春になって、路面温度も上がり、私のホームコースもそろそろスポーツ走行によろしい季節となってまいりました。雪どけ水が路面を横切るという困った状態も大部分が解消。冬の間に散らばった小石や砂利が路面上にまだ少々残っているし、路肩のヘリには水たまりもあるけど、私のホームワインディングのコンディションは「中の上」ってところです。

最近は茶の間で寝落ちし、朝5時前くらいに目覚めて、朝走りすることが多くなってます(笑)日中の気温は20度くらいまで上がっても、山の朝はまだ10℃以下。ただ冬の時期より明らかに空気は柔らかくなってて、春だなぁ・・って思う。そして、日の出とともに気温は一気に上がります。光が満ちるに従って、みるみる暖かくなるのはちょっと感動。HAWK11の履くダンロップのGPR-300は多少低めの気温でも十分な手応えがあるから、寒暖差が多少あっても特段支障はありません。

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(日の出を横目にガレージから出撃。朝焼けのオレンジが美しすぎてメトロン星人を召喚したくなる。

今回はHAWK11の純正タイヤのGPR-300をネタにするわけですけど、それを語るにあたっては、どうしてもストリートトリプルRSの純正装着タイヤ、スパコル様との比較は避けて通れない。ピレリのフラッグシップタイヤであるスパコル様は、今思い返してみても凄いタイヤで、私の走る箱庭のようなワインディングロードなどは、このタイヤにとって遊園地のゴーカート場のようなものでした。

「こんなところでは性能の一部しか発揮できませぬ。」

とばかりに過剰性能ぶりを存分に見せつけた。絶対的なグリップ力もさることながら、コーナー入ったときの盤石の手応えと、その時の車体の安定感並びに旋回力が素晴らしく、もう尻落としてタイヤのヘリに荷重かけてコーナー入るだけでビタビタに姿勢決まっちゃって、もう脳死で出口に向かってアヒャヒャと開けるだけ。

私が走る山道はコーナーの曲率が高く、高速コーナーがほとんどないコースなので、高負荷をかけることはできないんですけど、それでも体感的に「こりゃフツーのタイヤじゃねぇぞ!」ってのは十分理解できました。通常のタイヤであればアクセル開けるに従って増していくはずのアンダーが、負荷に応じてグングン高まる旋回性に吸収されちゃうから、コーナーはまさに電車道。コーナリングスピードが速いってだけでなく、一つ一つの所作がビシッと決まってるし、キレの良さと安定感が両立しているしで、まるで歴戦の傭兵に守られているような無敵感。「これが現代の第一線級スポーツタイヤの性能なのか・・?」と、ガンダムを見る旧ザク乗りのような気分になったものです。

しかし、そんな異次元のコーナリング性能は、これまた異次元のハイコストと、乗り味のソリッドさとのバーターでもありました。タイヤの減りの速さは尋常じゃなかったし、僅かな路面状況を乗り手に繊細かつ的確に伝えてくれるというタイヤの特性は、裏を返せば、バイクが受ける過度な衝撃が「乗り手にダイレクトにフィードバックされる」という「Gガンダムのモビルトレースシステム」のような乗り味を生んでいたのです。エグい突き上げが続くワインディングでは、剛性感の塊のようなバイクはともかく、剛性が微塵もない私の腰はあっという間にデストロイ。

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(桜の舞い散る中佇む、在りし日のストリートトリプルRS。なまくらな使い手に銘刀の切れ味。まさに豚に真珠。)

勇ましいエンジン音をバックミュージックにして、常にバイクが「ファイトォォオオオオ!!イッパァァァアアアアツ!!」って吠えまくってるわけですよ。私自身は同じスポーツでも女子バレー部のランニングみたいに「ファイト♡ファイト♡」って乳揺らしながら走る感じがありがたかったんですが、スポーツブラ装着型格闘女子を地で行くストリートトリプルRSにそんな艶っけは微塵もなかった。

ストリートトリプルRSは久方ぶりに私が経験した「マジもんとの遭遇」だったといえます。これは間違いなく「まだあっち側の世界にいらっしゃる方々に売るバイク」でした。なんせ、トライアンフのアナウンスは、「公道を走れるMoto2マシン」だったわけですから、そこにキャッキャ♡ウフフ♡はございません。そんなバイクに3年間乗り、体育会系の往復ビンタを浴び続けた私は、いつしか、

