バイク小屋で、折りたたみのキャンプ用チェアに肩を預けながらあらためてダイナを眺めてみます。12年目を迎え、46万円という失禁もの費用を投下した車検が上がり、メモリアルな77777㎞も通過したダイナですが、今年に入ってからは初乗りすらやっておらず、完全に置物と化しています。なんせ、ダイナをお題にしたブログだって今年初ですからね。「ホントにお前うちのメインバイクなのか?」っていいたくなる。

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(トリクル充電器に繋がれたダイナ。通常はこのまま春まで越冬です。まるでクマみたい。)

でもしようがないんですよ。だってダイナを冬に乗るとメチャ寒いんだもの。暖かい日でも、まだ最高気温10℃を切ってますから、ダイナで走るのは荒行以外のナニモノでもないんです。

「いやいや、空冷バイクはよく冷える冬こそ本領発揮なんじゃないの?もっと乗れよ!」

ってツッコまれる方もいると思う。確かに冬場は空冷エンジンが熱でタレないので、調子がすこぶる良いことは認めましょう。しかし、エンジンが冷えるってことは乗り手も冷えるんですよ。エンジンの火力と違って乗り手の熱量はもうロウソクみたいなもんだから、オーバークールも甚だしい。仏教の地獄の中に、八つの冷気攻撃で亡者を苦しめる八寒地獄ってのがあるらしいですけど、まさにそれ。ちなみに我々がバイク乗ってる時に体の冷えやすい部分を八つに分けるとこんな感じじゃないかと思うんですよ。

①顔・耳地獄 

②首地獄


③腕地獄


④指先地獄


⑤胴地獄


⑥太もも地獄


⑦脛・足首地獄


⑧足先地獄


耐寒ってのは、これら八つの弱点のうち「どれを防御できているのか」で大きく変わってきます。以上の点を考慮した上で、現在所有するバイクについて、耐寒防御力をランク付けするとこうなります。

きんつば嬢>>>>※のじゃ子>>>モトグッチV7>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>ダイナ(最下層)

オィィィイイイイイ!ダントツの最下位じゃねーか(笑)今回から各バイクの耐寒性能を語っていきたいと思ってるんですが、その中でもダイナはあまりにもわかりやすいから、先陣を切るにふさわしい。そう、ダイナは

「防寒性能ほぼゼロの嫁」

きんつば嬢が完全な冬山装備だとすると、もはやダイナはフルチン状態。一応ビキニカウルは付いてますけど、焼け石に水。風あたりを和らげるなど、一定の効果はありますが、冬場の耐寒には全然足りない。ジワジワと忍び寄る冷気を防御するには「体に一切風を当てないこと」が大事なんですけど、ビキニカウルにそこまでの機能はないんですよ。ダイナは防風機能が低すぎて、「体の中で風が当たらないところがない」という絶望的な糞仕様になってるんですよね。

国産バイクってよく考えられてて、小さなメーターバイザーになかなかの整流効果があって、風をうまく散らしてくれたりするんですけど、ハーレーにそんな心遣いはない。スピード出すと「これはもはや人間エアブレーキではないのか?」って思うくらい風がモロに直撃するんです。バイクの設計上風をいなそうという気は一切なく、「スピードを出すことによって生じる負荷の全てを自らの体で受け止めるのだ!!」というヒロイックでいらん男らしさを要求してくる。

私が思うに、その強引な力押しがアメリカの正義なんでしょう。いなすことなく、引くこともなく、正面から困難と立ち向かい、それと戦い勝利する。うーーん「ビバ!軍事国家」って感じです。でも、こちとら専守防衛を旨とする平和主義の日本人ですから、アメリカ思想でバイクに乗る必要なんて毛ほどもない。アメリカンマッチョの正義なんて私にゃどうでもいいんですよ。こちとら「ブラックマッペ・もやし野郎」なんだから、もやしの正義を打ち立てていきたい。

もやし思考の私から見ると、冬場のダイナは「冷気魔法の直撃をタイタニックスタイルで受けにいっている」という、頭が悪すぎるバイクです。特に下半身の拷問具合はハンパない。上半身についてはどんどん重ね着して着ぐるみパンダにしときゃいいけど、下半身ってそうはいかないじゃないですか。ズボンの下に重ね着して下半身デブになっちゃうと、足つきも悪くなるし、足をついたときの感覚も普段と大きく変わっちゃう。動きやすさと耐寒防御ってバーターの関係にあるからバイクっていう乗り物は悩ましいんです。

ハーレーのポジションって、そんな乗り手の葛藤をあざ笑うかのように開けっぴろげですよ。ステップが外側にバーンと張り出してるからニーグリップできないどころか、足がガバチョと開いちゃうんで、太ももへの冷気攻撃が防御不能。これをなんとか防ごうとすると、内股になって「オカマライダー・スタイル」にならざるを得ない。スタイリッシュに乗りたいバイクなのに、道の駅で「うぉおおお!ハーレーでオカマ乗りの奴キター!!」なんて後ろ指をさされるくらいなら、もはや乗らない方がマシです。

