今回は前回のエンジン編に引き続き、モトグッチV7の車体編です。相変わらずニッチなバイクのインプレで、多くの方は「まったく興味ねーよ!!」という状況かもしれませんけど、このハブられ感がたまらない。私って、道の駅の端っことか、部屋の隅とか、狭いトイレとか、割とジメジメした暗いところでニチャァアアしているのが好きなんですよね。

DSC_2949
(いよいよV7のシャーシ編です。相変わらずテキストはメチャ長いです。申し訳なし。)

最初に行っておきたいのは、私は「科学的なことは全くわからん」ということです。鳥頭すぎるんですよね。だから、まず頭空っぽ状態でとりあえず乗ってみて、そのバイクに特別なフィールや感動があった時に、ようやく「なんでこうなるのかにゃ?」って、その理由を検証するために知識をあさるってパターンがほとんど。開発者の方々は技術的な根拠を積み上げてバイクを作るけど、私は乗り味の検証のために知識を入れてる。バイクに興味があるんであって、知識に興味があるわけじゃないんですよね。

メーカー側やバイク雑誌からは、付加価値としての知識がわんさと提供されるし、趣味人はそんな知識の吸収に余念がないけど、消費者は知識で飯食ってるわけじゃないから、必要なのは「使える実用知識」なんです。カタログ上最高でも、自分が使い難ければ実用品としては意味がないってことになるし、「意味のない知識なんていらん」ってことですよね。兵器は最も実用性を問われるカテゴリーだけど、そこですら戦艦大和やケーニヒス・ティーゲルみたいに、語ると最強だけど、現実には過剰すぎて、コストかかりすぎたり、重すぎたり、信頼性がなかったりで置物扱いされてた、なんてものは割とありますからね。趣味の世界はそういうものでも愛され、許される優しい世界ですが、私は過剰感に疲れ果てていて夢がないですからインプレは甘くない。ダメなところはイジるだけ(笑)

そんな朴念仁からモトグッチのV7さんを眺めますと、このバイクはまさに「イタリアのおっさんの股間に葉っぱつけただけ」のバイクです。ライバルに見劣りしないように、ABSやトラコンや多彩な表示モードなど、最低限の後付け機能をいろいろ付けてるけど、どれも「ハァ?」って突っ込みたくなるほどやる気のないものなんで、全然付加価値になってないんですよ。日頃、安全装備をキッチリ動作させてくるホンダ様に乗ってるライダーに、動いたり、動かなかったりする乙女心みたいなトラコンを提供されても右から左に笑って受け流すしかない。以前ブログでツッコみましたが、蛸メーターは最高出力発生回転がレッドゾーンに入っちゃてるし、ご自慢のモード機能も「オィィィイイ!表示を一周させるのにどんだけクリックさせるねん!」ってキレそうになる。身に纏ってる装備がヨレヨレだから、もう「裸体を評価するしかない」んですね。

で、細かいところに目をつぶってバイクそのものを見ていくと、外ヅラはエンジンの横向き搭載を除けば、割とスタンダードでクラシカルなネイキッドとして仕上がってます。でも、W800やスポーツスターみたいにマッタリ走るって感じじゃなくて、乗っててやる気にさせてくれるんですよね。V7が元気になる4000回転オーバーを使おうとすると、ソコソコ速度が出ちゃうんで、ワインディングではそれなりのアベレージになりますし、そんなシュチュエーションでは、生粋のスポーツバイクといっても何ら遜色のない走りを見せてくれる。

前回も述べたとおり、調律型の縦置Vは高回転に向かって完全バランスで吹け上がっていくんですけど、それはゴールドウィングのフラットシックスのような、分厚いトルクが止めどなく湧き上がってくる感覚とまた異なり、「レシプロ戦闘機感」がある独特のものです。5000回転も回せばほぼ無振動になる加速側と、アクセル全閉でもマイナストルクの出が少なく、慣性の法則のままに滑空するような減速側の特性が、独特のヒコーキ感を演出する。