「今の自分と環境にとって一番良いスポーツバイクってどんなものなのかなぁ・・?」

という思いを抱くようになっていたんです。

昔だったら何の疑いもなく、高い頂に向けて届かぬ努力を続けていたかもしれませんが、どんなに頑張っても届かないものは届かない。オッサンは自分に対する見切りが早いですから。そう、20年以上の月日は、私を「自分や自分のいる環境を基点にモノを見る自己中な消費者」に変えていたんですね。

そもそも私が走ってる峠道はサーキットとはまったく違い、路面環境が千変万化してます。環境が一定せず、前提条件が変化しつづけていくんだからベストなセッティングなんぞ出しようがないんですね。

サーキットを想定したスポーツサスやタイヤは一定の条件下でピンポイントで最高性能を叩き出すというコンセプトだから、曖昧さがないんです。その結果、舗装が荒れた山のワインディング路面だと、性能以外の衝撃吸収性や乗り心地の面で非常にお辛いことになる。そう、サーキットと私のホームの環境は

穢れなき白いリングと汚部屋くらいの差がある

白いマットのジャングルで技能を駆使して戦うファイターを、汚部屋に放り込んで何でもアリのキャットファイトをやらせようってわけですから、もはやグダグダ。しかも乗り手が私じゃ、色モノショーになるのは必然だったかもしれない。

ザラブ嬢に乗ってみて、ガチ系SSをを公道で走らせるというのは、「理想と現実のギャップを受け入れながら走るってことなんだな・・」って改めて感じた次第。その矛盾を解消しようとすれば、サーキット御用達バイクとして徹底的に理想を追っていくか、一定の妥協をしつつ、自らの走る環境で現実的なバイクを選択していくのか。いつか乗り手はその2択を迫られるのでしょう。

そこでふと販売されているバイク達を見渡してみると、リッタークラスのセパハンスポーツで私の住む汚部屋を走れそうなバイクってほとんどないんですよね。HAWK11と似たコンセプトのバイクをあえて上げると、ドカのスーパースポーツ950くらいかもしれない。でも、あれはシャアが赤のパイロットスーツ着て乗るバイクで、私のような一般兵が乗るバイクではないんですよ。

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(桜とHAWK11。今年は桜の見頃に晴れた日が多く、走りながら、たっぷり桜を堪能できた気がします。)

HAWK11が登場したとき、「大人のロードスポーツ」「上がりのスポーツバイク」というキャッチコピーがいろいろと物議を醸しましたが、私は決してHAWK11を「上がりのバイク」として選択したわけではなかったんです。リッタークラスのセパハンスポーツでありながら、明らかに「ベストではなく、公道でのモアベターを狙ってるバイクだ・・・これならきっと汚部屋も存分に走れる」と感じたから手が伸びたところがある。なんせ元がアフリカツイン、泥世界の王者ともいえるバイクがベースなんだから。

そんな※のじゃ子に装着されてるGPR-300って、ダンロップのホームページではハイグリップタイヤどころか、「街乗りタイヤ」扱いなんですよ(笑)

GPR-300は小中排気量車のスポーツバイクに採用が多いんですけど、それは「200㎞以上の高負荷領域を捨て、環境適応性を上げてる」からだと思う。大型免許が取りやすくなった現状で、250CCや400CCのスポーツバイクをリミッターカットして200㎞以上を狙う人はほとんどいないはずだし、日本専用販売のHAWK11もリミッターがあるからその領域は捨ててかまわない。

その分、タイヤの剛性を落とし、公道適応性を上げる方向にリソースを使えるから、乗り心地も良いし、持ちも良くなる。実際フロントはスパコル様の倍以上持つし、タイヤ価格も前後交換工賃込みでスパコルの9万円に対して6万円くらい。倍以上持って、価格は2/3なんだから、経済性は大変よろしい。いろんな車種への採用が多いのは癖がなく、性能も十分でタイヤのバランスが良いことの裏返しでしょう。

