それでは、「葬送のHAWK11」の後編です。

ここでは、HAWK11について良くみかける「アフリカツインのエンジンとシャーシを流用してるから魅力がない」という意見について書いていきます。

まぁ、その意見については、私もわからんでもないですよ。ええ、気持ちはわかる。でも現実的にロケットカウルなんていう特級呪物を量産メーカーがリーズナブルな価格で世に出すことを前提としたら、そっち方向での大盤振る舞いは絶対に無理でしょ?

それがどうしてもイヤだって言うんなら、海外メーカーのものを選べばいいと思う。価格を天井知らずに設定すれば、選択肢はたくさんあるんだから。でも、そういうバイクは、庶民のものとはいえない価格帯に入ってきます。

新設計を求める人は商品力をかさ上げするためとか、乗り味や見た目の特別感などを求めてそういう仕立てを要求してるんだと思うけど、じゃあロケットカウルという特級呪物にアナタはいくらまで出せますか?って逆に聞きたい。300万円以上出せるのならスーパーヴェローチェでも、ポールスマートでも、よりどりみどり好きなものが買えるでしょう。フレームも専用設計になるでしょう。でも、そういうレベルになりますと、「ロケットカウル変態で、かつ財布の底が抜けてしまっている人」という、手の施しようがない重病患者が対象になってきます。その領域になるともはや社会復帰すら危ぶまれる。バイクのキャラクターも、晩年に乗るには相当ハードだと思うし、維持も大変で気楽な日常使いは難しい。加えて、バイク自体がオシャレ感やマニアック感満載になりますから、私のようなショッカー黒骨戦闘員並みのモブにはさらに敷居が高くなる。一般人が気軽に普段使いしようとするならHAWK11くらいが丁度いいんですよね。

ロケットカウルはいろんな意味でマイノリティ路線まっしぐらなんで、限定小ロットでやるしかないんですけど、そんなバイクをリーズナブルな価格でしっかり作り、末長く維持できるようにしようとしたら新設計のパーツは極力絞らなきゃいけません。「数を作らないものを新設計だらけにする」ってのは「試作実験機」を作るに等しいんです。

ハイパワーSS系モデルなら専用設計だらけでもいいんです。あのカテゴリーはガンダムであり、技術の実験場みたいなものです。最先端のテクノロジーと超高性能が優先されてる世界だから、コストだってメーカーの威信をかけて惜しげもなく投下される。でも、HAWK11はそういう尖った人向けのバイクじゃなくて、ベテラン古参兵向けの特別仕立ての変態機です。ガンダムでいうと、ザク・フリッパーみたいなもんかな。

体ガタガタでポンコツだけど、やたら口うるさい古参兵の乗機は性能より、製造品質を確保することの方が大事。その点で定評のある既存コンポーネントの流用は妥当な選択になるでしょう。はじめは私も、「オィィィイイ!スポーツバイクのくせに、まるっと流用かよぉおお!」って思わなくもなかったけど、乗ってみたら、ものの見事にハマってて「うぅぅん♡この乗り味!この熟成感!サイコー!」って完全にケツをまくってしまった。今はビバ!流用!って諸手を挙げてますからね。まぁ結局バイクなんて、乗ったときにどれだけイイかが全てなんです。

また、真面目なホンダが上がりバイクってアナウンスしたってことは「アナタが上がるくらいまでは、ずっと部品を出します」って意味も含まれてるでしょう。少量生産モデルで、高い製造品質を実現し、長期にわたってパーツを出す。という無理難題を成立させようとしたら、「今後も生産されるであろうバイクの既存パーツを寄せ集め、特別な形を組み上げる」っていう手法を採用するしかない。その制限の中で味付けを変え、商品のレベルを高めようとするのは、下手すると新規採用部品で目新しいものを作るより、大変な作業でしょう。多分そこら辺がアーキテクチャー・プロジェクトのミソなんですよ。