縦方向の滑空感に対して、横方向の動きもレシプロ戦闘機感が非常に強い。ゴールドウィングもBMWのフラットツインシリーズも、リーンはきっかけいらずで、軽やかかつスムーズに寝ていくという特徴を持ってますけど、V7はそれらのバイクと比較しても、縦置きの素の特性を丸ごとぶつけてくる感覚がある。

重いものが回転運動してる時って、その回転が強まるほど軸を安定させようとする力が働きます(ジャイロ効果と言うらしい)。コマが高速回転するとビシッと直立してフラフラしないのと同じ理屈ですが、バイクは小型軽量で、タイヤが二つしかないバランス命の乗り物ですから、クランクの超高速回転によって生じるジャイロ効果が運動性と操縦性にモロに影響を与えてくる。で、その効果が横置きエンジンと縦置きエンジンでは逆になるんですよね。

通常のエンジンはクランクシャフトが進行方向に対して横向きだから、回転が強まると軸方向である左右に安定しようとします。このため寝かせた状態からアクセルを開けるとクランクが水平に戻ろうとして、車体がバビュンと起きる。で、反対にアクセルを閉じると立ちが弱まります。この特性のおかげで、トルクのあるバイクになるほど、アクセルでバイクの挙動を操ることができるんです。

その一方でクランクの回転方向である前後には安定しない。結果、前と後ろにギッタンバッコンしやすく、「ピッチングモーションが出やすい」ってことになる。路面からの入力に敏感になりがちで、ホイールベースを短くしてキャスター立ててスポーツに振ろうとすると、ピッチングを抑えるためにサス固めなきゃならないし、サスを柔らかくして乗り心地に振ろうとすれば、今度はホイール径をでかくしたり、キャスター寝かせたり、ロングホイールベースにしたりして、振られたときの安定性を稼がなきゃならない感じなんです。要は乗り心地を良くしつつ直進安定性の鬼にしようとするとハーレーになっちゃうわけですね。

これに対して、縦置きエンジンはクランクが縦方向に回ってますから、クランク横置きのバイクと特性が正反対。回転が高まれば高まるほど、前後方向に安定する。しかもシャフトドライブとの組み合わせによって、クランクだけでなくドライブシャフトにも回転軸があるわけですから、エンジンからリアタイアまで、「回転するクソ長い棒にズドーンと貫ぬかれておる」ということになります。回転軸を中心に車体がブレないから、路面からの入力に対しても乱れず、前後のピッチングも抑えられる。サスがある程度柔らかく、ホイールベースが短くても振られない。この縦置きクランクの特性で、バイクがフラットな姿勢を保って滑空するように直進していくんです。V7って400みたいにちっこくて、サスも柔っこいのにアクセルを当ててる限り、二回り大きなバイクに乗ってるような安定感で「なにコレ?」ってなる。このフラットな滑空感が縦置きエンジン最大の特徴なんですよね。また、直進性能が高い一方で、アクセル開けて爆走してても曲げ方向に入力を加えると、軽々とリーンを開始する点も特徴の一つ。そんな特性をオブラートに一切包むことなく、乗り手にダイレクトにぶつけてくるのがV7なんです。

ちなみに、同じ縦置きエンジンでも、きんつば嬢(ゴールドウィング)とV7ではロールの感覚がかなり違います。フラットシックスを地面すれすれに吊るしたきんつば嬢は、入力に対して最初は軽くスムーズにロールするものの、ある一定以上バンクさせると、それ以上はロールに粘りというか抵抗感が出てきます。接地面に重しをつけた起き上がりこぼしが、一定のところまでしか傾こうとしないのと似たイメージです。この低重心ダルマ設計が、旋回中の安定感やロール限界の把握のしやすさにも繋がってて、ワインディングで一気に寝かせても「ヤバい領域に入る前に止まってくれる」という安心感があるんです。縦置きのリーンの軽快感と、リーンしすぎない安心感を両立させたお見事な設計といえるでしょう。BMWもスポーツツアラーで安定志向だろうから、似たような方向での味付けしてるんじゃないと思うんですよね。この作り込みにより、普段クランク横置きのエンジンに乗ってる人達にも違和感や不安感を抱かせることなく、縦置きのおいしいところを味わって頂けるってわけです。