で、このタイヤで私なりに峠をシゴいた印象ですが・・・

・・ううん、とってもイイですぅ・・

それは一度使い切って、同銘柄をもう一度入れたことからもあきらか。ホームコース走ってても街乗りタイヤを意識したことはほとんどないんですよね。つまり十分。

「はぁああ!?リッタースポーツなのに高速走行捨てて街乗りラジアル履いてんのかよ!プギャーッ!!」
                                                
って指さして笑う前に、

「アイェェェエエ!街乗りラジアルでこんなに走るのか!グワーーーッ!」

「え?これで良くね??」

って評価が先に来てしまうのが笑う。

「こんな街乗りタイヤで10kgf・mのトルクと100馬力のパワーを受け止められるわけないだろ!!」

って言う人もいるかもしれないけど、はっはっは、なにをおっしゃる。

今はトラコンがあるじゃないですかぁ♡

ぶっちゃけ言っちゃうとコーナーからの立ち上がりでは、タイヤグリップを※のじゃ子のパワーが完全に上回ってる。4000回転あたりでコーナー抜けつつ、それなりにアクセル開けるだけでトラコンランプが光る光る。というかほとんどのコーナー立ち上がりで光りっぱなしな気がするんですけど(笑)でもそれがフラストレーションになるわけではなく、逆に独特の感情の高ぶりがあるんですよ。

そう、バイクや乗り手の限界よりタイヤの限界が先に来ちゃう面白さがあるんです。しかもホンダが誇る超安心トラコン制御技術のおかげで昔と違い、リアが豪快にブレイクしちゃうなんてこともない。となるとどうですか?どうなりますか??

そこそこのアベレージで走った後、近くの車止めで一服しながら空を見上げて目を細めつつ、

「ハハッ、ボクちんはまだイケるんだけど、タイヤがさぁ・・根を上げちゃってね・・」

なんて憧れのセリフを吐くことができるんですよぉおおお!!これはタイヤの性能に私というボンクラがまったくついて行けなかったスパコル様ではあり得なかった達成感。ぶっちゃけザラブ嬢に乗ってた頃は

「スパコル様」=「ストリートトリプルRS」>>>>>>>>>>「私」

という感じで、私が序列最下層の下僕ポジションにいたんですけど、※のじゃ子はというと

「HAWK11」>「私」>「GPR-300」

という序列なんですよ。

「うぉおおおお!!スパコル様の足下で転がされていた俺が、少なくともこのタイヤには勝つる!!小中排気量用の街乗りラジアルだがナァアアアア!!!」

もうね。恥も外聞もなくプライドをかなぐり捨てて叫んでいきたい。GPR-300はね。私にとって「ボクちんは今、タイヤを限界まで使い切っているのだぁあああ!!」という満足感を与えてくれるタイヤなんですよ。それも高速コーナーなんぞ、ほとんどない日本の狭い峠でですよ?ザラブ嬢やスパコル様から「これだけサポートしてやってんのに、何やってんだ!このゴミカス!!」ってムチでしばかれ涙目だった私が

「オラオラ、もっと頑張れ!超頑張れ!!もう限界か?そうか、そうか、フッ・・フハハッ・・フワーーッハハハハーー!!!」

って気が触れたような高笑いでビシバシとタイヤを虐めて走ることができるんです。※のじゃ子のトルクも相まって、タイヤに対してマウントが取れちゃってるんですよ!こんな嗜虐心100%のお楽しみを提供してくれるなんて、なんて可愛いタイヤなんだ!!私ゃ嬉しくて失禁しそうですよ。

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(よく250ccのバイクには「使い切る楽しさ」があるって言われますが、リッタークラスのトルクにGPR-300の組み合わせにも、タイヤを使い切る楽しさがある。)

コーナリングも無ですよ。無。もうね。現代のスポーツラジアルのくせに、タイヤが一介の肉塊として悟りを開いてますよ。もう何やってもこっちの言いなりなんで、乗り手自らコーナーの曲率にタイヤをキッチリと沿わせていく走りになります。つまり、タイヤ性能に依存することなく、コースをじっくり丁寧に攻略していくという基本に忠実な楽しさがあるんですよね。

スパコル様の下僕だった頃は、スパコル様の旋回性をどれだけ引き出せるか?どれだけタイヤの邪魔をしないか?ってことを常に考えて走ってて、それはそれで楽しかったんですけど、GPR-300はライディングにタイヤが介入してこないんで、実にフリーダムなんです。決まった走り方もないけど、その分、乗り手をカタにはめることもないんで、乗り手が存分に自分色を出していけるわけなんですね。

HAWK11は闇雲にタイヤ性能を上げるのではなく、ホンダの制御技術を駆使して「街乗りタイヤのGPR-300を限界までシゴきまくる」というコンセプトになってる。溢れる才能に頼るのではなく、限られたリソースを社畜のように使い倒す!仕事をしない社畜なんて飛べない豚だ!!これが大人の世界なのだ!これでいいのだぁぁぁああ!(←ダメです)

