「mede in Mandello del Lario」

これはウチのモトグッチV7(ヴィーセ本口)のタコメーターの下部に刻まれている文字列です。

メーター
(メーター内部に書かれた「メイド・イン・マンデッロ・デル・ラーリオ」。今回はこれの意味するところを考察していきます。)

なぜこれを引っぱってきたかというと、この文字列が「モトグッチの企業としての特殊性を最も端的に表現している」と考えているからです。まぁこれはあくまで私の個人的な意見であり感想なんですけど。

「はぁん?これのどこが特殊なの?タダの生産地表記じゃん?」

って思う人もいるかもしれないけど、あのね。これ変でしょ?だって「メイド・イン・イタリー」とか「メイド・イン・ジャパン」などの国表記じゃないんですよ。もっと範囲を狭めてメイド・イン・熊本やメイド・イン・ミルウォーキーですらない。この「メイド・イン・マンデッロ・デル・ラーリオ」が示しているのは面積僅か47平方キロメートルの小さな小さな街なんですよ。

え?それどこなん?って、wikiで検索すると、イタリア共和国ロンバルディア州レッコ県にある、人口僅か1万人の基礎自治体らしい。大都市ミラノから鉄道で1時間の片田舎。モトグッチがあるから我々バイク乗りにはそれなりに知られた地ではありますけど、それ以外の人にはまったくの無名だといっても過言ではないでしょう。

マンデッロ1
(湖畔のほとりの風光明媚な観光とモトグッチの街。それがマンデッロ・デル・ラーリオ。)

マンデッロはイタリアの中では、かなり北側のスイス寄りの街で、昔は要塞都市だったようです。しかし、歴史の中で有名な戦場となったこともなく、知名度のほとんどをモトグッチに依存している。街の説明を引っぱっても、「コモ湖の景観」「モトグッチの本社があることで有名」という記載くらいしか出てこず、それ以外の大見出しはない。

ミラノみたいな大都市ならともかく、マンデッロって規模からいうと、日本のちょっとした温泉地みたいなものですから、そんな表記をデカデカとメーターに入れるより、商品力優先なら「メイド・イン・イタリー」って入れた方が明らかにプラスになると思う。

マンデッロ・デル・ラーリオ2.1
マンデッロ・デル・ラーリオp2.4
(琵琶湖の水とめたろか!は滋賀県民の切り札ですが、フツーのバイク乗りのモトグッチやマンデッロに対するイメージって、この漫画と似たり寄ったりだと思うんですよ。)

昨今は多くのメーカーが世界規模の生産移管に舵を切っていて、できるだけコスト安な地域で生産し、競争力を高めて利益を上げるという戦略をとっていますから、バイクに生産地表記なんて入れているメーカーはほぼありません。モトグッチと同じく、100年以上続いてる老舗メーカーのハーレー・ダビッドソンなどは、今やアメリカ、ブラジル、タイの3箇所に生産拠点を有しており、為替リスクを回避するべく、グローバルな生産体制を敷いています。

他方、モトグッチは、いかにも交通の便の悪そうなイタリア北部に引きこもり、それが人口わずか1万人の地方都市だっていうんだから、そのスケールのあまりの小ささに逆に頭がおかしくなってくる。ハーレーと同じ100年以上の歴史を持ちながら、やってることは正反対というわけです。

環境規制により、空冷らしい荒削りで硬派なトルクを出すバイクがどんどん少なくなる中、V7のエンジンは、昔の堅めで独特の空冷フィールが残ってるんですよ。私のバイクは23年式ですけど、オイルクーラーも電スロもない空冷エンジンがどうやって環境規制をかいくぐり、あのフィーリングを出しているのか良くわからない謎エンジンです。生産台数が少ないが故に、「規制のギリギリのギリ」を狙ってすり抜けているんだろうなとは思いますけれども(笑)

そんな謎めいたエンジンの製造拠点が、辺鄙で風光明媚な湖のほとりの小さな街なんて、なんとも神秘的じゃないですか。そこで私の頭に浮かんでくるのは、

「カリオストロ公国」

なんですよね。日本を代表するアニメ、カリオストロの城の舞台となったこの国は、湖のほとりにある人口3500人の小さな小さな要塞都市でした。そんな小さな独立国家など、普通は強国同士のパワーバランスの中で押しつぶされてしまう運命にあります。しかし、カリオストロ公国には自治を可能とする切り札がありました。それがカリオストロ城の地下深くで作られる極めて精巧な偽札、時代の闇に潜み、世界を影で操ってきたダークマネー。ゴート札です。

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(言わずと知れたアニメ界屈指の名作、カリオストロの城。この物語のあと、偽札作りを失ったカリオストロ公国がどのような運命を辿ったのか・・私はそこが気になります。)

