皆さんこんにちは。シンナー薄め液というモデラー愛用の香水を今日も欠かさないクズモデラーのへっちまんです。

今回は前回ご紹介したラクエル・ゴシックの仮組をご報告いたします。なにぶん2009年前後と製作が古いために仮組における技術的な部分はあまり記憶にございませんが、メイド服のフリフリフリルのバリと割れをアルテコのSSPでシコシコ補修していたことを覚えています。この頃のガレージキットは品質がまだまだ不安定で、マトモに組み上がるまでにモデラーの方でかなりのケアが必要でした。

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(離型剤を落とした直後のパーツ達。パーツ数はこのレベルのキットでは平均的。入れ歯洗浄剤につけ込んだ後、クレンザーで軽く表面を削ってます。昔のキャストは皆クリーム色で柔らかかった。現在のキャストは白色で固いですね。)

キャストモデルの仮組過程というのは、「パーツ歪みを正し」「接合部分のすりあわせ」を行い、「バリを取り」「表面をならし」「パーツの固定のために軸打ち」し、最終的に「ホワイトボディを組み上げる」という一連の作業を差すわけですが、この作業を茶の間でやってると子どもから「なんだこれは・・信じられん・・・」といわれます。タミヤやバンダイのクォリティしか知らないキッズからすると、ガレキの歪みやバリ、気泡に悩む私は「非常に粗悪な製品を高値で買わされ、苦悶する悲しき被害者、市場敗北者」に見えてしまうようなのです。

ワンフェスという場で販売され、バンダイのマスターグレードの数倍の価格が設定されているにもかかわらず、あれこれ手を加えなければスタートラインにも立てない模型があるということが今の子どもには信じられないのでしょうか?

10年くらい前のガレージキットは型抜きなんかも個人でやっておりましたので、そんな入念な製品チェックなど望むべくもありませんでした。

「ワンフェス3日前に髪を振り乱しつつ原型を仕上げ、徹夜で型を抜き、揮発したシリコン溶剤をキメまくった状態で即販売」という極限状態爆誕キットが多くのブースで取れたて野菜のように並んでいたわけです。そこには「なんとか数を整えてワンフェスに間に合わせられた!世界の破滅はまぬがれた!!」という切羽詰まった空気しかなく、キットからは得体の知れない妖気すら感じられた。

そもそも大手メーカーのボークスですら、大型で薄いパーツの歪みはそれなりに強烈。接着面積が小さく、重く、歪みが酷いパーツは「こんなもん魔界村並の無理ゲーじゃね?」状態になることもありますので、個人ディーラーのキャストモデルなど推して知るべしです。

このようなクォリティレベルはガレージキットという小さなマーケットだから許されていたことで、一般モデラーに販売した場合、消費者保護的見地から「この商品はプラモデルとは違い、まともには組み上がりません。価格と品質のバランスは最悪。欠けも割れも歪みもあります。軸打ちしないと接着強度もでませんので、マゾモデラーか変態モデラー以外は禁制、禁制、ご禁制。」という告知を箱にでかでかと貼り付けておくくらいの注意喚起が必要になるかもしれない。

ちなみに私はガレキについて「パーツの質のトラブル」で販売元にクレームを入れたことはありません。非常に手の込んだ造型であれば、手を合わせて「ハハーッ!!」と拝むことこそあれ、細かいパーツの割れ欠けなどを問題にして、販売元の原型師の方々のやる気を削ぐことはしたくないなぁと思ってます。そこがモデラーと原型師の「同類意識」というか「わかり味」というものであろうと思うわけです。


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(抜きは非常にシャープで文句のつけようがない。パーツを一つ一つ見ているだけでもうっとりします。)

そういうわけで型抜きや製造過程におけるパーツクォリティのトラブルはモデラー側が引き受けるというのがガレージキットの「暗黙のルール」になってますので、「これから古いガレージキット作ってみよっかなー」なんて人はその点注意して購入する必要があります。(ちなみにラクエルのようなクリーム色のキャストの頃に比べ、比較的新しい成型色が白色になったガレージキットは精度がメチャメチャ上がっていますので、昔ほど苦労することはなくなってますのでご安心を。)

これらのパーツ修正と下地処理以外に、私にとって仮組にはもう一つ重要な意味があります。仮組は塗装作業という「天国と地獄が明確に分かれる決戦場」でグダグダな泥仕合に挑む前に「素敵な完成品を脳内で夢見ることができる」もっとも平和なひとときなのです。

これ以降の塗装作業では「ああ・・これはまるで地獄絵図じゃないか・・」という光景がまま展開されますが、仮組段階ではヘボモデラーの私でも、実力を棚に上げて幸せな未来予想図を展開することができる。

人の可能性は無限大。夢を見るのは全ての人に平等に与えられた権利。しかし、悲しいかなこの脳内妄想が実体化することはまずありません。確かに可能性は無限大ですが、実力が無いのに素晴らしい完成品が誕生するなどという甘いものではない。七転八倒した挙げ句、「なんとかキットの最低価値は維持できた・・」程度の仕上がりが関の山なのです。

塗装前の仮組状態は原型師の感性と美的センスとひたむきな努力の結晶です。そこに直感で適当に色をコネ、脳死状態でエアブラシを振り回す園児のようなアマチュアモデラーが「塗装という名の陵辱行為」を施していこうとしている。私よりよほど上手い人がこの世には沢山いるにもかかわらず、私のような者の手にかかってしまう悲劇。

この世で僅か数十体しかない貴重な作品達が「牛のように豚のように殺してもい~いのよ~。我一介の肉塊な~り~。」と私に全てを委ねているというのは、かなりの背徳的状況のようにも思われます。

(戸川純の名曲。諦念プシガンガ。歪んだ諦念の中にある妙なポジティブさに狂気を感じる。私の年代層には戸川純熱愛者が一定数確実に存在しています。)

そもそも原型師の方々とモデラーとしての私には製作者として「EXランクとEランクくらいの能力差」がある。この能力差では天上の造形物を土産物屋の人形レベルに堕天させることなど造作も無い。だからせめて、脳内妄想は入念に行っておき、我が手にかかって最悪の結末を迎えたとしても過去の美しい姿を思い出し、郷愁に浸れるよう「塗装前のホワイトボディを目に焼き付けておく」というのは非常に有益なことなのです。

ということで仮組したホワイトボディです。これから私の酷い塗装工程に入りますので、この無垢な姿を皆さんも今のうちにお楽しみ下さい。それなりに大きなキットなので、強度確保の軸打ちには気を遣いましたが、なんとか無事仮組みが完成してます。それでは、私の駄文と対照的なVispoさんの素晴らしい造形美をどうぞ。

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(とても魅力的なお顔。甘さがない表情がVispoさんの特徴。これに呼応するようにディティールにも一切の甘さはない。口の造形は凡百の造形師ではおよび難く、天才的です。いっそ塗装しない方がいいのでは・・などと考えてしまう。)

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(これ見よがしではないエロティシズムもVispoさんならでは。一番下のフリルは透明レジンです。それにしても私のマスキングテープ貼りの実に汚ないことよ・・。)

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(横顔。どの方向から見ても魅力的というのは非常に難しいんですが流石としかいいようがない。)

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(うねる蛇のように展開される髪の造形に人外感が漂ってます。)

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(全体のバランスも見事すぎ。たたずまいや雰囲気、ポージングや空間処理にも隙はありません。)