昨年末、ホンダが一台のバイクを発表しました。その名もRebel1100。いわゆる「キングレブル」です。

いやこれねぇ。ハーレー、マジヤバイですよ。このブログでは、なぜRebel1100がヤバいのかを私目線で語っていきたいと思います。ハーレー乗りの人達はあまり意識してないかもしれないけど、私はハーレーフリークじゃないんで、このRebel1100のヤバさが良くわかる。だって、こいつの元になったRebel250はホンダの大大大大大大大大大大大大ヒットモデルですよ。昨年の販売台数はぶっちぎりの1位ですよ。2位にダブルスコアですよ。ハーレー乗りは眼中にないかもしれないけど、このバイク発売された翌年からずーーっと売上げ1位なんですよ。道の駅で若い女性ライダーみると大体これですよ。

その販売台数たるや昨年度で1万3千台ですよ?もうね。全盛期のNSR並に売っちまってるんです。「BMWが日本で大躍進!で台数は?5500台?はぁん?」って感じでしょ。あんだけ道の駅でドヤ顔してるBMWが総がかりになってもレブル250の販売台数の半分にも届かない

そのレブルが今回1100を出してきたんですよ。これはどう考えてもリッタークラスでも強烈なキラーモデルになる。ナゼそうなるのか?このバイクがRebel250の「そっくりそのまま巨大版だから」です。

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(こちらRebel100。鎌首を持ち上げた特徴的なスタイリング。グリップヒーターついてトラコンついて、ライディングモード選択、DCTもついて121万円。883アイアンより17万円も安い。)

この手の「デザインほぼ同じ商法」って過去にデジャブがありますよね。まず思い浮かぶ代表例はスズキのカタナです。スズキは伝説になってる1100カタナのスタイリングを模して400ccと250ccを展開した。これスズキお得意の「柳の下のドジョウは絶滅するまで狩り尽くす」という、バチカンのイスカリオテもびっくりの絶滅商法です。スズキは400カタナも250カタナも顧客がいなくなるまでキッチリ堅実に売り切ったわけですが、やはり1100の威光で400と250を売ろうとした感は否めなかった。

このため当初400や250は1100乗りから「切腹刀」とか「脇差」とか言われちゃってたんですよ。ガンダムの後に廉価版のジム出してもガンダム以上の人気はでない。これは「市場においては子は親を超えられない」法則です。私はカタナ400もカタナ250も「バイクとしては1100より良いんじゃないかなぁ・・」と思ってたけど、1100から派生した以上、伝説となった1100の影に隠れてしまうのはしょうがないんです。で、日本人はそういう元祖とか本家にスッゴク弱いんですよ。

一般的なマーケティングではカタナのように、フラッグシップをまず作り、そこから小排気量のモデルを派生展開していくケースが多いと思う。フラッグシップは最高の技術と装備がてんこ盛りで、少量生産品で売値も高いんでいろいろと冒険ができる。そこで顧客に一定の支持を得た上で、小排気量に派生展開していく方が失敗しづらいし、売り上げも予想しやすいんですね。その一方、派生モデルはトップモデルから引き算していくんで、威光が少しずつ落ちていくということになっちゃう。トップモデルの威光で下位モデルを売る。これを私は成り下がり商法と呼んでます。

しかし、今回のレブルはそれと逆、盾の勇者のような成り上がりパターン。これは実現するのは難しいけどハマると効果絶大。今1100出したって、250が「1100の小さい奴」って言われることは絶対にありません。レブルに関しては親は250で1100が子、つまり1100が派生モデルなんです。真に偉いのは始祖の250。だからこそRebel1100は放っておいても売れるんですよ。だって、クッソ人気の250に足し算したわけだから。しかも価格までリーズナブルなんだからもはや売れないわけがない。

このパターン、昔見たなぁ・・と思い返すと、カワサキのゼファーですよ。ゼファーは400が最初に出てきて人気爆発。生産が追いつかなくて、当時私が勤務してたバイク店でも割り当てが全然来ませんでした。で、「うおおー!ゼファーすげぇじゃん!!」と思ってたら次に750、最後に1100と、どんどん成り上がっていって、これらの車種全てがカワサキのドル箱として末永くロングセラーになりました。

エントリーで実績と基礎を作って、そこにいろんなものをプラスしていく上方派生型は顧客もステップアップしやすいわけですね。ハーレーだって一番スタンダードなスポーツスターがバイク史に残るような名車だから、その上の威光が保たれてるといってもいいでしょう。

今回のRebel1100はトップセラーの250の排気量を大幅拡大し、DCTを上乗せし、ライディングモード、トラコン、クルコン、グリップヒーターを追加装備という超絶ドーピングを施した強化版。そしてお値段がDCTで121万円。装備考えたら割安で、こんなの売れる未来しか見えない。

