春になり、ちょっと頭がおかしな人達と、バイク乗り達が共に活性化する季節となって参りました。私はどちらの軍勢にも所属しているので、やたら活性化しちゃってる今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。

私のV7は順調に距離を伸ばしており、そろそろ9500㎞、1万㎞が目前です。新車納車時のドキドキワクワク期間は過ぎ去り、新車の大型バイク特有のエンジンの重さもとれ、本調子になって安定してくる頃ですね。そう、これくらいになると乗り手の方も、平常心でバイクを見られるようになり、長期インプレの真骨頂が発揮されるわけなんです。

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(春はバイク乗りとバカが活性化する季節。バカなバイク乗りの私も活性化してるわけですけど、バイクに沢山乗ろうとするとブログが書けないというジレンマ。でも、バイク優先だからしょうがないですね~。)

で、その方向性で、いざブログを書こうといたしますと、モトグッチって実に困ったバイクなんですよね。ダイナも大概ヘンなバイクでしたけど、モトグッチも現代のバイクとして見ると、それに負けず劣らずヘンであります。ただ、ヘンなところは同じだとしても、書き手としては、モトグッチとハーレーってメッチャ大きな違いがあるんですよ。

それはすなわち日本におけるブランドパワーです。自虐じゃないんですけど、モトグッチって日本じゃ全然売れてないんですよね~。国内での年間販売台数なんと400台ですよ?ヤバくない?

ハーレーなんかは「ダメバイクだぁ!」ってどんなに連呼したって、国内販売8000台くらいあるわけでしょう?もはやその地位は揺らぎようがないし、その良さを既に多くの人が理解しているわけですよ。ホンダもそうで、多少ケツをシバいても、シェアと売上げ考えたら、いちブロガーがいまさら何を書いたって、ブヒともヒンとも言わんのです。つまり、これらのメーカーは

「安心してもの申せる」

メーカーってことになっている。「雑誌のライターさんは、やたらホンダに厳しいね」なんて話もあるけど、税務署が儲かっているところにしか入らないように、物書く人間だって、強い相手だと安心して向かっていけるわけですよ。

前回CB1000Fにいろいろもの申しましたけど、ホンダってのは我々消費者から見れば、「やろうとしたら何だってできるでしょ?」って認定されてるんです。だから、他メーカーがやっているのにやらないってところがあると、そこにちゃんと腹落ちするような理由がないと納得できんのですね。やるにしても、やらないにしても、理由に対しての反応が相当厳しくなるわけです。

その一方でモトグッチはどうか?日本での売上だけでみたら「カス」みたいなメーカーじゃないですか。現在のラインナップは随分整理されて、V7とV85とV100とステルビオという4本の矢になってますけど、それ全部合わせても、Z900RSの10分の1も売れてない。もっというなら、ラインナップでは「ほぼV7しか売れてない」から、「V7の派生モデルを次々と増殖させる」というマトリューシュカ商法で少しでも稼ごうとしているのが泣ける。

「ふふ・・1本の矢はたやすく折れるが、4本束ねればなかなかに折りがたいものよ。見よ!このように!」

「ボキッ」(4本まとめて折れる)

「・・・あっ?・・・・(笑)」

って感じで、毛利元就の三矢の訓(おしえ)もマッタク通用しない脆弱な販売力。実際ネット検索しても、モトグッチの記事ってメチャクチャ少なくって、松茸探してるみたいな気分になる。ここで私がネガをどーっと書くと、「弱い者イジメはそこまでだ!」って逆にヘイトを買いかねない規模感のメーカーなのですよ。

で、そんなメーカーって私のブログと相性良くないんですね。これまで読まれてきた人ならわかると思うんですけど、私のブログは、「バイクをディスってネタにしつつ、面白おかしく仕上げていく」ってのを基本戦術にしているんです。どんなバイクも「完璧」じゃないし、見方を変えれば美点もあっさりネガになる。だから、バイクなんてイジろうと思えばいくらでもイジれるんですね。最初に軽くバイクをディスって、ツカみを入れつつ、まとめていくわけですけど、その手のイジりって愛がないと、タダのディスりになっちゃいかねない。だから、まずはその対象を購入するというバイク乗りとしての「最大限の愛」を捧げた上で、旦那衆がよくやる「嫁イジり」として大目に見てね♡って倒れ込みをしているところがあります。だから、ディスりに対して脆弱なバイクはホントーにやりにくい。

