今回はバイク業界の抱える多くの課題の中から、非常に根の深いバイク店の接客(特に大型バイク)について取り上げてみたいと思ってます。

何でこのお題にしたかっていうと、少し前、隣県のカ〇サキプラザへ「H2 SX SE+」の現物を確認しに行ってそこで少し思うところがあったからなんです。

実は私、結構前までバイク店の接客なんて、「どうでもいいだろ?」って思ってました。だって、昔はどのバイク店でも国産メーカーのバイクは買えたし、お店だってそれなりの数があった。だから嫌だったら他の店に行けば良かったわけです。

バイクショップってほとんどが個人自営業なんですよ。だから、潰れようが儲かろうが自己責任で勝手にすればいい。本来は接客なんてバイクショップが独自に考えながらやっていくべきものなんです。

でも、業界は昔と大きく様変わりしてます。まず大型バイクがどしどし売れるようになり、価格もシャレにならなくなりました。200万円超えのバイクがゴロゴロありますからねぇ。大型バイクは車が買えない貧乏人やスピードに脳をやられたジャンキー連中の乗り物じゃなく、純粋な高額趣味商品になってるんですね。

昨今はハーレーだけでなく、ホンダもカワサキもブランド化を視野に入れて、排気量の大きい新車を専売制にし、特定の販売店にしか卸さなくなってます。その販売店も地方では県内に1店舗あるかないかで、価格はカワサキがワンプライス、ホンダも値引きは雀の涙。こうなってくると、顧客側も店を選べず、値引きもないから「接客なんてどうでもいい」なんていってられないわけです。


ダイナ販売店下絵
(今回の挿絵の鉛筆下描き。最近は顔もさることながら、女体をどう描くか?に腐心してます。)


「まぁまぁ、バイク屋なんてどうせロクな接客してこなかったんだから、多少アラがあっても今更じゃん?」とおっしゃる方もいるかもしれません。確かに昔のバイク屋はロクな接客してませんでした。でも顧客に対する誠意がなかったわけじゃない。

バイク屋が氾濫し競合が激しかった頃は、値引き販売が主力でした。どんな汚い店でも安けりゃ売れた。だから、お店は客をつかむために限界まで値引きしたわけです。事業者側にとって、利幅を削る値引きは顧客に対する非常にわかりやすい誠意なんですよ。

ただ、このような値引き競争を続けている限り、サービスの向上などは夢のまた夢です。だからこそハーレーはワンプライス販売を打ち出してる。値引きがないってのは一般的に殿様商売と言われたりしますが、顧客へのおもてなしを徹底しようとすると値引きなんかできないんです。だって、十分な利益のない荒んだ販売現場でホスピタリティの提供などできるはずがないのですから。

いつまでも値引きで勝負じゃ、バイクを取り巻く環境は貧乏くさく、しょぼいまま。その一方、バイクが高額化する中で顧客が期待するサービスレベルは高くなり続けていくので、どこかで方向転換してサービスの質を重視しないとやがて相手にされなくなる。

それは性能で勝り、値引き販売もしてる国産大型バイクが低性能でワンプライス販売のハーレーに根こそぎシェアを奪われた事実が明確に物語ってます。

そんな事情があるから、ホンダもカワサキも高額で利益率の高いバイクを専売制にして、顧客サービスに力を入れる方向に舵を切ってるわけですよ。(ハーレーとカワサキはハイブランド化、ホンダは自動車販売店と同レベルのサービスを目指しているようですね。)

一方、顧客側からすれば、値引きゼロのワンプライス販売をするのならば、これまで値引きで示していた顧客への誠意を何で示すのか?ということになる。それは結局サービスの充実以外にあり得ないんです。

専売制は販売拠点を絞る訳ですから、顧客に一定の犠牲を強いることになります。それ故メーカーは専売制に移行した後は、顧客サービスに邁進する責任がある。専売制に変わったメリットを顧客が実感できなければ、それは「メーカーが自意識過剰で客に押し付けたオナニーショー」ってことになりかねない。

