うちのヴィーセ・モトグチ嬢が納車されて11ヶ月が経ちました。納車されたのは昨年の6月後半ですが、このブログに登場させたのは秋のヘッダーと同時でしたから9月15日。ブログ数ではまだトータル10記事くらいしかないんですよね。「バイク業界の特殊部落民」たるモトグッチ乗りの一人として、情報発信が遅々として進まないのは大変申し訳ないところ。

このワタクシめも納車段階から、この謎バイクを理解するべく、いろいろとアプローチしてるわけですけど、バイクは慣らし中だし、ただでさえニブチンの私も手探りだしで、なかなかお互いがガッチリ手を取り合うことができません。

そんな状態の中、新車から数千㎞は自分の中でのバイクの印象が大きく変わっていくので、納車しばらくはV7をブログに登場させてなかったんですよね。納車されてから慣らしの間は、とにかくエンジン周りが重くて、石臼のようにゴリゴリと回る重量級クランクの回転と、硬質で男性臭い「アニキ~」って感じのピストン運動とで、「ううん、こいつはイタリア生まれのハードゲイかな・・?」って感じてたんですよ。

DSC_3488(4月中旬の写真。新緑が綺麗です。)

でも、3000㎞ほど走った頃には、それが随分回るようになって、縦置きエンジン独特のコーナリングも相まって「ああ、これはレシプロ戦闘機だな~・・」って認識が変化した。それが数回前のインプレ。でも残念ながら、このバイクは、その時点でもまだまだ本来の姿を見せてなかったんですね。

余談ですが、バイクが納車されてしばらくの間はバイクだけでなく、乗り手である私の気持ちも心電図みたいな動きをするのが定番です。最初の頃はずんだもんみたいに「ふふふ、やはりバイクは慣らしが大事なのだ♡」って独りごちつつ、大人しく乗ってるわけですが、慣らしが終わると、そのバイクのことを隅々まで知りたくなる衝動が一気にドッと押し寄せる。慣らしでずーっと我慢してた「アクセル開けたい」欲求の爆発もあって、やめときゃいいのに自分で私的な性能評価をやりだすんですよね。それが最初の心電図の山です。もう発情期の犬のようにハァハァ盛りつつ、流してみたり、シゴいてみたり、走る回転域をあえて変え、アベレージも・・・、ってことで、いろいろやり出す。そして、この時期が実にヤバいんですよ。私の歴史的上では、この最初のお気持ちの盛り上がりの頂点でいきなり大転倒し、バイクが

「トランスフォーム☆鉄屑☆」

になる悲劇が何回か起こってます。私がバイク歴の割にやたらめったら所有台数が多いのは、「高価買い取りバイク王」ならぬ「短期大事故廃車王」だからなのですよ。で、頂点まで盛り上がったお気持ちグラフはこの瞬間ナイヤガラのように急降下し、心肺停止のお通夜状態・・そして残クレジットのみが残った・・・、という諸行無常な状態に陥るんですねぇ。まるで「人生ゲームで、スタート最初のマスで貧民農場に送られた」みたいな衝撃。テンカウントどころではなく、レフェリーが凄い勢いで割って入ってのTKO。泡吹いて担架で退場。

まぁ公道で事故10回もやる奴ってのは、なにかしらメンタルに欠陥があるんですね。学習力がないっていうか、頭がおかしいんですよ。最近では、※のじゃ子(HAWK11)も車との接触事故に見舞われて、トコロテン式にストリートトリプルを手放すという悲劇がありました。たまたま焼け太ったとはいえ、これもお試し期間中の事故。バイクは、この「慣らし後、気持ちが浮ついてる中で行う私的性能評価期間が一番ヤバイ」んです。バイクとの対話がまだ不完全なまま、自らがテストライダーとなって性能評価をしようとするのが、そもそもの間違いなんですが、その後の関係を築くためにどこかで一通りの走りをやらなきゃならないんで、ヤメロといわれてもなかなかやめられないんです。

とりあえず、私とヴィーセは、そういう危険な期間は無事乗り越え、今は「あ~、私とアナタは、この付き合い方が一番良さそうね。」っていう走り方を探ってく段階に入ってます。一通りいろいろやってみた結果、相互理解がそれなりに進み、ようやく手をつなげるかなってところまで来た感じ。まぁ恋人つなぎにはまだまだですが、これからバイクと乗り手が少しずつ手を絡めて、ネットリしっぽりとしたキモい関係に移っていこうとしています。

