前回はミシュランのPOWER6の調整編をお送り致しましたが、今回はいよいよ実走編になります。

ワインディング3.6
(バイク漫画みたいなワンシーン。春になって気温も上がり、ようやくホームコースで2回ほど走ってみましたので、その感想をお送りします。)

なんかね。こういうのを前後編にわけますと、

「後編は前編より盛り上がらなくてはなりません!」

みたいなプレッシャーを感じるのはなんとかならないのか?

そもそも、インプレなんてもんは面白くやりようがないのですよ。だってほとんどの人がしっかりしたレポートを期待してるわけでしょう?そんな空気感のところにお笑いネタを入れてもスベるだけ。普段は落ち着いた語り口のケニー佐川さんが、薄ら寒いギャグを連発しながら、バイクインプレしてたらどうですか?そんな動画見てられないでしょ?

「オィィィイイ!タイヤスベらなくても、ギャグがスベってんだろ!RAINモードにするのはバイクじゃなくてお前の口だ!!」

って右上のバツマークをクリックし、そっ閉じするハメになる。ただ、これがネモケンさんレベルまで行くと、ちょっと事情が変わってくるわけですよ。

「うん、この乗り味は、水平対向の歴史を物語ってるね!あ、僕のモノが立ってるわけじゃないからね(ウィンク)


「実はこのツナギの下、Tバックなんだよね♡」


「僕と夜のリーンウィズでスリップダウンしてみない?」

と、カビカビの下ネタで、相方の采女華に迫りまくり

「オィィィイイ!ちょっと待てジジィ!」

「元気すぎんだろ!」

「これアップできんのか?」


と采女さんがツッコみまくってるような動画なら、私は金を払ってもみてみたい。

根本健さんといえばバイクジャーナリズムの中でも大御所中の大御所じゃないですか。バイク乗りって基本ヒャッハーなバカで知性派は一握りですけど、ネモケンさんは数少ない知性派ジャーナリストの権威です。そんな権威がエロジジィに成り下がってる様をみるのはカタルシス。

わかりやすく言うなら「ダンブルドアがホグワーツ女生徒の綺麗どころを集めて、お触り三昧している」ようなものですから、築き上げた権威と常識がガラガラと崩壊する快感があるんですよね。

ミシュランも権威という面ではこれと似たような存在です。ビバンダム君をいくら「ゴムゴムの肉野郎」とイジったところで、このメーカーは押しも押されぬ世界シェア1位なのですよ。タイヤメーカーでありながら、世界中のグルマンティーズがチェックするミシュランガイドの発行母体としても有名で、もう権威中の権威なのです。

そこから生み出されるものは、その権威の名に恥じないことが要求され、社内の評価基準も企業としてのあるべきバランスに配慮したものにならざるを得ない。そう、食の安全と走行の安全は遠いようで「人の命を守る」という理念は同じ。そこらへんを考慮に入れると、タイヤの性格の想像はあらかたついてくる。

まずパワー6の見た目ですけど、純正のGPR-300に比べると、サイドウォールが狭く、ショルダー面が広い。見るからに

スポーツタイヤじゃーん♡

っていう印象。

あとプレミアムタイヤという位置づけからか、おフランスのセンスなのか、「やけにオシャレにこだわっている」んですよね。ミシュランの特徴であるサイドウォールのベルベットデザインがグランプリフラッグになってたり、トレッドの端っこをディンプル模様にして、POWER6のロゴ入れたり、たいして深さのない細溝を追加して、見た目の情報量を増やしたり、タイヤのルックス向上のために、いろんなことをやってます。

0430b57f061d82f1b3b24ac6c6081e7e3d834ef6_xlarge(サイドから見たときの情報量が凄い。なお、私にはサイドウォールのビバンダム君の顔が「う〇ち君」にしかみえません。)

純サーキット仕様の POWER GP2 にはこのようなお化粧は一切ありませんから、公道用タイヤと明確に割り切ってデコっていることはあきらか。メーカーの新車に純正採用されるのを意識して「バイクの高級感にも一役買いますよ♡」っていう下心もあるのかもしれない。私はスパコルみたいにズバーンと切り裂いたイナズマトレッドだけの方が、潔いしストイックじゃないか?とも思うんですけど、今の時代はこれがウケるんでしょう。

