うちのヴィーセ・モトグチ嬢ことモトグッチV7スペシャルが納車されて約1年が経過しました。当ブログでの登場は昨年の9月でしたが、納車は実は6月末だったんで、現在ではすでに納車1年を経過してます。梅雨の雨続きで7月に入ってからはまったく乗れていませんが、現在の走行距離は6200㎞。これをどう評価するか?ってことですが、

「4台をぐるぐる回してる割には良く乗った・・」

と個人的には思ってます。きんつば嬢と※のじゃ子(HAWK11)は冬に滅法強いので、冬塲でも距離が伸ばせるんですけど、ダイナとヴィーセは気温が下がると指先キツくて到底乗る気になりませんから、1年のうち4ヶ月くらいは冬眠してるってことになる。つまりは実質ヴィーセに乗ってたのは8ヶ月。それで6200㎞ってのは月間800㎞弱だから、結構乗ってると思うんですよね。ちなみに私のコロナ以降の年間走行距離数って2万5千㎞くらい。まぁ私は乗ってナンボの人なのかな?って感じがする。

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で、1年乗った感想ですが、やっぱ、このバイクは「縦置90°V型エンジンとシャフトドライブ」という特殊な機構に支配されてるバイクだな~って思います。ぶっちゃけ言っちゃうと、後は取り立てて凄いところは全くない。凄くなさ過ぎて笑う。もうね。全てが古典的な味付け、古典的な性能で、特にシャーシに関しては遙か昔のバイクに乗ってる気がしてきますよね。

「いやいや、モトグッチさんは何回もシャーシをマイナーチェンジしてるし、進化させてきてるでしょ?」

っておっしゃる方もいると思う。確かにそれはそうなんです。でも、シャーシの基本的な考え方や設計が、昔のままなんですよ。だからどんなに改良してもそれは対症療法で、オールドな欠点を補強しながらなんとかしているという乗り味になっちゃう。最先端の技術で解析されて作られたスチールフレームのように「しなやかなのに剛性感抜群」っていうものにはなってないんですよね。しなやかさはある程度のところを超えるとヨレに変わるし、フレームの吸収力の底も浅いから、強い入力では乗り味にエグ味も出ます。サスもフレームの年代に合わせたのか、減衰をガッツリ効かせた現代っぽいものではありません。ただ、そういう中でもちゃんとバランスが取れてて、「このシャーシをどうやって走らせるのか?」ってところの考え方はしっかりしてるんですよね。その点は評価するけれど、やっぱ、基本設計が古いのは隠しようがない。ザクの機体をいくら魔改造、鬼強化しても、それは何処まで行ってもザク強化型であり、設計が新しいハイ・ザックにはならんわけです。

あらためてその点をしみじみ実感しちゃったのは、ついこの間、トライアンフ金沢でボンネビルT120を1時間ほど試乗したからなんです。V7は価格的にはT100のライバルで、T120は1クラス上になるんですけど、V7スペシャルなら価格は15万くらいしか違わないですからね。

トライアンフ金沢
(今年3月にオープンしたトライアンフ金沢。とにかくビックリするほど立派。近くにはBMWとドカの正規店があるので、もうガチンコ勝負ですね。)
ボンネビル
(そしてこちらが試乗したボンネビルT120。クソ渋カラーですが、乗り味はスッキリ、ハンドリングナチュラル。エンジン優しい。とても良くできたバイクです。これは売れるわ。)

で、そのボンネビルですが、乗って走り出した瞬間「うぉぉぉ・・ナリはクラシカルだけど、さすが現代のシャーシとエンジンだなぁ・・質感高ぇえ・・いい・・」って思いましたもん。いや良すぎて逆に気持ち悪かったくらい。ヴィーセは乗った瞬間「ああん♡シャーシもサスもタイヤもとってもお古いどすえ~♡」ってなりますからもう雲泥の差。これもう、同じハチロクでも、今の86と昔のハチロク比べてるみたいなもんですよね。ハッキリ言いましょう。冷静に見て、T120とでは、性能面、質感面についてはもはや勝負になりません(笑)というか、トライアンフのその点のチューニングは、クラシック風バイクの枠を超え、現代のリッターネイキッドのお手本になるほど見事です。

じゃあ性能的にまったく勝ち目がないのか?っていうと、はっはっはっ

「勝ち目ネェ」です。

これはもう、いろんな面で「昔のバイクが今のバイクに勝てない」のと同じ構図ですねぇ。スペックは似たようなものでも、本質的な設計が違うんですよ。

ただ、この「勝ち目がない」っていうのは、ルール無用のステゴロでやったときの話。問題はこの2台が対峙するのは、ほとんどがクラシックバイク対決のときってことなんですよ。つまり「絶対性能や、絶対質感が必ずしも価値や勝負を決めるわけではない分野」で向き合ってるから、話がややこしくなってくる。

