今回はザラブ嬢のインプレッションの5回目、足回り編です。まず最初はサスペンションについて書いていきましょう。

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(ナラシも終わり本領発揮のザラブ嬢。とにかく速い。チビリはしませんが、ヒィッとなるくらいのスピードがある。軽いから止まれる、止まれるから飛ばせる。昔乗ってた初期型CBR900RRと同じヤバさがある。)

サラブ嬢はフロントサスがショーワの41㎜径のBPFです。BPFは「ビック・ピストン・フロントフォーク」の略。ショーワご自慢の機構で、「絶対巨根主義」って感じの非常に男らしいネーミングがチャームポイント。このビック・ピストンというネーミングから想像するのは、スッポンドリンク、レバー、ニンニク、などであり、「滋養強壮に大変効果があるサスではないか?」という印象を多くの男性が持つことでありましょう。

このサスの特徴を簡単に申し上げますと、通常インナーロッド式のサスではインナーチューブの中にピストンを内蔵したシリンダーを入れて減衰効果を出しているところ、このBPFにはそれがない。

「シリンダーもインナーチューブも同じ筒なんだから、筒の中に筒を入れてちゃ無駄じゃない?もうこの際インナーチューブをシリンダー代わりにしちゃえばいいんじゃないかしら☆」

っていう「すてきな奥さん」型の節約思想で、内部のシリンダーをゴッソリ省略しちゃったというとんでもねぇサスペンションなんです。発想は単純ですが、これを現代の生産技術で実現しちゃったら、なんともステキすぎるフロントフォークが出来上がったというわけですね。

二重構造になっていたものが一つになるわけですから、サスの構成部品が減って軽くなり、ピストン径がメチャメチャ増える。今までインナーチューブの中にあるシリンダー内周径でピストンを設計していたものが、インナーチューブの径まで内部ピストン径を拡大できるわけですから、これはエライ違いですよ。ピストンがデカくなると内圧が下がり、動きが繊細になり、応答性が上がる。つまり低圧から減衰が立ち上がり、しっかりとコシが出るわけです。

若さに任せた荒っぽさではなく、「しなやかで動きが良くって、剛性のある巨根」をあてがわれるわけですから、どんな路面ももうメロメロ。男としての自信もみなぎっちゃう。しかも構造簡単で軽量化にもキクし、お財布にも優しいという、良いことずくめのサスなんですね。

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(BPFとインナーカートリッジ式サスの違いを図解したモノです。アホの私が見てもシンプルになり、ピストン径が増えてるのがわかる。)

このBPF、納車時は運動性がキレすぎの方向で調整されていたけど、現状は公道での快適さを盛り込みつつ、動きを安定方向に振る感じで調整してて、フロントの伸び減衰は締めたところから4回転半戻し、圧側減衰は5回転戻しに設定してあります。

これ以上圧側緩めると、ノーズダイブしすぎちゃうし、あんまり固めると、路面のくぼみによるキックバックがステアリングにモロに来て、安定性と快適性がなくなっちゃう。

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(ショーワご自慢のBPF。これは良いサス。かなり調整幅が広く、ピッタリのセッティングが出せると思います。)

路面が綺麗なサーキットなら切れ味重視でグイグイ締め上げればいいんでしょうが、公道はそうもいきません。自分がよく走る路面との馴染みが重要。いずれにせよ、このビックマグナム、もといビックピストンフロントフォークにはかなり満足してます。

一方、リアサスはかなり苦しんでる。これ、オーリンズのSTX40というサスペンションらしいんですが、ハッキリ言いましょう。

「そんなモデル名聞いたことねぇ。そしてイマイチ容量不足。」

動画で「スゲぇ柔らかい!」って表現されてるものもありますが、それは、これまでのストリートトリプルがガタピシ並に堅かったか、多分ショップがこの手のバイクでよくやる「足つき対策にメチャメチャ緩めた仕様」なんじゃないかと思う。このサスを試しに圧側10、伸側10あたりの中間ラインに設定して、いつもの山道走ったら、ケツを落として真顔で入ったコーナリングの最初のギャップでいきなり破城槌にカチ上げられたような衝撃が腰に走り「ぐわぁああああああああ!!!!」と口から壮絶な苦悶の声が漏れ、HPゲージが一気に半分くらいになり、あまりのヤバさに即座に撤退と相成りました。

