「裏窓の風景」という、何やら「未亡人のエッチな昼下がり」的なお題ではじまりましたが、内容はなんらエロくも退廃的でもないのでご安心ください。

これまで私のブログの中で、私の愛車ゴールドウィングF6Bの美点を上げてきておりますが、今回はどうしてもこれは素敵!!」とインプレしておきたかった「後方視界」について書いていきます。

ほとんどの人は「バックミラーってそんな重要なの?全然見ないんだけど。」とお思いになるでしょう。そもそもバイクのバックミラーって見にくいんですよね。単気筒やツインだと微振動でぶれるし、ハンドルミラーだと視線移動が大きいし、見たところで大して嬉しいモノは映らないしで、車線変更の際に後方に車がいないか確認するくらいにしか使わない。

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(ゴールドウィングのバックミラー。ウィンカー一体式で・・でかい・・。)

都市部に住んでいるライダーさんなどは、

「はぁぁあ?GL(SC68)のあのバックミラーが美点だと??ふざけんな!スペースインベーダーの角みたいでデカすぎんだろ!車のドアミラーに当たっちまってスリ抜け全然できねーじゃん!!」


というのがホンネでしょう。

都市部のバイク乗りには、巨大バックミラーなど、「ジオングの足」のように、邪魔で不要な存在なんですねぇ・・。

しかし、東京のような大都市と異なり、クソ田舎在住のカントリーライダーである私にはバックミラーの巨大さは何の弊害にもならない。

路上はハンドルを抱きかかえたコンパクトな「おばちゃん軽」ばかりだし、路肩は広いしで、すし詰めの東京青梅街道のように信号待ちでバイクを右に左に倒しながらミラーのコンタクトを避けつつ車列の先頭へ・・・。などというシュチュエーションはまずありません。道は閑散として広々。実家の石川県に帰ってからは、「ミラーに当たってくるのはほぼ全てが虫」という寂しさなのです。

F6Bは車体レイアウトの関係でカウルが遙か前方に展開しているため、カウルに取り付けられているバックミラーも普通のバイクではあり得ないほど前方にある。そのため、ミラーを確認するための視線移動は眼球をちょっと横に向けるだけ。後方確認するというより、スピードメーターを見るような気軽な感覚の目線移動でOKなんです。

加えてこのバイクの心臓はホンダが誇る水平対向の6気筒で、完全バランス無振動。マフラーからアフターバーナーのような排気音が轟く高回転域でも「ミラーが振動でビビることはまったくない。」

ハーレーみたいに高回転で、アスファルトのハツリ工事のようにミラーがブレ倒し、車体の振動も相まって「わーい♡まったくなんにもみえないの♡」な状況になることはない。F6Bは巡航から超高速域まで極めてクリアで平和な後方視界を提供してくれるのです。

また、F6Bのバックミラーの巨大さは折り紙付きで、とにかく投影面積が異様にでかい。このため後方視界は、「なにこれもう全景が映っちゃってるじゃなーーーい!どんだけぇーーー!!」って叫びたくなるくらい、お空から水平線から地べたまで、とてつもなく広範囲に映ってくる。正直、これほどの広範囲で後方が見えちゃうバイクってちょっとないんじゃないでしょうか?

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(F6Bの特徴は、巨大ミラーがはるか前方のカウルに取り付けられていること。この巨大なミラーに後方に広がる空と大地がパノラマで投影される。この写真では前方には赤く染まった山々、後方では海の方向に沈む夕日が両方拝める。)

バイクは前に進むことしかできない宿命を背負った乗り物ですが、走っていると流れ去っていく美しい景色に後ろ髪を引かれる思いをすることがあります。しかし、公道で飛ばしているときに、大きく真後ろを振り返ることなどできないので、それを一期一会と割り切って、前へ前へとライダーは走り続ける。

しかし、F6Bは左右のバックミラーで、メチャクチャ広い後方視界を得ることができるし、視線移動も最小なので、今まで諦めていた「裏窓の風景」をじっくり堪能することができるのです。

ツーリングの帰り道、ふとミラーを見ると、彼方の山陰に沈んでいく夕日がどーんと見えちゃったりする。そんなとき「あ~~ええわ~、たまらん~。」と深い感動を覚えるんですが、ツーリングが終わった後も、このミラーに映った風景がやたら印象に残っちゃったりするんですから、これはもうただ事ではない。

よく、フランスのポルノなんかで、「ベッドの手すりの隙間から」とか、「台所用品の間から」とか「細く開いたドアの間からさらにワンクッション鏡を介して」とか、どうにもこうにも「背徳的カメラアングル」にこだわりまくる監督がおられますが、ダイレクトに眺めるより、イレギュラーでフェチズムに満ちた構図で眺めた方が、印象が強く、記憶に残るということがあるのかもしれません。