V7とボンネビルって、海外のインプレでは同じ土俵に上げられて勝負させられてるけど、私はこの2台は、根本的に違うものだと思うんですよね。

私はスピードツインには乗ってないけど、ボンネビルは乗ってすぐ、「ああ、これちょっとイジくれば、クッソ速くなりそうじゃん♡」って思いました。エンジンは105馬力ですけど、明らかにトルク型で、しかもそのトルクも、カドが取れた凄く優しいものになっている。これに加えて、アクセル開度低めでの初期レスポンスが刺激に振りがちになるリッターとは思えないくらい穏やかに調整してあって、ハーレーみたいに流して楽な作り込みがなされてる。シャーシもエンジンも大人の余裕を重視した横綱相撲なんですよね。

トライアンフは余力のあるエンジンとシャーシを使いつつも、「こういうバイクってマッタリ走るもんでしょ?」って割り切ってるんです。特にT120は「一般層が感じる古き良き乗り味のイメージを現代風に解釈して再現するとこうなります」って典型だと思う。無理してないから性能面に破綻が一切ないんですよね。もう「うはぁ・・これでツーリングしたら極楽だろうなぁ・・」って乗り出した瞬間から思いますからね。

かたやヴィーセの走りは全然違う。そりゃ街乗りでマッタリ走ってる分には、850ccのバイクですから、余裕も余力も十分ですけど、その領域で走ってる限り、ボンネビルT120に対して秀でた点は「クラシックバイクらしいお古感」「独特の横揺れ感」しかない。それがたまんないという人もいるでしょう。でも、このバイクはそれだけではありません。ひとたび峠に持ち込んだとたん、眠っていた鷹が目を覚まし、空を覆わんばかりに大きく羽を広げはじめる。

とにかくV7はワインディングが凄くいいんですよ。アラはあるけどそれを補ってあまりある気持ちよさがある。凄く速いってわけじゃないんです。ブレーキングは柔らかいフロントを介護しながら効かせる感じになるし、コーナリング中にギャップを噛むと、フロントがあっさり振られてあばれる君になっちゃう。でも、そんなシャーシだからこそ、体感的な速さを感じるんですよね。そして、メーカーが営々と守り続け、磨き上げてきた自慢の90°空冷V型OHVエンジンが冴え渡りはじめると、その気持ちよさは始末に負えなくなる。このエンジンは「シャーシの能力など関係ござらん」とばかり、5000回転からクランクの芯が出るように回りはじめ、さらに伸びて、レッドゾーンに飛び込んでいこうとする。パワーがモリモリあるわけでも、カミソリのようでもないけど、とにかく「エンジンがビュイーンと回転エネルギーを吐き出しつつ吹け上がっていく感覚」をこんなに感じるエンジンはない。

なんなの?このクラシック・カテゴリーとは思えない熱すぎるスポーツ魂は(笑)これはまさに、フォードVSフェラーリの映画に出てきたフォードGT40のようなクソガチなエンジンだ。ええ、あくまで回りっぷりだけですが。

(ル・マンを制した名車、フォードGT40。7リッターV型水冷8気筒OHV、485馬力。同じV型OHVのヴィーセのエンジンには、この映画に漂う古き良きレーシングスピリッツと同質の高揚感がある。「フォードVSフェラーリ」は名作なので是非見てください。)

ちまたのインプレでは「このバイクはトコトコ走るお散歩バイクです」なんて言う人もいますが、それはこのバイクのシャーシや足回りから安全な走りを導き出した結果にすぎません。そんな安パイな走りをするだけならボンネビルの方がいい。一度このエンジンの高回転域を味わってみて欲しい。5000回転から慣性が消えたように無振動となるエンジンの回転感が脳を焼き、縦置きエンジンが生む縦ジャイロの特性で、荒れた路面からの突き上げをものともせず弾丸のように疾走する。

他のバイクでは決して味わえない「小僧ども!これがイタリア親父の走りなのじゃぁああああ!だぁっはははああぁあ!」っていう実に品のないオジサンの世界を垣間見ることができるんですよ。

そう、このエンジンの回転感の気持ちよさはこれまで乗ってきた2気筒エンジンの中で間違いなくピカイチ。清水草一がその昔、アルファロメオのエンジンを「速くはないが官能的に回る」ってコラムの中で評していたことがありますが、まさにそれと同類でしょう。絶対速度より、熱さと気持ちよさと美しさにこだわる。これこそがイタリアンの真骨頂なのでしょうか?

そして、素晴らしいのはこの高揚感が「決して速度依存じゃないところ」です。どんなにシゴいても所詮は64馬力。車体はオールドで無理ができないし、縦置きならではの「倒して舵を入れる」スタイルで、ハタから見ると優雅に舞ってるようにすら見えるでしょう。でも、乗ってる私は「ヌハァァァアアア♡」ってクライマックス一歩手前の脳汁が出まくってんですよ。こんなのイリュージョンでしょ?イタリア人詐欺師に騙されてるの?

