今回はモトグッチV7のエンジンについてのインプレです。V7のエンジンは90°V型2気筒OHVの2バルブですが、ふと気がつくと、90°V型エンジンはいつの間にか絶滅危惧種になっている。現状はスズキとドカと、モトグッチにしか残ってないんですよね。

昔は2気筒のスポーツユニットっていえば「90°V型」がド定番でした。私が最初に乗ったVT250スパーダや、今でも忘れがたいNSRなどはいずれも90°V。昨今の小排気量スポーツバイクはパラツイン全盛ですが、昔の2ストスポーツはNSRもTZRもガンマも90°V。もうね。我々2スト世代は2気筒の高性能エンジン=90°Vってのが頭に刷り込まれてるんですよ。

なんでスポーツバイクに90°Vが多かったかっていうと、構造上1次振動をキャンセルできることに加え、横方向にスリムにでき、高回転高出力と空力とヒラヒラ感を両立させられるという素性の良さがあったからでしょう。でも、モトグッチもドカティも、この90°Vを素直には搭載してないんですよね。ドカティはバーチカルに搭載しちゃうし、モトグッチはなんと進行方向に対して横向きに搭載しちゃってる。イタリア人って良いものはずっと受け継いで磨きあげていくところがありますが、必ずどこかヒネってくるのが面白い。

ドカはともかく、グッチの「エンジン横向き」(以下面倒くさいので「縦置V」と呼称)ってスポーツバイクとしてはどうなのよ?確かにエンジンが良く冷えるって利点はあるけど、冷やすのが目的なら水冷にすりゃいいんです。空冷エンジンは冷却のために風があたる面積増やさなきゃいけないから、そもそもコンパクトにできないんですよ。大排気量にしてストローク増やすほど、左右にシリンダーヘッドが突き出しちゃうから、空気抵抗もバカみたいに増える。これはBMWのフラットツインも同様で、実際R18なんて一発ギャグみたいになってる。V100マンデッロのエンジンは水冷で凄くコンパクトですけど、このエンジン搭載方法で高速域を想定すれば論理的にそうならざるを得ない。フラットツインやフラットシックスに比べると重心位置も高いし、派手にコケればエンジンが接地してジ・エンド。環境対策面でもメチャクチャ不利と言わざるを得ない。

V7の摩訶不思議なエンジンを語るには、「現代ではデメリットだらけの、空冷縦置90°V型OHV2バルブをなぜ頑なに守ってるのか?」って部分を考える必要がある。つまり「このエンジンは現代のバイクシーンにおいてどんなメリットがあるのか?」ってことですよね。

現代の新設計2気筒エンジンの主力は誰がどう見てもパラツインです。環境問題やコンピューター診断などで補機類を山ほど積まなきゃならないから、エンジンをコンパクトに設計できるパラツインは車体設計の面で自由度が高く、車体も小さく軽くできるし、エンジンの製造コスト面でも有利。ビジネス上の競争って、ライバルメーカーに対して商品力やコスト競争力で優位をとることで、パラツインは他のエンジン形式に対してトータル面での優位性が高いから、いろんなメーカーが雪崩を打ってパラツインに移行してるんだと思うんです。

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(こちらアフリカツインのエンジンです。合理性の固まりで無駄がない。派手さはないけど、見るからに丈夫でよく働きそうなエンジンです。)

HAWK11に乗って唖然としたんですけど、振動面でも現代のパラツインは90°Vと遜色ないレベルにある。おそらくバランサーで振動を相殺する技術が、昔とはまったく比較にならないレベルに達してるんでしょう。軽々と回りつつ、高回転でも嫌な振動は全然出ないという、「え?ナニコレ?」状態になっている。スーパー完全バランスのフラットシックスに乗ってる私がその滑らかさに「はぁぁぁぁああああ!?」ってなるくらいなんだから、先進技術がふんだんに投入された現代のパラツインをナメてはいけない。「うむむむ・・もう振動特性をエンジン形式に依存する時代ではないのか・・私の常識はもはや古いのか・・」って唸っちゃいます。