モトグッチって「ベテランに売れてます!」なんてアナウンスされてますよね。これを好意的に解釈すれば玄人向けってことになるわけですけど、でもね。これで喜んでいちゃダメなんですよ。日本ってバイク乗りの平均年齢が55歳の国じゃないですか。そんな国でベテラン向けなんて、

「乗り手の大部分が60歳以上」

って解釈にならざるを得ないわけですよ。しかも販売台数が年間400台。もう「ジジイの中でも相当コジれた変態共が買っている」と想像できる。バイクも加齢臭凄いけど、乗り手の頑固な加齢臭は落しようがない。戦隊ヒーロー風に言うなら「じじい戦隊モトグッチ」ですよ。ここから漂う老人デイケアホームのような終末感はただ事ではありません。

確かに、今の時代に、このオールドでヘンなバイクを新車で買うなんてのは、冷蔵庫の奥に入っている賞味期限切れの食材を「フォッフォッフォ・・この腐りかけ一歩手前が実は一番美味いんじゃよ~♡」って食していくという、日常系ギリギリグルメをやってる感じすらある。

エンジンはね。マジで素晴らしいですよ。私は公道ライダーなので、ハイパワーより、トルク感とフィーリング重視の人ですけど、その視点から見たとき、このエンジンはマジで良い。空冷OHV2バルブですが、素性の良い90°Vをただひたすらに進化させ続け、熟成し続けた結果、ハーレーと同様、そのフィーリングは「秘伝のタレ」の域に達しております。現代の製造技術とオールドな味わいが混ざりあい、現代的美しさと昭和系ガッツを兼ね備えた回り方をする。アクセル開けると心の底から「ふあぁああああ・・♡」ってなりますよ。

しかし、その秘伝系エンジンを擁する一方で、シャーシに目をやると「オィィイイイイ!昭和の樟脳(しょうのう)の香りがするんだけどっ!」と、ツッコミたくなるレベル。フツーにタラタラ乗ると、路面の不整に対し、車体全体での抑え込みが足りないというか、まぁ昔風にいうと「ヤワくって、振られやすい」って評価になる。フロントフォークやリアサスの作りを眺めても、「うーん、こりゃもうしょうがないかな?」ってくらい質素かつシンプルな作りですもん。

最近人気のネオレトロって、姿は昔風ですが、中身は現代の設計のバイクだから、サスもシャーシも当時物とは比較にならない進化形なんですよ。味付けや姿形がオールド風ってだけで、走りは現代レベル。だから、乗っててなんの不満もありません。でもV7は2008年に発売された時点で、2003年のプレヴァ750から構成要件をそのまま引っぱったもので、そのときからドラスティックな進化なんてしてないんですね。だからネオレトロのシャーシ感覚で乗ると、レトロすぎて目眩がすると思う。

つまり横に張り出したエンジンといい、質素でオールドな車体周りといい「ネガはもう見たまんま」です。でも良いところもありますよ。まず質素だから価格が安いです。このバイク、今は毎年のように値上がってますけど、アメリカの夢を唄うハーレーですら「実はタイ生産でしたぁぁん♡」なんてトボけちらかすグローバル時代に、イタリア本国マンデッロで生産した変態機構のバイクが140万円ソコソコで買えちゃうんですぜ。また、スピードを上げず、無理をしなければ、オールド2気筒のスローライフな走りも味わえる。

でもそれだけなら、タダの古めかしいお散歩バイクに過ぎない。しかし、私の中ではV7は「立派なスポーツバイク認定」がされているんです。そう、このバイクの最大の魅力はワインディングに持ち込んだときに展開される

「独特の縦Vワールド」

なんですよ。これが病みつきになるほど楽しい。

質素で設計の古いシャーシやローコストなサスの性能は、お世辞にも高くない。しかし、それと引き換えに「シンプルでわかりやすい」「軽い」「速度感をタップリ感じられる」というメリットがある。この「シンプルでわかりやすい」というのは昔のバイク特有の美点ですね。また、質素を極めるV7はシャフトドライブ採用のバイクとしては最軽量クラス。エンジンが上に行くほど横に広がっているから、倒し込みはオールドなネイキッドスタイル+18インチとは思えないほどスムーズで軽いです。

「いやいや、そんなヘロヘロシャーシで横にフラフラしてたら不安でしょ?」

って思うかもしれないですけど、それが違うんですよ~。このV7はシャーシの弱点を

「縦回転の重量級クランクが生み出すジャイロ効果で相殺してくる」

というトンデモないジョーカーを持っている。同じ縦置エンジン搭載車でもゴールドウィングやBMWってエンジンを思いっきり下げて、ハナから低重心で安定してるし、サスも超優秀だから、ジャイロの安定感は黒子に徹してますけど、モトグッチってシャーシがシンプルかつオールドで弱点が多いだけに、この縦ジャイロの車体安定効果を非常に強く感じることができるんですね。

