「ナニコレ・・全然違うじゃん・・・」

納車されたSC79ゴールドウィングの初乗りの感想がこれでした。

私は昨年の5月に一度長野県松本市のホンダドリームまで往復500㎞の距離をF6Bで出張って、ツアーのDCTを試乗してるんですよ。その時の試乗車の印象と、先日納車された「漆黒のSC79」の乗り味が全然違うから、こんなつぶやきをするハメになってる。
 
松本で試乗した時間はせいぜい30分くらい。短い時間と距離で運動性の良し悪しも判断できるわけないので、「車体回りの乗車質感」に自分の意識を全振りしてたんです。

ディーラーの回りを2周しただけの街乗り試乗でしたが、その際にマイナス面として感じたのは、

①アイドリング時にエンジン内部の機械音がガチャガチャとうるさい。

②フロントの動きが車格に対していささか軽い。ダブルウィッシュボーンにもかかわらず、交差点でのノーズダイブが大きくサスの戻りの質感が低い。

の2点。(他に気になったところは全てDCTまわりでしたが、「MTを購入すれば解決するよね」ってことで、途中で細かなチェックを放棄しちゃってます。)、フロント周りの動きの軽さはもの凄い路面追従性に繋がってたし、車重考えると驚異的だったけど、ゴールドウィングというバイクの車格を基準にすると、いささか動きが軽薄で「ちょっとな~」と記憶に焼き付いてた点なんですよね。

20201031_165310(夕日の中の新型箱ナシ。旧型と同じ水平対向6気筒を積みますが、随分違うバイクに仕上がってる。いろいろ言いたいこともあるけど、この時代に水平対向6気筒を積んできたってだけで全てを許せる。BMWのK1600はユーロ5に対応することなくディスコンの可能性も十分あるんで、新時代の排ガス規制を折り込んで開発された6気筒は貴重だと思う。)

しかし、試乗車で感じたこれらの問題点は今回納車された個体では綺麗さっぱり消えてました。エンジンはアイドリングでタペット音がかすかに聞こえる程度で、前モデルのSC68以下の水準になっているし、フロントサスも「これがダブルウィッシュボーンの本領発揮なの?凄いわ♡」って感動するほどノーズダイブしなくなって、クッソ踏ん張る。

サスに制動力を食われないからメチャメチャブレーキ効くし、停止直前のステアリングの座りも「F6Bの5割増し」くらいになってる。確かにテレスコに対して違和感があるところもありますが、利点がハッキリしてて、効果絶大だから、多少のことは不問になる。「俺はテレスコよりこんな良いところがあるんだぞ!」っていう長所を前面に出してるんですね。

また、このステアリングはフロントの操舵をアームを介して行ってるんで、操舵力の味付けは自在に変えられると思うんですが、初期型の試乗車は動きが軽快すぎるきらいがありました。ダブルウィッシュボーンのフリクションのなさをあえて強調する仕立てだったのかもしれませんが、いささか重量車としての質感をスポイルしてるような気がしたんです。それも納車された個体ではしっとりとした落ち着きが出て、とても良くなってる。

私が購入した箱なしは、フロントの味付け自体がツアーとは違うのかもしれませんが、エンジン回りが静かになったり、ステアリング回りが落ち着いたのは、生産品質の適正化も大きいと思う。初期生産の試乗車から約2年の間、細かい部品の問題点を潰したり、生産現場の組み上げ工程を見直したり、作業員がスキルアップしたりで、製造面でのゆらぎが減り、本来想定していた品質が出てきたんじゃないでしょうか。

「いや、そうはいってもメーカー側で検品してるからクォリティはしっかりしてるでしょ。」って仰る方もいるかもしれません。それは確かにそうです。世界のホンダが出荷する以上、間違いなく一定のクォリティに収まってるものを出してるでしょうし、許容誤差内なら商品としては問題ない。

でも誤差ギリギリの個体っていいかえれば、「不良品と紙一重」ってことです。だからこそ「全ての誤差が極めて低い範囲で収まってる」ことがハイエンドであるゴールドウイングの成立条件だと私は考えてる。

多くのバイクはそこまで極める必要はないのかもしれないけど、ゴールドウィングは私の中でそれを実現できてなきゃ駄目なバイクなんです。その部分に金払ってるといってもいいんだから。

昔からエンジンチューンのメニューにバランス取りってのがありますが、これはエンジンを一度バラして、クリアランスを見直し、ピストンの重量を統一した後に再組み立てするってものです。これやると、スペックは同じでも回転フィーリングや体感性能がまったく別物になるんですが、私はバイクの生産現場でも量産初期から量産安定期に入る過程で似たようなことがナチュラルに起こっていくと考えてるんです。

生産適正化によっていろんな誤差が修正され、初期モデルにあった品質のゆらぎを潰した結果、作れば作るほどカッチリ感が増し、ファインチューニングされてるような状態になっていく。

初期にあったDCTエンストだって、根本原因は製造品質だったんじゃないか?と私は考えてます。安定性を重視して、マージンとりまくるホンダがDCTでエンストこくような設計にするはずない。2輪で低速機動中のエンストは致命的ですから、試作車でそんな症状出てれば、絶対市販しないはず。だから、これは量産初期特有の想定外の問題じゃなかったかと思うんです。

だってあのトラブル、エンストする個体もあればしない個体もあって、トラブルの再現性が低かった。設計やコンピューターの問題だったら全てのバイクで似たような問題が出たと思うんです。