HAWK11の気配りが行き届いた温泉旅館のような気持ち良さは、インジェクションや電スロなどの統合制御によって、「エンジンフィールが緻密に造り込める」ようになったことも大きいんだと思う。キャブの頃は、空気の流量はスロットルバルブ、燃料供給は負圧の吸い上げで、調理は乗り手のスロットルワークにお任せって感じでした。そのため、小細工できないキャブ時代は「エンジン自体の素材の良さ」がバイクの味の決め手だったところがあります。

でも、今は電子制御技術でバイク側でガッツリ味わいを造り込める時代になったんで、そこの価値観が大きく変わったんだと思うんですよ。近年のバイクは「塩だけ振って直火で焼いた素材の味」ではなく、お客に出す前に「しっかり時間をかけて調理し、味が整えられている」って感じがする。メーカーからデリバリーされた時点で、お出汁をきかせ、不快なエグ味を取り去り、うま味だけの澄んだスープに仕上げられてるんです。

私がHAWK11のエンジンに感じる「下味がしっかり効いてる感」って、ダイナやモトグッチにはまったくないもので、それは現代の電子制御技術をフル活用して味付けした「最新のレシピ」なんだろうと思うんです。電スロの導入初期は化学調味料感が強かったところもありましたが、HAWK11の電スロはまったく違和感がないどころか、完全に整えられ、うまみ成分に溢れてて、ぶっちゃけ不満は全くない。マヨネーズ使おうがケチャップ使おうが料理は美味けりゃなんでもいいんですよ。

この手のハイテク調理にあたっては、吸気と排気の流れが自然な並列パラツインの方が、燃焼制御がやりやすく、その味付けもしやすいのかもしれない。パラツインは綺麗に吸って、綺麗に燃やし、綺麗に吐くっていう基本に忠実な燃焼感が清々しい。私はHAWK11の最新型パラツインに乗って、エンジンに対する考え方が大分変わりましたんで、やっぱ新しいものを否定してちゃもったいないって思いました。

ここまで長々と新設計エンジンの話をしちゃってHAWK11のブログみたいになっちゃいましたけど、新型エンジンとの比較をもってこないと、モトグッチの空冷90°V型OHV2バルブの良さを伝えにくいんですよね。だってこのエンジンは同じスポーツユニットでも新型のパラツインとレシピが正反対なんです。今なおハイテク調理器具や化学調味料による味付けに頼ることなく、素材の味にひたすらこだわり続けてる。

モトグッチのスモール・ブロックって、デ・トマソ時代に作られたものですが、当初は設計からして欠陥だらけでロクなもんじゃなかったようです。その後、ピアッジオがモトグッチを買収し、同グループの持つ高い技術力が提供されたことにより、少しずつ問題点を潰しつつ改良を続け、V85TTでそれがようやく完成の域に達したんじゃないかと言われてます。それをデチューンしたものが現行V7のエンジンですから、完全に枯れきってて機械的な信頼性は高いでしょう。長年にわたり設計を丁寧に練り込んだ結果、この古くさい設計のエンジンの持つ美点を余すところなく引き出せるようになったというわけです。

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(V85TTでほぼ完成形となったといわれているモトグッチのスモール・ブロック。もはや全然スモールではないのが笑える。細かい改良を続けた結果、素敵なフィールと信頼性を兼ね備えるに至っております。)

しかし、基本レシピの古いエンジンは、昔風のクセもある。どんな入力に対しても最適制御でキッチリ答える今のエンジンのようにはいかず、3000回転以下でスロットルレスポンスがガクンと落ちて、開けてもついてこなくなる。アイドリング付近でもトルクはしっかりあるにはあるんだけど、開けた時についてこないんですよね。モトグッチは「3000回転でトルクの80%がでてます!」って胸張ってるけど、それは「3000回転以上からが本領発揮だから・・」って暗に言ってるのじゃないかと思う。その言葉通り、3000回転以上での個性はリッターバイクにもヒケをとらないけど、それ以下では低血圧女子の朝みたいに眠たげです。エアの流速上がらないから脳に酸素が行ってない感じなんですよね。そんな状態でガバ開けしても、グズりたおすだけだから、この領域では「エアの流速にあわせて優しくアクセルを当てる」という懐かしのスロットルワークにならざるを得ない。

