前回記念漫画を上げてますから皆さんご存じだと思いますが、去る2月1日にホンダコレクションホールに行って参りました。3月までゴールドウィング50周年記念展示、

「The King of Motorcycles」

が行われてるということで、F6Bと現行ゴールドウィングを通算11年乗り継いでいるオーナーとしては、「やはりこの機会に歴代ゴールドウイングを見ておかねばならんだろう」ということになり、ジト目の聖帝様を自宅に残し、意を決して突撃した次第。

昨年の3月に、金沢止まりだった北陸新幹線が敦賀まで延伸しましたから、金沢という有名都市から遠く離れた田舎住まいの私も関東圏に行くのが非常に便利になってます。とりあえず朝5時に起きて、6時半くらいから電車と新幹線を乗り継いでいくと、午前の10時前には宇都宮に着いちゃうんですよ。いやー日本も狭くなったものよ。でも、ヒキコモリの私は延伸してから新幹線に乗るのは実は初めてなんですよね。地元の駅の新幹線のホームも初めて見たというていたらくでありました。

なお、今回コレクションホール・ツアーに参加したのは私だけではありません。参加者については、独立して先行アップした記念漫画をご覧下さい。

なお、この漫画、完成までに膨大な時間を費やしてます。顔を似せるのはオタ絵の私にはハードル高いし、細かなところを似せようとすると1年経っても仕上がらない気がしたので、最後は「雰囲気さえ出てれば良し」と割り切っております。

ぶっちゃけ、この一行って、ドラクエで表現すると、レベル1のヘタレ勇者の後ろに「ゾーマとゴールデンスライムとキラーマシンがついてきてる」って構図なんですよね。喋ってると普通の優しいオジサマ達ですが、肩書き聞くと「山田くーん!失禁しそうなんで、シビン持ってきてー!!」って舞台袖に向かって叫びたくなる。ただのブロガーのガイドとしては、あまりにも戦力過剰。勇者のレベルが1ですから、もはや私は物語の進行と、大義名分のためだけの存在といえるでしょう。

このメンバーは一昨年の夏、奥能登ツーリングでご一緒させて頂いてるんですけど、(その僅か数ヶ月後に走ったルートが能登半島地震の震源地になり、完全崩壊してしまうとは一体誰が予測していただろうか?)あちらは「ガッツリ走る立派なツーリング」でした。では今回は一体何なのか?

はい、もうわかりますね。これはゴールドウイング50周年記念展示というイベントに名を借りた実質「飲んでわいわいやってるだけの会」です。首領達に改造手術を施されましたが、私の脳はハナから怪しかったため、脳改造後も日常生活にほとんど変化はありません。また、集まった首領達も世界征服などという大層な目的のまったくない「単なる烏合の衆」でしたので、ホンダ信者となるように、宗教的勧誘が行われたわけでもない。

ぶっちゃけ移動時間を除く、全体の約半分の時間を酒飲んで良い気分になっていたという、そういうイベントなんですよ。いやこんなもん、どうブログにしろと?情報量がありすぎて、50周年記念展示が脳のニューロンの端っこにブッ飛んじまってるよぉ・・。

大体、このコレクションホールからして濃すぎるじゃないですか。何回も足を運んでいる常連さんならともかく、初見の人はGL記念展示の印象より、他の展示の方の印象が強くなっちゃうんじゃないでしょうか?

だって、これ実質「ホンダの歴史博物館」なんですよ。創業時から営々と続くホンダの壮絶な戦いが、メカという形でそのまま提示されているわけです。中でも展示しやすい四輪のレースモデルと二輪部門がかなり濃い。エントランス入るといきなり初代カブとホンダジェット、マイク・ヘイルウッドのRC166とF1レーサーRA272がお出迎え。そこでもう、「オホォォォオオオ!!」って、後ろから肛門を竹刀で突かれたような怪しいオホ声が出ちゃうことになる。

コレクションホール(コレクションホールのエントランス。ホンダのホームページから転載。)
20250201_123949205
(RC166。この叩き出しのカウルの質感が凄まじい。ああ、このリフトスタンドの下に潜って、リアタイヤに踏まれたい。)
20250201_124314357
(ホンダにF1初勝利をもたらしたRA272。カッチョエー。夏場にフロントノーズに張り付いて冷たさを感じたい。)
20250201_124451523
(デター!初代カブだぜ!伝説のレースモデル2台&12億円のホンダジェットと肩を並べるのが、「初代カブ」なんですよ。ホンダにおいて初代カブはもはや、ホンダジェットや歴史的レーサーと同格ってことです。実際に存在感でも負けてないのが恐ろしい。まさに最小排気量の大巨人。)