でもV7は違います。こいつは縦置きガチ勢。「これが縦置きの世界だぁああああ!その世界にお前があわせろぉおおお!!気に食わないなら去れェエエエ!」って初手からブチ切れてるんですよ。V7ってエンジンの上に大容量の燃料タンク乗っけてることからもわかるように、取り立てて低重心にしようなんて思ってない。ガソリン満タン時は、重心位置に対して上下の重さがキッチリとバランスしてる感覚があり、縦置きエンジンの特徴であるリーンの無抵抗感が際立ってくる。重心軸を起点にして、どこまでもフリーに寝ていきそうな感じすらあるんですよね。悪く言うとリーンは軽いけど安定感がなく、適当に乗るとコーナリング中でも横方向にフラフラしちゃう。「我が輩はどこまでも自由なのだ!コーナーに入ったら遠心力とのバランスでお前がバンク角の落とし所を決めて安定させろ!適当にやってると刺さっちゃうぞ!!」ってバイクがこっちに丸投げしてくる。実際、ならし終わってワインディングに持ち込み、ゴールドウィングと同じ感覚でリーンさせたら一気にバタッといっちゃって「はうぁ!!」ってなりました(笑)

ハンドリングもなかなか面白い。ステアリングはビシバシとキレるタイプではなく、バンク角にあわせて切れてくるオールドな特性ですが、V7はリーン自体がやたら軽くて自在なんで、結果、素早く華麗な身のこなしが可能になってる。タイヤや車体に依存した曲げ方じゃないから、ハンドリングはシンプル、スムーズ、ナチュラルと三拍子揃ってる。縦置きクランクの特性と相性バッチリのハンドリングになっているんですね。

V7で行うスポーツ走行は、加減速に思いっきりメリハリを効かせつつバイクを操っていく一般のスポーツバイクのダイナミックなものとは違い、できるだけバイクの挙動を乱さないように、ショックのないシフト操作で特定回転を保ち、スムースな重心移動と速度コントロールで、「ワインディングの入り口から出口まで一筆書きで一気に線を引いていくイメージ」になる。乗り手のやることは結構多くて、バイクも乗り手任せのところがあるから、どうやったらこの縦置きマシンが気持ちよく走るのか?綺麗に線が引けるのか?ってのを常に意識してるんです。バイクの存在がずっと消えず、「一緒に走ってるな~」って感じがするんですよね。

私は同じ縦置きのゴールドウィングに10年乗ってるんで、縦置きの流儀って自然と身についてるところがあるんですけど、V7はそれがとっても濃いんで、面食らう人もいるだろうし、好き嫌いも出ると思う。自己主張を前面に出して、サーキットを攻め込むようなガツガツした走りをしようとすると、よくわからんバイクになるから、血気盛んな人にも向かない気がします。

縦置きエンジンって、今のダンスミュージックのようなスポーツバイクに乗ってる人に、オペラ聴かせるようなもんじゃないかと思うんですよ。同じ熱く歌うにしても系統が違うんですね。「今の人にも聴きやすいように、現代風にロック要素入れつつアレンジして、うーん、ボヘミアン・ラプソディーみたいなのがいいかな・・」って気配りしてくれてるのが、BMWやゴールドウィングだとすると、いきなりパヴァロッティ連れてきて、「誰も寝てはならぬ」を全力投球でぶつけていくのがモトグッチさんなんです。もうね。「お前は縦置き好きなんか?嫌いなんか?嫌いなら消えろ!!」みたいなえげつない踏み絵を迫ってくる感じがある。もう原理主義のガチ勢すぎるんですよね。