ハングオフしつつアクセル開けてリアに荷重かかってる時って、リアタイアが路面に食いついてるのをケツでガッツリ感じてますから、ショックに対して無防備なんです。そんな状況で下からガツーーンと突き上げられちゃうと、モロに脳天までシビれが突き抜けちゃう。もう臓器まで来ましたね、衝撃が・・。

私が好んで走るダム横の道は路面が場所によってはかなりうねってますから、あのままいつものワインディングにツッコんでいたら、終着点までに私の腰はトロール集団に襲われた村落みたいにあっさり壊滅していたと思う。

動きがクイックだとか、旋回性が高いだとかのインプレする前に、腰が使い物にならなくなって男としてジ・エンドになりますよ。

あまりのことに、一気に小学生くらいに退化して「路面がボクをイジメるの~~」って泣きながらガレージに逃げ帰り、「シャァァアァアァアア」とヘビのような怨嗟のうめきを発しながら、伸圧共に思いっきり緩めましたよ(笑)。しかし、それでもなおギャップによっては「あおぉえ」ビキビキッ!(腰の悲鳴)って衝撃が走りますからねぇ・・・。対ショック姿勢をうまく取らないと腰の耐久値がゴリゴリ削られます。

結局のところ、このリアサスはサーキットなどの高速高負荷にフォーカスしてるようなんで、一番緩めに設定しても路面の大きめのギャップをいなしきれないんですね。かといってプリロード緩めようにも、マニュアルには「ライダーがリアサスのプリロードを調整することはできません。プリロードを調整しようとすると、安全に走行できなくなり、制御不能となって事故に繋がるおそれがあります。」との警告が打ってある

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(こちらオーリンズのリアサス。突き上げの吸収性に難あり。現代のサスはコストさえかければ衝撃吸収と踏ん張りを両立できるのはわかってるので、正直もの足りない。これ絶対OEM生産でしょ。)

結局、私のリアサスはマニュアルどおり、プリロードそのまま、減衰は伸側が19段戻し、圧側が20段戻しという最弱に近いヘタレ設定。高速コーナーでの踏ん張りをある程度捨てて、「腰の養生」を優先した結果こうなってます。当然高速領域で鬼のようにギュルギュル曲がる旋回性は出てきませんが、そんなことより破城槌攻撃の恐怖を緩和する方が最優先。「このヘタレジジィめが!!」と笑ってもらって結構。腰からの絶対命令でこれ以上締め上げることは私にゃ不可能です。

フロントサスは良い感じですが、リアサスは公道に対応できるほどのハードウェアの基礎体力がない感じ。いろんな言い訳はあるのかもしれませんが、公道を走るバイクとして、乗り手の健康を害するレベルの衝撃を許容しちゃダメだと思う。衝撃の吸収が役目のショックが公道で衝撃を吸収しきれないって、やっぱり適合性に問題がある。だから、このリアサスはダメ。もしリアサスもショーワの一番良い奴だったら、とかSTXじゃなくて、ご高名なTTXだったら?とか考えて、遠い目になってしまう今日この頃。

カタログ見た方は、「ブレーキはフロントもリアもブレンボなのに、なんでサスはフロントショーワで、リアがオーリンズなんだよ。どっちもオーリンズ入れろよ!」って思う人も多いと思う。フロントもリアもゴールドの方がゴージャスでカッコいいですしね。でも私の体感ではショーワのBPFの方が良い仕事してるんですよ。だから「ブランドという先入観ってホントにいらないな」と思う。「特定のブランドだから無条件にいい」なんてのは、完全に思考停止です。機械モノはやっぱりいい仕事してナンボなんですから。

