今回は最近3気筒エンジンで良く比較されるトライアンフストリートトリプルRSとMVアグスタBRUTALE800について、その違いを書いていこうと思います。

「おいい!!お前比較記事書かねぇんじゃなかったのかよ!」っていうツッコミもございましょうが、これはあくまで「試乗」比較記事ではございません。MVアグスタとトライアンフの根本的な違いについて書いていくものです。私が書くものですから、多くの方の試乗比較記事とはまったく異なります。

このブログは性能比較ではなく、「消費者としてこの2台をどう見るべきか?」というものです。これは古めのドカティやアプリリアにも共通するところがありますので、一度くらいはこの手のことを書いておいた方がいいと思ってブログにしました。結構毒がありますが、ご容赦下さいますようお願い申し上げます。

MVアグスタ
(MVアグスタF3。ガレージキットを愛する私にも刺さる非常に美しいデザイン。私が選ぶならブルターレよりこっちかな。)

最初に結論を申し上げますと、この2台は「そもそも比較されるべきバイクではない。」ということです。現状はトライアンフのストリートトリプルRSが146万円、アグスタのBRUTALE800の一番安い奴が189万円で、43万円くらいの差がありますが、もっと差があって良いと思う。これは、「BRUTALEが良くてきていてリーズナブルだからもっと高値でも」ってことではありませんよ。「この2台が一般消費者の比較の範囲に入ってくるような状況はマズいのではないか?」というのが主たる理由。

昔からMVアグスタは走る宝石と言われていますが、これはスタイリングが極めて美しいという意味もありますが、「宝石のようにガレージで愛でているべき」バイクであるという意味も多分に含まれてる。「一応走るといえば、走るけれども、愛でるものだと思って買いなさい」って暗喩ですね。F3のスタイリングなどはスラリとした貴婦人のようで最高ですが、それ以外の経営や製造面が完全に酔っ払ってますからね。

それが証拠にこの会社、2000年代に入っても経営がまったく安定せず、多くの企業が再建に手を貸してますが、皆大ヤケドして手放してます。2016年にはついに倒産。わかりますね。アグスタは「大手資本が何回もチャンスを与え、ケツを叩いてるのに、まともに走らない駄馬」なんですよ。

そんなダメ会社が優良部品を調達し、壊れない安定品質のバイクを生産できますか?これはもう企業体質自体に問題があるとしかいいようがありません。ハッキリ言ってアグスタは近代経営に脱皮できない老舗企業の典型例ですよ。

そもそも機械モノにとって品質の安定というのは生産数に比例します。生産数が上がれば注文ロットも上がり、部品生産を大手サプライヤーが受けてくれるので品質も安定してくる。そりゃF1カーのように超小ロットなものは確かにスーパー高品質ですよ。クォリティを追求した一点モノの部品の集合体なんだから。そのかわり価格も億単位になる。

その次に品質が良いのはマスプロダクトの量産品です。クォリティにコストかけても量産効果で単価は下がりますから、日常使用では壊れないレベルの高品質製品が廉価で提供できるんです。

では1番品質面が安定せず、問題が出るパターンは何か?「中途半端な量産数でそれなりの価格」のものですよ。

生産数が中途半端だと、コスト的な問題から、生産ラインの機械化や自動化ができない。部品もロットが少ないから、大手は受けてくれず、小さな町工場の下請け業者に発注する。経営状態が悪く、自転車操業だと、そこの支払いすらケチるんで、下請けのモチベも低下し、検品もいい加減になり、品質はますます悪化。納入業者も撤退するんで途中で部品がコロコロ変わっちゃう。昔から金回りが悪い会社はいくら外ヅラや見てくれは良くても、内部の事情は推して知るべしなんですよ。中小企業レベルだった頃のドカティなんか、年式ごとにリレーや部品が違うとかは平気でありましたし、電装系なんかはありもので組んでる感も凄かった。

見えないことを良いことに、「これどっかから適当に持ってきた部品で、現物合わせしてない?してるよね?」ってツッコミたくなるようなところがいっぱいありましたよ。でもそれこそが、伝統的なイタリアの小規模メーカーの常識です。そういうところから経営改善し、大手に脱皮するブランドもあるけど、MVアグスタはのらりくらりと昔のままそれくらいのポジションに居座り続けてる。

