2月の前半にホンダからきんつば嬢に宛てて、特定記録で「重要なご案内」が届きました。特定記録ってのは相手方に届いたかどうかが郵便局側で記録される通知方法ですので、これでお手紙が届いたということは、間違いなくリコールですね。

消費者に安全安心なものを提供することがメーカーの責務であることは当然ですが、車やバイクについては、商品の欠陥が命に関わりますから、道路運送車両法という法律で厳しく規制されてます。リコールは法律に基づくもので、その周知を徹底しなければいけませんから、消費者側への通知を事業者側がモニタリングできる特定記録でなされることが多いわけです。なお、リコール通知を受けた後、ほったらかした結果、それが原因で事故ちゃった場合には、ユーザーの責任になりますので、その点でも使用者に通知が届いたかどうかは非常に重要になっております。

ということで、きんつば嬢は購入してから電スロに引き続き、2回目のリコールってことになりました。まぁあんまり根掘り葉掘りはいいたくないけど、私もディーラーに預けに行くってことになると、半日潰れちゃいますんで、当事者として今回はこの件について少し書かせて貰います。仕事や家庭では言いたいこと言えないんで、ブログでは言いたい放題ってのが私のストレス解消法。一消費者として感じてることを好き勝手書いていきますよぉ(腕まくり)。

リコール通知
(こちらが今回送られてきたリコール通知。何回読んでもトラブルが起こった理由がわからない。)

リコールの通知を開けてみると、今回のリコールの中身はデンソー製の低圧燃料ポンプにあったようです。

「いや~、これかぁ・・・」

昨年、息子が乗ってるN-BOXも同様のリコール通知が届き、ディーラーに持ち込んで燃料ポンプを交換しましたけど、「ついにバイクでもリコールがはじまってしまったのか・・」って感じ。このデンソー製の欠陥燃料ポンプは、いろんなメーカーで凄まじい車種と台数に仕込まれていて、トラブルの発生条件も複雑怪奇らしく、最終的には問題となった製造方法で作られたロットの全交換になりそうな勢い。もうね。その広がりは途方もないですよ。デンソーはトヨタグループですけど、一つの燃料ポンプがトヨタだけでなく、メーカー横断的に至る所で共用されているという産業構造に改めて「スゲェな・・」って感心しちゃいますけど、その一方で私は

「これはわけがわかんないリコールだなぁ・・」

って思うんですよね。

前回のゴールドウィングの電スロはわかるんですよ。だって電スロはゴールドウィングにおいてはSC79で初採用された技術で、まだ詰め切れてないところもあると思うから、ユーザーの意見をフィードバックして、より良いものに修正する必要性は高い。でも、今回は燃料ポンプでしょ?電スロによる統合制御とか、自動運転とかの高度で先進的なものじゃないわけですよ。これまで車やバイクの歴史の中で大量に製造されてきて、トラブルが出尽くしているはずの枯れきったお品。これって「昼下がりに賑わう、定食屋の鍋焼きうどん」みたいなもんで、製造レシピが確立したものじゃないですか。そんな部品に不具合が出るって普通あり得なくないですか?

過去の製品がちゃんと安定動作しているわけだから、素材技術と、加工技術が向上する中で「より良い方向に進化させている限り、問題が出るようなシロモノを作る方が難しい」気がする。これまで積み上げた技術や経験のレシピを元にキッチリ作ってさえいれば、問題が起きることはまずないと思うんですよね。まぁこの当たり前ができなかったから、こうなってるんでしょうけど・・。

そもそもリコールの原因である「燃料ポンプのインペラが燃料吸い込んで膨張して不具合がおきる」ってのが、もうどうにも理解できない。燃料系の部品なのに、「燃料に対して脆弱でした!」って、それはもはや

