今回は木製帆船模型とガレージキット、インジェクションキット(プラモデル)の違いについて少し書きたいと思います。
通常、我々が一般的に模型というと「インジェクションキット」です。いわゆるプラモデル。モデラーが最初に作るのはこれでしょう。戦車模型、飛行機、車、オートバイ、艦船、ガンプラ。多くのモデラーの方々がこの「プラモデル」に慣れ親しんでいるはずです。インジェクションキットはパーツが細分化されており、それを組立説明図に基づいて組み立てていけば無難に完成いたします。良質なインジェクションキットはパーツの合いが良好なため、仮組みをすることなく、色プラ採用のキットは色すら塗ることなく、丁寧な組立てによって十分見栄えのする完成品を手にすることができます。

(小スケールのインジェクションキットのジオラマ。地味なPak43もジオラマにすると砲兵とのマッチングがとても良いです。)
塗装すればさらに見栄えはあがり、ディティールアップも楽しい。パーツ一つ一つが精密に完成していることにより、組み上げに苦労することはあまりありません。パーツの合いが悪いキットでもガレージキットほどではない。つまり余分なところにあまり神経をかけることなく、純粋に「組立と塗装」という模型の神髄を楽しむことができます。また、精密で繊細なパーツでスケールの小さなものでもしっかりとした仕上がりになり、複数製作してもあまり場所を取りません。やっぱり模型はインジェクションキットが王道です。
これに対しガレージキット、いわゆるレジンキットは、ディティール表現にこだわりと精密さを見せるものの、「気泡や歪みを伴う」パーツ、「おおざっぱでうまく噛み合わない」接合部、パーツ自体が重く接着にも難があるため、「軸打ちをしないと接着面の強度が出ない」など、インジェクションキットに比して様々な問題点があり、表面処理、パテ埋め、歪みの補正のため「事前の仮組み」が必須です。
また油分を洗浄し、塗装面を若干荒らしてからサフを吹いて下地を作らないと塗装が定着しないなど、インジェクションキットではあり得ない「組むため」ないし「塗装のため」の長い下準備が必要になります。このような特殊性のため勝手がわからない最初の一作目はロクな目に遭わない。
まぁキットとしての組み立てやすさではインジェクションに勝る部分はないのですが、代わりに得られるものは少量生産が可能であるが故のマニアックな作家性と希少性。タミヤやバンダイのような大メーカーでは決して実現できないようなアーティスティックな一品モノ、お子様の教育に良くないようなお色気路線の造形なども少量生産のガレージキットなら実現可能なわけです。なお、キャラクターモデルは顔を描く関係で、小スケールのものはあまりなく、数を作るとかなり場所を取るのが難点かも。


(これが作りたくて一度引退したガレキの世界にまた戻りましたのアスカR。この造形が好きで好きでたまりません。)
そして最後に木製帆船模型。キット入っているのは悲しいかな棒っきれだけ。必然的に組み立てる前にパーツそのものを図面を見ながら自分で削り、形を整え、作るところからはじめなくてはなりません。制作者自身がパーツを作る。つまり組立の前にまず加工、造形があるのです。木製であるが故にマシンカットでは木製らしい味が出てこないからでしょうか。
苦労して得られるものは素材感と手作り感。現実の帆船と同じ素材を使うことにより、実際の帆船の質感を忠実に再現できるわけです。実際製作してみると木という素材の自然な表面がこんなにも模型に情報量を与えてくれるのか?と感動いたします。この素材そのものが持つ情報量にはどんなディティールも勝てないかも。しかし、逆に組み上げる前の加工に時間がかかりすぎて、模型というより大工という感じ。キットメーカーに対しては、「あんたら木材の調達と図面引いて若干の金属パーツ作っだけちゃうんか??」と突っ込みたくなります。また、そこそこの大きさの帆船を製作すると1メートルクラスになりますから、場所を取るのもかなり厳しい。

(以前ご紹介したゴールデンハインド、中級キットですがやはりでかい。)
このようにカテゴリーごとにあちらを立てればこちらが立たずで長所と短所があるのですが、その中心に流れているモノはあまり変わらない。難易度は別にして、「自分の作りたいものを形にしていく」という本質は全て同じです。完成品への評価は別として、作っている行為自体は、大人っぽいとか子供っぽいとか、高尚であるとか低俗であるとか、そういうものではありません。
実はバイクの整備やエンジンなどの組立なども模型とカテゴリーがまったく違うようで共通している部分がとても多い。接着剤がネジになり、パーツが1分の1になるだけで下地を作ったり、すりあわせたり、加工したり、基本同じなんです。「模型なんか役にたたねぇ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、それは違う。世の中のものはほとんどが組立によってできているわけですから。
模型というものは奥が深く、作れば作るほどいろんなものが見えてくる。でも深く掘り下げるだけでなく、視点を横に広げると模型の中にある技術や考え方が世の中の別の事象にそのままあてはまったり、いろいろなところに応用が利いたりするのです。
昔はそんなこと考えもしなかったけど、最近はいろんなところで「これ模型の世界と理屈一緒だよなぁ?」と気づかされることが増えてきて、あらためて模型というものを見直すことが多くなってます。
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