でもね。この手の「普通のことやってるんだけど、積み上げてきたノウハウで凄いもののように感じさせる」っていうのは、オッサンの処世術そのものじゃないですか。プロレスラーもベテランになってくると一つ一つのムーブメントに味が出てきますけど、それと似てる。これこそ経験の深み。たとえ詐欺師と紙一重でも、相手を気持ちよく楽しくさせりゃ勝ちなんです。V7に乗ると、「うふふっ、ロートルの生き様ってこうだよな~」て嬉しくなるんです。

感心するのは、モブの私の公道走行限界ラインと、エンジン、シャーシの限界ラインが見事にシンクロしてること。だから、公道でも「乗り手がバイクと一緒に頑張ってる感」がちゃんとあるんですよね。速い遅いに関係なく、「バイクに置き去りにされてない感」って、「いらんプライドと実戦経験はあるけど身体能力がダメダメなオジサン」にとっては凄く大事なんですね。

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(MotoGuzzi V7とボンネビルT120。形は似てますけど、乗って見るとその本質は全然違う。)

ここまででご理解頂けたと思うんですけど、同じようなクラシカル・カテゴリーでもボンネビルT120とV7って全然違うんです。ボンネビルは高性能をあえてクラシカルに演出して、余裕の走りで乗り手を支える現代のスタンダードバイクです。トライアンフは実にうまくそれをやってて、誰が乗っても満足できるし、懐が深く、とても優しく、大人の包容力もある。初心者や「バイクをライフスタイルとして楽しみたい」って人には私は迷わずボンネビルをオススメしたい。良いバイクですよ。

でもその優しさと懐の深さと引き換えに、「俺はまだ本気出してない」感も漂うので、それが鼻につくって人はスピードツインがいいかもしれない。また、「クラシックバイクがこんなに味わいやすく、お行儀良くていいのか?」っていう人も一定数はいる気がしなくもないけど、それは自分でチューニングしてなんとでもして下さいね、って感じ。

これに対してV7は、空冷縦置V型2気筒OHV+シャフトドライブという、はるか昔の流儀を頑なに守り、営々と積み上げてきたものの上に成立しているバイクです。要は時代遅れで古くさい。余裕どころか、常に時代に置いて行かれないよう、全力で食い下がってきたような切迫感がある。やれることは全部やり、最後の一滴を絞り出してなお、現代のバイクに判定の旗は上がる。私も私情を廃してバイクとしてのどちらの商品力が高いかを冷静に審査しろっていわれたら、間違いなくボンネビルの手を挙げるでしょう。だけど、商品力が高いバイクが、その人にとっていいバイクとは限らない。

このようなクラシックカテゴリーって、選択にあたっては、そのバイクの中に何を見るのか?何を汲み取るかってコトが大事なんで、単純な性能比較はまったく意味を持たないと思うんですよ。

この2台を比較したとき、オールドライクなバイクの雰囲気を重視したり、性能や商品力で選ぶってことなら、外装質感が高く、まとまりの良いスタイルと、現代のスタンダードネイキッドの性能を持つボンネビルの方が後悔しなくていいと思う。

でも、今のバイクに失われつつある何か、他のバイクにはない個性、古き良きファイティング・スピリッツを求めるのであれば、迷わずモトグッチのV7でしょう。現代では何の役にも立たない、古くさい騎士道精神を宿すような変態バイクは、「世界でもう数えるくらいしか残ってない」し、今後現れることもない。今存在してること自体が奇跡みたいなもんなんです。

多くのバイクが時代の流れと共に手放してきた、懐かしく、面倒くさいものをいまだにV7は背負い続けてるわけです。でも、それももうきっと長くはない。そのような価値観は排ガス規制により、否応なくリセットされ、この世から消えてなくなる運命なんです。


まとめますと、ボンネビルはオールドな香りを漂わせながら、その中身は現代のスタンダード・ネイキッドの王道を行くものです。それに対してV7は、過去のいろいろなものを手放すことなく抱えながら、今の時代まで延命してきた時代遅れのバイクなんですよ。ボンネビルは乗るとクラシックの中に今の時代も感じるけど、V7は乗った瞬間に、時間を超えてアナログ時代のパイロットに戻る。それがオッサンにはとても懐かしく特別なんです。

私はV7とボンネビルって比較しようにも違いすぎて比較できないんですよね。ボンネビルと比較するのなら、まだ日本のネオクラシックと比べた方が噛み合う気がする。それくらい時間軸が違ってるんですよ。漫画で例えると、同じヒーローものでも、「松本直也の怪獣8号」「永井豪の原作版デビルマン」くらいの差があるんです。この2作品が棚の中にあって、どちらを読もうか迷う人はいないように、ボンネビルとV7の選択は、ユーザーがクラシックバイクというカテゴリーに何を求めるか?で決まるような気が致しますね。






(オマケ漫画「奥秩父より愛をこめて」)
漫画仕立て・ヴィーセ
(モトグッチのイベント「イーグルディ」って箱根ターンパイクの大観山駐車場で年一回行われてるみたいなんですよね。昔東京にいたときは、よく箱根に通ったもんですけど、北陸からだと、ちょっとどうにもならん距離です・・これだから田舎暮らしは・・。)