「・・・この古めかしいシャーシって縦ジャイロの体感効果を薄めないための確信犯的演出なんじゃないの?」

って感じちゃうほど、峠道で、ダイレクトに縦ジャイロの世界が爆発する。その点が過去に味わったことのない、独特の歯ごたえと味わいになって、乗り手の脳を焼くわけです。

モトグッチ自慢の空冷V型OHVエンジンは、90°V型だけあって、やたら綺麗にまわります。高回転の芯が出たコマのような無振動感は病みつきになるほど。でも、そんなに綺麗に回るくせに、パワーは大して出てこないんですよ。このエンジンをあえて形容するなら

「フラットトルク美麗回転型低出力エンジン」

です。なんせ850ccで65馬力。カワサキご自慢のZX4Rに対して完全に白旗上げちゃってますからね(笑)

こういうエンジンは、スポーツユニットとしてはフツーは低評価ですよ。「綺麗に回るのはわかるけどさぁ・・回してもパワーがついてこないのなら、そもそも回す意味なくね?」ってことになるじゃないですか。でもV7においてはこのエンジンが立派なスポーツユニットになる。なぜかっていうと

「回していくことによって車体が安定する」

からなんです。モトグッチは淀みなく上昇するエンジン回転を、爆発的な加速を得るために使うのではなく、車体を安定させるために使うんです。これが私が感じるV7の最大の個性です。エンジンを回すことに「速さ以外の意味を持たせた」という在り方にこそ、このバイクの最大の価値があると私は思ってます。

実際、3500回転も回せば、サスの能力が三割増しになったような安定性が出てきて、5000回転を超えると、車体が空飛ぶ槍となり、独特の浮遊感というか、無重力感すら感じるようになる。つまりエンジンの縦ジャイロにより車体安定性に独特なバフがかかるんですよね。でも、それがこのバイクの罠でもあって、「うひょ~、なんて安定感!これならガンガン攻めれるぜぇ!」って感覚でコーナー攻めちゃうとヤバいんですよ。なぜなら、アクセルオフのブレーキング時には、ジャイロ効果によってかさ上げされたバフが全部なくなって、タダのヘニャい足回りに戻っちゃうからなんです。まさに魔法が解けたシンデレラ。下りコーナーなどでは、そのイリュージョンギャップがモロに出て、「げぇ!調子に乗ってたら曲がりきれねぇんだが~」って、コーナリングがバッタバタになるという難しさがある。そう、こいつはエンジン回して真っ直ぐ走るときは安定感とガッツに満ちているけど、ブレーキング時には不安定でマッタク根性がないという二面性があるんです。ね。とってもヘンでしょう?でも、普通のバイクに飽きちゃったライダーにとっては、こんなバイクって「面白いしかない」と思うんですよね。

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(なんでこんな訳わからない構造になっているのか?その謎を、乗り味から理解しようとするところに、この手のバイクの趣味性があると思う。選択し、乗ってみること自体が謎解きミステリー・ツアーなんですよね。)

私はこのバイクを納車時からずっとスポーツバイク枠で語っておりますけど、それは速い遅いではなく、公道スポーツ走行に独自の定義を持ち込んで、乗り手を教育し、楽しませてくれるからなんです。

何が楽しいって、まずは気兼ねなくぶん回せること。ガンガン回してもバイクが走り過ぎないから加速と到達速度域にストレスがありません。コーナーはコーナーでこれも楽しい。縦置きなんで、きっかけいらずで素早く滑らかにリーンしてくれるし、舵の入りも自然。旋回性もアンダーだからコーナーも長ーく楽しめる。車体やサスはお世辞にも高性能とはいえないけど、安定感は縦ジャイロで自在に盛れるし、シャーシが柔いおかげで速度感もしっかりある。後はブレーキでバタつかなければ気持ち良さMAXですけど、ウチのヴィーセは、フロントホイールがスポーク+チューブタイヤ+シングルディスクブレーキのふんわり3部構成で、そもそも無理ができません。

必然的にコーナーの突っ込みで無理をせず、コーナーでの速度あわせをしっかりして、リーンでバンク角決めたら、コーナリング中はアンダーを殺しつつガマンのパーシャル。出口からのアクセルオープンでジャイロ効果全開じゃぁあああ!!という走りになる。道の曲率を頭に入れ、それを先読みして「バタつかず、流水のようにスムースで淀みのない走り」をしないとダメなバイクなんです。あらゆる操作に滑らかさを要求されるから、公道で最も美しくスマートな乗り方を自然に教育されていくことになるんですよね。

