今回はお堅いお題なので、冒頭まずは清々しい写真から。

20250505_142453450

20250505_135547139
(ゴールデンウィーク中に素敵なコーヒースポットをまた一つ発見しました。ほんの近くまでバイクで行けて、これだけの景観の中で珈琲が飲めて、人がいないところってそうそうない。日陰がないのが残念ですが、それは欲張りすぎですね。)

今回はお堅いタイトルですが、ハーレー乗りなら、このお題にピンときた人も多いのではないでしょうか。どうやら、ハーレーは本国のCEOが退任するらしいんですよ。Yahoo!の記事によると、株主から退任要求があったそうで、その根拠がブログのお題になってる「文化の枯渇」「ブランドの衰退」だったんですよね。昨年日本でもHDJ(ハーレーダビッドソンジャパン)とディーラーの対立みたいなことがおきましたが、本国では株主と経営陣の対立が起きちゃってるようで、なんともかんとも・・。

正直私はハーレーの経営権争いに興味がないし、経営陣と株主のどっちが正しいか?なんてことはどうでもいいわけですが、株主の突き上げに対して、現CEOがアッサリと退任を受け入れたっていうのは、

「結構ヤバいんじゃない?」

って思う。ぶっちゃけ「今年の株主総会は俺じゃ到底乗りきれん」って現CEOが自覚してるってことだと思うんですよ。経営陣とドンパチやってる株主は金儲け主義の投資会社なんで、そこのアナウンスをまともに取り合うわけにもいかないんですけど、「文化の枯渇」はともかく、指摘があった「ブランドの衰退」については、日本でも、そう表現されても、ぐうの音も出ない事態に至ってるとは思います。

昨年、HDJの野田前社長が行ったディーラーへの押し込み販売による中古相場の崩壊、数多くの既存ディーラーの廃業、公正取引委員会の立ち入りなど、顧客に見える形で問題点が噴き出してしまった結果、日本でのハーレーブランドのプレミアム感は大幅に低下してしまった。

そして今、現場の問題が収束しているのか?というとさにあらず。ハーレーの2025年はしょっぱなから

「★超大型値引販売★実施中」

なのですよ。これはこれで異常事態。

「なんでこんなことになってんの?」

って調べてみると、どうやら日本において2024年モデルの在庫が大量に売れ残ってしまっているらしいんですよね。

Q2_MY24-Sales-Campaign_1200x1200_Post(50万円購入サポートがあるのはこの3車種。以下のとおり他の車種も絶賛お値引き中です。)

50万円購入サポート
STREET BOB/ BREAKOUT/ LOW RIDER ST

30万円購入サポート
CVO STREET GLIDE / CVO ROAD GLIDE / ULTRA LIMITED /
ROAD GLIDE LIMITED / TRI GLIDE ULTRA / STREET GLIDE / ROAD GLIDE /ROAD KING SPECIAL

20万円購入サポート
LOW RIDER S / FAT BOY / HERITAGE CLASSIC / HYDRA-GLIDE REVIVAL /SOFTAIL STANDARD / FAT BOB / SPORT GLIDE /

10万円購入サポート
PAN AMERICA 1250 SPECIAL / SPORTSTER S / NIGHTSTER SPECIAL /X500 / X350

CVOまで含め、ほぼ全車種なんらかの値引きがあるというヤバさ。定価って意味あるの?って感じです。

昨年野田前社長は「前年度の120%を売るのが目標」とのたまいつつ、自ら設定した荒唐無稽なノルマの達成に邁進していました。ちなみにハーレーの2023年の販売台数は約1万台で、そこから120%のアップですから、単純計算で目標は1万2千台。「ひょっとしてその台数を本国に発注しちゃってたの?」っていう恐ろしい予測が立つわけです。

野田前社長の販売計画は公正取引委員会の介入という事態により2024年の中頃には頓挫しており、蓋を開けてみれば、昨年のハーレーの販売台数は8200台止まり。これを1万2千台から単純に差引きしますと、約3800台の不良在庫が

