多くの方はバイクの車重がどのくらいから「重い」と感じられるでしょうか。一般の国産バイクの250cc・400ccクラスなら、200㎏超なんてもってのほか。リッターバイクでも230㎏あたりから

「ううん・・かなり重くね・・?」

って感覚になり、250㎏を越えると

「いやいやこれは重いでしょ・・」

となり、300㎏とかになると

「くっそ重いんだがぁぁあああ!頭おかしいのかぁぁあああ??」

ってなるんじゃないでしょうか。まぁ、足つきの問題もあるけど、バイク乗りの常識的な感覚って、こんなところじゃないかなと。軽量化とは無縁で車重がおかしくなってるハーレーを例外とすると、一般的なメーカーなら、荷物ドンドン乗っけたとしても300㎏くらいが許容上限かなぁ・・と思うんですよね。

そんな中、皆さんもご存じのとおり、きんつば嬢は車重がなんと365㎏という超重量級バイクになっております。ツアーは390㎏。うーん、ヤバい(笑)

私が購入した歴代のバイクの中で、きんつば嬢はF6Bの385㎏に次ぐ車重第2位です。F6Bにバックギアという重量物を搭載して20㎏の軽量化はさすがといえますが、クッソ重いことになんら代わりはない。

第3位はZG1300の330㎏?(当時の乾燥重量表記で296㎏ですから、装備重量なら、これくらいになったはず。)、第4位はダイナの306㎏、5位はVmax1200の284㎏と300㎏前後で、「デブ馬群帯」を形成しております。しかし、ゴールドウィング系はこれらのデブ共の中でも頭一つ抜けている。

この車重は、ぶっちゃけ

レブル1100のリアシートにブッチャーが2ケツしてる

のと同じですね。

リアシートに可愛い女子がタンデムならともかく「黒い呪術師」ではあまりにも切なすぎる。運転が雑だとフォークを脳天に突き刺され、立ちゴケした日にゃ毒針エルボーであの世行きっていう未来しか見えない。

「鉄チン、クソ重バイクの権化」というイメージがあるハーレーの現行ストリートグライドと比べても、無印ゴールドウィングは3㎏くらいしか軽くないですからねぇ。「ハーレーはクソ重いバイクだからねぇ・・だーーっはっはっは!」って笑ってたら、こっちも重さ変わんなかったと。まぁ水平対向6気筒っていうモンスターなエンジンをぶら下げてますから、そこはしょうがないんですけど。

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なぜ、こんなメチャクチャな車重のバイクが支持されてるのか?っていうと、やっぱ重いことがバイクの落ち着きや高級感に繋がる一面があるからだと思うんです。いろんなネガもあるけど、タンデムライドで、ゆったりクルーズを突き詰めていくと、

「ロングホイールベースの重い車体に巨大風防付けてトルク型のエンジンを積んでいく」

ってことになるんだと思うんですよね。

乗り物の世界におけるフラッグシップってのは、超高性能ストイック路線か、ミリオネアなゴージャス路線のどっちかに向かうもんなんです。

近年はアドベンチャー・カテゴリーが大人気ですけど、リッターアドベンチャーは何でもアリの仁義なき盛り放題になってます。その中でもゴージャス路線を意図的にやってるのが、ドカティのムルティストラーダだと思うんですけど、こういうコンセプトのバイクがバカスカ売れると、他メーカーは競争力の維持の面からも収益性の面からも、それを指をくわえてみていることはできません。

「オィィイイイイイイ!!同クラスのライバルと比べてハイテク装備、快適装備で負けてんじゃん!弾幕薄いよ!なにやってんの?」

ってなるわけですよ。実は弾幕などというものはアニメでも「敵に致命傷を与えたためしがない」ものなんですけど、「なかったり薄いと怒られるものの典型」です。アドベンなんて本来は道なき道をぶっ飛んでいくオフ車なんですから、可能な限りシンプルで、取り回しが良く、軽いのがベストなはずですけど、リッターアドベンチャーの現実は真逆になっててスゲぇな~って思う。過酷な道での走破性を重視し、土の香りがする硬派なツールとして人気を博してきたGSが、いつしか「高級装備爆盛りゴージャス旦那仕様」になっていってるのは、ストイック路線とゴージャス路線の両方の道を選択できるアドベンチャーにおいて、「後者の方が利幅も販売力も圧倒的である」ことを端的に示しているんだと思うんですよ。

