今回はバイク乗りなら誰もが経験する「フルバンク停車」をお題にしたいと思います。

「フルバンク停車」
とはサイドスタンドを使わない超高難度の停車方法であり、完全にバイクを横倒しにするため、周囲へのインパクトに極めて秀でた停車方法であるといわれています。ただし、停車する度に、原状回復に多額の金銭が必要とされるため、通常は皆サイドスタンドを使っていますね。

さらに高度なテクニックとして、ブレーキすら使わず電柱やガードレールにバイクをぶち当てて止める「ガシャーニング」というウルトラ高難度のテクもあります。以前私はこれに失敗し、崖下にNSRを落としてしまうという苦い思い出があります。

フルバンク停車は忘れた頃にバイク乗りを襲う自然災害みたいなものです。「わかっちゃいるけど止められない」「コケるときはコケる」という、バイクのお約束のようなものですね。めんどくさいので次から「立ちゴケ」と表記します。

ちなみに私のそれなりに長いバイク歴の中で「立ちゴケは8回」あります。私は元バイク屋店員ですから、取り回しの技術は人並み以上にはあるはずなんですよ。昔は毎日延べ40台くらいのバイクを店から出し入れし、軽トラに大型バイク積んでオークションに持ってったり持ってきたりしてたわけですから。ちなみに勤務期間中、私は店のバイクを1度もコカしてないんです。

・・・でも、自分のバイクになると・・なぜかコケるんですなー。

実はその理由は簡単なんです。昔西武の松坂投手がプロデビューした際、「自信が確信に変わりました!」という名言を残しましたが、私はこう語りたい。

「自信は確信となり、やがて慢心に変わりました!!」・・と。

う~む。見るからにアホ丸出しですが、まさにこれ。そして、バイクの神は腹立つことに、私の慢心を決して見逃さない

立ちゴケ・下描き
(今回のイラストの下描き。全身絵はバランスが全てなんで、下描きをしっかり描くことが大事です。)

多くのライダーにとって、立ちゴケと交通事故は「悲劇と屈辱の黒歴史」ですから、私も計8回の立ちゴケ全てを鮮明に記憶しています。生き恥を忍んで、皆様の愉悦のために、今回その一つ一つをここでご紹介したいと思います。

立ちゴケ初回 JOG-Z

まだ駆け出しの初心者の頃、ちらほらと雪が舞う日の大学帰り、雪がうっすら積もるマンホールの上に安易に足をついてしまい、足が一気に外側にもっていかれて、マタ裂き状態でコケて悶絶。(股間亜脱臼、約2週間苦しむ。大学のサークル女子に指さして笑われる。)。

2回目 NSR250

右ターン中、ステアリングとタンクに手が挟まってアクセル開けられなくなり、内側へバランスを崩す。なんとか立て直そうとするも、ステアリングダンパーを鬼のように固めてた(笑)んで上手く操作できずヨロヨロと前進を余儀なくされる。そのまま路肩が迫り、ビビってフロントブレーキかけて一気に転倒。カウルに傷がついて、NSRをお嫁に行けない体にしてしまう。「俺が責任取るからな!」とバイクに語りかけるも、その後もDVのような鬼ゴケを繰り返し、ボロボロになったNSRはほぼ部品取り状態でオークション行き。南無。

3回目 CBR900RR

ショップのツーリング中、右回りでUターンして再びタンクとハンドルに腕を挟まれてアクセル開けられなくなりコケる。「なぜ人は同じあやまちを繰り返すの?」と脳内で美少女声のつぶやきが再生される。店のお客さんの前で豪快にやらかして、あまりに恥ずかしくショックで寝込む。

実はこの3回目の立ちゴケ以降、かなりの年月立ちゴケはありませんでした。このまま立ちゴケをしないで一生を終えるライダーになることを夢みていましたが、そうは問屋が卸さなかった。

4回目 ダイナ(初代)

細い山道を走っていたところ、小さな無人村落で行き止まりになり、やむなく傾斜地でUターンを試みるも見事にコケる。久しぶりにバイクをコカして、しばらく景色を眺めながら賢者モードに。傾斜地だったんでダメージがでかく、シフトレバーとミラーが曲がる。傾斜をナメていたと反省し、以降傾斜地でのUターンは私の中で封印指定となる。