私が不安なのは、そこら辺を店側がわかってないんじゃないか?と感じるところです。販売環境の理想化に向けて歩み出してねーだろと。店舗を綺麗にして、ブティックのようにバイクを並べ、コーヒーを提供すれば、それでブランドになれるんだ、と簡単に考えてる様な気がしてならないんです。

販売を任された店は販売権を取り上げられた他の店から妬まれ、ボロクソいわれる立場にある訳で、サービスにそれを跳ね返すだけの顧客満足度がなければ、販売権を取り上げられた店舗は到底納得できないでしょう。

コーヒー1杯と磨き上げた接客スキルで客をもてなし、手厚いサポートで気持ちよくなってもらって商品を売るのがハイブランドの真骨頂。だから大事なのは店舗ではなく、販売員の質なんですね。

ダイナ販売店2
(高額なプライスを納得させるには、一体何が必要なのか?大型バイクの原価が250ccの2倍か?っていうとそんなこたーないわけですよ。利幅は明らかに大型バイクがでかいし、大型バイクが250ccの2倍の働きをするわけでもない。なら人は何故大型バイクを買うのか?それは物欲と心の飢えを満たすためです。物欲はバイクで、心はサービスで満たしてあげると私のようなアホ犬は尻尾振って喜ぶわけです。)

専売制へ移行するのなら、サービスをメーカーがちゃんと指導し、一定のレベルを保証しなければなりません。でも実際はまだまだ販売店の力が強くて、メーカーが販売店教育をできていないように感じるし、教育はしてても、その本質が浸透していない感じなんですよね。

私は専売制への移行には目をつぶってるけど、それは「しっかりした顧客サービスをするにはそうするしかない」し、「大型バイク業界は接客を整えないと生き残っていけない」と考えているからです。だから、ワンプライス販売にも、むやみに噛みついたりはしない。

でも、それと引き換えの顧客サービスを「満足のいくクォリティで均一化して提供できない」んなら、専売制はさっさとやめて、顧客に販売店を選ぶ自由を与えるべきだと思うのです。

だって専売制は「諸刃の剣」だから。競争のないところでは倫理観だけが市場を守る防波堤なんですが、そんなもの私は信じちゃいません。専売制は販売店にモラルがないとエリア独占を利用して「顧客に売ってやってる状態」になりかねないんです。

要はサービスどころか「どーせオレたちのところでしか買えねぇんだし(笑)プププ・・」って上から目線になってしまう危険性があるわけですね。

こうなっちゃうと顧客サービスはどんどん低下し、顧客利益などどこかへすっ飛んでっちゃう。本来は顧客サービスを徹底するために導入したものが「専売特権」を利用した販売店の殿様商売に使われてしまうという本末転倒なことになる。

商売人である以上、利益の最大化は誰でも考えるんで、抜け目ないディーラーほどこの方向を選択するんですよ。

「ウチにしか商品ないから、顧客に頭下げなくてもどんどんバイクが売れてくよ!!ヒャッハー!専売制サイコーっ!!」って「商魂オーラメラメラ状態」になるわけですね。

メーカーが「販売権取り上げるぞ!」って凄んでも、「バ~カ、こんなオワコン業界の販売店、ウチ以外どこがやるんだよ(笑)」って言い返されて終わり。

自営業者は全てが優等生じゃありませんから、専売制が成功するかどうかはメーカーがちゃんと手綱を握り、販売店がサービス崩壊状態にならないようにコントロールできるかどうかがキモなんです。 

ちなみに私は自宅から80㎞近く走ってカワサキショップまでバイクを見に行き、買いたい車種まで伝えましたが、見事に放置(笑)。カウンターの向こうには客とダベってるヒマそうな兄さんがいましたが、こっちやってくることはなかったですね。

「今販売員手一杯だからそこに並んどけよ。カワサキはハイブランドだから椅子とニンジャブレンドがあるよ。いつ順番来るかわかんないけど、座って本でも読んでてね。よろしくっ!!」

って感じでしたね。

雑誌2冊くらい読んだところで、流石にこれ以上ここにいてもしょうがねえな・・ってことで帰ってきました。

でもね、私自身は特に腹も立たなかったんですよ。惨めに落ちのびるのは慣れてるし、「地方の個人経営の店に独占販売権を与えれば、フツーこうなるよね」っていう、私の懸念がバッチリあたってて、逆に清々しかったですよ。