ゴールドウイングに至ってはラグジュアリーなメガクルーザーって印象がありますから、無印のような質素なモデルは販売側や顧客から、

「え?なにこれ?弾幕が薄すぎない?」

って突っ込まれるのはもう致し方ないと思う。

歴史のあるモデルって、長年築き上げてきたイメージどおりの販売結果になりがちで、その流れを変えようとしても、ハーレーの水冷モデルが販売で苦戦してるように、なかなかうまくいきません。私はバガースタイルは、水平対向6気筒の走りを目一杯楽しみたいって人には十分アリなコンセプトだと思ってるんですけど、現実には

「ツアーの下位モデル扱い」

になってるから売れないんですよね。ハーレーのウルトラとストリートグライドは、上下関係をあんまり感じることはなく、グランドツーリングポジションとアーバンスポーツポジションで立ち位置がわかれてるんですけど、ゴールドウィングの無印とツアーはその差別化がイマイチ明確ではなく、「ツアーの廉価モデル」に見えちゃってるところが厳しかった。

バガーモデルを浸透させるためには、ツアーとの明確な差別化が不可欠で、フロントマスクなどの外装デザインをあえて変えてスポーティにするなり、若者ウケするド派手なグラフィックやカラーリングにするなり、力を入れてアピールをして、ようやく爪痕を残せる程度じゃないかと思うんですけど、無印って国内では渋いカラーリングしかありませんでしたからねぇ・・。ホンダは海外製のバイクと違って、セルフプロデュースをあまりせず、「乗って貰えば良さがわかる」っていう寡黙な高倉健スタイルをとることが多いんですけど、良いところって、伝えないと伝わらないんですよね。

リッター超えのバイクって、良さを伝えるにも複雑というか、単にシャーシ能力が高いとか、エンジンパワーがあるとかで、簡単に語れるものではないと思うんですよ。このクラスになると、性能だけではなく、乗り手に何をアピールするの?とか、どんな体験を与えてくれるの?とか、走りの個性はどうなの?とか、独特の世界観はあるのかにゃ?とか、どっちかというと表現力の勝負になってくる気がする。性能だけだったら、ミドルクラスで十二分なわけだから、性能を超えたところにある価値や魅力の勝負になっていく傾向があります。

そんな中、私がきんつば嬢を選んだのは、純粋に「6気筒エンジンのトルクフィールが好き」だからです。F6Bを購入した理由も同じで、「6気筒積んでて、冬に走れて、価格が200万円切ってて超お買い得~♡」ってことで買ったんですけど、乗って見たら超重量級の走りがとても新鮮かつ満足感高くて、「こりゃ噛み応えあっていいな~」って感心したんですよね。だから、新型のSC79もはじめから「狙いはバガーのMT一択」でした。本当はもう少し熟成するのを待って買う予定だったんですけど、2020年に「MTモデルが廃番」って突然アナウンスされたんで、「ヤベェェエエエ!!」って駆け込みで購入したのが、今のきんつば嬢です。

ド・マイナーモデルの廃番って、予告なく、ある日突然やってくるから恐ろしい。ただでさえ売れてなくて数が少ないのに、ふと気がついたらカタログから消えているって、マジでシャレになりません。このブログを書くにあたって、無印のMTをグーバイクで検索してみたら全国で3台しかなくって、6年オチで290万円、3年オチで300万超えと、「冗談でしょ・・?」って呟きたくなるくらい高いんですよ。「あ~やっぱ、あのときムリしてでも買っといて良かったわ・・」って改めて胸をなで下ろしてる。

私がバイクを見る目線って、基本的に原付でもゴールドウィングでも変わんないんです。乗り味や信頼性、コンセプトへの共感、個性、私の走る環境とのマッチング。それらを考慮した上で、どれくらいの価格対効果なのか?(海外製は甘めですが)が評価基準になってます。

ただ、この価格対効果でバイクを見ていくと、あらゆるバイクを蹴散らして「スーパーカブが頂点に来ちゃう」ってのが、コストと無関係でいられない消費財の恐ろしいところ。リッターアドベンチャーがハリウッドの大作だとすると、カブ110やクロスカブは、制作費が超ミニマムなのに、知恵と工夫でエンタメに必要な要素を全部入れて、見事オスカーに輝いた「ゴジラ-1.0」みたいなもんですよ。資本主義の世の中はコストさえかければ、ほぼ不可能なことはないですけど、コストと要素を絞りに絞って、なおかつ世界中の人を満足させ、賞賛されるものなんて天才にしか作れない。私は最近スクリーントーン表現をてんこ盛りにしたイラスト描いてますけど、それは見栄えを良くするには

盛った方がラクだから

です。

黒線だけで画面持たせろ!