(私から見てV7はこれくらい濃い世界。ぶっちゃけイタリアの濃いオッサンが熱唱する美しすぎるアリアです。熱き魂はわかるんだけど、今の時代にいきなりこれぶつけていくの?って感じですよね。でもモトグッチはこの世界観を一切変えようとしない。ふふっ・・てなる。)

細かいところを見れば、V7はいろいろと適当なところもありますけど、こと走りということでは、まったくブレない筋の通った世界観がある。縦置きクランクのバイクを最もピュアに感じたいならモトグッチさんでしょう。バイクを貫通する一本の太い軸からくる直進性と、スムースで滑らかな旋回性がたまらない。それは熱い魂を澄んだ歌声に乗せ、クラシカルな旋律を紡いでいくパヴァロッティのアリアのようで、ツボに入れば、バイクから抵抗感が一切消え、「重力を制し、無重力の高みに到達した」ような感覚すらある。まぁ言うなれば一種の古典アートですね。でもなんでだろう・・すっごく洗練されてるはずなのに、頭に浮かぶのは、妊娠しそうなくらい濃いオッサンの顔なんですよねぇ・・。

私が貼り付けたパヴァロッティの動画を見て、「この人凄く格好いい!この美声にシビれる!憧れるゥ!!」と感じた人は迷わずモトグッチをオススメしますけど、「ぎゃぁぁあああ!!何この顔!!美声はわかるけど、こんな性癖がヤバそうな濃いオッサン無理ィィ!!」ってなった人は同じ縦置きでも、より一般人向けのBMWの方をオススメする。そもそもスポーツを「他人より格好よく速く走ることなんだ」と外向きに考えているうちは、V7は全然刺さらないと思うんですよね。「走りの楽しさは自分だけのものなんだから、内向きに磨くものだ」って考えるようになった人のためのバイクって気がする。

「で?つまるところV7ってオススメなの?そうじゃないの?」

って聞かれると、まぁそう聞いてくる人には勧めないですよね。これは「どんなバイクがいいか迷ってるんです?どれが良いですか?」って人の乗るようなバイクじゃない。「うぉぉおお!もう俺にはモトグッチしか見えねぇ!」って人が、自らの信念とスタイルに従って乗るバイクです。そりゃ走りは見事な調律になってるし、満足度もクッソ高いけど、テノールの独唱コンサートとかって、人を見て勧めるじゃないですか。それと同じ。ちょっと理解のカテゴリーが違うんです。だから、人と違うものが欲しいとか、横に張り出したエンジンのスタイルに惚れたとか、ファッションメインで乗るのならそれはそれでいいと思う。

でも、このバイクが内に秘めてる大空をかけるような高揚感の高い走りを引き出そうとするなら、ある程度年季の入った走りと、公道バイクはかくあるべしというライディングスタイルが確立している必要があると思うんです。また、商品力的にみたら、他に優れたバイクは山ほどありますよ。ただ、V7の中にある「素晴らしくも美しいもの」はモトグッチ以外のメーカーでは味わえないから、欲しい人には「このバイクの変わりは絶対ない」ってことは断言できます。

モトグッチにたどり着くまでにオススメしたいバイクは一杯あるけど、変態の領域に至っちゃった人にとっては、このV7は最良の選択肢の一つになるでしょう。バイク乗りとして一周まわった人の方が、このV7の素晴らしさがより鮮明に理解できるという、少々ややこしいバイクなんじゃないかなって思ってます。

モトグッチ4
(どうせならレシプロ戦闘機のイラスト描こうってことで、モチーフに悩んだ結果、マッキ C.205を選びました。大戦末期にダイムラーのエンジンとマッキの機体が合体して誕生した、独伊合作の超高性能戦闘機。当然性能は最強クラス。)