でも量産時のゆらぎがトラブルの正体だったとしたら、それはもう原因不明ですよ。だって、バラしたってどこも悪くないんだから。かといって買ってくれた人には「初期モノにこの手のトラブルはつきものですよ。笑って諦めましょう!」とはとてもいえないほどの致命的トラブルだったんで、ホンダも歯切れの悪い説明と整備対応を繰り返してたんじゃないかと想像してるわけです。

開発段階の試作車は少ロットの試作パーツを手組みしてるから、部品精度、組み上げ精度とも優秀です。これで性能試験を実施し、問題点を洗い出してから量産するわけですが、量産ラインに落とし込み、一定数を流れ作業で作ったときどうなるか?開発段階の試作車と同じものが組み上がるか?っていうと、そう簡単じゃないわけです。

「車かよ!」ってツッコみたくなるような超高額モデルであるSC79の年間販売計画は国内で500台、世界的に見ても3000台程度じゃないでしょうか?1日平均にすると12台くらいしか作らないわけだから、受注生産小ロットで組み上げ過程の多くは人力でおこなってる。車体回りだけでも大変なのに、複雑怪奇なDCTは新規開発。さすがの熊本工場をもってしても、量産初期にいきなりベストな設計性能を出すのは難しかったんじゃないでしょうか。

パーツメーカーでも、製造コストを横目で見ながら製作する量産品の精度は一品モノの試作ロットよりばらけてくるのはやむを得ないし、組み上げ工程においても、慣れるまでは熟練作業員だって試行錯誤の繰り返し。小さな問題が頻発してるはずです。しかし、新型は発表当初の10日間くらいで、いきなり国内だけで540台も受注してますから、とりあえず受注分をサバいて納車しなきゃならない。ひたすら組んで、組んで組みまくり、そこで出た問題点の洗い出しと対応は、初期注文分がさばけ、一服してからってことになるでしょう。だから、量産初期モデルって品質面でかなりのゆらぎがあったと思うんです。

設計面の問題点は発売日までにつぶせるけど、製造現場において出てくる問題点を潰すのは生産後でしかできません。だから、初期生産から一定期間が経過して、量産過程で出てくる初期の問題点を対策した後の生産品は性能数値は同じだったとしても、「乗り手の体感ではまったく別物」になってたりする。

そんな細かいところ気にしてもしょうがないでしょ?っていうおおらかな人には良いんでしょうが、私はそこにこだわってゴールドウィング選んでるんで、小姑みたいに嫌らしいですよ。

熟れた肉体3(どんなに罵倒されようが、機械ものは生産開始後、せめて一年は様子見というのが私の持論です。)

まぁ、それにしても私が松本で試乗した個体は明らかにおかしかった。だって、いくらユニカム入れてバルブ数が倍になってるからといっても、旧型よりガチャガチャいってるようなエンジンが17年ぶりのモデルチェンジの設計段階で通るはずがないですから。

こういう違和感って、私にとってはバイクが「今買っちゃ駄目だから!」ってシグナル出してるように感じる。でも、それは私がF6Bにずっと乗ってきたから気がつくことで、はじめてGL乗る人はあの巨体と乗り味に圧倒されて、「スゲーッ」って感想しかででこないかもしれないし、ステアリング周りの軽さも取っつき易さとしてプラスに感じるのかもしれない。

私がF6Bを絶賛してた理由の一つは、機械としての組み上げ精度の高さが「これ以上ないくらい極まっている」ってことが乗った感触でわかったからです。なんせSC47発売からF6Bが販売されるまで、11年以上生産続けてましたし、当時のオーナーは限定解除ライダーばかりで、「うるさい人達」だったと思うから、作る方も絶対に気は抜けない。それ故でしょうか、エンジンや車体から「一分の隙もなくキッチリ組まれてます!製造面ではスキなしですからっ!!」ってフィーリングがビンビンしてたんです。

タダでさえフィーリングに優れた6気筒が極めて精緻に組み上げられてるわけですから、耐久性も抜群だし、乗っててメチャメチャ気持ちいい。ホンダって初心者向けとか、安定しすぎてて面白くないとかいわれるけど、スペックに出てこない製造品質が生み出す安心感が一番の良さだと私は感じてるんですよね。

世界のホンダファンが製造技術の総本山として崇めてる熊本工場で手組みされ、生産適正化が極限まで達したモデルの組み立て品質はまごうことなく世界一。その頂点が少量生産、専用設計のゴールドウィングの水平対向6気筒というわけです。だから、こんなのスペックや銭金じゃないんですよ。私にとって、ゴールドウィングを買うってことは、「日本人の職人芸で組み上げられた、世界最高品質のバイク用6気筒エンジンを手に入れる」ってことなんです。その点を重視するからこそ、初モノのゆらぎは許容できないんですね。

私にとってゴールドウィングって「機械的質感」のカタマリじゃなきゃならないんです。日本人は初モノがすごーーく好きな国民だし、ニューモデルはやっぱメチャメチャ注目されるんで目立ちたい人にはうってつけだけど、私はどーせボッチなんで、ワガママに旬の美味いものを求めたい。だから、新型発売から引っ張るだけ引っ張っての「MTモデル最終生産品の指名買い」は必然的選択でした。

全てがしっかり噛み合って的確に動いてる機械の美しさや気持ちよさを人の感性はフィーリングとしてちゃんと感じ取れる。機械モノの質感って最後はそういう所なんじゃないかなぁと思うんですね。