今回はゴールドウィングF6Bのオイル交換の話をしようかと考えていたんですが、その前置きにオイルのことを書いてたらとても長くなっちゃったので、その部分を独立させちゃいました。

そんなわけで、今回は急遽予定を変更し、私の頭の中にある「非常に大雑把なエンジンオイルの話」をしたいと思います。

私は技術的なことよりも「商売人の目線から商品のブラックプロパガンダをグリグリほじくる」という、非常にイヤらしい男なので、今回もその目線でエンジンオイルを語っていきます。

最初に申し上げておくと、私にはエンジンオイルの専門的知識はほとんどありません。ミックスジュースで例えると、バイクにとってこれくらいの栄養が必要ってくらいはわかってるけど「何をどれだけ混ぜたら栄養があって美味いジュースになるか?」の知識なんてほとんどない。

若い頃は「とにかくいいオイルを!」ってことで、いろんなオイルを入れました。ワコーズ4CR、レッドライン、モチュール300Vなどなど・・・。当時の私は「いいオイル=高価格オイル」っていう短絡思考だったし、それを入れるのがバイクへの愛で、「大事なバイクを長持ちさせるには、できるだけ良いオイルを」と考えていたんです。

しかし、残念ながら高性能オイルによって私のバイクの寿命は延びることは一切ありませんでした。だってエンジン壊す前に転倒事故でほとんどのバイクが天に召されちゃったので

良いオイルでエンジンを保護するより、私のイカレた無謀運転からバイクを保護することの方が先決だったわけですね。

オイルの知識も適当で、「高くて100%化学合成ならいいことずくめ!」って短絡思考だったから、空冷エンジンに油膜の薄いサラサラオイルをぶち込んじゃったり、もうめちゃくちゃでしたね。

中華料理店で天津飯食ってるのに、飲んでる酒は最高級赤ワインって感じ。そりゃいい酒なんかも知れないけど、「その料理と合わないでしょ?おじいちゃん」っていう笑い話みたいな状況になってたわけです。

そんな男が時を経て「メーカー指定オイルの上級グレードを脳死で入れてるだけ」のポンチ野郎と化した。現在の私は「こちらの料理に合うのはこのお酒です!!」っていうメーカーのオススメを、訳知り顔で注文するエセビブグルマンにすぎない。

「あれだけ高級オイル信奉者だったのに、なんでこうなっちゃったの?」というと、そりゃ自分がバカだと気づいたからです。

いろんな業界で身ぐるみ剥がれ、パンツまで剥ぎ取られてヌーディストなフルチンマンとなり、悲しい悟りを開くに至ったのです。

消費社会のどん底に堕ち、呪われたアビスの最下層から裏の姿を眺めるとエンジンオイルってのが途端に得体の知れないモノに見えてくる。アビスの底にいる生命体の生態が理解できないように、オイルの知識がつけばつくほど「その本質は素人が到底理解できるものではない」ってのがわかったわけです。

そもそも論としてオイルっていうのは何を選んでも、基本大失敗はない。オイルそれのみが原因でエンジン壊れたってのは聞いたことがないからです。

スーパーカブのエンジンが心配だからとレッドライン入れる奴はいない。多くの人がおそらくホンダのG1かそれ以下の汎用オイルを入れてお茶を濁し、ロクにオイル交換もせずに毎日往復ビンタのように使い倒してる。じゃあそれでカブ様がボロボロになって壊れるのかというと全然壊れないわけですよ。

この世で一番過酷な環境にあるのは、間違いなく仕事の現場で働く80ccや125ccの社用バイクなんです。そいつらがドロドロのオイルで今日も元気に存分な働きを見せているのに、格段に良いオイルを頻繁に入れ換えている趣味性の高いバイクに問題なんか出るわけがない。

ぶっちゃけ赤カブ様に比べたら、うちのF6Bやダイナなんて惰眠を貪る愛玩豚です

そんな結論が見えているのに、人は何故必要以上の高額オイルを求めるのか?私の場合、明確な目的意識は希薄で取りあえず「レッドライン入れたぜ!」といってみたいだけだった。いやマジで。

オイルブログ3
(ただ高いだけのオイルを入れるのは、自分の好みだけで選んだ下着を女性に送っちゃうようなもの。素材が最高級シルクであったとしても、バイクに合うかどうかの検証がないと、受け手はドン引き。過去の自分のオイル選択はまさにこれ。)

オイルに執着をみせていた私が、それ以外の要素にもこだわっていたか?っていうとこれまた違う。バイクのローン地獄に苦しんでいた頃の私は、「ガソリンは1円でも安い方がいいに決まってるでしょ!!近場の一番安い無印のガソリンスタンドで水曜日のご奉仕デーに満タン入れとくのよ!常識でしょ!!経済感覚ゼロなの?浪費家ちゃんなの??」と超怪しげなガソリンスタンドで得体の知れない粗悪ガソリンを注入しつつ、高級オイルを入れてたわけですよ。このコダワリのムラ、バランス感覚の欠如。支離滅裂です。

