男はいませんから、当然といえば当然なんですけれども・・。)


トライアンフは、認知さえされれば、アメリカのハーレー、ドイツのBMW、イタリアのドカティに対抗できる、歴史ある英国ブランドなんで、勝手に売れてくわけですよ。しかもハーレーの空冷Vツイン、BMWのフラットツイン、ドカのLツインと並ぶ、アイデンティティとしてのトリプルとバーチカルツインを持っているわけですから。誰もが「一回は乗っときたいよね。」ってエンジンを持ってるブランドは強いんです。

このように、基本理念は譲ることなく、歴史を作ってそれを売り込み、将来を見据えた立ち回りで確実に実利を取っていくしたたかさは、英国商人が持つ独特の価値観といえる。最強という名声より、リスク分散と効率を重視してるんですよね。

まぁ昨今のEU離脱なんかでも、世界中の視線を英国に集めてますが、英国はおそらくEU経済圏から離脱してアメリカ経済圏に鞍替えするつもりなんでしょう。過去どの世界大戦にも首を突っ込み、大した戦力もないのに負けがない。要は勝ち馬に乗るのが抜群に上手いんです。これは英国の情報収集能力と情報の質が圧倒的に高く、分析能力にも優れているからだと私は考えてます。

良質な情報がイギリスに集まるから世界史の大きな変わり目には必ず英国が出てくる。EUに何らかの問題が生じれば、それが表に出る前に、真っ先に飛び出すのは英国でしょう。EUを離脱すれば当面経済に大きな影響があるわけですが、英国は留まることによる長期的な不利益と、離脱することにより生じる不利益のソロバンをはじき、離脱しなければならないと判断したら、確実に離脱する国です。その良し悪しは後世の歴史家が判断してくれるでしょうけど、また英国は勝ち組になるんじゃないかという気がしてる。だって、引き際の見事さこそが英国の真骨頂なんだから。

英国が歴史的に持つ情報収集能力と確固たる理念と決断力に基づく立ち回りという表に出ない力こそ、英国の強さなのではないか?と私は考えてます。英国は繁栄しても凋落しても、英国であることを決して止めない。そんな国だから、常に歴史の中心にいるんだと思うし、トライアンフのバイクの中にある「盛るところは盛り、切るところは切る」という割り切り、そして「決して盛りすぎることなく、実質を重視していく」というバランス感覚を見てると、「ああ、この筋の通り方が英国的だよね・・」なんて感じて、シミジミ納得しちゃうところがあるんですよね。