「バックヤードに積み上がってる」

と推測できます。仕入れすぎたのであろう、ローライダーST、ブレイクアウト、ストリートボブの3車種が正規ディーラーキャンペーンで50万円引きになっております。

実はこの3車種、3月末まで30万円引きのキャンペーンで販促されていたんですけど、それでも捌けなかったらしい。結局6月末まで、さらに20万円値引きを上乗せしてのキャンペーンを行うことになったわけですけど、コレって在庫一掃の投げ売りセールですから、「オィィイイ!!ヘタすると7月からは70万円引きになっちゃうんじゃぁあないですか?」なんて考えも頭をよぎっちゃう。

一方ホンダに目を向けますと、CB1300SFはファイナルで大幅値上げというかなり非道な殿様商売やったにもかかわらず、販売好調で「6月30日をもって受注を停止します」とのアナウンス。既に十分な利益が確保できたんで、別に無理して売りませんってことでしょう。あまりに対称的で、この状況を「輝けるハーレーブランドの落日」といわずしてなんというのか?

しかも、この問題は今年じゃ終わらない可能性が高いんですよ。だって2024年モデルの在庫をここまで大幅値引きで販売し、無理してサバいていくってことになると、それは端的に

「需要の先食い」



「値引き販売の固定化」

につながるからです。ディーラ-は、この大幅値引きキャンペーンで2024年モデルを捌いてメデタシメデタシではありません。その後に新たに入ってきた2025年モデルも売らなきゃならない。でもそれ「定価で売れます?」ってことですよね。

1.需要の先食い

2.リーズナブルな低走行車が溢れる中古市場

3.大幅値引き直後の割高感


この三重苦に見舞われて「2025年モデルの定価販売が成立しない」って事態になるのは容易に想像できる。車の世界で同じように公取入ったBMWも大幅な値引き販売が常態化し、それは今でも続いてます。ちなみに一部の外車ってYouTubeなんかで「新車価格に対して中古価格の値落ちが酷い」っていわれてるけど、それ真に受けないでくださいね。中古価格の低迷は新車時から大幅値引きしちゃってて、新車価格がまともに機能してないから生じているだけなんで(笑)

でもこれに対して、特に打つ手はありません。賞味期限切れの在庫はバーゲンで売るのが、小売りの常套手段なんだから。となると、来年の3月にはまた在庫車がダブついて、同じような値引き販売がはじまるのでは?って未来が見えてきてしまうんですよ。そんな予想が頭によぎった時点で、「とりあえず定価じゃ買えんな・・」ってことになってしまう。

顧客にこんな指摘をされている時点で、ハーレーのブランドイメージってもうガタガタ。販売側と顧客のパワーバランスって本来対等であるべきなんですけど、完全に顧客上位になっちゃってる。

「夢のような販売計画に市場をあわせる」

などという愚かな試みを実行した結果、価格の統制能力を失ってしまった結果がこの惨状です。市場操作は一度成功するとやめられなくなるけど、長期的には自らを蝕んでいく麻薬と同じ。神様をコントロールしようとすると、神の見えざる手にお仕置きされるんで、良いものを地道に作って、その価値を地道にアピールし、地道に売っていくしか道はないのですね。

しかし、私は、ハーレーの根本的な問題は別にあると思うんですよ。現在のハーレーはストリートボブとローライダーSTとブレイクアウトを大幅値引きで販売してるわけですけど、なぜこの売れ筋3車種を無理して仕入れ、大幅値引きしなきゃならんのか?っていうところに本質的な問題があると思う。

私はこのブログで以前から口を酸っぱくして「今のハーレーは高すぎる!」って何度も言ってきましたけど、今のハーレーで、私が買う気が起きる一番安いモデルって、実質300万円クラスになっちゃってますからね。