なんて言われたら、もうお手上げ。最小限の線だけで画面をもたせるなんて、「あさりよしとお」先生や「山本崇一郎」先生のように、空間配置と筆使いの能力が天才レベルの漫画家じゃないと到底できない芸当です。私から見たスーパーカブってそれと同じ。天才本田宗一郎が、引き算で作ったこれ以上何も足せず何も引けないスーパーミニマム・プロダクトです。評価としてはアレックス・イシゴニスの初期型ローバー・MINIと同じポジションですね。ちょっとでも足し引きするとあっという間におかしくなるくらいの合理性と整合性があるから、黄金比のように、どうにも触りようがないという状態になっている。

そういう点で私はカブを「バイク界の神様」と認定しているんですけど、これ買っちゃうとダイナに次いで、我がバイク人生「第2の解脱期」が訪れちゃいそうなんで、まだ踏ん切れていない。ただ購入ウェイティングリストには、ここ5年ほどずっと「カブ110」が入ってます。

カブ110
(スーパーカブを購入したら、徹底的に初期型に寄せていきたい。125ccを買えばいいのはわかってるんだけど、私はカブの本質は110にあると思ってて、あえて125ccではなく110ccで初期型リスペクトをやりたいんですよね。)

重量も軽いのや重いのでどっちが上ってわけでもなく、軽くてスイスイ動いてくれるバイクも好きだし、クッソ重たいバイクをアクセルでぐわんぐわん操作するのも好き。シャーシやエンジン出力とバランスが取れてて、上手く操れる仕立てになってれば、重さは特にこだわってはいませんが、今のところ、重くて排気量あるバイクの方が乗ってて楽だし、乗り味も濃いんで、そっちに流れがちになってます。

しかし、中には

「えーーー!?クソ重バイクなんてワインディングじゃ慣性の法則と戦ってるだけでしょ?コーナー、ドン亀だし、そんなの何が楽しいの?やっぱバイクは軽さが命でしょ?」

って言う人もいると思う。

よろしい、ならば戦争だ(笑)

確かに、バイクって運動物ですから、運動体としての能力だけを競うのなら軽さは絶対的な正義なことは認めます。でも、それは純粋な運動能力で見たときであって、ライダーが感じる走りの手応えっていう点では、一定の重さってのは、公道でのライディングに「深みとコク」を与えてくれると思うんですよね。エンジンが生み出す駆動力で、人が本来制御しえない重量物を、ぐわんぐわんとコントロールする楽しさは、ある程度の重量とトルクのあるバイクの醍醐味です。

この楽しさに首までつかると「重量級バイク&バカトルクの世界にようこそ♡」ってことになる。実際ダイナやゴールドウィングになると、魚介系スープのさっぱり感はありませんが、エンジンにも乗り味にも醤油豚骨スープみたいな濃さがある。

走りのテクノロジーを満載し、徹底的に削ぎ落としたスポーツバイクでしか得られない快感があるように、常軌を逸した300㎏後半の超重量級バイクからしか摂取できない栄養がある。公道ってのは走れば走るほど正解がない、底なし沼ですけれど、それなら価値観を固定せず、いろんなカテゴリーを貪欲に楽しんだ方が楽しいじゃないですか。どの世界に溺れるかは乗り手の自由に任されてるんで、それを固定した価値観で狭くする必要はないと思うんですよ。

重量級クルーザーは基本的に直線が大得意なカテゴリーですけど、そういうバイクでワインディングを走るっていうのも、なかなか面白いものです。その証拠に、アメリカの方では近年「キング・オブ・バガーズ」なるレースができて、クルーザーがサーキットを爆走してるんですよ。このレース、ハーレーとインディアンのバガーモデルであれば、空冷、水冷、ターボ何でもアリという、もはやレギュレーションが闇鍋状態(笑)で、しかも「フェアリングとパニアは外しちゃダメなのじゃ!」という空気抵抗クソ食らえのアホなルールで超笑う。

ちなみに、そこで優勝したバイクの称号は「どっかのハンバーガー・チェーンのパチモンみたいになっちゃわないのか?」ってちょっと心配になってる私がいます。

「いやいや、そんなパニアケース付きのクソ重バイクでレースを企画する必然性ってあんの?」っていうと、そんなもんありませんよ。そもそもパニアに荷物積んで、あわよくば美人のオネーちゃんと2ケツしていこうというバイクで走りの王になってどうしようというのか?そんなもん栃木あたりのヤンキーと同じで「オラのクソ速いバガーを見るだっぺぇえええええ!」ってだけでしょう。でも、バイクの楽しみ方なんて、そんなもんでいいと思うんですよ。

