ゴールドウィングを眺めてると「うーん、ホントコイツって何なんだろうなぁ・・」と思うことがあります。

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ハーレーのウルトラって「アメリカンクルーザーの王者」みたいなバイクですけど、王者の根拠ってハッキリしてて、ハーレーの最もお高い豪華仕様フルドレスってことなんですよね。乱暴に言えば、ロードキングにヤッコカウルとオーディオを付けて強化するとストリートグライドになり、豪華タンデムシートとトップケースをつけ、さらなる強まりをみせるとウルトラになるって理屈です。要は「ローキンをつよつよにした」のがウルトラってことなんですよ。だから眺めてても存在意義や形の在り方、ヒエラルキーがわかりやすい。

また、同じくゴールドウィングのライバルであるヨーロピアンツアラーの雄、BMWのK1600やR1250RTも、見てすぐ納得できるものがあります。確かにエンジンは直列6気筒やフラットツインだし、フロントサスはデュオレバーとかパラレバーとBMW独特のものですけど、全体的なスタイリングは、我々が長年慣れ親しんできた「伝統のスポーツツアラー」そのもの。で、車体もデカく、排気量もパワーもあるわけですから、スポーツ・ツアラーの王者ってことで、これも出自、ヒエラルキー共に明確なんですよね。スタイリング見るだけで「あ~、こんなの絶対走るに決まってますわ~」って思うわけですよ。

これに対して、ゴールドウィングって、かなり長い歴史があるわけですけど、ヒエラルキーが成立していないんですよ。ゴールドウィングがぽつんとあって、その下がないんです。他メーカーひっくるめても、ゴールドウィングの亜流とか、下に位置するバイクがまったく思い浮かばない。

ゴールドウィングって、恐れ多くもホンダのフラッグシップだから、無条件に支持されちゃってるところがありますけど、機構的に言えばモトグッチすら裸足で逃げ出す「スーパー・ド変態バイク」なんですよ。モトグッチV7を買って、「あーこれはなかなかの変態ですわ~」なんて言ってますけど、そこからふとゴールドウィングに目をやると「いや・・もっとヤバい変態がここにおるのではないか?・・」ってアゴに手を当ててジト目になっちゃうんですよね。

国内メーカーでは一昔前のスズキが、よく変態って言われてましたけど、スズキがデリバリーする変態モデルは、チーズにくっついてる青カビと同様、独特のアクとスズキ臭を漂わせることにより、その風味にやられた狂信者を多数生み出す仕組みです。これが鈴菌の呼称でカビ呼ばわりされる所以でもある。

ガワが強烈に匂い立つ一方で、中身の機構は割とオーソドックスで、乗り味は凄くまっとうだったりするんです。私から見るとそんなスズキのバイクは「変態教育を受けた一般人」って感じ。正しい血統で生まれたけど、その後に鈴木修を神と崇める革命思想教育を受け、キャラと性癖がヤバヤバのヤバになって登場したってやつです。鳥居インパルスだって、菌王(B-KING)だって、SW-1だって、GS1200SSだってそんな感じ。

でもね。ホンダが作る変態はちょっと違うんですよ。ホンダはかなり業が深くて「変態をクソ真面目に作ってくる」メーカーなんです。肩の力を抜かずに変態を作る結果、真性変態が爆誕してしまう。

ホンダの市販エンジンの歴史を紐解くと、空冷で6発をやっちまった「CBX1000」とか、2ストロークV型3気筒の「MVX250」とか、モトグッチと同じく縦Vの「GL400」とか、楕円ピストンの「NR750」とか、よくもまぁこんなの市販したな(呆然)っていう香ばしいのが次々と湧いてくる。

ちなみに、ゴールドウィングSC47(2001~)からSC79(2017~)に至るまでの約17年間はホンダが大型変態クルーザー攻勢をかけた時期でもありました。それがこちら。


DN-01(2008年)

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NM4(2014年)

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CTX1300(2014年)

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「ふわぁぁぁぁあああ!!ナニコレ?なんなの?」って腰が引ける人もいるかもしれないけど、こういう変わったデザインのスポーツクルーザー系バイクがこの時期に次々と発売されていたんですよ。ちなみにF6Bもこの流れで2013年に発売されてるんですが、コイツらみーんなあんまり売れてない。この頃はハーレーが鬼つよだったってのもあって、もう爆死に近い奴もある。とはいっても、売れなかったのにはちゃんと理由があるわけで、それを分析してみたいと思います。