「鍋焼きうどんの中に、煮込んじゃダメな蕎麦を入れたみたいなもんじゃないのか?」

ちょっと加工に失敗したからといって、インペラがふやけてケースに干渉して回らなくなるなんておかしくない?だってこれメーカー関係なく、いろんな車両に搭載される基幹パーツなんでしょ?どんな条件下で使われるかもわかんないんだから、そこは設計の耐久マージンたっぷり盛るべきだし、多少の製造誤差などものともしない素材使うべきなんじゃないの?とか、思うんですが、私の感覚がおかしいのか?しかも、これをやらかしたのは天下のデンソーなんですよ?「これまで当社の商品は最高品質ですっ!!」って胸張ってた企業ですから、積み上げた基礎技術と経験による製造レシピがあるはず。にもかかわらず「なんでこんなことになっちゃったの?」ってのが大きな疑問なんですよね。

まぁどのような経緯があったにしろ、これだけの大量のリコールを出して、賽の河原のようにコツコツ積み上げてきた会社の信用が丸ごと吹き飛んでしまったわけですから、製造業としての屋台骨にヒビが入っちゃったことは間違いない。技術的にはインペラの金型を変更したことによって起こったのだとか、低温でインペラを成形すると脆くなっちゃうのだ、とかネットではいろいろな情報があるんですけど、私は理系じゃないんで全然わかんない。そこで町工場の親方だった私の父に聞いてみたんですよ。

「俺のバイクがリコールになったんだけど、この不具合どう思う?」

父が老眼鏡でリコール通知をじっと見る

「ふん、こんなもん、そもそもガソリン吸って膨らむ余地のない金属でペラを設計すれば良かっただけや」

「じゃあ、どうしてそうしなかったの?」


「そりゃベーク(うちの父は樹脂をベークといいます)の方が安いからやろ?」

「どうしても樹脂で作らなきゃってことだったら?」

「ワカメと違うんやから、膨らむっつっても程度もんやろ?膨らんでも引っかからん程度の隙間を持たせとけばいいだけや」


「・・・・・」

「何作るにしろ、想定の倍くらいの余裕を持たせときゃ壊れん。多少加工に失敗したからって止まるような設計がおかしい」

「おっしゃるとおりで・・」

「あと、こんなもんは検品ではじかないかん。何を作ろうが最後は検品や。検品が甘いからこうなるし、検品がロクにできんのやったら、そんなややこしい素材使ったのがそもそもの間違いや」

とノータイムでにべも無い答えが返ってきた。要約すると「製造においても設計においても安全マージンの意識が足りてない」「検品に対する意識が甘い」ということらしい。まぁ、「壊れるくらいなら、オーバークォリティで」ってのが父の考えみたいです。ミもフタもないけど、それなりに納得できる解答で、昭和の日本のモノ作りの姿を見る気がいたしました。小さな町工場でしたが、確かにこれでは儲からん(笑)

今回のケースでは結構な数の不具合が報告されているにもかかわらず、何が原因で、どれだけのロットが不良品なのか、長期間把握できなかったのも、検査や技術的検証がやりにくい素材だったってことを証明してる気がする。まぁ父の言うとおり、インペラを樹脂したのは悪手だったってことなんでしょう。

ちなみに、私のいる世界では、「変える必要がないものは可能な限り変えない」っていう原則があります。これまで上手く機能していて、実績があるものを安易に変えてしまうと、いろいろな問題が芋づる式に発生して予期せぬ事態が起こるからです。それに対処するために、追加でいろんなところを手当てしなきゃならなくなって、もう狂乱のイタチごっこになるんですね。

このため、何かを変えたい場合は、変更を加えなくてはいけない理由を積み上げ、それを解決するため、既存のルールのどこをどう変更すべきかを検討し、変更によっておきる結果及びその妥当性を、あらゆる方面からよってたかって叩いてから、ようやく変更できることになっている。

産業の世界は日進月歩だから、どんどん良いものに変えて行かざるを得ないんでしょうけど、基幹部品の変更はもっと慎重さがあっても良かったと思う。2013年からいろいろクレームが入っていたようですが、結局デンソーのリコール報告は2019年。この間傷口が広がり続け、対象となる車やバイクは合計で1600万台を超えるっていうトンデモないことになってしまった。これって、飲食業でいうと場合によっては食中毒を起こす可能性のある料理をクレームが入っているにもかかわらず長期間売っていたってことですから、中小企業ならもう暖簾が吹っ飛んでますよね。この件でデンソーは、私の中では「エアバッグのタカタ」と同視されるやらかし企業になっている。飛ぶ鳥を落とす勢いだったのに、信用が崩壊するのは一瞬です。