「おお神よ!これが愚かしき人の姿だ!」

そもそも、必要以上にいいオイル入れたって我々一般ユーザーにその効果を科学的に検証するすべなんてないんです。定期的にエンジン開けてピストン周りを点検し、違いを確認するわけでもないし、オイルの効果が顕著に現れる極限状態の走りをストレステストよろしく延々行うわけでもない。結局善し悪しの判断は「乗り手のフィーリングだけじゃねーか!!」ってことになる。

実際、目隠しして「ここに3台同じバイクがありまぁす。それぞれに違うグレードのオイルが入ってまぁす。どれが一番いいオイル入っているか当ててみてね~。」っていわれて当てられる奴なんかいないんですよ。乗り手が真に求めてるのは限界性能なのか感覚性能なのか?なにをもっていいオイルとするのか?ってのは、実は乗り手もイマイチわかってないんじゃないでしょうか?しかも「超高回転極限状態での性能が欲しいんじゃあ!」とお題目を並べつつ、無意識に求めてるのは高回転ではなく巡航回転でのフィーリングだったりするんですね。

限界性能ならまだしも感覚性能の評価なんて正解がないし、哲学者のデカルトもいっているように、人間の中で一番ダマされやすいのが、五感という感覚器なんです。

有効成分がまったく含まれていない薬を投与されたにも関わらず、薬が効くと思い込んじゃった患者が、劇的に回復して元気になっちゃうって現象を医学的には「プラシーボ効果」って言うんですが、こいつの恐ろしいところは、完全なる詐欺なのに病気が治っちまうので、結果詐欺じゃなくなっちゃってるところ。

医者としては水飲まして感謝されるんだからボロ儲けですね。

そういう人の感覚のいい加減さを知っちゃうと、地道にオイルの成分を詰めて性能アップを追求するのがバカバカしくなる。それよりスピリチュアルなプラシーボ効果に訴えた方が「圧倒的に売れて利益出ちゃうんじゃね?」というイケない誘惑に駆られちゃうのもやむを得ない。そして、そのプラシーボを一番やりやすいのがオイルだと思うわけですよ。

だって売れる根拠は性能だけど、一般ライダーに求められてるのはフィーリング部分が大きいんだから。商売としてはフィーリングのいい安オイルを作ってスゲぇ高性能です!!って売り出せばいいだけなんです。そしてそのフィーリングは宣伝文句でプラシーボ効果をひたすら上げることで、タダ同然でかさ上げすることが可能。これは裸の王様の仕立屋と同じ理論ですね。

そりゃストレステストを繰り返されれば、エンジン壊れるかもしれませんが、そんなことする奴はいないし、オイルだけが原因とは見られないのでまずバレない。要は着せてしまえば、「王様は裸だよ!」と真実を指摘できる人がまったくいなくなる「完全犯罪の魔法の服」だともいえる。

このような消費者心理の隙と人の持つ錯覚を最大限利用して、利益につなげていくものを消費の世界では「オカルト商品」っていうんです。これら商品群の共通点は①購入者にとって効果があるかどうかを科学的に全然証明できてないのに②圧倒的効能があるように宣伝されかつ③価格がボッタクリってことです。

評価を聴覚にのみ依存するオーディオの世界にはこの「オカルト商品」が非常に多い。

オイルをこのようなオカルト商品と一緒にしていいのかどうかはおいといて、ネットで売っている「これはいいオイルですよ!!最高級のベースオイルっす!!」っていうオイルの宣伝手法って、オーディオ世界で「オカルト商品の代名詞」といわれる「電源ケーブルの売り方」と非常に良く似ているわけです。

顧客の思い込み効果を最大限引き出すため、これまでの商品を否定するようなネタを仕込み、その後、弁慶の勧進帳のようにクソ長い主張をダラダラと並べ立てて「この商品はメチャメチャプレミアムで高性能で素晴らしいんですぅ~」ってことを粘り着くようなバタートークでアピールしていくわけです。

でもこういうのに人は弱いんですよね。現状になんとなく不満を持つ人は今を否定され、新たな新天地に誘導されるとフラフラとそっちにいってしまう。

長いことバイクに乗ってて、自分でチューニングなんかをしてみると、メーカー純正のバランスってのは、コストを含めいろんなものに目を配ってて、凄まじいものがあると理解できてくるわけです。オイルだってメーカーが考えたバランスの輪の中の一部じゃないの?と考えるようになる。

メーカーは絶対にエンジン壊しちゃいけないので、オイルもとにかくしっかりした奴を作ってる。エンジンパワーやトルクなんかも、指定オイルでちゃんと出てくるように味付けされてるわけなんです。そこにメーカー指定以外のオイルを入れるんであれば、それにより「何がどのように良くなるのか?何故良くなるのか?」という根拠が欲しいわけですよ。