かなり厳しいことを書きましたが、タマに来る突き上げ攻撃をしのぐ又は突き上げのない綺麗な路面を選択すれば、とにかく楽しく曲がれることは間違いないんですよ。ギュルギュル曲がる強烈な旋回性を目の当たりにすると、「軽いって偉大だなぁ・・これは気持ちよすぎるだろ?」とつぶやきが漏れる。フラットなトルクを広いバンドで分厚く出してくるエンジン特性と、メチャ軽い車体の相性がとてもいい。シャーシの反応が非常に良いところもってきて、扱いやすい出力特性でギャンギャン回るから、アクセルで自由自在って気がします。この世が綺麗な路面ばかりなら最高なんですけどねぇ・・



続きましてはブレーキです。フロントのブレンボ・モノブロックキャリバーはなんていうんでしょうか、一言でいうなら「やっぱり使いやすい」。ありきたりですけど。初期の穏やかな部分を使っている分には、女性的なソフトタッチなんです。ニッシンやトキコと比べてもそう思う。必要十分な範囲で、しんなりとコントローラブルに効きます。凄く使いやすいんで、「へぇ・・ブレンボってこんな従順なんだぁ。うんうん、良い子だぞ。」なんてニコニコと調子よく乗ってたわけですが、ナラシの後で、ちょっとABS効かしてみよっかなーってガギュッとブレーキかけたら、脳が前によっちゃうくらいドキューーーーッと凄いGがかかって、腕で体支えるのがしんどいくらい効いちゃって、「うわ、これヤバ・・」ってつぶやいちゃいました。「とっつきはソフトだけど奧でこんなに効くのかよ!これが本気のブレンボ様なのね・・・」って感心した次第です。

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(フロントのブレンボ・モノブロックキャリバー。ブレーキホースはノーマルでステンメッシュが奢られる。剛性がクソ高いんで、ブレーキレバーからの入力がパッドとディスクに正しく伝わる。ゆえにタッチもリニア。バイクのブレーキは繊細さが命ですが、ここまでくれば公道では文句の出ようがない。)

ブレンボは柔らかい領域と猛烈に効く領域までレンジが無段階で幅広い。わずか数ミリの絞り幅と、入力の強弱で、最弱から最強までを綺麗にカバーしてるんです。ドッカンブレーキで使うか、しんなりブレーキで使うかは乗り手の気分と入力次第。必要がなければ効かさないけど、必要があれば鬼のように効く。爪を隠した鷹です。他のブレーキとの違いは、AndroidとiPhoneの操作感覚みたいな違いって気がする。

絶対制動力は他のメーカーも負けないものが作れるんだと思うんですが、感性的な面でリードしてますよね。鬼のような制動力を持ちながら、制動力を制御することに長けている。というか、そういうところにとっても金かけてる感じなんです。レースの世界ではそこが大事なんでしょうね。ここら辺がブレンボが好まれる理由なんだろうなと。

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(ラジアルマウントのモノブロックキャリバーに組み合わせるのはブレンボ製セミラジアルポンプのマスターシリンダーで抜かりはない。ブレーキにコストを惜しまないという姿勢は非常に好感が持てますね。)

あと、絶賛したいのはリア。昔の鬼ゴケ連発の経験から、ザラブ嬢に乗る際は思いっきりケツを落としたりしてません。このバイクで限界までケツを落とすと、私の身長じゃリアブレーキを踏みきれなくなっちゃう。マジで追い込んでるコーナリング中にリアブレーキでスピードコントロールできなかったら襲い来る不運に対応できませんので・・。安全マージンとしてリアブレーキは絶対踏めなきゃならないんです

ストリートトリプルは街乗りでの足回りの窮屈さを避けて、ステップをそんなにカチ上げてない。だから、今以上にケツを落としたければバックステップ入れるしかないと思う。それくらい公道でのリアブレーキは大事で、公道ではリアをちゃんと踏めて一人前だと思ってます。

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(非常にコントローラブルなリアブレーキ。スポーツABSも制御が緻密で、まことに頼もしい。)

で、このリアブレーキのブレンボが実に良い仕事するんですよ。タイヤのスーパーコルサちゃんの素晴らしさもあって、コーナリング中の速度調節がメチャメチャやりやすい。こりゃいいですよ!峠の下りコーナーでぐいーってリア踏んでロックしても、ABSが高速モールス信号みたいに「トトトトトトトト」と小刻みに制動する。素晴らしすぎんよ!コレがスポーツABSなの?!私が過去試乗で体験したハーレーの「ドコドコドコドコ」という、太鼓みたいなリアABSとはエライ違いなのね!