枯れたパーツは品質も安定してるし、コストも安くなるから、そこで浮いた分をクソ高い外装に回してHAWK11はギリ成立してるんです。必要最低限の電子制御でシンプルに仕立てたのも、古き良き乗り味と長期所有したときの維持の優位性というメリットを取ったものだと理解してます。だからこのバイクは「生産台数超少ないけど、上がりバイクとして長く乗って頂けます」というアナウンスができている。少量生産で後先考えず尖りまくるんじゃなくて、ホンダの製品としての信頼性と製品寿命を確保した上で、どう尖らせるかをやっているんですね。

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(深夜のHAWK11。自慢のロケットカウルの一切の歪みがない面の張りと複雑な曲面造形、繊細なメタリック塗装の素晴らしさよ。角度を変える度に光が流水のように滑らかにロケットカウルの表面を流れていく・・・はぁぁ・・好き。

HAWK11に乗るとバイクって料理と同じで「素材と味付けと煮詰めが大事だな~」ってあらためて思う。素材は見てわかりやすいけど、味付けと煮詰めの部分は、スペックに現れないし、目にも見えないんでカタログ商品力にはまったくならない。でも、長く寄り添えるバイクってそこが優れてるんですよ。伊藤真一さんが自らアフリカツインを購入し、ことあるごとに褒めてるのは、このエンジンとシャーシと煮詰めっぷりを体感すると良くわかる。

HAWK11は乗り出し140万円後半だけど、シャーシやエンジンのベース素材は、ほぼNT1100ですよ。そしてNT1100ってのは、乗り出し170万円超級のバイクです。アフリカツインだってMTは乗り出し170万くらいになる。つまりHAWK11は25万円以上価格上位のバイクとエンジン、シャーシが同一なんですよね。普通ありえんでしょ?ここでもこのバイクは反主流です。170万円のバイクの素材を使って190万円で出したのではなく、チューニングした上で、特別な外装もつけて、大幅に安い乗り出し140万円台で出したんだから、こんなのメチャ贅沢ですよ。

エンジンが共用化されてるBMWの四輪部門でも「3シリーズの上位モデルより5シリーズの下位モデル買った方が満足できる」ってのが定説だけど、バイクだって、走行質感を左右するのはシャーシとエンジンとサスの質です。今回のHAWK11は、そこをNT1100からグレードダウンしていない。車でいうと上位価格モデルから電子装備取っ払って軽量化し、性能そのままでブレーキとアクセルレスポンス強化して、スタイルを峠使用に換装し、超少量生産で出したってやつになる。車じゃ絶対バカ高モデルとして販売されるだろうけど、バイクだと少量生産なのに標準モデルよりなぜかお安い。ああ、バイクの世界は素晴らしい。

このように素材は文句の付けようがないのだから、あとは味付けと煮詰めはどうよ?ってことになるけど、それもLPLに車体設計部門の大御所を配し、各部門のエース級の若手を登用して、徹底的にケアしたってわけでしょう?素材も贅沢なら製作に携わった人材もまぁ贅沢。これで悪いものが出てくるはずがないでしょ?ってことですが、乗って見るとその通りでした。

HAWK11は年配の人が乗る公道スポーツとしては、性能の落とし所が絶妙だと思うし、ベースが最新の高級アドベンチャーなんで、オールドなネイキッドベースのセパハンモデルには存在しない質感と新鮮さと柔軟性がある。なんか乗ったことあるようで、乗ったことがないシロモノで実に面白いんですよ。特に「え?ワイヤースロットルなの?」と思わせるような自然さと、電スロ特有の解像度を両立させてるスポーツモードは昔のバイクではあり得ない。マジで感動モノの仕上がりです。

・・・・とここまで、生産数と、アフリカツインの流用であることの2点について、前後編に分けて、長々と書いてきました。これらの制約は数が出ないロケットカウルをやめりゃすむことなんですけど、ホンダはそこにこだわって企画し、理詰めで作った結果、この仕様になっているんだと思うんですよね。