ショルダーが広いっていうことは、その分バンク角にも余裕があるし、潰したときに接地面積も稼げるってことですから、GPRに比べ、コーナでの踏ん張り感とグリップ限界が上がっていることはいうまでもありません。

コンパウンドもコストのかかった最新のものが採用されているのか、GPR-300に比べるとネトリとしたグリップ感を伴いつつ、ステアリングに路面状況もしっかり入ってくるようになっている。リアのグリップ感やトラクションの蹴り出し感もGPRより明瞭に感じる。それでいて乗り心地もスポーツタイヤとしては決して悪いわけではない。感度良好でも尖りすぎてないのは、なかなかにプレミアム。

結論といたしましては、

「ワインディングを走るスポーツタイヤとしてはGPR-300より明らかに高性能」

です。GPRをブートキャンプにブチ込んで2年ほど全方位的に鍛え直してマッチョにした感じ。基礎体力は明らかに増している。同じスポーツタイヤという点ではスパコルと比べた方がいいのかもしれない。

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(夕暮れになんともいえない表情を見せるロケットカウル。プレーンなデザインって風景に溶け込んだ時に情緒が出るからいいんです。)

以前乗っていた「ストリートトリプルRS+ピレリ・ディアブロ・スーパーコルサ・SP V3」のタッグは私にとって衝撃的なものでした。90年代初頭のレプリカブームを体験していた私にとって、スポーツライディングといえば、

「ウォォォオオ!俺の走りをみろやぁぁぁあああ!!」

って目をとんがらせて、「自らの意志を前面に出し、恐怖を押し殺しつつコーナー攻める」ってイメージだったんですよ。ずーーっとガチのスポーツバイク乗ってなかったから、そこでスポーツバイクのイメージが停止していた。

で、何十年ぶりに純スポーツバイクのストリートトリプルRS乗ってみたら、もう全然違うんですよ。とにかくタイヤがメチャメチャ進化していて、「はい、ここです」、「ここに荷重どうぞ」、「腰はここらへんにオトしてね」ってダンスゲームのように乗り手を誘導してくるし、没入感がエグいからアドレナリンもドバドバ出る。

そこにあるのは「脳筋巨乳美少女がビキニアーマーつけて伝説の剣を装備し、壁役をしてくれる」ようなエロくて強くて刺激的な世界だったんですよ。

もうね。「俺、巨摩郡みたいに主人公補正かかってんじゃね?」ってくらいメチャクチャ旋回するし、グリップするし、安心感あるし、アベレージも出るという無敵っぷり。タイヤが求めるとおりに走ってるだけで、自分の攻撃力の限界をあっさり超えちゃうんですよ。自らの能力のように見せかけて、その実体は「タイヤとバイクにガチガチに介添えされているアイアンマン状態」だから、路面の突き上げなどのキックバックさえガマンすれば、とってもイージーにとんでもない領域に飛び込んでいく。

私のザラブ嬢(←ストリートトリプルRSの愛称です)は、6軸IMUとか電制サスとかは一切入っておらず、スパコルの補助だけでそんな状態でしたから、電制フル装備のリッターSSなんてトンデモないことになってそう。「これが現代のライディングアートなのか・・」っていたく感心いたしました。

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(暁の戦闘機・ストリートトリプルRS。なんで暁の戦闘機かっていうと、戦闘力が高すぎて、車がいない早朝か、日暮れ直前しか本領発揮ができなかったからです。いわゆる朝練、居残り練ってやつですね。)

でも、これって別の見方をすれば、ザクⅡ乗りをいきなり「オメガ・サイコミュ搭載機」に乗せたみたいなもんじゃないですか。ククルス・ドアンみたいなヒートホーク世代の古参兵には、テクノロジーが進みすぎていた。