実をいうと若い頃の私は、裏のあるカリオストロ伯爵家と似たり寄ったりのアングラなイメージをモトグッチに抱いていたんです。モトグッチは私が幼き頃から日本に販売網があり、一定のコアファンに支えられながら、国内販売の下位に張り付き半世紀。今も撤退することなく、年間400台くらいの規模で細々と日本販売を続けてますが、バイクメーカーとしての情報が極端に少なく、空冷縦Vという珍奇なエンジンを採用し、単板クラッチのシャフトドライブを採用と、まぁ、この時点でスタンダードなバイクに慣れているバイク乗りには、かなり不気味な存在です。

今でこそYouTuberやインフルエンサーが、あっけからんとモトグッチの試乗動画なんかを出していて、そんな不気味なイメージも薄まってまいりましたが、紙媒体しか情報がなかった頃のモトグッチって、それはそれは濃かったんですよね。だって解説しているのが、クリンチまみれのバイク人生しか残ってないようなベテラン執筆者ばかりで、そんな人達がなんとも香ばしく哲学的な文章で試乗インプレを綴る。

「スロットルをヒネればグラリと右に傾き、まるで生き物のように甘美な脈動を伴いながらワインディングを駆け抜けていく・・」

うーん、とても詩的な表現ですが、甘い言葉は続けども、まったく性能に裏打ちされていない

まさに霊感商法と紙一重。まぁ私のブログも似たようなものですから、特に文句を言ってるわけではないんですけど、読んでて具体的な姿が見えづらかったってのはあると思うんですよ。

そんな謎メーカーが長年拠点にしているのがイタリアの小さな地方都市マンデッロ・デル・ラーリオなのです。メーターにわざわざメイド・イン・マンデッロって入れるくらいですから、モトグッチのマンデッロ愛はマリアナ海溝より深い。創業100周年を迎えて、ついにフラッグシップモデルの名前にまで「マンデッロ」をつけてきた。いやもうどうかしてる。

v100mandello
(モトグッチのマンデッロ愛が突き抜けた結果爆誕した、その名もV100マンデッロ。「冷却水にコモ湖の水を使用してます!」って言われても驚かない。)

モトグッチってモデル名にネヴァダとかカリフォルニアとか、地名をつけるのが好きなメーカーではあるんですけど、ついに満を持して本拠地のマンデッロをバイク名に冠してきたんですよ。でも普通はそんなことやらないですよね。

例えばヤマハが「よぉおおおし!郷土愛を爆発させちゃうぞ~!」っていいながら、「XSR900-IWATA」(ヤマハの本社は静岡県磐田市にあります)とかいうバイク出してきてもファンは対応に困るでしょう。本社の名前つけて売れなかったら、本丸が焼け落ちたみたいで目も当てられないし、他メーカーのファンから「磐田がオワタ」ってイジられてしまう。

でもね。モトグッチはそんなのおかまいなしのベタ踏みです。メーター内にメイド・イン・マンデッロ、そしてフラッグシップもマンデッロ。まるでマンデッロという街を全世界に知らしめるという使命を負っているかのよう。グローバル生産どころか、マンデッロ一筋の強度が高すぎる。

ちなみに、モトグッチは現在「新たな100年を見据えた事業計画」として、マンデッロで新工場と博物館建設のプロジェクトを進行しているらしいですね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「はぁぁぁあああ?100年計画ってなに?」


もうね。突き指で骨折しちゃうほど激しくツッコんでいきたい。あのね。一青窈の「ハナミズキ」じゃないんだから。「100年続きます」って普通におかしいから。環境規制で内燃機の未来の見えないこの時代に、そんな遠大な計画出したって「ファッ?100年?ナニソレ?」って普通は相手にされませんよ。そもそも100年計画なんてのは企業というより、永続が使命である国とか行政の事業スパンなんですよ。ほとんどの製造業の寿命が長くて50年程度といわれる中、今後も100年存続することを前提としている時点で頭に花が咲いている。でもね。モトグッチはそんなプロジェクトを自信満々で提案し、周囲もそれを受け入れ、新工場建設に莫大な資金を拠出しているわけなんですよ。

ここまでいくと、もうモトグッチという企業がマンデッロと完全に一体化していると評価せざるを得ません。マンデッロという街にとってモトグッチという企業が誇りであり、象徴でもあり、そこに住む人々の生活にかかせない働き口になっていることはもはや間違いないでしょう。大きすぎる地域愛は、ある意味では行政とのドロドロの癒着ともいえるけど、モトグッチは、ときには街の力となり、ときには助けられつつ、車の両輪ならぬ、バイクの前後輪となって、土着企業として厳しい生存競争を100年にわたって生き抜いてきたんだと思うんですよ。そんな歴史があるからこそモトグッチにおいてはマンデッロ・デル・ラーリオという生産地表記が成立しているんだと思う。