サーキットやジムカーナはともかく、公道領域では、GPR-300でも十分すぎるアベレージが出せるし、そこを上限にして満足感を盛った方が安全で楽しいんですよ。しかも、その割り切りのおかげで、うちの※のじゃ子はいつまでもコースを走っていられるワインディング耐久マシンになっているんですね。

結局のところ、バイクにパワーや車体性能を盛りつけたとしても、「タイヤの接地能力以上」「乗り手の能力以上」の走りはできないんですね。だから、リッタースポーツでも一般的な公道環境や乗り手の能力レベルにあわせて走りを構築した方が、スポーツバイクとして楽しいってのは、それなりに納得できるクレバーな落とし所だと思うわけですよ。日本の狭くて曲率の高いワインディングで、ほぼ使いようのない高負荷領域を切り捨てることによって得られるものは、公道路面への適応力とバイクとしての妥当性、そしてなにより、スピードに依存しない乗り手の満足感です。でも、そういうスポーツバイクはリッタークラスになかなか現れないんですよ。だって

「売・れ・な・い」

ですもの。そういうバイクはライバルとの戦いを放棄した「ファイターにあるまじき存在」ですから、スポーツバイクとしての商品力がないんですよね。

「あのね。そういう走りを求めるならネイキッドやスポーツツアラーにしたらいいでしょ?戦うバイクが尖ってなくってどうするの?」

ってことになるんですよね。でもね。スポーツバイクだから他人と戦わなくちゃいけないなんて誰が決めたのか?戦うにしても戦う相手は他人じゃなくて自分であるべきではないのか?

あとね。やっぱこの手のバイクはネイキッドやスポーツツアラーではダメなんです。バイクの世界では、はるか昔から、数多くのバイクがセパハン仕様にカスタムされ、オッサン達が体を折りながら、やれ、カフェだ~、峠仕様だ~、って楽しんでたわけですよね。それは何故か?

セパハン前傾は人を自然に熱くするからです。

HAWK11はホンダ開発陣が、あの頃の手法をなぞって作ったセパハンスポーツです。だから未来的なデザインなんだけど、どこか懐かしい雰囲気がある。しかもガチのアドベンチャーをベースにするという前代未聞の仕立てにより、そういうものを散々味わってきた層にも「新しい味覚」をお出しできる。GPR-300だって街乗りバイクを改造し、猛者達がシゴきにシゴいていた時代の味だと思えば全然違和感がない。

夢を追うのか現実をとるのか?これはどんな世界でも究極の2択ですが、現実を選んだ多くの人達が、やがて前傾の強いスポーツバイクを降りちゃうんですよね。でも、それじゃあまりにももったいない。「どうやったら歳をとっても前傾のスポーツバイクに乗り続けていられるのか?いつまでも、このポジションを楽しんでいけるのか?」ってことを考えたとき、その現実的な回答の一つとしてHAWK11っていうバイクがあるんです。過激さを極めるばかりのリッターオーバーのカテゴリーで、その手の考え方のバイクは数少ない。やっぱね。スピードや性能にかかわらず、前傾姿勢から見える景色と乗り味って、バイクにおけるスポーツの原点なんですよ。だから、バイク乗りは、この姿勢をとるだけで若かりし頃に還るんです。

うちの※のじゃ子の走行距離は現在8000㎞。「これなら歳を食っても前傾のスポーツバイクを諦めなくてもすみそうじゃん♡」と私は感じてる。そういう意味でHAWK11は、上がりのスポーツバイクじゃなく、「上がらないためのスポーツバイク」ってのが正しい表現だった気がする。ホンダはその点で、ちょっと表現を間違えたかもしれないな~って、オーナーとしては感じてるんですよね。まぁ解釈は人それぞれなわけなんですが(笑)




ふたりはプリキュア3
(対照的な2台ですが、どちらも成立するのが公道スポーツ。ちなみにポーズは初代プリキュアのモロパクリ(笑)熱量とパワーで押し切るブラックも、相手の力を巧みに利用し立ち回るホワイトも光の戦士であることには変わりない。どっちが好きかは好みでしょうが、殴るマンのブラックの方が格好よくて人気があるのは理解できる。)