このコレクションホールを上から下まで通しで見ちゃうと、あくまで「GLはホンダの壮大な歴史の中の一部分に過ぎないのだぁ・・」って痛感するんですよね。ゴールドウィング50周年記念展示がホンダの歴史の中にすっぽり収まっちゃう。ホンダってバイクメーカーとしては、世界シェアダントツ一位で、しかもフルラインナップを作っていて、四輪もやってる。だから、創業時から今までの全てをドーンと一気に提示されると、その膨大なスケールに圧倒されちゃって、GLだけを抽出して感想を語るってことが、とっても難しくなる。

入っていきなりの展示で創業期のモデルやレーシングマシンが並ぶんですけど、この時期はホンダという企業が勝つため、生き残るために、本田宗一郎という天才が率いるチームが目を尖らせて火の玉になって作ったものだから、展示されたバイクの中でも「攻めのオーラ」が違うんです。これは機械で表現された「オールブラックスのハカ」みたいなもんですよ。黎明期にホンダが作った空冷レーサーRA302なんて、機械なのに「ゴッホのひまわりを見てるような狂気」すら感じるんですよ。

20250201_141206692
(空冷F1レーサーRA302。空冷の限界に挑戦したホンダの狂気がここにある。結果から見ると第二次大戦のメッサーシュミットMe163並の失敗作なんですけど、それをしっかり展示しているところがいい。)
20250201_141039335
(エキパイのねじくれた空冷フィンから感じる苦悩と狂気。「高出力とはすなわち圧倒的な熱との戦いである」ということが、この空冷フィンの造形から否応なく伝わってくる。)

特にレーサーは頭のネジが飛んでてヤバい。命知らずのレーサーを見た後に市販品見ると、平和すぎてホッとしますよ。特にゴールドウィングなんて平和な巨大ツアラーだから超ホッとする。展示における緊張感のアップダウンと情報量がエグい。

展示されてるのは平和な市販車が大多数なんですけど、これらの展示のなにが最高かって、当たり前ですが、「展示車が全部新車状態」なんです。でも、我々の日常では、その当たり前が全然当たり前じゃないですよね。例えば、ゴールドウィングを例に取ると、消費者が普段レッドバロンや旧車専門店などで見る個体って、SC47で20年もの、GL1500で30年ものです。今回の展示物の多くが、我々の日常では時の流れの中で、乳がV時になってるような「おばあちゃん」なんですよ。GL1500以降は新車に近いものを見ていたはずなんですけど、それすら遠い記憶の彼方でセピア色になっちゃってる。

GL1500でそれですから、その前のモデルなんて、私の年代では、見たことないか、見たことがあったとしても、ほぼ棺桶に片足突っ込んでる姿なわけですよ。機械ってのは長年戦い続けると、風格が出て、印象も、丸く優しくなってくる。それが旧車の大きな魅力でもあるわけですけど、現行車と比べたときはどうしても「乗り越えがたい時空間ギャップ」が生まれてしまうんですよね。でも、このコレクションホールの展示個体は違うんですよ。

レーサーは別として市販バイクの全てが、新車ビカビカのバリッてる状態で、しかもガソリン入れてバッテリーを組み込めば今すぐ走れる動態保存でずらっと並んでるんです。バイク達が「さぁこれから市場に出てライバル達と戦うぞ!」っていう最盛期の姿で強烈なオーラを発散しているんですね。雑誌でしか見たことのないバイク達の実戦配備時の姿が存分に見られるわけですから、それだけで既にワンダーランドなわけですよ。

特にレストアマニアは写真では決して伝わらない新車時の佇まいや塗装の色ツヤなんかを見られて身震いするんじゃないかな~。ガイドの方々によると、昔の気合いを入れたメタリック塗装なんかには、仕上がり優先で毒性の強い原料を惜しげもなく使っていたそうで、その怪しい輝き、妖艶でイケナイ光り方ってのは、確かに今のバイクでは、なかなか出せないのかなと思う。

コレクションホールの展示は約170台。古いバイクだけではなく、希少なバイク達も所狭しと並んでます。

20250201_155907362(RC213V-S。コストを度外視すれば、化け物が市販できるという良い見本。NR750やワルキューレルーンもそうだけど、コストかけるときはブレーキ壊れて突き抜けちゃう傾向が見られる。)

