今回は新型SC79ゴールドウィング、きんつば嬢のカウリング、防風能力のインプレを行っていきたいと思います。

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(今回はカウル編。澄み渡る冬晴れの空の下でのツーリングは最高。私にとってのゴールドウィングは冬の必須バイク。冬ツーリングの快適さは防風能力で決まるんです。)

まぁ一般的に皆さんがこの手の巨大バイクを選ぶときに考えることって、まず快適性ですよね。特にゴールドウィングのような大盾を装備したメガクルーザーは冬場の快適性がずば抜けてる。通常のカウルは風を後ろに逃がして整流し、ライダーの疲労を軽減するって役割がありますが、これがウルトラやゴールドウィングクラスのスーパービッククルーザーになると、整流というレベルを越えて「ライダーに対するあらゆる風の猛威をシャットアウトする防御結界」くらいのシロモノになってくる。ゴールドウィングとダイナの何が違うって、やっぱこの防御結界のあるなしですよね。

ゴールドウィングのカウルが乗り手を守る「イージスの盾」だとすると、トノサマ乗りのダイナはまさに、乗り手自身が「肉の楯」。ダイナには国産ネイキッドのような「砲弾型メーターの傾斜を利用した最小限の整流効果」さえありませんからね。私はビキニカウルつけてるからいいですが、これなしで半ヘルで高速乗った日にゃ、眼鏡もヅラもなにもかもブッ飛びますよ。まさに我が身を犠牲にしてタンデムシートの存在を守るボディーガード。ホイットニー・ヒューストンになって、「エンダァアアアアアアアアアアアアアーーーーィ」って絶叫したくなりますよ。

これに対してゴールドウイングやウルトラは、高速をそれなりに飛ばして走っても、「花の子ルンルン」とか「ペリーヌ物語」とか「リンゴの森の子猫たち」とか、そんなピクニック的な平和な歌詞しか浮かんでこない。それくらい違うんです。

実際、前モデルのF6Bがどれくらいの防風力があったかというと、真冬でも上半身だけ暖かな服でガッチリ固めておけば、頭はシールドのなしのメットを被り、下半身はウォームジーンズとモモヒキで気温3度くらいまでは平気で走れたんです。とにかく全身がすっぽりとウィンドプロテクションの枠内に入って、目のあたりにだけそよそよと風があたるって感じだったんですよ。

グリップヒーターのスイッチだけ入れておけばぶっちゃけどっこも寒くない。こいつで冬場どれだけ素敵な旅ができたか・・。まぁ反転して夏はフルチンでも灼熱地獄なんですけどね。ダイナが夏におけるTUBEだとすると、F6Bは冬の広瀬香美みたいなバイクなんですね。

ただ、圧倒的な防風力を持つ大盾と引き換えにF6Bは一定速以上の高速巡航を捨てていました。もの凄い車重にテレスコピックの足回り、バカみたいな前方投影面積は法定速度プラスアルファの高速巡航を想定した仕立てではなかったんです。

リミッター付近までシゴいていくとコーナーでフロント周りからヨレが出て不安定になってくるし、強烈な空気抵抗のためか高速域での燃費はガタ落ち。みるみるガソリンが減ってきますからね。そういう意味で、F6Bは時速100km/hくらいで淡々と走り続けることを想定したアメリカンクルーザーだったんです。

本来大排気量の6気筒エンジンは高速域でも遺憾なく性能を発揮できる万能性を持ったユニットですが、旧型のゴールドウィングは開発段階でアメリカのユーザーの好みをかなり取り入れてて、6気筒の性能をアメリカの速度域での高級感に全振りしたんですね。それが日本の公道事情にもベストマッチってところがあったんです。

でも今回のゴールドウィングはSC68より、もう少し広い領域で本領を発揮するよう開発されていると感じる。旧型のゴールドウィングは100馬力以上あるんで欧州では税金が高いにもかかわらず、高速巡航でそれに見合う速度を出すといろいろ辻褄が合わないんですよね。アウトバーンとまではいかないまでも、欧州の高速道路を普通に走るには最低でも140km/hくらいでの巡航能力が必要で、その速度レンジでの巡航が非常に苦しい旧型はヨーロッパで相当苦戦してたと思うんですよ。

新型はギア比をよりオーバードライブにして高速走行時の回転数を下げ、フロント周りの剛性をダブルウィッシュボーンで強化、操舵をリンク式にしてフロントカウルをライダー側に寄せることで小型化して前方投影面積を減らし、ノーズをスラントさせてCD値とダウンフォースを稼いでる。電動スクリーンの採用も防風と空気抵抗の調節に一役買ってますね。

このように新型はアメリカ特化型のクルーザーから、もう少し許容速度域を上げて、欧州市場も視野に入れたオールラウンダーに進化しようとしてるのだと考えてます。トップスピードは今回も180km/hくらいですんで、前モデルと大きく変わるわけではないんですが、そこまでの中身は大分違う。高速巡航時の余裕と安定感が前モデルより明らかに増してるんです。低重心による利便性とDCTの前進後退機能が「顧客層の裾野の拡大」だとすれば、こちらは「販売地域の裾野の拡大」ってことなんでしょう。

ただねぇ。日本で乗るには「そんなことは、まったく関係ない」わけですよ。

いろんな事情はあるにせよ、日本人は日本の交通事情下における利便性だけで評価すればいいんで、欧州で売ろうがアメリカで売ろうが、そんな大人の事情は知ったこっちゃありません。