今回の件に限らず、これまで上手く機能していたものを変更すれば、予期せぬトラブルが起きる確立は高まる。それが年間数百万台の完成品に採用されている基幹部品であれば、もしものときのダメージは甚大です。デンソーはこれまで信頼性の高い製品をデリバリーしてきた老舗なわけだから、生産クォリティ確保のためのルールやシステム、不良品をはじく検査体制が社内にちゃんとあったはずなんですけど、それがこの欠陥燃料ポンプでは機能しなかった。変なことが起きるときは裏舞台もおかしなことが多いから、生産現場にコストカットや量産ノルマなどの過大な負荷がかかっていた可能性があるし、製品チェックをすり抜けたのは、どこかに「うちの技術で作ったものに間違いなどあろうはずがない」という慢心があったのではないかと思うんですよ。もしそうなら、私の知るバイクの神様は決してそういうものを許さない。それはライダーに対してもメーカーに対しても等しく同じなんですよね。

バイク暦30年以上のベテランライダーだって、慢心すればあっさりと事故ったり、立ちゴケしたりする。今回のデンソーは気を抜いて立ちゴケしたら隣が断崖絶壁で、奈落の底に落ちてしまったようなものかもしれない。そこからいよいよ企業の本質である危機管理能力と責任能力が問われてくる局面になるんですけど、残念ながら、その点でも業界全体にビシッと背骨が通っているようには到底見えませんでした。

ホンダのホームページを見ると、この燃料ポンプに関しては、これまで5回くらいリコールを繰り返してるんですよ。全数リコールだとトンデモない出費になるから、リコール総数を抑えるべく、欠陥部品のロット特定などを頑張っていたんじゃないかと思うんですけど、昨年7月、国内でこの欠陥燃料ポンプに起因する死亡事故がおこってしまい、メディアなどから「リコールを小出しにしていたせいで人が亡くなってしまったのではないのか?!どうなっているのか!」という手厳しい批判を受けることになってしまった。この批判を受け、ホンダはようやく腹をくくり、問題になった全ロットのリコールに舵を切ったわけです。

これは、私という一消費者から見ると企業側に「エンドユーザーである顧客の安全を守る」という目線と想像力が足りていなかったことによって生じた事態に見えてしまう。最初に全数リコールの判断をしておけば、人が亡くなることも、傷口を広げることもなかった。死亡事故を受けての全ロット交換は、責任やコスト負担をできるだけ軽くしようとして、「後手後手を踏んで追い込まれた末の決断」という印象しか残してない。人命を軽視しているようなイメージを市場に与え、企業評価も日本のモノ作りの信頼も落とすという最悪の結果になってしまったんですね。

昨今は利益やコスト競争、勝ち組、負け組など、いろいろなことが言われていますが、効率よく利益を上げることが企業の価値ならば、高利貸しが世界で一番素晴らしいビジネスモデルになってしまいますが、そんなアホなことないわけですよ。利益がこの世の価値の全てだなんていうのは、経済的側面からしかものを見ない拝金主義者の評価でしかない。

もの作りで社会を支えるのは製造業にしかできないことですから、「どれだけ社会に役に立つものを作り、社会に対して責任を持てるのか?」が製造業を生業とする企業の真の価値なんです。利益がその価値を上回ることなんかないですよ。だから製造においては、技術力と責任能力の両軸が重要になるんですけど、大企業であるにもかかわらず、それをわかっていない会社がもの凄く多いことに驚く。責任者はその名の通り、「企業として、どう責任を取るのか」の舵取りを考えるのが重要な仕事なんですけど、危機に対してあまりにも腰が据わってない印象を受ける。世界で戦う自動車メーカーは一企業である前に「日本の顔」であり、世界からも注目を浴びているんだから、そこはしっかりやって欲しい。