変質者のように私からバイクににじり寄っていく一方、バイクの方も5000㎞を超え、2回目のオイル交換のあたりから、クランクの回り方やピストンの上下動がさらにスムースになり、もはや「まろやか」といって良いレベルになってきました。加えて、路面の突き上げで跳ね気味だったリアサスも、柔軟に動くようになってきて、当初のハードゲイな印象は見事に消え去り、ソリッドな戦闘機感も薄らいできた。頑なな鎧をキャスト・オフしたら、中からレトロな優しさが出てきた感じがある。「むぅ・・徐々に本来の姿が見せてきたのかニャ・・」って感じてる今日この頃なんです。

で、今の段階で、印象はどのように変わったのか?得意のアニメで表現すると以前のヴィーセ・モトグチは「ミト爺の乗る風の谷のガンシップ」みたいだった。しかし5000kmを超え、バイクがたおやかでしなやかになってきたら、「これはガンシップじゃなくて、実はメーヴェみたいなものなんじゃないのか・・?」って思うようになったんですよ。

メーヴェとガンシップ2(メーヴェとガンシップのスケールモデル。写真はいずれもプレミアムバンダイのホームページからの転載です。)

ただし、誤解していただきたくないのはメーヴェはメーヴェでも

「ナウシカが乗っているのではございません」

モトグッチV7は同じメーヴェでも

「ミト爺が乗ってますから」

そこはガンシップだろうが、メーヴェだろうが残念ながら変わらない。

「オィィィイイイ!!メーヴェにミト爺は世界観がおかしいだろ!!王蟲に潰されろ!!」

って言う人、黙らっしゃい!!!あれはね。メーヴェに乗ってるナウシカの方がおかしいんですよっ!メーヴェこそ、風の谷の「シニアプレーン」じゃないですか!安全装備ゼロ。命綱ないから手を離したら死にますんで、天国に一番近いんですよ。あんなのでブッ飛ばすのは、もはやカウルのないスクーターで300km/h出すのと同じで自殺行為ですよ。冷静な目で見ればメーヴェは「リタイヤした歴戦シニアのお散歩プレーン」としてしか成立しない企画なんです。バイクでいうとチョイノリですな。
チョイノリ
(ガンシップがスーパースポーツだとしたら、メーヴェはこれです。)

そんなメーヴェで王蟲の群れにツッコむなんてのは大型トラックの群れにチョイノリで挑むみたいなもんですよ。完全に頭のネジがぶっ飛んでる。アニメ見るとゴーグルすら未装備で、こやつ眼球が鉄でできてるのか?って思う。しかも、バーを握っただけで高速機動しまくるという恐ろしさ。もうね。腕力と握力どんだけだけあるんだと。姫様、絶対素手でリンゴ潰せるでしょ?ナウシカが嫁さんになったら、お仕置きはアイアンクローで確定。

しかも、見てくださいよ。この飛行スタイル。

メーヴェ

これはね。まさにバイク乗り伝説の「水平乗り」以外のナニモノでもない。

M

こんな乗り方する奴見たのは、昭和30年代のカミナリ族の写真以来ですよ。これをヒロインにやらせたところが凄すぎる。劇中にキャッキャウフフも全然ないし「君は女子である必要あるのかな?」って正直思うわけですよ。しかし、ナウシカが女子なのには明確な理由がある。

宮崎駿の格言に「タイトルに女子名を持ってこない作品は売れない」ってのがあります。その法則をクリアする為にナウシカは、あくまでも大人の階段を上がる前の少女でなくてはならなかったし、もののけ姫はアシタカ戦記ではダメだった。私のブログのバイク達が全員女子設定なのも、モトブロガー女子の再生数が伸びるのも理由はみーんな同じ。メインが女子ってだけで人気がドーンとアップする。だから女子にしない理由は何一つない。昭和から令和に時代が変わっても、その法則は脈々と生き続けてるってことなんです。

この法則に従って、ステが振り切れた覚醒勇者を乙女に改造した無敵ヒロイン。それがナウシカ。まさに宮崎駿の約束された勝利の剣です。王蟲なんて巨大ダンゴムシの血で染まった服を愛用してる時点で、あまりに猟奇的。メンタル鬼です。私がムシの体液に染まった革ジャンで玄関に現れたら絶対家に入れて貰えないけど、ナウシカだと皆が涙流して崇めはじめるという世界の不条理。