キング・オブ・バガーは、そんな大らかなアメリカのエンタメの楽しみ方そのものだと思うんです。サーキットの常識からかけ離れた怪獣みたいな巨体が闇鍋みたいなレギュレーションで集って行うバトルロイヤル。どいつが勝っても正当派ベビーフェイスになれるわけじゃないから、落ちこぼれの下町ヤンキーの抗争みたいな、いかにも頭カラッポな雰囲気がそこにはある。最終ラップでインディアンとハーレーがコーナーで一杯一杯になりながら、豪快なドツキ合いしてるのをビール片手に観戦して、盛り上がってるだけでいいっていう明るい世界観に心ときめきます。

(マリカーでいうと、こんなのクッパとドンキーコングとメタルマリオ縛りのレースでしょ(笑)とにかく遠心力かかりまくってて、高速コーナーや切り返しがド迫力でドキドキする。最後はハーレーとインディアンが壮絶な殴り合いでのタイマン勝負。これぞエンタメ(笑))

重量級バイクって車体もデカいし、コーナーでの遠心力も強烈なんで、ムーブメント一つ一つの説得力が軽量級バイクとは全然違う。当然、普通に走ってコーナーをクリアするだけでも乗り手に与えてくる操作の手応えや充実感はとても高いんです。

軽量級バイクって乗り手が自己中心的で傲慢な操作をしても、そこそこ走ってくれますけど、重量級バイクって自分の力で無理くりどうこうできるようなシロモノじゃないから、バイクと対話するしか道がないんです。で、バイクの言うこと聞きながら走ってると、それまでの自分の変な癖や訛りや品のなさが矯正されて、いつの間にか基本に忠実な綺麗な標準語でバイクとお話ししてる模範的な人になっていくんです。その後に、普通のバイクにもう一度乗ったりすると、前よりバイクとの対話や意思疎通がうまくできるようになってたりするから、重量級バイクはライディング矯正器具としてもなかなか優秀なものがある。

まぁ、重いバイクっていろいろ大変なところもあるんで、必ずしも重量車がベストっていうつもりはないんですけど、バイクと真摯に向き合うには、重さってとってもいい足かせだと思うんですよ。敬遠したり尻込みしたりする人も多いと思いますが、乗ってみると、「ああ・・いいなぁ」って思うところも結構ありますし、乗り味の濃さにハマる人は、なかなか抜けられなくなると思うから、一度はチャレンジしてみることをオススメしたい。

「重いとコケるじゃん!」って不安に思うかもしれませんけど、一定の技量のある人はほとんどコカさないと思うんですよ。私はゴールドウイング系に通算10年乗ってますが、立ちゴケしたのは、聖帝様を後ろに乗せてコカした「道の駅 明宝の惨劇」の1回だけ。ソロライドでは、立ちゴケ含めて一回もコカしたことがないんです。

それにはちゃんと理由があって、バイクにある程度長く乗ってる人がやらかす時って、ほとんどが疲労や、気の緩みや慢心からだと思うんですよね。でも、このクラスは疲労しにくいし、コカしたら地獄の人間ジャッキ状態が待っているのがわかりきってるから、慢心が入る余地がまったくないんですよね。

また万が一コカしたとしても安心してください。

車重が一定レベルを超えれば、どれも地獄であることは変わりない。

同じ地獄を見るのなら一番デカい奴で豪快に散る方が、ギャラリーも盛り上がってエンタメとしては大成功じゃないですか。私がやらかした道の駅明宝での2ケツ立ちゴケなんて、もうヤバいくらいの大ギャラリーの前でしたからね。アイドルで例えれば、東京ドームクラスの満員のハコで単独コンサートやったみたいなもんですよ。陰キャのエンタメとしては最上級のメシウマを人々に提供したという自負がある。まさにライダー冥利に尽きるといえます。

そう考えると、この手のバイクで一番大事なのは、技量よりメンタルのポジティブさかもしれないですね(笑)

(なお、この立ちゴケの模様を記録した過去ブログはこちらになります→道の駅 明宝の惨劇(ゴールドウィング立ちゴケ顛末記)



オマケ漫画「スムース・クリミナル」(本編とまったく関係ありません)

破滅の刃1ページ

破滅の刃2ページ3
(※当然ですがゴールドウィングにそんな機能はありません。)