今回はトライアンフのトリプルというお題について、相変わらず好き勝手に書いていくわけですが、実は私、ザラブ嬢(ストリートトリプルRS)を買うまではトライアンフってメーカーは、まったく意識してなかったんです。

歴史見てみると、トライアンフは2度倒産して会社が途絶え、1990年に新たに別資本で復活したいわゆる「ゾンビブランド」ってことになる。ゾンビブランドって、酷い言い方ですが、高価格帯ブランドの世界では歴史が途絶えてた昔の屋号を別資本が買い取って復活させると「ゾンビ」認定を受ける。創業以来、ずっと続いてる老舗と明確に区別されるわけなんです。

復活当初のトライアンフは基礎技術がないから、カワサキの技術提携を受けてたようですし、エンジンもコストの関係でモジュラー方式を採用したとのこと。これは自動車メーカーがやってるような、短期間で新車種を効率的に開発、生産するためのものではなく、「最低限のコストで主力エンジンを作り分ける」ために選択された、苦肉の策だったと思います。まぁ厳しい言い方すれば、当初の3気筒は金がない中、なんとかやりくりして作ったエンジンだったわけです。

当時トライアンフが主力エンジンに3気筒を選択したのも、他のメーカーが「やってなかったから」ということと「4気筒に比べてコスト安だった」ことが理由だと私は考えてます。カワサキの技術提携を受けてるんじゃ、普通に4気筒作っても技術元のカワサキと比較されると厳しいことは自明の理。「じゃあ今のところ誰もやってない3気筒で勝負しようじゃないか!」っていうことだったと思うんですよ。それくらいの冒険をしないと新興メーカーが成熟市場でインパクトを与えることなどできませんから。

雑誌なんかでストリートトリプルRSのインプレを見てると多くのライターが「2気筒と4気筒のいいとこどり」なんて好意的に書いてますが、それ最初に見たとき、「おんや?3気筒っていつからそんなイメージになっちゃってたのかな?」って正直違和感があったんです。

だって昔は3気筒って「2気筒よりエンジン重いし、4気筒みたいには吹けないし、焼き付くし・・」ってどっちかというとマイナスイメージだったと思うんですよ。2番シリンダーが熱的に苦しく、マッハの2番シリンダー焼き付きなんかはそこそこ有名で、私の中でも「はぁ?3気筒?なんで?」的な感じで、全然いいイメージがなかったですよね。

今でこそ、ヤマハも3気筒で一発当ててるんで「3気筒やるじゃん」って感じで見直されてるようですが、最初にトライアンフが3気筒採用したときは、逆風しかなかったはずなんですよ。「はぁぁあ?なんで3気筒なの?」って、誰もが思ったんじゃないでしょうか。それを今日プラスの評価がされるところまでもってきたのは、新生トライアンフの功績以外の何ものでもない。トライアンフの頑張りによって、3気筒の評価が好意的な方向で定まってから、市場に参入してきたヤマハはとても楽だったと思います。

なぜ、トライアンフが逆風を跳ね返して、今日に至ることができたのか?それはやっぱり、トライアンフが常に背水の陣だったからだと思うんですよね。この3気筒を成功させなければ、トライアンフという会社に未来はない。逆風だろうがなんだろうが前に進むしかなかったと思うんですよ。

3気筒は過去に4気筒との生存競争に敗れただけで、特段素性が悪いエンジンではなかった。性能競争が熾烈な時代に、4気筒ほど高回転型にできず、2気筒ほどのキャラクター性もなく、熱的にも厳しく、コストバリューも中途半端な3気筒エンジンは、商品力が最重視される商業プロダクトの世界で、2気筒と4気筒の挟み撃ちにより潰れていった。

3気筒が長続きしないというのは性能面ではなく、商品力の問題だったわけで、このようなネガティブイメージを払拭し、競争力を与えれば、コンパクトでトルクの詰まった3気筒エンジンのプラス面が生きてくる。

難しいのは3気筒につきまとっているマイナスのイメージを払拭することです。そのためにトライアンフがやったことは実にシンプル。3気筒の可能性を信じて、3気筒を前面に押し出し続けるという、至極当たり前で愚直な手法でした。っていうか、他メーカーが3気筒を諦めてる状況で3気筒の優位性を声高に叫んでも孤立無援で効果が薄いし、マスコミで大々的に広告記事を出せるほど資金もないので、それしかできなかったんだと思います。

成功した今となってみれば、90年以降3気筒エンジンにこだわっていたのはトライアンフだけだったから、それ自体が個性になり、メーカーアイデンティティの確立に一役買ったわけですよね。トライアンフが3気筒をプッシュし続けた結果、疑心暗鬼だった人達の目も時の流れと共に変わり「トラのトリプルはいい」という評判も口コミで徐々に出てくるようになった。そのうち車社会でも環境対策で3気筒が主流になってきて、時代が自然にトライアンフの背中を押すようになってきたんです。

でも、普通はそこまでの我慢ができないんですよ。ある程度の期間で結果が出ないと途中で止めたり、方針転換してしまう。でもトライアンフは「認められるまで決して止めない」という力押しで3気筒の評価を変えてしまったんです。野球でいうなら、前評判の低い無名選手を、ずっとブレずに4番に据えて、何を言われようとも我慢して使い続けたってところでしょうか。