あ、この場を借りてハーレーに一言いいたいんだけど、エンジンがドコドコだからって、ABSまでドコドコしなくてもいいんだからねっ!!確かにハーレー乗りはドコドコ好きだけれどもっ!!!

ストリートトリプルの偉いところは、一番お安いSでもリアブレーキは同じなんですよ。これは素晴らしいことじゃないですか。ベースグレードにもこんな素敵なリアブレーキがつくなんて。私はこの点については手放しで賞賛したいです。



最後にタイヤについても一言。このタイヤはピレリの「ディアブロ・スーパーコルサSP V3」です。もう仮面ライダー好きにはたまらないネーミング。なんせ、V3ですよ。V3。技と力のV3。はい、凄いタイヤですぅ。もう「履くだけでレーサーいっちょ上がり」といっていい。とにかく深くバンクしたときのグリップ感がハンパない。「絶対に食いつきますんでヨロシク!パチッ☆(ウィンク)」ってタイヤがこっちに訴えてくる。

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(このスリックタイヤ一歩手前のトレッドデザインが高性能の証し。トライアンフの指定空気圧はフロント2.3、リア2.9でパンパンのはずなんですが、サイドウォールが柔らかく、トレッドが広い面積で接地するんで、バンク時の食いつきは素晴らしい。つーか、バンクさせればバンクさせるほど食いつく感じ。砂でも踏まない限りコケる気がしない。長年バイクに乗ってきて、一番進化を感じるのがタイヤかも。)

もう、ガッツリ寝かせても、めちゃくちゃ安心院さんなんですよ。端の方がしなやかに潰れてくれて、グリップをゴリゴリ稼いでくれるんで、タイヤのヘリ近くまで使うのにそこまで寝かせなくてもいい印象があります。私レベルの腕前でマージン取って走ってもヘリがギリまで接地してるんですから、タイヤの端が相当しなやかってことでしょう。

公道しか走らないけど「とにかくアマリング消したいっ!!」って呪いから逃れられねぇって人はこのタイヤがいいかもしれません。普通のツーリングタイヤって、そこまでグリップいらないし、公道では安全マージン確保でヘリが残るように作られてるところがあるんで、ヘリまで使うためには相当寝かせてマージン使い切らなきゃならない。でもこのタイヤはトレッドを積極的に潰すことにより、この保険部分も有効に使って、グリップを賢く稼いじゃおうってコンセプトで作られてると思うんですよね。

最近のレーシングライダーはタイヤを潰しまくるライディングでトンデモないバンク角稼いでますが、このタイヤは潰さなくても普通に乗れば勝手に潰れてくれます。タイヤの剛性感はメチャクチャ高いのに、パタンと寝て、しなやかに潰れるなんて、どうなってんの?これが現代の技術なのか?

私は雨の日はほとんど走ってないんですが、ドライなら何しても破綻しない頼もしさがありますし、特段不満がなければ同じタイヤを入れるケースがほとんどですんで、次もこのタイヤ入れると思います。え?ライフ??この手の高性能タイヤは無くなったときに交換するだけ。この極上性能を前にしてライフを語る意味はほぼないと思う。

「パワーのあるバイクで安心感と無敵感が欲しければ、とりあえずコレ入れとけ」っていう、それくらい良くできたタイヤだと思います。

ということで足回りのインプレをお送りしました。相変わらず長いですね。申し訳ありません。

ストリートトリプルのインプレは、あとは、「シャーシ編」「電子制御編」「残念編」が残ってるだけとなりました。原案はほぼできてるんですが、ダイナやゴールドウィングのブログに混ぜてぼつぼつ出していきます。お披露目はもうちょっと先になりそうです。