大風呂敷を広げても、それに見合った大規模な開発投資もないし、資金繰りも苦しいから、初期ロットなんて生煮えもいいとこ。でも、生煮えだろうがなんだろうが、即販売していかないと会社回らないんで、耐久テストもロクにやらずにガンガン出荷していきます。

酷い個体になると、壊れては入庫の繰り返し。そんな状況でもヤカンの穴をガムテープで塞ぐような場当たり的な対策しかなされません。だって日本で200台程度ですよ?そんな小ロットのために、あの孤高の帝王アグスタ様が抜本的な対策するか?ありえない。そもそも会社は超高速ケイデンスの自転車操業でそんな金と余裕ない。トラブルに対して「今本国にクレームを出してますから~」なんてディーラーのコメントがありますが、本国がそれに対応すると思ったら大間違いです。そんな細やかな神経の会社が、買収と倒産を繰り返す波乱の歴史をたどるはずがありません。でも、それを見切った上で「オレはアグスタに惚れている!」っていう勇者達が乗るバイクなんですよ。

私から見ればMVアグスタはバイク界のガレージキットみたいなもんです。私は少量生産のガレージキットを長いこと作ってきましたが、個人製作のガレージキットにプラモデルと同じようなクオリティ求めだしたら、ガレージキットの世界自体が成立しません。価格なんて3万円以上するのに、組み立て説明書すらなく、パーツ欠品当たり前、古いものは接合部もまったく合わないし、気泡も凄い。パーツは歪んでクネってる。まさに外道。模型界の反社ともいえます。

なんでそんなものが商品として成立するのか不思議に思う方もいるでしょう。しかし、売る側に外道がいれば、顧客側にも外道っていうのは当然存在するわけで、「どんな苦労をしたとしても人が体験したことないものが欲しい」んです。対象がヤバければヤバイほど他人が手を出さなくって好都合。美しいモノにはトゲがあるっていいますが、毎度毒を食らってるうちに、毒すら毒と思わなくなった悪食娘コンチータなんですよ。美っていうのは最後は悪食の果てで、それを求めるあまり、常識が歪んでしまったナチュラルマゾヒストがこの世には一定数存在するわけですね。

MVアグスタは、まずもってこのような愛すべき外道達に刺さらなきゃならないバイクです。だからこそ、丈夫であることや、乗りやすいことよりも、少量生産ならではの惚れ惚れするような美意識に包まれていることが大事なんです。この会社が今でもまだ消滅せず存在してるのは、「この世から消してしまうのが惜しい」と思わせる造形美と色気を発散してるからに他ならない。

一方「3気筒を日々安心して楽しみたい。」という、ありふれた幸せを求める顧客層は、こんなバイクを選択してはいけません。

アグスタは一応現在まで企業としてバイクをしぶとく作り続けているのだから、致命的に壊れるということはないでしょう。ただその歴史上

「壊れないと評価されたことがない」

ことも間違いない。一般的な顧客が安心して乗れるような完成品をちゃんと作れないからいつまで経ってもマニアックなままだし、経営も酔っ払ったままなんですよ。まぁ、それと引き換えにマスプロダクトの量産品が決して手に入れられない独善的スタイリングとディティール、官能的なエンジン音があるんですが・・。

まほろ
(こちら、珍しいアグスタのキット。コトブキヤの「まほろさんとスポーツバイク」の完成状態です。これかなり色気のあるキットで、私も買ったんですが、中見て「うげ、大変そう・・」ってゲンナリして積んだまま10年くらい過ぎちゃった気がする。このブログを契機に引っ張り出そうかな・・)

結論を申し上げますと、MVアグスタはそこにどんな闇が待っていようとも、人と違う美意識を求め、ブラックホールに嬉々として足を踏み入れていく覚悟がある人達が買うべきバイクです。そういう意味で、MVアグスタはオーナーの趣味に対する覚悟が試されているといっていいでしょう。昔のドカティもそう。繊細で美しく、先鋭的で、特別なものは、儚くモロい。それを理解した上で、故障すらもその代償として許容し、楽しむ。そんなグルマンティーズ達の乗るバイクなんです。