「え?300万円のバイクがエントリーなの?そんなバカな・・」

って言われるかもしれないけど、ハーレーって伝統や文化を大事にしてきたブランドで、性能で勝負してるわけではなく、どっちかというと

「どうだ!俺のバイクは凄いだろ!」

「俺はハーレーに乗ってるんだ!!」

っていう承認欲求の高さで勝負しているブランドです。

となると、顧客のニーズは「ハーレーが守り続けてきた伝統の空冷Vツイン」ってことになるんだけど、それがもはや300万円の価格帯にしか存在しないってところが実に厳しい。

数年前まで、ハーレーの普及価格帯には883という「文化と伝統をになう非の打ち所のない空冷Vのエントリーモデル」が存在していました。でも今はそこにぽっかりと大穴が開いちゃってます。その結果、ビックツインを大幅値引きして、昔の883の役割を押しつけなくてはならなくなってる。50万円値引きすれば在庫がハケるのならそれでいいけど、それでも200万オーバー。一般層にはまだ高すぎると思う。

そんな現状でハーレーが昨年やったことは、

「高価格帯のツーリングモデルをフルモデルチェンジ」

ハァ~~~・・・あのね。おかしいでしょ?力の入れ方が全然ズレてるよね・・これホンダで言うと「経営大ピンチなんです!」っていいながら、ゴールドウィングのモデルチェンジに邁進するみたいなもんですよ。もうね。喜ぶ人達のパイが少なすぎる。歴史あるローキンなどを整理して高額モデルをテコ入れじゃ、熱心なファンから「オィィィイ!!そこじゃないだろ!」ってツッコミ入るのはやむを得ないと思う。

結果、昨年の販売台数は15%減。気合いを入れてニューモデルを投入したのに、プラスどころかマイナスにしかなっていない。今のハーレーは収益率の高い高価格帯モデルに力入れたり、CVOやアイコンモデル、限定カラーの乱発と、ハタから見てても

楽して儲けようという姿勢が見え過ぎる

高価格シフトや限定商売は短期的には儲かるけど、それは一時的なバフであって本当の実力ではないし、過去の遺産に安易にすがるのは「文化の枯渇」の証明に他ならない。

ちなみに私が長年続けていた時計趣味をやめたのも、ブームによって業界全体で値上げに次ぐ値上げが行われたことが原因です。値上げも酷かったけど、その結果、客層が時計大好き趣味人から、金持ちの富豪になったことに嫌気が差したんですよね。そこで、「ああ、この業界もう自分がいるべきところじゃない」って見切りをつけてやめちゃったんですけど、それが今のハーレーの姿にモロに重なる。

ハーレーって歴史や文化をコアにしてるけど、文化って私みたいなロートルが作るんじゃなくって、若者がになっていくものなんです。だから、彼らに支持され、彼らと一緒に歩んでいけるモデルを提供しなきゃ文化自体が続いていかないわけですよ。

スズキの神様、鈴木修はその昔「軽は貧乏人の乗り物」って名言を残しましたけど、バイクも基本的に貧乏人カルチャーの乗り物なんです。貧乏な若い頃に自分と寄り添ってくれたから、バイクに愛を持ってリターンする人が多いし、そこに情熱や文化が生まれる。ハーレーも遡っていけば貧乏人カルチャーや負け組文化の権化ともいえる存在ですから、高価格帯にシフトしてその層を斬り捨てていけば、カルチャーなんてアッサリ途絶えます。ハーレーはそんな「経済的な勝ち組達が決して持っていない野性味や反骨の精神」が漂ってこないとダメなバイクだと私は認識してるんですけど、今のツーリングモデルはクリーンな高級車。野性味や貧乏臭い香りをことごとく斬り捨てていってるんです。

ゴールデンウィークにCB1100で山方面を走ってたら、反対車線を、ハンターカブやレブル250、Vストローム250、ニンジャ250などに乗った若い子達がガンガン走ってきたんですよ。正直、「素敵だなぁ・・いいなぁ・・」と思いました。若い人が乗ってるバイクからは、猛烈に文化の香りが漂ってくる。私とCB1100など、彼らから見たら消えゆくロウソク、オッサンの道楽みたいなもんですよ。