我々の生活を支える車やバイクは、もはや公共インフラですから、自動車やバイクのメーカーは、言ってみれば、ある種の公器ですよ。だからこそ、目的や使命を忘れて利益に走り、自分を律することのできない企業は、早晩市場から退場せざるを得なくなる。行政処分なんてたいしたことないんですよ。ユーザーが突きつけるレッドカードは処分満了の期間なんてありませんからね。「オマエラ信用できん」っていう評価を食らっちゃったら短期的な利益を上げられても長期的には未来なんてないですよ。

どんなに隠そうとしても、もの作りの神様はそれをじっと見ていて、ダメなものには、いつか冷徹な鉄槌を下す。物理の法則と市場の透明性は決して嘘をつかないからです。私は宗教は信じていないけど、バイクの神様は信じてますし、私の仕事の世界にも、神様はいると思ってます。「神様」っていうのは内なる倫理を機能させる手段として、人類史上、最もうまく考えられたシステムだと私は思ってるから、自分の中にいろんな神様を一杯作った方が良いんですよね。

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ここまで、いささか重い話になって恐縮ですが、デンソーのポンプに関する話題はここまでにして、今回のゴールドウィングのリコールについて見てみましょう。これもどうにも釈然としないんですよね。だってどのメーカーも燃料ポンプの問題が顕在化した2020年以降は、欠陥燃料ポンプの使用をやめたはずですから。つまり、2020年10月に購入した私のきんつば嬢には欠陥燃料ポンプは採用されてないはずなんです。しかし、今回のリコールは、現在までホンダが製造したゴールドウィングのほぼ全てが対象になっている

「え?は?なんで?」

って思ったので、リコールについてのホンダのホームページの資料を読み込んで見たんですよ。そしたら、衝撃の事実が判明したんです。それがこちら。(赤字部分を注目してご覧下さい)

Gold Wingなど3車種、CBR600RRなど交換修理用部品のリコール _ Honda


ゴールドウィングについては、2019年11月までの生産分は、無条件で対策品に交換です。しかし、それ以降の個体もリコール対象になっていて、「燃料ポンプの製造番号を確認する」とされている。問題のないはずの個体の製造番号をなぜ確認する必要があるのか?ホンダの資料からその謎を読み取ると、「2020年1月と3月に、欠陥品を組み込んだ交換用の燃料ポンプASSYが出荷されていて、その行方がわからない」みたいなんですよ。その個数は・・・な・・なんと、

「2個!!!」

うへぇ・・その2個をあぶり出すために、現在市場に流通するゴールドウィング全てを調査対象にしたってこと?・・何という力業・・。僅か2つの欠陥品の流通を見逃してしまったのは、ホンダ痛恨のミスだと思うけど、それに対して現在市場に存在するゴールドウィングの全ての調査に踏み切ったのは、

「どんな手段を用いようとも、欠陥燃料ポンプ問題をここで殲滅する!!」

というホンダの強い意志を感じざるを得ない。もうブチ切れてますね。ウチのきんつば嬢は新車から燃料ポンプなんて一切触っていないから、問題ロットが組み付けられていることはあり得ないわけですけど、今回はホンダの英断と、その怒りすら感じる調査に協力すべく、ホンダ・ドリームにバイクを持ち込んで確認作業に協力しました。検査は30分ほどで終了しましたが、当然ですが何の問題もありませんでした。ええ、わかってました(笑)

これまでのホンダの後手後手の対応には、いろいろ言いたいこともあるけれど、このリコールについては、及第点を与えたい。市場に存在する欠陥品に対して、現時点で考えうる一番確実な責任の取り方だからです。どこに消えたかもわからない僅か2つの欠陥部品のために、膨大なリコール費用を掛けて全数調査なんてのは、海外メーカーでは絶対にやらないし、やれないでしょう。ホンダは、コストより乗る人の安全安心を優先したんですね。

もの作りを行う企業として、作ったものに責任を持つことは一番大事な基本姿勢ですから、今回のリコールにあたってのホンダの姿勢については、私は素直に評価したいと思ってます。

リコール3
(これまでバックギアやヒルクライムアシスト警告灯のトラブル、リコールなどで、いろいろとやらかしてきた、きんつば嬢。フラッグシップとしての自信を喪失し、戦々恐々としていますが、個人的にはもう出尽くした感じがしてます。)