普通のバイクだったらここでいろいろ諦め、「うーん・・もうしょうがない。ちょっと格好悪いけど、冬場はモコモコのナイロン製オーバパンツでも履くか・・」ってことになるわけですけど、実はダイナはこの手も使えません。マフラーをカッコ重視のものに換装した結果、エンジンをシゴいて走ると、熱でブーツの右くるぶし部分が焼けちゃうんですよね。エキパイの取り回しが悪いんで、ナイロンパンツなんてメロメロに溶けてダメになる未来しか見えない。

結論としては、「ダイナは寒風に対して切れる札がない」、つまり冬は地獄です。普通のウォームジーンズの下にモモヒキを重ね着したところでせいぜい12℃くらいが限界。

「いやいやいやいや、現代では強まった電熱装備があるじゃん。それでなんとかなるでしょ?」

っていう人もいると思うけど、あのね。そんなのとっくにやりましたから。ダイナのバッテリーから電源取ってインナージャケット、インナーパンツ、グローブの電熱フル装備で上から下まで固めてた時期もありました。でもね、私的には「もうそれは二度とやらない」と心に決めている。だからこそ、冬バイクとしてゴールドウィングを購入したんですよね。

電熱インナーをなぜやめたかっていうと、「あれは耐寒じゃない」からです。電熱装備は暖房器具であって、耐寒とはそもそもの考え方がまったく違うシロモノなんですよ。私はそれを完全に勘違いしちゃった結果、死にそうな目にあってしまったんです。

電熱装備って直接体を温めるからメチャクチャ暖かいんですね。その点では無敵に近い。上から下まで電熱インナーを着込めば外は極寒でも寒さを一切感じなくなる。だから、最低限の装備で良くなるし、寒さに対する警戒心もなくなっちゃうんです。

ハーレーなんて冬でもスタイリッシュに乗りたいし、バッテリーから直接電源取れば熱量もフルパワーになるから「おおお・・これならモッコモコの重ね着しなくてもよくね?アレもコレもいらなくね?」ってどんどん装備が軽くなっていく。やがて私は、極寒の中、上半身は、革ジャン+電熱インナー+モンベル下着、下半身は防風ジーンズ+電熱パンツ+ロングブーツっていう、完全にナメ腐った状態でツーリングするようになり、寒さへの警戒心すらなくなってしまった。

「ガーーーッハハハハ!!この強まったソーラー・レイのような電熱インナーさえあれば、冬将軍の攻撃など、もはや形骸である!」

「あえて言おう!」


「カスであると!!」


ああ・・こんなイキりは誰が見ても完全な死亡フラグじゃないですか。電気の熱が私にみなぎる自信を与え、それはやがて慢心へと変わっていった・・。残念ながら私の経験上、バイクの神様はそんな慢心を決して許してくれません。ライダーがイキりの頂点にあるとき、神の鉄槌は下される。そう、そしてその時の鉄槌はあまりにも苛烈で残酷だった。

バイクの神様は、よりにもよって自宅から100km以上離れた富山県の山中で「電熱インナーの給電を停止する」という恐ろしい天罰を下してきやがったんですよ。それはまさに神の怒り。強大な冬将軍に立ち向かうための武器を取り上げられ、丸裸になって私はようやく「バイクにはビキニカウルしかついてないけと、私もビキニアーマーしか着ていなかった(誰が上手いこと言えと?)ということを理解したんです。

余談ですが、この世にビキニアーマーほど矛盾してるものもありませんね。本来アーマーってのは「着込んで体を守るもの」なんですけど、ビキニアーマーってペラッペラの軽い素材で局部しか守ってないという、下着同然の紙装甲です。でも、それについてアニメファンは誰一人としてツッコまない。ビキニアーマーの正義は、このクルーゼ君の3つの言葉の中に全てが集約されているからです( ↓ 再生ボタンをどうぞ。)。


ビキニアーマーは初期のOVAアニメで一世を風靡しましたけど、このアーマーは
「戦闘中のありとあらゆるポーズを画像を止めて堪能する」という変態共のニーズを満たす画期的なものだったんですね。ビデオデッキが登場し、OVAの発売によりスロー再生や画面停止が可能になったからこそ、ビキニアーマーは最大の効果を発揮したといえます。黎明期のOVAは尺が70分くらいのものでしたけど、かなりの高額商品で販売のためにはその短い尺の中に、可愛い女の子と完結した物語と華麗な戦闘シーンとサービスカットの全てを詰め込まなきゃいけなかった。でも普通、全部は無理なんです。そこで制作陣は考えた。

「もうこの際ビキニで戦わせればいいんじゃね?そうすりゃ戦闘シーンは全部サービスカットだらけになるんじゃね?・・は?装甲が薄い?そもそも攻撃は当たらないから、なくてもいいくらいですが?何か?」