今の世の中は高額で目立つモデルばっかりがもてはやされるけど、ビグザムみたいなデカくて高コストな機体に、戦況を変えたり文化を創る力なんてありません。いつの世も戦況を動かし、文化を創るのはザクのような汎用主力兵器です。だって一定の母体とエネルギーがないと文化は創れないんだから。にもかかわらず、ハーレーはビグザムの強化ばっかりやっていて、1年戦争のジオン軍の教訓をまったく生かせていない。

ここまで書けば、ハーレーの現状の打開策は明白でしょう。

「貧乏人のためのザクだった、883のようなバイクをもう一度出せ!!」

ってことにつきます。

エントリーのニーズをガッチリ支えてた空冷スポがないから、空冷ビックツインのストボブやローライダーSを大幅値引きして、その代わりをさせるしかないわけで、その現状を打開しないとどうしようもないと思う。

e5bde834dcfee5a66cc28070baa357317c1d26e9
(ストリートボブを見ているとハーレーの値付けのいい加減さが良くわかる。2021年=203万円、2022年=219万円、2023年~2024年=275万円、2025年=251万円。価格が大幅に上下してるけど根拠が全く意味不明。)

今ハーレーに必要なモデルの理想をいえば、130万円くらいの価格帯で都市部で足代わりに気軽に使え、ハーレーの伝統をメチャクチャ色濃く残すミドルクラス排気量の空冷Vツインモデルです。伸びてるメーカーは販売のボリュームゾーンで勝負できる定番バイクが必ずラインナップされているんですけど、今のハーレーはそこに切り札がない。その結果、旧スポスタが制圧していたこの市場を他の海外メーカーやレブル1100にチーズみたいに食い荒らされてしまった。それをもう一度奪い返そうとしたら、これらのバイクに引けを取らない質感をもち、見た瞬間、「これはハーレー臭すぎて失禁します!!」っていうモデルを投入するしかありません。

ここ最近のハーレーで一番痛かったのは、低価格帯で勝負できる手駒になるはずだったナイトスターの扱いを完全に間違えてしまったことでしょう。スポSは超高性能モデルで質感的にもかなり良いスペシャルモデルだったのに、ナイトスターでは明らかに質感低下が見て取れた。それでも戦略的価格設定(120万円くらい)でデリバリーされていれば、まだ支持はあったと思いますが、発表時の新車価格はスポS並。これで、883の後継機になるのでは?という期待は急速にしぼみ、選択肢からナイトスターは完全に落ちてしまった。

私はスポSと比較したときのナイトスターの価格設定を見て、「ハーレーの価格への信用がほぼなくなった」わけですけど、その後もストボブの値段を上げたり下げたり、根拠不明な価格操作をしているのもジト目になる要因。いずれにせよエントリーラインである150万円以下の価格帯に、コアなファンが買いたくなるようなバイクが存在しない今の状態では、ハーレーに未来はないと思う。そこにレブル1100や、トラのボンネビル、エンフィのメトロ650あたりに対抗できるモデルを投入しなきゃいけない。そこに全力で取り組むのが喫緊の課題ではないでしょうか。

本国の政治情勢がどうだ、為替がどうだという難しい問題もわかりますけど、消費者の希望は実にシンプルで、「買える価格帯に古き良きハーレーの文化を背負ってるバイクを用意してくれ」ってことだけですから。

ハーレーは独特の個性と思想を持った、大型バイクの重要な選択肢ですから、末永く生き延びて貰わないと困る。新CEOには、そこをなんとかしていただきたいですね。


(オマケ漫画「価格の根拠」)
エントリー価格
(私が購入するバイクはリッタークラスでも150万円あたり。そこをはみ出したとしても200万円に譲れないラインがあります。またフツーに数を出したいなら大型でも120万円~150万円くらいが妥当だと思う。それはローンの支払額からの逆算であり、私の素肌感覚でもあります。)

※美しい風景からはじまったのに、汚いオチで申し訳ありません。