5回目 ダイナ(初代)

嫁さんが免許を取ったので、ツーリングに誘う。ヨチヨチと回っていく嫁に、Uターンの手本を見せようとダイナで鮮やかにUターンを披露する。しかし路肩に「天使がいたずらに設置した聖杯の泥」が存在しており、これに見事に乗ってズルズルとコケる。過去に例のない気持ち悪い超低速のスベりゴケで、今でも嫌な感触を思い出せる。エストレアに乗っていた初心者の嫁に「ナイス見本!!」と終日イジられる。

6回目 ダイナ(二代目)

三方五湖からのソロツーリングの帰り、高速インター出口で一時停止し、幹線道路に合流しようとしたところ、エンジンが突然ストール。後ろに車がいたので、すぐにエンジンをかけ、再スタートするも、またストール、頭にハテナマークを出しつつ、大地と一体化する。ツーリング帰りだったのでかなり体力を消耗しており、起こすのがしんどかった。

この後ダイナはまったくアイドリングを維持しなくなり、ストールを繰り返したため、ディーラーに入院。ストールの原因は不明で最終的にはコンピューターを丸ごと取り替えるハメになる。症状は消えたものの、ダイノジェットパワービジョンを新しいコンピュータで使うには、「もう一度登録費用を払わなくてはならないのじゃ!」と販売元のシャフトから死の宣告を受け、フルコン登録費用とコンピューター代で8万円が飛び、転倒したときにカスタムペイントしたビキニカウルに傷が入り、再塗装でさらに3万5千円が飛ぶ。理不尽さに1週間ぐらい心の中で壁を殴り続ける。

7回目  ダイナ(二代目)

車庫で整備しようとサイドスタンドを立てたつもりが、サイドスタンドが半がかりでそのままバイクがのしかかってくる。バイクとの力比べとなるも寄り倒しで行司軍配はダイナ。ギリギリまで踏ん張ったため、完全には倒れずプライマリーケースの下側が接地したのみ。無傷であったが、あまりの重さに腰をやってしまう。二度とこのような不注意を起こさぬよう、バイク小屋の黒板にサイドスタンド注意!!という警告文を掲載。

8回目 ダイナ(二代目)

ツーリングから帰宅し、車庫にバックでダイナを入れ、スタンドを掛けようとしたところを、近所の人に話しかけられて、スタンド半がかり状態のままバイクを傾けてしまい、スタンドが足払いのように戻って、あっさり押し倒される。ハーレーの騙し技であるサイドスタンド・トラップにまたしてもひっかってしまいダイナの高笑いが聞こえる。これまたギリギリまで踏ん張ったため、プライマリーケースが接地したのみで無傷。しかし前回と同様、踏ん張ったときに腰をやってしまう(怒)。

※実はハーレーのサイドスタンドには大きな欠点があります。国産と違い、ハーレーはスタンドが長く、スタンドを下ろすには直立より多少車体を右側に傾けてからスタンドを出さないと、途中でスタンドが地面にあたって引っかかっちゃうんです。足下を見ずにスタンド出して「あ、止まった。サイドスタンド出たわ」と勘違いしてバイクを左に預けたりすると、そのままサイドスタンドが戻って「ズコーッ」とイってしまう。途中で「かかったような騙しが入る」という罪な仕様になっているんですね。

以上が私の人生の中での総立ちゴケですが、計8回のうちダイナでなんと5回(笑)。つまり、私は通算18台のバイクを所有してきたのに、「ほぼダイナでばかり立ちゴケしている男」なんです。

ダイナの立ちゴケは③が技術によるもの、⑥が不可抗力、残りは全部慢心。これが200㎏くらいのバイクなら、「フンガァアアアアア」って気合いを入れりゃ耐えられたのかもしれませんが、300㎏のハーレーは一度傾くと、古代インドの礼拝作法である五体投地に一気に移行してしまう。つまりミスは許されないんです。

ちなみに初心者の低速ゴケの典型例は、フロントブレーキからのオツリでバランス崩して一気にコケるってパターン。バイクは低速機動中にフロントを強めにかけるとすぐコケちゃう乗り物なんですね。


(こちらYouTubeから典型的な低速ゴケの動画。コケる前にフロントブレーキをチョン掛けして、大きくバランスを崩してしまってるのがわかるでしょうか?フロント固めてるようですが、フロント固めるとオツリも尖ってきます。それにしても凄いZ1・・いくらかかってるの??)