今のモトグッチはレースに巨額の投資をし、ドカティのようにメイド・イン・イタリーを背負ってMOTO・GPで世界制覇する気なんかまったくないと思う。名声や売上げより、マンデッロという小さな街の存続と雇用を守り、縦Vというモトグッチの文化を背負ったエポックメイキングなバイクを作り続けるという、社会的な使命の方に舵を切ってる気がします。企業として完全に老成し、悟りを開いて我が道をいっている感すらある。

そんな老舗のまんじゅう屋のようなモトグッチは年間1万台程度をコンスタントに生産し、特段の拡大戦略をとっていなさそうなんですよね。経営方針としてアイデンティティや文化を守るための適正な生産台数はどの程度なのか?ってところをかなり意識しているんじゃないかと思う。昔ある時計メーカーのトップが「今のエポックメイキングな時計作りを維持しようとしたら年産6000本を超えることはできないし、それはやらない」ってのたまってましたが、企業の作りたいものの在り方によって、必然的に生産数の上限は決まってくるものだと思うんですよ。

ハーレーはモトグッチと同様の老舗ですが、総生産台数は15万台。その規模になってしまうと、ある程度、大量生産品にならざるを得ない。生産性を上げるため作りも均一化し、効率化するから、コアで内向きの顧客の求めにも応じにくくなっていきます。古い顧客を切り捨てたというよりも、拡大戦略を選択したが故に、ハーレーは販売対象をコア顧客層から一般層へ広げざるを得なかったともいえる。

その一方で、モトグッチは規模を追わなかったことにより、ハーレーのコア顧客層がハーレーに求めていたことを、ほぼ全てやれていると思う。ハーレーでは883にあたるようなエントリーラインのV7を今でも比較的安価に生産しているし、空冷エンジンもいつかは無くなる定めでしょうけど、そのときまで、我々が購入できる価格帯でしっかりと作り続けてくれるんだろうなって信用もある。生産拠点もマンデッロから一歩たりとも動きません。

新たに出てきた水冷エンジンも老舗の新メニュー的な感じで、顧客からの拒絶反応は出てないし、何より規模が小さく、コミュニティが小さいから乗り手の推しと結束が強い。バイクに対する理解も一定程度あって、維持に自信のある顧客しか手を出さないから、日本におけるモトグッチまわりって、静かで、穏やかで、許された世界になってる。それがとっても居心地が良いんですね。

私は特徴的なもの作りや文化って、利益を追求してギャアギャアわめき散らす株主総会から生まれるのではなく、特定の風土や環境のもとに構築された、限定的なコミュニティから生まれるものだと思ってます。

だから日本は日本の、アメリカはアメリカの、ドイツはドイツの、イタリアはイタリアの、イギリスはイギリスのバイクがある。乗って走り出したときに、文化的に異なる風土を感じられることが海外製バイクを所有する一番の面白さであり醍醐味だと思ってます。

私はある時期から、性能よりそういうところに力点を置いてバイクを選ぶようになってるから、この「メイド・イン・マンデッロ・デル・ラーリオ」という、小さな小さな生産地域表記が、とても気になるし、印象的なんですよ。V7のシンプルで手組み感満載の造り、懐かしいリズム感、不思議なスポーツ性や、後味の爽快感には、コモ湖の美しい景観と、古い街並みを要するマンデッロの市民性、モトグッチの歴史などが、色濃く反映されているような気がするんです。まぁ、いい加減なところやツッコミどころも多々あるけど、モトグッチって私がバイク選びで重要視しているアイデンティティや歴史をとっても大事にしてくれる、愛すべきメーカーなんですね。

性能ってバイクを尖らせていけばある程度出せるところがあると思うんですけど、性能重視で勝負しているメーカーって「若いな~」って思うんですよ。良いとか悪いとかを別にして、KTMなんてその典型です。やっぱり良いバイクって性能以外に強く内面に訴えてくるものがあって、バイクが纏う独特の雰囲気って、古酒の風味のように、なかなか出てこないところがあります。CB1000FとCB1300SFの一番の違いって、性能云々じゃなく、CB1300が生き抜いてきた時間によって我々の頭の中に植え付けられた記憶や、モデルを育ててきた人達の思いの積み上げの差なんですよ。

それと同じで、マンデッロという風土が長年にわたって熟成してきたバイクの姿がV7で、その偉大な資産をエントリーに据えているのがモトグッチなんです。ハーレーの一番大きな失敗は、V7と同様、エントリークラスの偉大な資産だった、883を真っ先に消してしまったことなのでしょう。

ただ、私みたいなバイクの見方って年寄りの感傷に近いものがあるから、若い人達に「え?それ、さっき書いてた霊感商法ですよね?」って言われると、まぁそれまでなんですけどね(笑)



(ブログ書いてたら久しぶりに聞きたくなった「炎のたからもの」。アニソンもオシャレでアップテンポになってますけど、こういう深く染みる曲は減っていると思う。いろんなバイクに惹かれつつ、この曲が似合うようなバイクばかり選んでる気がしますが、やっぱ趣味として一回りしたというか、落ち着いたんでしょうね。)
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