まずはDN-01。コイツは片持ちシャフトドライブ、HFTという特殊オートマ搭載のフルカウル・クルーザーです。要素だけをつまめば「AT+殿様乗り+ステップボード」で街中を優雅にさらりと流す着流しの旦那仕様。しかし、その実態は、着流しどころか、ツルリとした外装に荷掛フックも小物入れもなく、積載能力が皆無の全身レオタード。「ポケットも何もないピチピチタイツで走って行け!」ってことだった。ああ、なんと傲慢なのだろう。造形ラインは美しい。しかし、それ故に北斗の拳のユダのように「美しければ全てが許される♡」というナルシズムにどっぷり浸ってしまったきらいがある。そのデザインの汚れのなさは、汚れた魂のバイク乗りにはいささか透明度が高すぎた。まさに

「白河の清きに魚の住みかねて・・」

ホンダの力の入れ方に反して、乗ってる人が仮面ライダー・ディケイド以外に想像しにくいという「想定ターゲット層がハッキリしない」バイクになってしまったんですね。綺麗なバイクだとは思いますけど、「自分は、これに乗れるほどオシャレじゃないな・・」と私なんかは尻込みしちゃう。販売上も歴史的な爆死を見せ、2年でディスコンになりました。南無です。

お次のNM4は「好きなら買い、刺さらなければスルー。それでいい。」という考え方がHAWK11にも通じるバイク。狙ったユーザー層はリアルロボット系アニメオタク、SFオタク、珍しいもの好き。想定顧客が大概変態だからバイクも変態でまったく差し支えない。このバイクは「アムロ、行きまーす!!」って叫びつつアクセル捻るだけで幸せになれる。私の周りでもタマ~に走ってるの見ますけど、すれ違うと「おおおおおーーーっ、キターーーッ!!」て嬉しくなる。すれ違うだけでアニメ好きを幸せにする何かがこのバイクにはあるんですよ。あと20歳若かったら買ったかも。結構長くラインナップされてたところを見ると、コツコツと売れていたんじゃないでしょうか。

そして最後、CTX1300。モトグッチが変態呼ばわりされるのは縦Vだからですけど、こいつはなんと前代未聞の縦V4のスーパー変態バイク。これ、ヨーロッパで売ってたST1300のV4エンジンを縦に積んでるんですけど、必然性がよくわかんない。「オィィイイ!!なんでこうなった?クソ地味なCTXを派手にしたかったの?」ってツッコんだ人もいると思うんですよ。

で、このブログ書くにあたって過去のCTX1300の情報をネット検索で調べてみたんです。そしたら開発者の対談があって、どうやら縦V4の理由は「だって格好いいじゃん」ってことだったらしい。「クォラァアアア!!ほんまにそんなアホな理由やったんかいィィイイイ!!」って画面に頭突きの連打を浴びせそうになりましたが、まぁいいでしょう。積んだ理由が「積みたいから♡」ってのはいっそ清々しいし、それ以上何も言えねぇ。ただ、実際積むとなったら、かなり苦労したんじゃないかと思いますよね。だってCTXみたいな高さのないデザインに巨大なV4押し込んだらタンクやエアクリーナーのスペースがメチャメチャキツイ。スーパーのレジ打ちおばちゃんが買い物カゴに芸術的に食材を押し込むような詰め込みのセンスが必要になる。

CTX1300は変態層が好みそうな面白いバイクだと思うんだけど、価格が凄く高かったんですよ。オートキャンセルのウィンカーとかスピーカーとか、グリップヒーター、ETC、盗難防止装置などの高級装備をてんこ盛りにした結果、価格は約190万円。車重は338㎏。価格も車重も前年度に出たゴールドウィングのバガー仕様、F6Bに負けないレベルになっちゃってるんですよね。ホンダとしてはかなり力の入ったクルーザーでしたが、あえなく轟沈しております。