ああ何という悪魔的ヒラメキ。恥じらえば下着だけど、堂々としてれば戦闘服。見た目は実質同じでも着用者のメンタルと用途が変われば、解釈も変わる。彼らはその盲点をついた。ビキニアーマーは水着や下着のような扇情的なデザインでも、断じてエロではない。アニメファンは全員がこう叫ぶ。

「あえて言おう!甲冑であると!!」


見る側が脳内変換で下着と妄想してても、それは人の業に過ぎない。ビキニアーマーは、
送り手側と受け手側の相互理解の産物であり、戦闘シーンすら欲望の器に代えようとする貪欲なアニメファンの情熱の下で、全ての矛盾が許されてしまった特殊装備なんです。時代が下り、その発想は戦闘ダメージで服だけ破れる「服ビリ」という芸術的表現へ受け継がれていくのですが、これ以上は「アニメにおける戦闘装束とエロの歴史」に関する論文みたいになっちゃうので、バイクのブログでは止めておきましょう。

冬ダイナ・ビキニ
(ビキニアーマーの元祖といえば、幻夢戦記レダ。ベータやVHSが発売された直後にデリバリーされた最初期のOVAですね。この頃はまだ「オタク」という言葉すらない幸せな時代でした。なお、このイラストはオッサンの露出が如何に醜悪なものであるかをビジュアルで示そうとしたものですが、正直描いててイヤでした。)

それにしても、冬山でバイクでビキニアーマー状態はヤバイ。マジで死ねる。電熱装備が機能停止してからは、ツーリングはまさに死の行軍のようなものでした。もう指が痛くて感覚はなくなるし、15分くらい走るとステアリングを保持できないほど体がガタガタ震えだす。「・・人間の体ってこんなに震えるんだ・・」って自分でも驚くくらいで、運転などとてもできない。しょうがないから路肩にバイクを止め、エンジンを抱えるようにして暖を取り、震えが収まるまで待ってから走り出すんですが、やっぱり15分くらいしか走れない。で、また死にそうになって暖を取る・・ってのを何度も繰り返して山を下り、その後はコンビニをはしごして暖まりながら、なんとか生きて自宅ガレージまでたどり着きました。指なんてもうもぎ取れそうでしたよ。あまりの苦しみに「・・ダメだ・・俺はもう死ぬかもしれん・・」って道中何回思ったかわかりません。それが決して消えないトラウマになって今もこの身に刻まれている。

電熱装備は何が危険かって言うと、あれは服ではなく暖房機械だから危険なんです。機械である以上、永遠はないから、

「いつかどこかで予告なく停止しても何らおかしくはない」

機械的な問題により、突然給電が停止するのは避けられない定めにも思えるんですけど、頭の中では服と認識されてしまっているから、それを忘れてしまうんです。

自宅から遠く離れた冬山のど真ん中で電熱アイテムの故障が起こってしまったら、私のように死すら意識するような絶望が待っています。だって、電熱装備に慣れすぎて、乗り手は耐寒防御なんて考えなくなってるし、給電されなくなった電熱アイテムに期待できるものは何もない。冬山で裸にされたようなもんですよ。そして、その危機的状況は自己責任じゃなくて、機械の気まぐれによっておこってしまう。そこに問題の本質があると思う。

その事件が精神的トラウマとなり、私は当時10万円くらいした電熱装備を全て処分して、衣服による原始的な防御に戻ったんですよね。着込みによる防寒は確かに電熱アイテムほどの劇的な効果はありませんが、攻撃を優先し、防御を疎かにしてた頃とは違って、走ろうとする日の冬将軍の攻撃力を冷静に分析し、対策を練ってからルートも決めるようになりましたから、あの恐怖の冬山凍死未遂事件のような危機に陥ったことは、その後は一度もないんですよね。

当時と違って、今の電熱装備はもっと安全安心なものになってるのかもしれないけど、基本的な理屈は変わらないと思うから、電熱装備は「充電式の電熱グローブまでかな・・」って今のところ思ってます。

以上の理由で、現状ではダイナは冬の間、ほとんど乗らず、春まで冬眠って選択になってます。でも、風の直撃するバイクが冬シンドイのは当たり前であって、それは自然の摂理じゃないかと。どんなバイクにも得意不得意があるから、不得意な部分をなんとかしようとするより、ありのままを思いっきり楽しんだ方がいい気がしてるんですよね。

この世に万能なんてないし、高望みもしていない。冬に最低な仕様だからこそ、夏が最高に気持ちいい。私にとってダイナは夏のバイクなんですから、今はガレージで寝てればいいんですね。




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(春まで冬眠かと思いきや、昨日の気温は19℃でした。ダイナに乗るには今日しかない!ということで、本年初走りを敢行です。透けるような日差しに、抜けるような空、そして目の前には真っ青な海。風もなく、空気もとても穏やかで、ぼーっと座っているだけでも最高。こういう日に傍らにあると情緒が増すのがハーレーのいいところ。おかげでコーヒー休憩が、やたらめったら長くなってしまいました。)