まぁ原作の宮崎駿が完全な昭和のおっさんなんで、ナウシカも成長したらラピュタのドーラみたいな「おっさんババァ」になるのは予定調和なんですよ。空中海賊のドーラの若い頃ってナウシカみたいだし。そこは、うちのヴィーセだって同じ。乗り味がガンシップからメーヴェになっても、中に巣くうものは「昭和のおっさん」なのです。

ドーラ
(宮崎駿のメタモルフォーゼが存分に発揮されたラピュタのドーラ。同一人物。50歳の方が髪をピンクにしたりイヤリング付けたり少女趣味なのが心底、恐ろしい・・。)

話が大きく逸れましたが、ヴィーセのどこら辺がメーヴェなのかというと、あらゆる面で固さがなくなって、舞い方がふんわり優雅で華麗になってきてるところですよ。そもそもウチのヴィーセはコーナーにハードにツッコむような乗り方はできません。同じV7でもSTONEじゃなくてスペシャルなんで、フロント周りがクラシックな優しさに満ちてるんですよね。STONEはフロントはキャストホイールにチューブレスタイヤですが、スペシャルは「スポークホイール&チューブタイヤ」なんですよ。でフロントサスもやわっこく、ブレーキも初期タッチがとても優しい握り込みタイプ。つまりフロント周りの味付けが「凄~くオールドで優しい」設定なんです。私は既に現代技術の化身であるストリートトリプルやHAWK11を味わってるから、V7では「遙か昔の時代劇みたいな立ち回り」を味わいたかった。そのため、このV7のフロントの仕立てはかなり魅力的だったんですよね。スポークホイールは乗り味が実にたおやかなんですけど、コストがかかるから、採用してるバイクもどんどん減ってる。まぁこの手のは「買えるうちに買っておこう」ってことです。

前述したように、V7はフロントの感触がとっても柔らかい一方で、納車時はエンジンもリアサスも硬めの印象だったから、フロントから感じるタッチに対して、アンバランスな感覚がありました。でも、エンジンとリアサスにアタリがついてきて、フロントの柔らかさと動力系のフィーリングがリンクするようになってくると、バイク全体の感触が見事に統一されてきたんです。

特にエンジンが軽くなって高回転を気兼ねなく常用できるようになってからのスポーツ走行は「鼻の詰まりがスッキリと通っていく」ような気持ちよさが出てきました。4000回転から5000回転あたりを軸に走ると、このバイクはマジで走りっぷりが良いし、気持ちいい。そしてそこでもたいしてパワーがあるわけじゃないからリラックスして走れます。

モトグッチのVツインは、低回転ではピストンの爆発力と回転抵抗がバイクの加減速を制御してますけど、4000回転を超えてくると、重量級クランクの慣性力がエンジン回転を制御するようになってくる。高回転領域に入ると、クランクの回転慣性によって加減速のトゲが削られ、重いものを回転軸に置いていることを強く意識させるパワーデリバリーになるんです。この慣性に支配された加減速感と柔らかい足回りが独特の滑空感を生み出してるんですね。

バイクって摩擦によって大地につなぎ止められてて、姿勢制御もブレーキローターを挟むブレーキパッドの摩擦やエンジン内の摩擦による加速減速Gのメリハリでやってるところがあるので、極論すると摩擦抵抗を存分に利用する乗り物であるといえます。高性能バイクになるほどその摩擦のメリハリが明確で緻密になってくる傾向がありますが、モトグッチは一番気持ちの良い領域で、それがどんどん薄くなるから、ハイグリップタイヤを大地に張りつかせ、地を這うヘビのような走りを見せたストリートトリプルRSと比べると、接地感はちゃんとあるのに、まるで空を飛んでるような錯覚にとらわれる。

「いやいや普通のバイクでそんな滑空感出してちゃコーナーでは曲がんなくて刺さっちゃうでしょ?おじいちゃん」っておっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、なんせコイツは縦置きエンジンですから。

縦置きエンジンはその特性上、リーン方向の抵抗が極めて少ないため、倒す際のきっかけなんぞ最小限でいいんです。だから、高速域でもV7の僅かの減速Gで軽々とロールに入っていく。バイクならリーンっていうべきなんだろうけど、モトグッチだけは航空機っぽくロールって呼びたい。だってこのロール感が気持ちいいんだから。コーナーに向かってバイクを素早くロールさせると、それと同時に綺麗に舵角が入り旋回がはじまる。これはもう完全にヒコーキですよ。この「滑らかなロールから無理なく旋回に入る感じ」がきんつば嬢を含めたエンジン縦置きバイクのたまんないところです。