あとHAWK11に関することとはちょっと離れますけど、最後にどうしても言いたいことが一つある。今回のディスコンにからむ意見のなかで私が一番「オィィイイイイ!」って思ったのは、

「売れてないから失敗なのだ!」  

って言わんばかりの意見が目についたこと。そりゃ、早期ディスコンってことになれば、そういう意見が出るのもやむを得ないでしょうが、そういう価値観は、あえて売れ筋でない路線を覚悟をもって突き進んだHAWK11の目指した理想と真逆なんですね。それこそこのバイクのコンセプトの全否定になる。

私はバイクに特別な性能を求めなくなり、身の丈を考えるようになって以降、選ぶバイクは大概売れない奴ばっかりになってますけど、別に不人気バイクコレクターじゃありませんから。人気や売れ行きと関係なく欲しいもの選ぶとそうなっちゃうの。私にとって人気や売れ行きは「バイクの良し悪しとまったく関係ないファクター」なんですよ。

販売台数でバイクを評価するなんていうのは、そのバイクの総括として営利企業側が勝手にやればいい。顧客側から見たバイクの評価は、もっともっと内向きでパーソナルなものでいいと考えてます。煎じ詰めると、バイクと顧客の間にあるものって、

「そのバイクで感動を得られたか?」

「そのバイクに満足してるか?」

「そこに共感はあるのか?」


ってことだけ。そのためにはより多くのオーナーの望みや嗜好や個性を拾うために、バイクにも多様性がなくちゃならない。でも、そういうものをメーカーに求めていくべき顧客側が売上重視や利益重視の企業的価値観を掲げてしまったら、ガレージキットや同人誌なんてものはこの世になくなりますし、売れ筋から外れた個性的な商品もなくなっちゃうんですよ。

結果、売上至上主義の蛸壺に入り、業界はどんどんつまらなくなっていく。売上を考えたらマイノリティの好みなんて拾ってられないけど、そんな時代に、マイノリティのためのバイクもあってもいいじゃないか?って企画されたのがHAWK11なわけ。普通はそれやると赤字になるからできないんですけど、今回ホンダは「アーキテクチャープロジェクトっていう訳わからんロジック」で、生産台数を決めて、少ロットで作っても製品保証ができて、メーカーも赤字をこかないようなバイクを作ったわけですよね。それでも、このバイクにかけた時間と手間と関わった人の労力考えたら、生産台数に全然見合わないから、若手の育成とか、いろんな社内的言い訳をプラス面として組み合わせ、やっとのことで実現したってことなんでしょう。そんな努力で様々な逆風を押しのけ、国内メーカーとしては30年ぶりに、この神々しいロケットカウルを頂いたバイクを日本市場に出すことができたわけです。

それって「すげぇ!よくやった!!」って賞賛しこそすれ、ケチつける余地ってどこにもないと思うんですよ。気に食わなかったら、買わなきゃいいんだし、そうじゃないバイクが欲しいのなら「これはこれとして次は大衆に刺さるようなデザインのバイク作ってね♡」って提案すれば良いだけ。

私がなんでこんなに噛みついてるかっていうと、たとえまったく理解されなかったとしても、自らの個性や好きなものをひたすら貫いていくってのは、クリエイティブなものを作るにあたって私自身がとても大事にしている価値観だからです。HAWK11みたいな反主流、反市場主義のバイクを残念認定し、ああしろ、こうしろって言うことは簡単ですけど、それってカタにはまった凄くつまらない世の中を生むと思うんですよ。

私のブログなんか、反主流の典型のようなもんですよ。ブログで取り上げるバイクは売れてないのばっかだし、理解されないオタクネタ入れるし、変なイラストつけるし、エロネタも入れる。エロ入れるとライブドアに表示されないけど無視。収益性もパーフェクトゼロ。そりゃね。売上台数や、発行部数、視聴率、動画閲覧再生数、月のPV数が大事な価値の一つなのはよーくわかりますよ。でもそんなのばかり見ていちゃ息が詰まりませんか?