カメラ4(世に3気筒は数あれど、やっぱりトライアンフの3気筒だけは敬意を込めて「トリプル」と呼びたいですね。)

私は正直4気筒や2気筒に比べて、3気筒エンジンがそこまで素晴らしいものだとは思ってません。ただ、トライアンフの3気筒に関しては、トライアンフの積み重ねてきた時間の重さがこのエンジンを素晴らしいものにしてると感じる。乗ってアクセル開けた瞬間わかるけど、このエンジンは存在が重いんです。

「単なる3気筒のエンジン」じゃなくって、これはやっぱり「トライアンフのトリプル」というべき存在なんでしょう。このユニットはエンジン職人の気骨を感じるようなフィーリングで吹ける。決して派手ではないけれど、知恵をコツコツ積み重ね続けたっていうか、技術屋のノウハウがずしんと乗っかってるような気がするんですよね。

現在のミドルエンジンは当初のモジュラーエンジンとは違うようですが、長い時間をかけて、あらゆる違和感を潰し、人の感覚に馴染ませてる感じがします。もうなにやっても自由自在。どう開けても、どのモードに入れても、123馬力の高出力エンジンが自分の感覚から外れることも、走りすぎて制御不能になるようなこともない。ヘッドライトからリアカウルの先まで、すみずみまで神経が通ってるんです。

これって長期間にわたり基本を変えずにブラッシュアップし続けてきたバイクじゃないと絶対出ないフィーリングなんですよ。挙動から回転感から、サウンドに至るまで全部キッチリ整えられてて、「ここがズレてるな・・」ってひっかかるところがない。このストリートトリプルRSの素晴らしく違和感のないSPORTSモードに比べると、新型ゴールドウィングのSPORTSモードなんて急ごしらえで全然話にならない。ダメダメです。大事なことなんで、もう一度言います。ホンダさん、あれはダメダメです。

ちなみに、他メーカーの3気筒がどういう味付けやフィールなのかは私には、てんでわかりません。だって乗り比べていませんから。でも、トライアンフのトリプルって他のバイクの3気筒と比べて根っこの部分で異なった評価がされるんだろうと思う。今後も3気筒はいろんな場面で比較されていくのだろうと思いますが、「トライアンフのトリプル」は常に他メーカーの目の上のたんこぶとして居座り続けることは間違いない。

それはエンジンの出来うんぬんではなく、3気筒エンジンの歴史の中で「トライアンフのトリプル」が既に一定の地位を確立してしまってるからです。3気筒がメジャーになれば、それに比例してトライアンフの評価は上がる。ヤマハが3気筒を国内で売れば売るほど、3気筒のリーディングメーカーともいえるトライアンフが見直されていくって構図になっちゃってるんですよね。最近トライアンフのトリプルがよく売れてるようですが、それはヤマハの3気筒シリーズの存在がとても大きいと思う。

3気筒のニューモデルが出てくると、トライアンフのトリプルが比較対象に引っ張り出される。その時に使われる枕詞が、「トライアンフ伝統のトリプル」ですよ。この一言に勝る宣伝文句ってちょっとない。人は元祖とか、本家にとても弱いんです。不遇の時代から苦労して3気筒の地位を築き上げた先駆者に対する敬意っていうのは、趣味の世界では絶対のものですから。

だからこそ、多くの技術系大手資本は既存のメーカーを取り込みたがるんです。技術や金はあっても、それだけでは物語を作ることができない。現在の新生トライアンフは30年かけて3気筒の歴史を自ら作ったんです。それは、言葉を長々と連ねずとも、アクセル開けてコーナーに飛び込めば誰でもすぐわかる。その挙動を体感すれば「このバイクは一朝一夕に作られたものではない」ってのが瞬時に理解できるから。3気筒に関してはトライアンフの完全な粘り勝ちですね。

結局、実用からかけ離れた趣味の世界で大事なのはそういう形のないものなんです。苦労して地位を築き上げた過程に商品としての強い訴求力がある。最近はそういう無形のものを企業買収で簡単に手に入れようとするけど、実に下らない。

そんな金があるのなら、50年間自社企業を維持し続けて、自分たちが老舗になればいいんです。権威や歴史を手っ取り早く手に入れるために、金でショートカットするのは間違ってるし、往々にして長続きしない。私は他の業界で、いろんなゾンビブランドを見てきましたが、最初は良いけど、多くは途中で駄目になってしまう。

ブランドってのは金を積んだって得られるものではありません。消費者は地道な継続と積み重ねで得た実績そのものをブランドと呼ぶのだから。しかし、ブランドを単なるハク付けであると勘違いしている企業は非常に多いんです。

トライアンフは、時代の中で埋もれてしまった3気筒エンジンに光をあて、長い忍耐の下で、それを育ててきました。それが意図されたものであったのか、結果論なのかはわかりませんが、彼らがやったことはそのままブランド作りの王道だったわけです。

私はそれが、新生トライアンフが成功した理由の一つなんじゃないかと思ってます。