V7の走りの特徴である「バイクが生み出す慣性力に乗っていく」ってことは「乗り手が慣性から生まれる自然な動きに逆らったり流れを止めたりしない」ってことで、それをしっかりとやらないといけないのがこのバイクの難しさ、楽しさに繋がってると思う。流れを止めないためにコーナーの曲率や障害物を先読みした走行を心がけ、レスポンスを維持するためにバンク中だろうがなんだろうが、きっちり回転合わせをしたギアシフトでエアがエンジンに綺麗に流れる回転域たもつ。単板式の乾式クラッチにシャフトドライブだから、クラッチ操作の荒さや回転あわせの雑さをバイクが一切見逃しません。

やわっこいフロントのノーズダイブを殺したり、コーナーでの微妙な速度コントロールするのにリアブレーキも駆使する必要があるし、コーナー入り口でロールさせても、ハンドルに力が入ってると、舵がうまく入らないから、ハンドルに力を入れないことも大事になる。これらのことは、特別なことじゃないんだけど、このバイクで滑らかに走ろうと思ったら、当たり前のことを高いレベルで実行する必要があるんです。それは簡単なことのようで、全部を完璧に統合しようとすると果てのない難しさがある。

このバイクは障子のホコリを見逃さない姑のように、そのちょっとのアラを見逃さず「はい減点!はい失格!!」ってあっさり流れを切ってくるんで「アガァァァアアア!!」ってなる。基本操作に一切の補正がないから乗り手の技術が赤裸々に出ちゃう。こんなのバイクが試験官のセルフ限定解除試験みたいなもんですよ。こいつでワインディングを綺麗に美しい軌道で走ることができれば、大型乗りとしては、ほぼ免許皆伝じゃないでしょうか。

このようにヴィーセは「スピードより走りの滑らかさと美しさで気持ちよくなりましょーー♡」っていう普通のスポーツバイクとベクトルが違うところに走りの価値を置いてる気がするんです。ハイテクに任せた強引な走りは一切通用せず、バイクとの一体感が何より重要。これは間違いなくイタリア人が目指した美しい走りの姿であり、公道でのスポーツ走行の一つの落とし所だと思う。古い足回りと空冷のOHVエンジンでは、とびきり速いものは作れない。「ならばバイクと共に美しくあれ。」っていう古典美の追求がここにある。

昔のやんちゃな時代と違い、今の多くの人達は公道でのスポーツ走行を「100%でゴリゴリと殴り合い、バイクをシゴきあうことではない。」ってのは理解しているはず。「じゃあ、スピードじゃなくて何を磨くの?」「スピードに依存しないスポーツってなんなの?」ってなると、多くの乗り手が、その答えをなかなか見つけられず袋小路に入っていく。そんな中で、ヴィーセに乗ると「スポーツとはクレバーで調律した美しい走りを目指すことなのだ。」と、諭されている気がしてくるんですね。

「バイクの世界は多様だな・・」ってヴィーセに乗ると改めて感じます。今はハイテク満載で機械が人にあわせてくれるようになったけど、機械が人にすり寄って来なかった時代の頑固なバイクがモトグッチです。人によってはV7はローテクで古くさいバイクに過ぎないと思うけど、それ故に人とバイクの関係はシンプルで、ゆっくりとしていて、かつ濃密なんですね。

現代はスピード感とインパクトがなにより大事で、バイクの走りもそれに応じて「短い時間でも最高のエンタメを!」みたいなところがあります。高額モデルが多くなり、乗り手のために至れり尽くせりで、ハイスペックなニューモデルが続々出てきて実に華やか。でも華やかなものって、すぐに次の華やかさが欲しくなる。

私はそんな喧噪と離れて引きこもり、自分とバイクの間に流れる時間をもっともっとシンプルで、ゆっくりとしたものにしたいんです。V7はそんなスローライフな気分に見事にハマってくれる。ただ、気楽に付き合える「うっかり八兵衛」枠で購入したのに、ダイナと並んで、とてもめんどくさくて、やっかいな存在になりそうなところがちょっと困ったところです(笑)



オマケ漫画「直せない欠点」
頭が悪い