だって、私はアメリカにも欧州にも行かないどころか、北陸三県からすらロクに出ない生け簀で泳ぐ鯉に似たナニカなんですから。

ガードベンド32(大盾!といわれてまず想像するのは私が敬愛するマ・クベ様のギャンの盾ですね。シールド内に爆発物を詰め込む男気。まさに「芸術は爆発なんだよ!君!」というマ・クベの叫びが聞こえてきそうじゃないですか?ギャンはその他にも壺型頭部に壺の色というマ・クベの美意識のカタマリのような変態芸術MSでしたが、予想通り彼の棺桶になってしまいましたね。)

で、ぶっちゃけいいましょう!このバイクF6Bに比べて正直寒い。F6Bと同じ格好で乗ると、ヘルメットの耳部分と、肩と、太もも外側が冷えてツラいんです。風がモロに直撃するわけではないんですが、風がなでるように通り過ぎるんですよね。まるでエナジードレインですよ。ドレインタッチですよ。外気温が低いと、風が体をなでていくだけで相当冷えますから、夕方になって気温下がるとかなりキツイ。縦方向はフロントスクリーンが電動で上下するんで目一杯上げると肩とかは寒くなくなるんですが、これまた前が見にくいし、爽快感が削がれるんですよね。

登山だったら体動かしてるうちに暖かくなってくるからいいんですが、バイクってのは淡々と走ってる限り、ほぼ体を動かしませんから、一度冷え出すとひたすら冷え続けるだけ。最初走り出したときに「コリャ寒い」と感じたら、それが加速していくだけなんです。

F6Bで通用していたウォームジーンズできんつば嬢に乗ると10度を切るともう厳しくなるので、そこから気温が下がる場合はウィンターパンツを履いてます。ヘルメットはハリソンのコルセアじゃ寒いのでZ-7かシンプソン。まぁこれで普通に寒さを感じなくなるんですが、やっぱ冬場にジーンズと前開きのジェットヘルで走れちゃうという利点がなくなったのはちょっとツライ。旧型のカウルが恋しい。マジで。
あと文句をいいたいのはカタログでオプション設定されてるウィンドプロテクターです。なんなのこれ?「防風能力をかさ上げしたい」というオーナーのためにオプション設定されてるんでしょうけど、「え?これコロナ対策のアクリル板ですか?」って感じるくらいデザインが無造作というか、終わってる。

ディフレクター

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(こちらが問題のウィンドディフレクター。上下で取り付け込みで9万円くらいすると思うんですが、後付け感が半端ありません。同じ金額でウェア買った方が絶対暖かいですよ。)

ホント、ただの変な形状のアクリル板が無造作に取り付けられるだけなんですよ。ウインドプロテクターってデザイン的に外観に溶け込むようなものであるべきだと思うんですが、なんていうかDIY感が凄いというか、後付け感がありすぎて純正とは到底思えない。価格もデザインに反比例してクッソ高いし、どうなってんの?こんな投げやりなプロテクターつけるくらいなら、最初から潔く、「旧型に比べて風ちょっとあたりますけど我慢してね♡」で良いと思うんです。

あとカウルが小型化されたことによって、クルーザーに押し出しを求めてた人にはインパクト不足に感じると思う。新型はデカいんだけど、押し出しよりシャープさやスタイリッシュさを強調したデザインになってて、エグさが足りない。

「最強メカにはそれに見合った迫力が必要である!」

「合体して巨大になればなるほど強いのじゃ!」

「大排気量車はオラオラ感が命!!」

「クルーザーはバカっぽさがないと!」

という
「時代屋の女房みたいな昭和の感性」を持つ人からはちょっと射程距離が遠い。でも、理詰めで作った「真面目がこうじて卍固め」なデザインも「ホンダらしいのかな」とも思わないでもない。

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(新旧正面比較。誰が見ても新型の方が細い。足つきやマスの集中、高速走行にはこれがプラスに作用しますが、防風性能や積載性、化け物感など犠牲にしたものも当然ある。それがどの程度のマイナスとして作用するのかは、乗り手によりけりだと思います。)

バイクも長く乗ってると、「こうじゃなきゃダメ!」ってのがなくなってきて、旧車でも現行車でも、国産でも外車でも、原付でもリッターでもなんでも守備範囲。コーヒー中毒患者が「カフェインが入ってりゃ何でも良いです!」って言い出すのと似てるかも・・。

冬景色を眺めながら、このバイクで気分良く走ってると、私がゴールドウィングから離れられない最大の理由ってやっぱり「冬ツーリングの素晴らしさなんだなぁ・・」と改めて感じる。バイクから離れられないんじゃなくって、「冬のキーンと澄んだ空気の中をバイクで走る気持ちよさ」から離れたくないんです。10度を下回る気温になると空気が冴え冴えとしてそれまでの季節と別世界になる。肌に触れる空気感が清浄でとても気持ちいい。体の芯から毒気が抜けて浄化されるような気がするんです。多くの人は電熱ウェアを使ってこの素敵な世界を味わうんだと思うんですが、私は過去のトラウマで電熱使いたくないんで、冬専用のバイクがどうしても必要なんですね。

kadoyaナイロン
アウトバック
(ちなみに私の真冬装備がこちら。上着はカドヤのナイロンジャケット、インナーにはモンベルのフリース。パンツはモンベルのメリノウールにREV’IT!のOUTBACK。これときんつば嬢の組み合わせで、気温3度くらいまでは問題ない。)

新型のきんつば嬢は、防風性能は旧型ゴールドウィングに及ばないところがあるんで、その点は不満もあります。ただそれは旧型には及ばないというだけで、他のバイクに比べれば圧倒的な防御力です。

新型もゴールドウィングらしく、「冬ツーリングの素晴らしさを堪能できるバイク」っていうところはかわらないんで、その点は誤解のないよう報告しておきたいですね。