私がHAWK11を推してるのは、ロケットカウル好きだからってのもあるんですが、利益主義より個人的嗜好を重視した同人誌的な在り方に、私自身が共感してるからなんですよ。私のブログだって見てくれてる人のパイは小さくても「マニアックでアホっぽくて楽しいじゃん」って言ってくれる人が一人でもいれば、それでいいんです。そういうものを否定するのは簡単ですけど、流れに逆らっているものほど、凄い努力して作ってるし、その割にはあっという間に壊れるんで、そっとしておいて欲しいんですよね。

私は、HAWK11という、負けヒロインを過保護なくらい擁護してますが、格好悪いとか、ダサイとか、流用イラネ!とか、広報が気に食わない、とか各々が感じる主観的な要素については、別になにを言って頂いてもかまいません。マイノリティ好きとしては、弱者に対する大人げない死体蹴りも甘んじて受けましょう。消費者ってのはどこまでも自由だし、言論の自由もありますからね。

ただ、いつの世だって、弱者の声は小さくて、周囲の圧倒的な物量に押しつぶされ、やがて消えゆく運命にあるんです。昔は三ない運動で、バイクというもの自体のイメージが非主流だったし、バイク乗りは心のどこかでそれを受け入れ、理解していました。自分達が社会から疎まれているのに、同じ立場にいるバイクを叩いてもしょうがない。だから、不人気モデルも愛をもってイジられていた。報われない不遇のバイクにこそ、仲間意識が芽生えていたまである。でも、今のバイク業界は顧客層が変わり、価値観もずいぶん変わったなって思う。

「成績が良くないと許してもらえない、売れてないから存在自体が残念だ」という価値観を、人や社会にそのまま当てはめたとしたら、とても悲しく、残酷で、殺伐とした世の中になってしまうんじゃないでしょうか。あなたがバイクに対して言ってることを、そのままアナタやアナタの小さなコンテンツに対して当てはめたなら、アナタはどう感じるでしょうか?批判しているアナタだって、どっちかというとHAWK11側の人間なんじゃないですか?

私は自分が成果至上主義の中で否定され続けながら生きてきましたから、そういう価値観はまったくもってこりごりなんです。どっちかというと同類同士、相哀れむってスタンスなんですよね。

HAWK11が売れなくたってディスコンになったって、買わなかった人の人生や生活には1㎜たりとも影響はないでしょう。でもその存在が、どこかの誰かのバイクライフには大きな影響を与えてる。バイクってそういうものなんです。だから、もうちょっと肩の力を抜いてみたらどうでしょう?バイクだって人間だっていろいろ許していけたら、もっと幸せに、もっと楽に生きられるんじゃないかと思うんですよね・・。



・・・ということで、今回は前後編にわたり、長々とテキストを垂れ流して参りましたが、各ブランドがグローバルで販売台数を競っている昨今、利益にまったくといいほど貢献しないロケットカウル装着バイクが、今後国内メーカーから新規でデリバリーされることは望み薄というか、ほぼないでしょう。当然、残存個体数は減る一方で、乗り手の専用バイクに近い状態になっていく。しかし、それこそが

「変態の望み!」

「変態の夢!!」

「変態の業!!!」


そう、ロケットカウルのHAWK11こそ真性ボッチの友であり、闇に潜む名状しがたきモブ野郎、へっちまんのスポーツバイクとしてピッタリの存在なんですよね。








(オマケ漫画「負けヒロインの肖像」)
エロ要員2
(負けヒロイン属性てんこ盛り。女キャラが4人も出てくる漫画において、いじられ役とエロ要員は超貴重。がんばれ!!)