昨今、MVアグスタの故障やトラブルをYouTube動画で上げてぼやいてる人がいるけど、「うーん」と思う。品質の安定してきた今のドカティならぼやくのもわかるけど、アグスタじゃぼやいてもどうしようもないです。イタリア本社の経営状態見れば出荷品のリスクの大きさは大体想像つきますよ。来年度以降コロナで資金繰り悪化してさらに酷くなると思うんで、ブルターレ1000なんて地雷にしか見えない。

所詮商品の信頼性なんて製造してる会社の信頼、次に販売店の信頼なんです。バイクは長いつきあいだし、輸入バイクは多額の出費になるんだからなおさら。でもバイクの世界にいる人って雑誌等のメディアでバイクの方ばかり見てるから、そこら辺の脇が甘い気がする。

今の雑誌やモトブログの比較記事や価格設定を見ると、こういうことわかってない一般顧客層がデザインだけでアグスタを選択しちゃうんじゃないかと不安になる。私が問題視したいのは「MVアグスタがマスプロダクトの製品と比較されかねない価格でブルターレ800という廉価グレードを設定してしまった」ことです。

ヤマハやトライアンフの量産品と比較された時点で、この手のバイクのマーケティングとしてはもう終わってるんですよ。MVアグスタはバイクに惚れて目がハートマークになっちゃった人に、何回も「アグスタ欲しい?マジですか?お客さんにはまだ早いんじゃない?苦労しますよ?いけないムスメですよ?」って何回も断りを入れて、それでも欲望が止まらず「ア・グ・スタ~が望むなら私~何をされてもいいわ~♡」って山口百恵化してしまった客にもったいぶって高値で1台を売る。そんなバイクなんですよ。

そのアグスタが廉価モデルを出したってことは、プライドを守ってる場合じゃなくなってるってことです。

酔っ払い4
(アグスタは私にとって汚部屋に住まう超美形の飲んだくれスーパーモデルみたいなもんです。立ち居振る舞いは品があって姿形も美しいから、写真や短期試乗では最高。でも、実際はその後ろにある混沌を含めて好きになれる根性と資金力がないとあっという間に破綻生活になるでしょう。)

私はMVアグスタは今の路線を修正しない限り、絶対に上手くいかないと思う。ストリートトリプルRSと比較されてるようじゃこのバイクはダメなんですよ。当たり前の感覚しか持たない一般人に売った時点で、遙か昔からアグスタがまとっていた「手を出したら大火傷しそうで買えないけど、そこに痺れるッ!憧れるゥ!」という、神秘のベールがどんどん剥がれ落ちていっちゃうんです。比較試乗にしても、私がインポーターだったら、「凡百の量産バイクと比べられるのは、MVアグスタのプライドが許さない。アグスタはそんな大衆バイクじゃない!」って即座に拒絶します。でも、現実にはそうはいってられない大人の事情があるのでしょう。

今後MVアグスタがどんな路線を取るのか不明ですが、私が言えるのは、MVアグスタとストリートトリプルRSやMT-09は、良くも悪くも別物ということです。共通点は3気筒を搭載してるってところだけ。そこをしっかり理解してる人が買わないと不幸になる。

私はMVアグスタの品質にことさらケチをつけてるんじゃないんですよ。すべてのものに品質を要求するような朴念仁ならガレージキットモデラーなんてやってません。ただ好事家のためのニッチ商品を販売する時は、それに見合った売り方をしなきゃならないってのが暗黙のルールだと思ってる。MVアグスタは、経営的にはずっと酔っ払ってて千鳥足だし、いつサポートが切れるわからないようなメーカーです。その不安定さや儚さと引き換えに得られるものが一部の好き者にはたまんないんです。

フグだって多少ピリッとくるのがいいって人もいますが、
そんなものを販売する時は、顧客のご理解とご協力とご納得がいる。売る側の丁寧な説明を受け、その売り物が背後に抱えてる闇を含めて受け入れるんだというコンセンサスが醸成されて、ようやく成立する取引なんですよ。

廉価版を作るっていうのは、誰にでも売りたいってことですが、「好事家のためのバイク」という暗黙のルールを捨て去ったらアグスタは駄目になる。私はそこがいささか不安なんですよね。