NR750なんて、今回の展示以外で現物を見たのは「何十年ぶり?」って感じだし、レーサーを2000万円で市販したRC213V-Sは現物を見るのは初めてでした。塗装のピンクとも赤ともつかない、見たことない微妙な色味が印象的でしたねぇ。

意外だったのは、そんな高額でもの凄いバイク達が並ぶ中で、色鉛筆のように細くて小さい1970年代のロードパル軍団や、歴代カブ軍団がしっかり存在を主張していたこと。いやぁ胸がトキメキますなぁ。この写真見てくださいよ。このカラフルさ、小ささ、実に可憐でしょ?

20250201_143126376
(進撃のロードパル軍団。なんと可憐な色使い。きゅーん♡となりますね。)
20250201_152742583
(ホンダのカブ部隊。スポーツカブまである~。)

こういうバイクって、路上では色あせたポンコツしか見てきてないから、「新車の時はこんなに華やかで素敵な色味だったの?!」って改めて衝撃を受けちゃうんですよ。優良な個体が残っておらず、話題にもなることなく、歴史に埋もれている道端に咲く野の花のようなバイクがちゃんと展示されてて、それが、とっても魅力的で、感動するんですよね。

なんかね。大輪で咲き誇る胡蝶蘭の中に、タンポポが元気に咲いている感じ。ホンダの持ち味って、カブから連綿と続いてる「この、なんともいえない庶民的生活感なんだよなぁ・・」って改めて感じちゃいますね。そこがホンダの大きな軸で、大型バイクにおいても一部のサーキットモデルを除き、非日常ではなく生活の一部として人に寄り添うようなバイクを明確に意識してる気がする。

皆さんご存じだと思いますが、ホンダの企業理念は

「世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす!!」

ですからねぇ。

これ本田宗一郎と、藤沢武夫が考えたらしいですけど、私みたいなスカポンタンのバイク乗りにも容易に理解できるところが素晴らしい。企業理念ってその企業が、消費者や社会に向けて発信した一種の約束ですから、シンプルでわかりやすいものがいいんです。

「ブランド化して利幅を最大化する」ことがもてはやされてる今のご時世に、「適正価格に全力を尽くします♡」なんてクッソわかりやすい社是を掲げてるメーカーも珍しい。世界企業のくせにアナウンスは「個人商店の張り紙」みたいじゃないですか。質の高さと適正価格についての定義や解釈は、モデルの性質や想定顧客層ごとに変わるでしょうけれど、そこに向かって「全力を尽くす」などと語っちゃうメーカーもちょっとないでしょう。

ちなみにスズキの企業理念もホンダに似てて、社是の解説に

「常に忘れてはならないことは“消費者の立場”である。これを前提とした研究であり、開発であり、技術、製造、販売でなければならない。」

ってのがあるんですよ。ホンダが本田宗一郎イズムなら、こっちはもう完全に「オサムちゃんイズム」じゃないですか。この社是からは鈴木修の顔しか見えないんだが(笑)ちなみにウチの聖帝様はスイフト→スイフト→エスクードと乗り換えている筋金入りの鈴菌です。

このベタな庶民派ともいえる2社の社是と、先日までホンダが経営統合を模索していた日産を比べてみると実に対称的で面白いですよ。日産の社是は「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。」ってものなんです。これってサラッと読むと格好いいけど、意味わかりますか?私みたいなボンクラにはこれが具体的に何を意味しているのかが良くわかんないんですよ。

この「イノベーションをドライブする」って表現が何なのかをもう少し詳しく読み込んでいくと、「独自性に溢れ、革新的なクルマやサービスを創造し、その目に見える優れた価値をすべてのステークホルダーに提供すべく、日々取り組む」ってことらしい。でも残念ながら、この説明でも具体的に、どんな目標をもって車造りをしたいのかまったくわかんないわけですよ。

そもそも、この中に出てくる「ステークホルダー」って、とても範囲が広いんですよね。ステークホルダーって顧客も取引先も下請けも全部含んだ利害関係人のことを指すんですけど、ステークホルダーの同士でも利益が相反しているわけだから、優れた価値を利害関係人全てに提供するって、それこそ「夢のようなお話」じゃないだろうか?消費者の夢をかなえるのだって難しいのに、それ利害関係人全部に広げたら、その満足度ってとっても薄い膜みたいになっちゃうはずなんです。