だってフツーに考えて下さいよ?既にRebel250の裾野ってメチャメチャ広いわけですよ。そのオーナー達が「うちのRebelにもう少しパワーと快適さが欲しいなぁ・・長旅もしたいなぁ・・」なんて考えたとき、吸排気イジって、インジェクションチューニングして、グリップヒーター入れて・・って考えてくと、「ん??大型取って1100買っちまった方が将来のこと考えるとトクじゃね?」ってなりますよ。だからといって250が売れなくなるかっていうと、こっちは「車検がない」という圧倒的メリットがありますからねぇ。

わかりやすく言うなら、皆に愛されてるスライムが、合体してキングスライムになったみたいなもんです。キングスライムって王冠取ったらタダのデカいスライムなんですけど、だからこそ人気なんです。これまでレベル1の勇者の生け贄になってきたスライムは、モンスター性などなくなって、もはや愛玩動物と化している。そのスライムが元気玉理論で合体し、可愛さそのままで手強い魔物になっても、そこにはカタルシスがあるだけで、誰も文句なんて言わないんですよ。転スラだって、主人公が転生したのがチートスライムで、最弱のはずのスライムに強モンスター達がひれ伏していく絵ヅラが人気なんです。

あとデザインを変にイジらなかったのもホンダの英断ですね。「えーー?デザイン一緒なんて・・・これでいいの?」っていう人もいるかもしれないけど、「それがいいんです」良いデザインには手を加える必要は無いってのが私の持論です。

だってゼファーなんて昔のZ1、Z2オマージュで上から下まで同じじゃないですか。しかも未だにそのデザイン系列でZ900RS売りまくってるんです。全然問題ないどころか、逆にそれが市場ではアイデンティティとしてプラスに評価されている。250のデザインをコピーすることは、250の工業デザインの優秀さを証明する意味もあるから、250オーナーのメンツもプライドも立つわけですよ。

古来より、都落ちより都攻め。今回のRebel1100はエントリーモデルからの刺客です。散々ハーレー乗りの上から目線に耐えてきた国産クルーザーが大型市場で相手の玉を取りに来たという下剋上。で、相手の玉って何?っていうとこれはハーレーのスポーツスターで間違いない。

これまで、ホンダはいろんな形でスポーツスターに挑んできましたが、ことごとく返り討ちにあって来ました。惨敗例としてはスポーツスターのパクリと散々罵られたVT750Sが記憶に新しい。VT750Sに関しては、さすがの私も「このデザインはいくらなんでも・・」と思っていたらやはりボロカスに叩かれた。大型のクルーザー市場ではハーレー支持が圧倒的なんで、似たデザインで挑んでも孤立無援で勝ち目など全くない。

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(上がVT750S。下がスポーツスター。元祖に対して、ここまで似ちゃうとそりゃ批判される。しかもパーツ質感はスポーツスターの方が高いわけですからねぇ。発売した瞬間に惨敗は確定でした。)
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(こちらはRebel1100。過去の苦い経験を糧にしたホンダが緻密な戦略でスポーツスターの牙城を崩すべく送り込んだ決戦兵器。ホンダの主戦場であるエントリークラスの250市場を制覇した勢いでリッター市場に殴り込み。250のデザインを踏襲してるため、デザインも日本人好みでコスパも秀逸。)

そこでホンダはリッター市場からの成り下がりを諦め、ハーレーのいない市場でまず足場固めをすることにしたわけです。ハーレーの存在しない250ccのエントリー市場ならホンダの支持は根強いわけで、そこでスピードに依存せず、普段から気負わず使えて、カジュアルかつスタイリッシュで、飽きないジーンズのようなシンプルクルーザーを提案した。

デザインは鎌首をカチ上げつつ、乗り手をシートでどすんと受け止め、真ん中から折れて潰れたような新しいロースタイリングを提案。もう「ハーレーに似てると言われてたまるか!」っていう気概を感じるデザインになってます。ホンダはスポーツスターのコンセプトをそっくりそのままエントリー市場でやったんですね。

このRebel250はホンダの予想を超えるような大ヒット。スポーツスターを意識するあまり、戦う前から負けていたVT750Sの反省を生かし、あえてVツインを採用せず、シングルとパラツインのエンジンをベースに展開したのも良かった。ホンダは昔スティードで一発当ててますから、Vツインでの成功体験が大きすぎたのかもしれませんが、顧客は別にVツインが欲しいんじゃなくて、休日に気負わず乗れて、エンジン気持ちよくてパワーそこそこの気楽な相棒が欲しかったんですよね。

その点を理解したホンダは、「もはやVツインじゃなくてもいいのだ。ホンダの技術をつぎ込んだ最新鋭のパラツインで勝負なのだ。バカボンのパパなのだ。」って感じで満を持してRebel1100を投入してきた。アフリカツインのエンジンは既に好評価を得てますから、それと250でバカ売れしてるデザインを組み合わせれば、「まず失敗はない」と確信してることでしょう。

ホンダは最近大型クルーザー市場では随分大人しかったですが、虎視眈々と実績作りをしてたんです。で、その実績ってのがまた凄いんですよ。250は3年前から売上げトップを独走し、毎年販売実績が落ちるどころか加速していくというとんでもなさ。昨年は前年度の倍ですよ?ホンダはエントリークラスでユーザー層の分厚い基礎を作ってから、自信満々でリッター市場へカチ込みをかけてきたわけですね。これは非常に用意周到な計画ではなかったか?