まぁ結果を見れば割と悲惨なんですけど、コイツらの共通点は、アメリカンでもなくヨーロピアンでもない、一見すると「近未来スクーター」にも見えるような、独自性の高いスタイリングでしょう。これら一連のニューデザインの商品群は、保守的なクルーザー市場においては、あまりウケが良いとはいえなかった。でもホンダはこのクルーザースタイルを定着させるべく、この時期やたらしつこく出してきてるんです。その戦略は販売上は上手くいったとはいえないけど、そのノウハウは、それ以後のバイク達に確実に受け継がれていったという印象があります。

例えばシートを思いっきり下げ、そこからタンクに向かって急激に傾斜を立ち上げ、ステアリングにつなげるNM4の特徴的なデザインは、その後に発売された「レブル250」に影響を色濃く残していると感じるんですよね。

NM4+レブル
(NM4とレブル250の比較。レブル250は独自性の高い小型クルーザーとして、スーパー大ヒットしてますが、着座位置やタンクの傾斜、ネック部分の高低差の処理などに、NM4の美学が注入されていると感じる。)

ホンダの変態系バイクは出てきた時には、その必然性がわからないものが多かったりするけど、何十年か経って振り返ってみると、それが今のスタンダードにおんぶお化けのように憑依していたりするんです。「ああ、こいつ・・消えたと思ったらこんなところに取り憑いていたのか・・」ってビックリするんですよね。ホンダは一度ダメでも、手を替え品を替え、次に生かしてくるしつこさがある。

その視点でSC79のゴールドウィングを見ると、巨大で押し出しの効くそれまでのアメリカンクルーザーから脱却し、大きなエンジンを押し込みながら可能な限りスリム&コンパクトに仕上げています。それはホンダが新世代クルーザーで目指していたコンセプトそのものであり、ゆったりした低速クルージングから、たっぷり余裕を持たせた高速巡航、そして一定のスポーツ走行までこなす、SC79の何でもござれの万能性は、これらの次世代クルーザー達が探求していたスポーツクルーザー的な気持ちよさと、ゴールドウィングが長年育んできたアメリカ的なクルージングの融合だと感じるんですよね。

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(SC79ゴールドウィング。SC68に比べると、徹底して無駄を削いで車体をシェイプしているから、走りの緻密さとしっかり感が圧倒的に上がってる。結果、アメリカンなクルージングも、ヨーロピアンな高速走行も、荷物満載の2ケツ走行も何でもこなすスーパー万能バイクに仕上がってます。)

先代モデルのSC68は「ホンダの持つアメリカンクルーザーの技術を超熟成したもの」と感じるところがありましたが、SC79はこれまでと違い、新しいステージに踏み出していると感じる。そこにはホンダがこの20年間、あきらめることなく市場に問い続けてきた新たなクルーザー像とそのノウハウが凝縮してる。変態バイクたちによって生み出され、育くまれてきたものに、水平対向6気筒というゴールドウィングのアイデンティティを組み合わせると、あら不思議、SC79になるんです。

ほとんどが一代限りで終わるという「変態の壁」に跳ね返され、消えていった多くの英霊達の霊魂を取り込んで生まれた変態バイク。それがゴールドウイングではなかろうか?それはまさに、変態バイクの卒塔婆。それ故に孤高であり、フラッグシップにもかかわらず、ヒエラルキーの枠外に存在しているんだと思う。

そんなゴールドウィングにはモトグッチV7と同様「歴史ある変態」の称号を捧げたい。ただし、この2台は同じ縦置エンジンを積む変態バイクでも、その存在意義はまったくの正反対。古き良きイタリアの変態道を時代の逆風に耐えて守り続けるV7に対し、ゴールドウィングは「最先端の変態たらん」と常に前進を続けている。

ホンダ変態ラインの中で唯一、一代限りを宿命づけられた「変態の壁」を突き破り、散っていった多くの英霊達が残した価値を拾い集めながら、その頂点として君臨する黄金の翼。そびえ立つその巨大な体躯は、まさに「変態バイクの総本山」。それが私にとってのSC79ゴールドウイングなのですね。


オマケ漫画「特級禍呪怨霊」
禍呪怨霊・ペン入れ2

(きんつば嬢に憑依する過去の英霊達。いろんなものを贄としながら進化を続ける呪物のようなフラッグシップ。この成り立ちの特殊性は、なかなか他メーカーはマネできない。)