でもこの根拠の裏付けとなる成分の内訳なんて、オイル缶のどこにも書いていないわけなんですね。多くの人に「なんでこのオイルがいいと思うの?」って問いかけると多分返ってくる答えのほとんどは「高いんだからいいに決まってるでしょ?」とか「他の人もいいって言ってるし。」って回答なんだろうと思うわけです。こういう中途半端で確実性のない知識で最良を求めようとする心が、この世では金を吸い上げられるモトなんですよ。

そもそもオイルって見た目や味で違いがわかるもんじゃないんで、ベースオイルや添加剤の成分で判断するしかないわけですが、それがこと細かに明記されているオイルをみたことがない。メチャクソ高い値段を取ってるのに企業秘密なんだそうです。包丁人味平のブラックカレーを思い出しちゃいますね。

ブラックカレー
(すっげぇ美味いカレーだとおもって食べてたら、カレー味の麻薬でした!という衝撃のカレー。リピーター続出ですが、食った奴は全員田代まさしになる。成分がわからないってものによっては怖いことなんです。)

成分がしっかり明記されていない以上、消費者には価格の根拠がわからないし、悪いもんでも壊れずちゃんと動くことは動くんで、「市場淘汰の原理」が全然働かない。中身がすっからかんでも淘汰されないんだから、ある意味やりたい放題、利益の温床ってことになる。

「でも規格があるでしょ。規格で善し悪しがわかるじゃん」なんて指摘もあると思いますが、規格って「消費者にわかりやすくするためです!」と言いつつ、売り側にとっては金取りやすくするお墨付きみたいなもんなんです。

見た目で違いがわからず、成分は理解できず、何入ってるかは書いてない。これは消費者にとってある種の闇鍋。一般的な判断基準は売り側が独自に作った規格と、粘度と鉱物油、部分合成、化学合成というくくりだけで、それすらメーカーによって基準は曖昧ときてる。このように濁っていて不透明な世界こそ強欲商売人達の優しい世界。ブルーオーシャンなんです。

一つ断っておきますが、私は純正オイル以外がダメっていってるわけじゃないんです。オカルト商品も否定してるわけじゃない。以前から行っているように後悔しない消費なら、詐欺だろうが、オカルトだろうがブランドだろうが、命に関わるものでない限り、そのすべてが自己決定の範囲内だと思ってますし、実際は多くがまっとうな商品でしょう。ただ商品には一定程度の透明性が必要なんです。消費者と事業者が対等に戦うためには、後になって自分が何故これを購入したのか?それで良かったのか?失敗だったのか?の謎解きと検証ができなきゃいけない。

エンジンオイルは、液体は透明だけど、商品として透明じゃないんで、そこに金を大量投下しても、真の謎解きはプロにしかできないんですよ。メーカーは何も言わないけど、純正オイル以上と宣伝している社外オイルをメーカーに検証して貰えば、いろいろ言いたいことはあるんだろうなぁと思います。

自分の仕事でも素人さんや中途半端な知識だけある人っていろんなことをこちらに言うんです。でも仕事ってのは理想論じゃない。私の世界だって、客が求める最高の仕事はできるんだけど、ある一定ライン以上のことをしても、依頼者に請求する金額と実際の効果が全然釣り合わなくなるから、必要十分を見極めて、請求額を抑えます。でもこの世には明らかに結果に見合わないような過剰なことをして、過剰な請求を切る商売人もいる。

特定分野に精通すると、良心的な商売をするには必要十分なラインがどこなのかの見極めが大事だとわかるようになるんです。客が知らない部分や理解できない部分こそ良心が大事になる。信頼が基礎のメーカーは費用対効果でバランスがとれなくなるラインを超えることはしないんですよ。

純正製品は社外の最高級オイルに比べて性能は落ちるかもしれないけど、「公道で走る分にはそれ以上のことをしても、コストが必要以上に上がるだけで効果がほとんどない」というラインをメーカーが読み切った上で製造されてるはずなんです。これはオイルにも、バイクにも、この世の全ての商品にも言えることなんですが、消費っていうのは、顧客に対してどこが妥当なのか?という作り手側の提案と、自分がどこまで求めるのか?の顧客の欲望の折り合いによってバランスがとれてるものなんです。

オイルについては、自分が求めてるものをどのオイルが実現してくれるのか私には正直わからなかった。自分の感覚はいい加減だし、商品に透明性もないわけですから。

というわけで、私はある時期を境にエンジンオイルはメーカー純正一辺倒に宗旨替えしました。でもそれは自分の中でオイルという商品をそれなりに検証した結果なんです。バイクからも、

「ようやく気づいたか。お前のようなバカチンは空回りして変なことするよりそれでいいんだよ。」

っていわれてるような気がするんですよね。