ハーレーにとって、このバイクを過去のVT750Sのように簡単にあしらうことは極めて困難。だってこのキングレブルには「250でレブルのオーナーになった3万人近いユーザー層が後ろにガッツリついている。」下手にクサそうものなら、これらのユーザー層が黙っちゃいない。逆に返り血を浴びる可能性すらあるんで、生唾飲み込みながら見守るしかない。デザインも日本人にウケることが確定してますし、装備も機能も価格もキングレブルが一枚上と来ている。

排ガス規制で「スポーツスターをこれからどうしよう」ってハーレーが頭抱えてるところに、ホンダは絶妙のタイミングでRebel1100をぶち込んできた。まさに泣きっ面にハチ。容赦がありません。

「ユーロ規制でスポーツスターが販売中止になったら、その後釜にちゃっかり座りますんでヨロシクぅ。中型免許に引き続き、大型免許のエントリー層はゴッソリ頂きまぁす。」

って宣言してるように見える。これ、ハーレーにとってもの凄い圧力ですよ。正直ハーレージャパンは「ヤバイ・・」と思ってるはず。というか、危機感抱かなきゃおかしいですよ。大型バイクのユーザー層なんてホント小さいパイの奪い合い。そこでエントリー層を取られると、その後の囲い込み販売によるステップアップ戦略が瓦解する。これまで機能してきた「スポーツスター→ビックツイン→ウルトラ」の黄金コースが「レブル250→レブル1100→ゴールドウィング」になりかねない。ハーレーがスポーツスターの取り扱いに失敗すると、クルーザー市場でのハーレーのシェアがゴッソリ抜かれてしまう恐れすらあると思う。

私はスポーツスターはバイク史に残る名車中の名車だと思ってますけど、バイクに完璧と永遠はない。既存のバイクにはユーロ5という規制が容赦なく立ちはだかってるんで、偉大な名車だったSRが消えていくように、スポーツスターもユーロ5の実施にあわせて日本での販売はできなくなります。そのタイミングでRebel1100を市場にブチ込んできたホンダの狙いはもはや明らかでしょう。

一方のハーレーはスポーツスターなき後、それに代わるようなバイクをこのクラスで用意できるのか?Rebel1100の存在感と殺到する予約状況を見るにつけ、それはかなり高いハードルになっちゃったような気がするんです。

ヤンデレ
(完全に疑心暗鬼になり、ヤンデレクィーンと化したダイナ嬢。ブログネタにしたからって乗り換えるわけじゃないからネ・・。)

で、お前は乗り換えないのかって??いやー、そりゃないですよ。たしかにレブルは最大限評価してるし、買って損は無いバイクだし、商品力はスポーツスターを遙かに超えてると思います。でも、私がハーレーを選択してる理由ってそこじゃないんですよね。

私は「ハーレーが頑なに守ってる、日本車と対極にある独特の価値観」に共感したからハーレーを選択してる。Rebel1100はとても良いバイクだと思うけど、ホンダの真面目なバイク作りじゃどう頑張っても、ハーレーの持つ不真面目でユルくってダメダメな気持ち良さは出ないんですよ。

ダイナは私に国産バイクでは気づけなかった、多くのことを教えてくれた恩人みたいなバイクなんですが、それはバイクに対するアプローチや文化がアメリカと日本では根本的に違ったからなんです。

ホンダはハーレーみたいなバイクを絶対に作れない。もし作れたとしたら、それは既にホンダのモノ作りではなくなってるんです。ハーレーの良さとホンダの良さは全然違う。だからレブルとスポーツスターをカタログで比較しても意味なんてないんです。形は似ていても、中に込められてる思想が正反対なんですから。

ホンダはハーレーと別のアプローチで素敵なクルーザーを作ればいい。クルーザーって排気量が増えても必ずしもスピードを求めなくて良いんで、最も大排気量向きのカテゴリーだと思ってます。排気量をスピードに使うことなく、乗り手が楽しんだり、バイクのキャラ作りに使うっていう価値観が定着すれば、これまで以上に大型バイクの未来が明るくなるんじゃないか?なんて漠然と考えてるんですよね。