そんな戦闘タイヤ・スーパコルサと比べると、今回装着したミシュランのPOWER6はスポーツタイヤとしてはかなり抑制的だと感じます。確かに

「私はまだまだ行けますよ!行くのかい?行かないのかい?どっちなんだい?」

「パワー!!!!」

とはいってきますので、高荷重領域への誘いはある。でも「こっちおいで!はやく!はやく!!」とまでは言わないんですよね。行くにしても行かないにしても、まずはちゃんとこちらの意向を聞いてくれますから、乗り手の支配領域を大幅に超えちゃう走りにはならない。

では、「スポーツの在り方として、どっちを支持するのか?」ってのは、乗り手が求める速さの定義やライディングに対する価値観によって違う気がする。わかりやすく人気があるのは前者でしょうけど、公道なら後者の選択の方がリスクは少ないし、奥があるように思うんです。公道での最大のリスクって、スピードじゃなくて、「乗り手の頭がジャンキー化しちゃう」ことですから、排出アドレナリン量をどれくらいにするのか?が安全に直結しているんですけど、前者はそのアドレナリン設定感覚が、まんま80年代なんですよね。

ビバンダムマーク比較
(ミシュランって、タイヤのヘリに「これ消してみろや!」とばかりに肉野郎マークがあるんですけど、普通に消せそう。リッターのトルクでトラクションをしっかりかければ、ステップなぞ擦らずともリアタイヤはヘリまで奇麗に潰せます。)

・・・ということで、ここまではPOWER6の純粋なスポーツタイヤとしての性能評価の部分でした。結論としては、Power6はGPR-300より間違いなく高性能で、ワインディングではアベレージも高く安心感があります。HAWK11との組み合わせは乗り味プレーンで、旋回性も適度に高く、乗り手を誘い過ぎることもない。スポーツタイヤの落とし所として実に妥当だと思います。日本の峠道なら、このタイヤ入れときゃ十二分で、まったく不満はないでしょう。ただ、無敵のサイコミュ感が欲しいのならスパコルかもしれない。

タイヤ全体の印象はこんな感じですが、私と※のじゃ子との相性は、また別の話。ここからは私の極めて主観的な感想になりますし、タイヤのデキとか、性能とかとまったく関係のないものになるんで、そこは切り分けてお読みください。

私とこのタイヤの相性に関しては、良いところと悪いところをトータルして、プラマイゼロかマイナスっていう評価です。HAWK11はしっかりタイヤを履きこなしているし、ホームコースでは相当なハイアベレージになっているけど、私が感じていたHAWK11の世界観とは少しズレた気がする。

私が※のじゃ子に感じていた良さっていうのは、セパハンスタイルのリッタースポーツであるにもかかわらず

「世界が非常に広いこと」

でした。HAWK11はリーンウィズで走った時の気持ちよさと、腰を落として走った時の気持ちよさが拮抗していて、走行環境に応じて乗り方を使い分けることで、どんなところでも満足できる走りを実現していたんです。

走行する場所を限定しないから、距離も伸びるし、使い勝手も良いし、タイヤもお安くて5000㎞以上もつから経済的にも制約がない。リッタースポーツに特有の「途轍もなく凄いんだけど世界が閉じている感じ」がなかったんですよね。

これは、高荷重での楽しさに振り切った結果、ほぼ「ホームコースでのヒキコモリ」と化していたストリートトリプルRSとは対称的な特性で、HAWK11の非常に良いところだったんです。

しかし、今回タイヤをスポーツ性の強いタイヤに変えたことでリーンウィズでの走りではいささか物足りなくなりました。GPRー300を履いていたときの僅かの重心移動でサラリと曲がっていく旋回はスポーツバイクらしいものに変化した。

そう、良いタイヤを入れた結果、楽しさの度合いが高荷重方向に振れたんですね。POWER6は街乗りOKで乗り心地も悪いタイヤではないけれど、その真価を味わおうとすると、どうしても一気にインに体を振って加重を移すハングオフな走りになる。

このタイヤを入れて、「なぜHAWK11がGPR-300であったのか」を、あらためて理解するところとなりました。バカなお猿はお釈迦様の手のひらから出てみないと、その真意を知ることはできないんですね。