目標ってのは、明確に定めないと組織が同じ方向に進まないんですけど、日産の社是は「どこからも突っ込まれないような無難で八方美人なもの」だから、会社の姿が雲がかかったように見えなくなっちゃってるんですよね。

ホンダの場合は、より良い商品を出すことに全力を尽くすという姿勢があれば、とりあえず社是を貫徹できてるから「これは全力を出しましたわ!!」で奇天烈なものでも市販できますし、社是の中身を理解するのに困ったら、本田宗一郎という具体的な人物を思い浮かべれば事足りる。

でも、日産は
社是を実現するには、定義の不確かな「イノベーションをドライブ」しなきゃならないんです。で、どうすればイノベーションをドライブしたことになるのか?ってことが皆目わかんないんだけど、具体的にそれを形として明確に説明できる役員がいるのか?ってことですよね。方向性を決める取締役が60人以上もいるらしいですけど、船頭を多くすれば足並みを揃えるのは容易ではないですから、そりゃ意志決定も遅くなるし、車造りも苦労するでしょう。

会社が大きくなったり、成功したり、お金が稼げるようになると、人はオシャレなものや、格好いいもの、プレミアムなものに走りがちになる。でも、ホンダのコレクションホールを見る限り、そういうものは並んでいないんですよね。世界を席巻したレーサー達はビンビンに尖ってはいるけど、市販車はどこかしら真面目で優しい顔をしてて、その頃の日本のバイクシーンや乗り手の姿と重なるものなんです。

20250201_142912170(ヨーロッパ耐久選手権を荒らし回ったRCB1000。フルチューンされた宝石のような空冷エンジンと農家住宅に取り付けられた手作り煙突のようなサイレンサーのギャップがたまらない。その向こうにあるのは同世代の市販車CB750FとCBX1000、この並びが凄くいい・・最高。)

まぁそこら辺が、海外製の製品に比べて、物足りないとか、野暮ったいといわれたりしますけど、コレクションホールに掲示されてる本田宗一郎の姿や、これまで世界で戦ってきたホンダのバイク達を見るにつけ、

「いやいや何言ってんの?日本の職人さんや技術者のオジサンって、そういうものでしょ?」

って改めて感じる。アニメオタクにメカオタク。みんな自分には無頓着なくせに、好きなものには真剣で、クソ真面目なんですよ。日本は恥の文化だから、アメリカ人がよくやる「とりあえずなんでも全米No1ヒット!!(笑)」っていうハッタリをやるのにも向いていない。派手にガワを盛るより、内側のマニアックな価値をシコシコ磨き、信頼と実績を積み上げ、それをバリューフォーマネーという誠実さでコーティングして勝負してきたんですよね。既存の多くのバイクメーカーは日本のそんな価値観に敗れたんです。

今回はそんな「戦後の日本人の強さとは?」ってものを、バイクという形で目の前にズドーンと見せられた感じがする。まぁ私も昭和生まれの日本人なんですけど、戦後を生きた世代ってのはある意味、ド演歌で、浪花節で、言葉足らずで、極めて頑固なんですよね。こんなの今のネット社会だと完全なポンコツで、どうにもならん存在なわけですけど、その頃の日本人が作ったものってヤバいくらい凄いんですよ。それをズラリと並べられて、「フン!」「どうだ!」「ンガー!!」なんてやられるわけですから、さすがに「参りました・・ごめんなさい」って頭を垂れて土下座をせざるを得なくなる。

ホンダがお気の毒なのは、こーんなやっかいなコレクションホールが存在する限り、未来に向けて、これらの作品達と並べられうるものを作り続けていかなければならないってことですな。

「俺たちはこんなものをつくったぞ?お前達はどうなんだ?一体何を作るんだ?ああん?」

展示品を見ていると、そんな先人達のアオリ文句と、得体の知れないプレッシャーをヒシヒシと感じてしまう。そんなコレクションホール探訪なのでありました。


20250201_160040888
(トリを飾るのはDN-01。この美しいデザインと新機構満載の価値をディスコン後、何年もたってからようやく理解できました。そんな自分のふがいなさが本当に悔やまれる。)

次回は現行ゴールドウィングオーナーとして、コレクションホール訪問の一番の目的であった「ゴールドウイング50周年記念展示」についてガッツリ、レポートいたします。