どんなに綺麗事を言ったって、現場はメーカーのプロパガンダどおり動くわけがないんです。既存店舗をサービス教育していくってのは、町の定食屋に「明日からグランメゾン東京になれ」って言ってるようなもんで、かなり無理がある。本来はレクサスみたいに根本からブランド教育をしなくちゃならないんです。

ちなみにレクサスは店舗の雰囲気や接客、車のデザイン、挙動、乗り心地などを全て統一イメージで固めようとしてて正直スゲぇなと思います。あそこまで徹底すればそりゃ売れますよ。レクサスはトータルで評価するべきもので、車の運動性だけ取り出して語ってる評論家連中は二回り遅れてる。

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(既存店舗の専売店化が評価されるかどうかは、メーカーが顧客サービスに対して明確な理念を持ち、その理念が販売店に正しく実践されるかどうかにかかってる。)

この世の経済を支配する市場競争原理っていうのは、とっても素晴らしい機能で、神の見えざる手により、常に消費者にとって妥当なところに結論を帰結させる作用がある。競争があれば消費者は自分に最も利益のある選択をするからです。

しかし、市場競争の原理を無視して独占販売などの特別なアプローチをとると、当然のごとくこれまでにないような「偏った特殊な結果が生まれる」わけです。

それが「顧客の側に傾くのか」「店の側に傾くのか」は誰にもわからない。市場競争という天秤の担い手がいませんから、どっちの結論が出るかは販売店の意識次第になるってことです。

専売制はまだはじまったところですから、現段階で結論を出すのは早計だと思います。でもねぇ、正直不安なんですよ。今年から専売制になったカワサキなんか、過去顧客満足度を重視したような緻密なバイク作ってきてないんです。リコールだって結構雑だったりするんですよ。だからバイク屋のオヤジ達から「カワサキか・・・」って言われてきたんです。その企業体質が直らない中で販売店にだけ顧客サービス押しつけてハイブランドやるのかよ・・と。

私はニンジャコーヒーを飲み干し、パンフレットすら渡されることもなく手ぶらで販売店を後にしたわけですが、専売制が吉と出るのか凶と出るのか?それはこれからカワサキと付き合っていく皆さんが見極めて下さいね。

私がここに嫌われちゃうようなこと書いてるのも、市場競争がない以上、顧客が声を上げるくらいしか市場是正の手段がないからなんです。顧客と販売店というのは、一蓮托生、お互いを横目で見ながら並んで一緒にダンスを踊っているよーなもんなんです。専売制度の導入は長期公演が続く中で、メーカーが突然振付けを大きく変えちゃったってことですから、カーテンコールが天国になるか地獄になるか誰にもわからない。しかし、どうなっても、それは現状の振付を大きく変えたメーカーの責任

ムーランルージュ
(所詮生活必需品以外の消費なんて顧客と販売店、メーカーがスカートの下の欲望をちらつかせながら踊る馬鹿騒ぎ。どんなに振付をシックに変えようが、パンツ全開で踊ってることは変わりない。ブランド商売っていうのはクソ真面目にやってる喜劇なんです。それに付き合い、一緒に踊るかどうかは我々が決めればいいだけなんで、基本気楽にいきましょう。)

わかりますか?メーカーさん。ちゃんと販売店をコントロールしてくださいねー。顧客満足度のアンケートなんかとったってダメなんですよ(笑)。

某ドイツブランドの外車ディーラーなんかは、顧客全員にお願いしてメーカー本社からのアンケート調査を操作してる。地方店なんてそういうこと平気でやるんで、真の姿なんか絶対にメーカーには届かない。真の姿が見えないから経営戦略も正常に機能しない。今ドイツ車はガタガタになってますけど、そりゃ顧客に愛想尽かされたからですな。

それじゃ、一体どうすりゃいいのかって??そんなのに答えられるようなら、わたしゃ、こんなところでアクセスのないブログ書いてないっす。

私に聞くんじゃなくて、チコちゃんにでも聞いて下さい(笑)