結局タイヤ選択で重要なのは

「どこをどのように走りたいか?」

なんだろうと思うんです。

今のラジアルタイヤって昔に比べたらとんでもなく性能が高いから、街乗りラジアルって評価のGPR-300ですら、トラコンを駆使することにより、峠でも昔のバイアスや初期のラジアルタイヤと同等、もしくはそれ以上の走りができちゃうんです。アベレージはPOWER6に及ぶべくもないけど、リッターのトルクでタイヤのグリップ限界ギリギリを使い続ける感じは、在りし日の大排気量スポーツバイクの姿に重なるし、ソコソコのアベレージでそういう世界が味わえた。

「安全に走りたいならグリップの良いタイヤ入れろ!」っていう人もいるし、私はそれも一面では正しいと思う。でも、どっちかというと私は適材適所論を採用したいです。

サーキットに街乗りタイヤで挑むバカもいないし、オフロードバイクにスリックを入れるバカもいない。それと同様、走る環境や乗り手の目的、経験や技術、バイクの在り方によってタイヤの正解は当然に異なるはずです。でも、私みたいなバカチンは「どうせ変えるんなら良いタイヤにしよう!とりあえず高性能タイヤ入れとけ!」って短絡的に結論を出してしまいがち。

しかし、残念ながら、万能なバイクがこの世にないように、万能なタイヤもないってのが今回の結論です。当たり前のことなんですが・・。

公道だって、山を走りたいのか、街中を走りたいのか、高速道路でロングを走りたいのか?で、タイヤのより良いチョイスは変わる。そこで、ある特定方面に振り切れたタイヤを選ぶと、他のシュチュエーションでの適正が下がるのはもうしょうがないことです。

そういうところを加味した上で、乗り手の願いとバイクの性格、そして選択したタイヤの性能とが、うまくマッチするかどうか?が相性なんだと思う。どんな世界でも、求めるものが「性能から嗜好」に変わると、モノ選びが拡散して選択が非常に難しくなるんですね。

HAWK11は日本に特化し、リッタークラス特有の超高速域を斬り捨てるかわりに、どこでも走れる車体と、どこでも走れるタイヤを組み合わせている希有なリッタースポーツでした。そして「それこそが私が感じていたHAWK11の美点であり、大人のスポーツバイクの本質だったのだ・・」と、この度、プレミアムスポーツタイヤなるものを入れたことで改めて再認識した次第です。

この美点を優先するようにタイヤをチョイスするなら、高負荷を求めるより、爽やか、かつ軽やかなリーンウィズな走りに振ったものの方が良かったなと今更ながら思う。街乗りタイヤでも、峠での走りようはいろいろあるけど、ダンシング系のハイグリップタイヤで僅かな荷重移動で綺麗に倒れるリーンをやろうとするのはハナから無理があるんです。サラリと倒そうとするとイメージからワンテンポ遅れちゃうから、アクションを大きめにしなきゃならないんですよね。「それこそがスポーツじゃん!」っていわれるとその通りなんですけど・・・。

とにかく、せっかく入れたPOWER6なので、溝がなくなるまで久しぶりの高性能スポーツタイヤをホームでたっぷり楽しもうと思ってますけど、次回はもうちょっと世界観が広がるタイヤを入れたいなって思ってます。



・・・・モノを購入していると常々思うんですけど、ハイグレードなものを買うって「憑きもの落とし」的なところがあります。高性能に憧れ、いったんは背伸びをして経験してみるけど、巡り巡って普通に戻るまでがワンセット。それは「自分自身が当たり前の凡人であるということを再認識する旅」なんですね。

迷走の果てにしか納得はなく、納得するまで人は落ち着くことはない。だからこそ消費ってのは、行くとこまで行かないとやめられないし、止まらないのかもしれないですね・・。





(オマケ漫画「対話の実態」)
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(乗り手のメンタルや肉体に対してバイクの性能が高すぎると、対話しているようで、一方的なタコ殴りのクソザコ状態になってるケースもあります(笑)そう、なにごとも身の丈なのです。)