モトグッチは確かにヘンだけれど、イタリアの山岳地帯を「パワーやスピードに依存しないで、いかに楽しく安全にスポーツ走行するか?」ってことを、イタリア人的思考で考えた結果こんな姿になってるのだなって納得ができるんですよね。タイムより走りの気持ちよさと美しさ重視。メカの合理性をしっかり追求した上で、感性面を磨いていくっていう日本的なアプローチではなく、「感性に合わせてメカを整合させる」という手法は、大陸をクルージングするという目的を達成するために、人の感性面から攻めていったハーレーとアプローチが実によく似てるわけなんです。

つまりハーレーやモトグッチは「乗り手を楽しませる個性的な走りの実現が目的で、車体やエンジンは、その目的を達成するための手段」っていう考え方なんですね。メカ的性能より人の感性評価が上位にきているから機械的に進化することによって味落ちするのなら「進化しないことが正義」って理屈になるし、製造面や設計のネガすら感性面のプラスとして昇華できるものなら徹底的に利用しちゃおうという斜め上の方法論だって許容される。まぁ、それ故に環境問題などで強制進化が必要な時代には舵取りが難しく、苦悩しているところもあるんだと思う。

この手のバイクはバイクとの相互理解のないまま乗っていても本来の走りをしてくれないから、そういう頑固なところに納得がいった人には末長く乗れるバイクだと思うんですけど、そこがマッチングしないと、「なんかヘンだし、低性能で古くさいポンコツじゃん?」ってことになっちゃう。今の時代は個人の主張が重視され、「自分から相手に合わせていこう」「変なものこそ理解したい」って思う人がどれだけいるのか?って思うと、人気がないのもしょうがないかな~と。

現代のバイク達も究極的に追い込んでいけば相互理解が必要なのは同じだとは思うんですよ。でも、今の進化の方向性はとにかく間口を広げようとする方向で、コアなものを掘り下げる方向ではないですから、どのような走りしてもそれなりに気持ち良くって「どう走るのが一番気持ちいいか?」って思案することはあんまりないし、エクストラコストを払えば電子制御やお高い装備でその守備範囲とレベルはさらに充実する。その一方、昔のバイクは表現がぶっきらぼうで、乗り手にすり寄ってこなかったから、自分の走りとバイクや道との折り合いを常に考えながらライディングしなきゃいけませんでした。

私のバイクを眺めてもらうと、割とオールドライクな風体のバイクが多いと思うんですけど、私は決して「古いものを求めている」のではなく、「その手の相互理解をバイクとやっていきたい」ってところがあるんだと思う。自分の主張を実現する点については、やりたいところまでやってきたから、バイクの走りの個性を愛でていきたいってことなのかもしれない。ウチのヴィーセはダイナと並んで、そっち方向の最右翼ってことになりますが、ホンダさんに関しても無意識のうちに性能より相互理解系のバイクが並んじゃってる気がするのは、苦笑しかない。まぁ、評価と好みは別ですからね(笑)

なんかディスってるのか褒めてるのかよくわかんないブログになっちゃいましたけど、私はお手軽なモノも、とっつきにくい系もどっちも好きです。世の中の好みは社会と時代が作っていくから、バイクだってネットだって時代が好む方向に振れていくのは当然だとも思う。そして、こと娯楽や表現において、どっちが高尚か、どっちが偉いか?なんて議論はまったくの無意味です。昔は多くの若者が岩波文庫やハヤカワSFを頑張って読んでたけど、現代は読みにくい風景描写や世界描写をゴリッと削ったライトノベルが主流。それは「活字離れが進む中、若い人を活字に取り込むにはどうしたらいいか?」ってことを業界が真剣に考えた結果であり、確実に実を結んでいます。この「まずはライトなところから」っていう戦略はバイク業界だって同じだと思うんですよね。

そんなハイテク・ライトな時代に、イタリアの片田舎で古い掟を守りながら生き延びているやたら頑固でディープなシーラカンス。それが私の評価するモトグッチです。






・・・・これは売れないのも当然ですな(笑)




(オマケ漫画「本口の拳」)
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(仕事が忙しい中、寸暇を惜しんでこんなくだらない漫画を書いていると、「へちま君、きみは本当にバカだな・・」って自分に言いたくなりますね。)