低速でフロントブレーキ使っちゃうと、その運動エネルギーをフロントフォークが沈んで吸収するわけですが、フロントフォークが戻る際の反動の逃げ場がないんです。ブレーキかけてるから、エネルギーはもう前には逃げられません。結局右か左か後ろかのどちらか、逃げ易い方向に反動が流れていくことになる。

旋回中の場合は傾けている方向へこの反動エネルギーが一気に押し寄せちゃうんで、横から蹴られたみたいに強烈に挙動が乱れて、あっという間にガシャンといっちゃうわけですね。バイクの重さに加えて傾き方向へ予期せぬ運動エネルギーが加算されるわけですから、そりゃコケるわけですよ。しかも重いバイクほどエネルギーが大きく、一気にもっていかれる。だから低速機動中のブレーキングは「リアベースでフロントは絶対かけちゃダメ。」なんですね。


(YouTubeから有名なNRの立ちゴケ動画。こちらもフロントブレーキをかけたのが命取り。NRのフロントブレーキは超効きますので、一気に車体が停止し、反応のいいサスの効果でオツリも瞬時にやってきて、あっという間にコケてしまってます。楕円ピストンのNR一度は乗ってみたいですね。)

私はこういうコケ方は卒業してると思ってるんですが、一番の敵はやはり「慢心」「邪念」です。Uターンなんて足ついてヨチヨチ歩いても回れるわけですし、エンジンかけたまま降りてクラッチ繋いで回してもいい。だからわざわざ傾斜地とかでリスク取ることないんですよ。

「自らを死地に追いやらなければ死ぬこともない」のに、わざわざ死地に入っていって見事に死んでる。スケベ心と過剰な自信によって、堕ちるべくして堕ちてるわけなんです。

私のこのブログ見て、「ヤベぇダイナってこんなにコケるのか??」って誤解しないでください。ダイナはとっても安定してるし、足つきもいいし、低速トルクもあるし、Uターンしてもストレスは感じないバイクです。しかし、だからこそ慢心しやすい。そして慢心を許すほどその車重は甘くない。

100回のうちの1回のミスを見逃さずキッチリ倒れてくる。一度倒れだしたら、ゴリラでもない限り立て直し不能なんです。

立ちゴケ2
(フルバンク停車をめぐる激しい攻防。とにかくダイナはスキさえあれば押し倒してくる。まさにサカった牛のごとし。)

長年乗ってるとコケないってのが当たり前になってきますが、二輪ってのは「立ってることが既におかしい」存在で、支えがないと倒れてくるのが当たり前。立ちゴケして部品壊れるとそこがカスタムパーツに変わったりするんで、「常にオーナーを押し倒したい♡」って隙をうかがってるのがバイクという悪魔なんです。

だからバイクとの関係は常に緊張感に溢れてる。「手懐けたな~」なんて勘違いして気を緩めた途端、立ちゴケという強烈なリバーブローをオーナーに向けて放ってくる。私はダイナに定期的に肝臓を抉られ、その度にマウスピースを吐いてるんですが、これは慢心している私が悪い。

バイクは気を抜くとすぐ裏切るけど、それがバイクの優しさです

人生を長く生きてると、人との接し方や距離が少しずつ変わっていく。周りの人が少しずつ遠巻きになり、間違いがあってもそれを指摘してくれる人もいなくなる。

でもバイクは、昔と変わらず、私を容赦なく断罪し、正面から押し倒し、ぶん投げ、土をナメさせ、心を折り、金銭的なダメージを与えてくる

どんなに長い付き合いでも、馴れあうことを決して許さない。それこそがバイクの美点であり、立ちゴケこそがその証。だからこそ、過保護という毒に満ちたこの世の中で、バイクは多くのライダーにとって輝きを失わない存在であり続けているんだと思うんですよね。