F6Bは確かに大きく、重く、「コンパクトで高性能なもの」を好みがちな日本人の性分にはあまり向かないバイクだと思います。日本車は基本的に軽量コンパクトかつ高機能を目指してて、新型のゴールドウィングもその方向です。F6Bはそんな中でコンパクトであることを切り捨てて「大きさなりのエンターテイメント」を乗り手に提供しようとしていると感じる。

日本の機械は零戦の頃から、要求スペックをキッチリ満たす物作りです。妥協なくその時点で最良の高性能を作り込んでくる。零戦が軽量化を徹底し「重武装&高機動&長い航続距離」という欲張りな作り込みをしたのに対し、空飛ぶドラム缶といわれたアメリカのヘルキャットは頑丈さ火力と防御力のみを突出させ、「当たっても落ちなければどうということはない」というわかりやすいコンセプトで押しまくり、結果的に零戦を押し切ってしまった。

ハーレーが販売で日本車を押しまくってるのも同じ構図、公道で特に必要のない性能は不用と割り切り、高速領域や万能性を切り捨てて、公道直線オラオラ領域での気持ちよさと、カスタムでの多用途性で突出するという、超割り切り型の設計思想によるものでしょう、バイクを機械と捉えず生活に溶け込ませていく功利主義的発想も日本のライダーに一定のカルチャーショックを与えたと思います。

そんなアメリカ的考え方の影響をモロに受けたF6Bは、どこから見ても日本車ですが、日本的な発想とはいささか異なるマシンになりました。メカニズム部分にぎゅっと高性能を詰め込む日本の血を滾らせながら、コンセプトはアメリカ好みの「ビグザムのような移動要塞」で押し通したわけです。

f6b見得を切る+1
(タマに誉めると偉そうなF6B、ドヤ顔です。ダイナのように「なんとなく何にでも使える」というユルさはないですが、あらゆることを全てソツなくこなし、特定のシュチュエーションでの満足度は突き抜けてる。新古車を購入してこれで6年。購入を後悔したことは一度もありません。)

そもそもF6Bのミラーを小さくしたってその巨体がいかほど小さくなるでしょうか?それならばもう開き直ってミラーも巨大化させちゃって、「今まで見ることができかったような風景を乗り手に提供しちゃいましょう」という方向性は決して間違ってはいないと思う。

「大きな車体って不便なところもあるけど、大きな車体だから得られる感動もあるんですよ。どうですか?素敵ですよね?ね?ね?的にガブってくる。どうにも譲らず負けを認めない委員長ポジのような頑固なコンセプトに、柔軟かつ繊細な6気筒が与えられているこの矛盾。ホンダ的ではないこの在り方がなんともいえない。

旅バイクとして、フラッグシップとして、巨大クルーザーとして、どこまで新たな価値を創造できるか?ということを考え、巨大化したことで生まれる弊害を、巨大なもので得られる利点が上回るように作ってある。その代表例が、このバックミラーから見える「裏窓の風景」であると私は評価しているんです。

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(バックミラーに映る夕日。このミラーに映る風景がもの凄く心に響く。視線移動の少なさはレクサスが採用したミラーレスのデジタルアウターミラーに近いレベルにある。)

でも、こういう美点って残念ながら試乗のチョイノリじゃわからないんですよね。ゴールドウィングはこういう仕掛けが多い気がします。試乗レベルじゃ、でかいバックミラーは気を遣うだけの邪魔なもの。バイクで旅に出ていろんな素敵な風景に出会ってこそ、このミラーの真の素晴らしさに気づくことになる。

都市部のゴミゴミしたコンクリートジャングルでひしめく車を移しているだけじゃその価値は見いだせないけど、旅に出て、忘れたくないような美しい風景に出会い、その感動が大きければ大きいほど、今まで見ることができなかった「裏窓の風景」の素晴らしさに気づくんです。

そういう意味では、ゴールドウィングはやっぱり旅バイクです。ホンダの誇る6気筒エンジンは正直シゴけばメチャメチャ速いですが、F6Bの美点はそういうところじゃない。日本の技術の結晶でもある6気筒マルチシリンダーを搭載しながら、設計思想は異国のバイク。日本生まれアメリカ育ち。日本の繊細さとアメリカの小さいことは気にしない気性と、アメリカ的功利主義が見事に融合して、日本車にはない価値観を提示してくれる。それが私から見たF6Bの良さなんですねぇ。