パーシャルでマッタリ走るんならともかく、大型バイクらしくキビキビ乗ろうとすると、3000回転以上をキープすることになるから、ワインディングでのギアシフトはそれなりに忙しい。そういう意味では中高回転型で、かつ乗り手にズボラを許さない古き良きスポーツバイクなんです。オーバーラップが少ないのか、レッドに近づくほどパワーは頭打ち感が出るけど、とにかく回りっぷりが精緻で美しい。90°Vツインの力強さや生命感を存分に引き出してるのはドカだと思うけど、90°Vのエンジンの回転フィールの美しさを最も引き出しているのはモトグッチだと思う。

この90°Vは4000回転を超えると振動が徐々に収れんし、5000回転以上で回転感が見事にバランスして、まるで昔のレシプロ戦闘機を彷彿とさせるようなフィールで回る。航空機に例えられることがあるフラットツインに比べても、モトグッチはそのフィールがさらに濃厚かつ明確で、「ああ、モトグッチを買う人はこれにやられるんだなぁ・・」と納得できる快感がある。クランクの芯出しをキッチリやって、ピストンの重量バランスをしっかりとらないと、こういう精緻な回り方はしないと思うんですよね。

V7に乗ってると、このエンジンはパワーや性能よりも、「大空を舞うレシプロ戦闘機のように調律されたフィーリング」を大事にしてるんじゃないかなって思うんですよ。モトグッチの創業に関わったのは、ライダーのジョヴァンニ・ラヴェッリ、エンジニアのカルロ・グッツィ、出資者のジョルジョ・パローディの3人なんですけど、全員がイタリア空軍の出身で、ブランドマークは空軍の象徴である鷲(アクイラ)なんです。その出自があるからかもしれないけど、V7に乗ってるとシャーシの風味も含めて、第一次大戦時の古き良きレシプロ戦闘機に乗ってるような気がしてくるんです。

過度な馬力を求めることなく、美しい調律を重視したモトグッチの空冷縦置Vには、濃厚なロマンと美学とエンジンに対する哲学があって、それがモトグッチの武器なんです。そんなややこしいV7をわかりやすく表現するなら

「最新技術でマグネットコーティングを施し、グリプス戦役でもまだ戦い続けてる旧ザク」

です。インターフェイスが洗練されたり、インジェクションになって進化してるけど、基本設計は旧ザクのまんま。しかも、価格は既に最新鋭のガンダムMarkⅡ並みで腰が抜けそうになる。でもご安心下さい。このバイクはタダの懐古趣味の旧車とは違う。細かすぎるブラッシュアップを長年続けた結果、「ハイ・ザック相手くらいなら十分に戦える」という、凄い旧ザクに仕上がっているんですよ。ノスタルジックなだけではなく、現代の公道環境で十二分に走れる実力と洗練度を持つ旧世代機。搭乗するのは、旧ザク使いのネオ・オジン軍の精鋭達。そこには「ぬぉおおお!!オジン軍の栄光はやらせはせんぞぉ!ジーク・グッツィィイイイイ!!」っていうジオン・ダイクンも腰を抜かすような狂信的な情念がたっぷり込められてる。濃すぎます。クラシカルでオシャレな雰囲気バイクと思いきや、内に秘めた加齢臭と浪漫の濃さではどのバイクにも負けてないんですね。

こんなこと言っちゃうとミもフタもないけど、公道での大型バイクなんて存在自体がロマンなんです。性能だってロマンだし、大きさだって、排気量だって、てんこ盛りの装備だって、み~んなある意味ロマンですよ。性能や機能から得られるロマンは価値がわかりやすくて熱量も高いですけど、常に更新され続けていて果てがない。これに対して、モトグッチは性能や装備を割り切る一方で、感受性や主観に重きをおいた「ノスタルジックな浪漫砲」を搭載してるんです。バイクにおいて何をロマンの軸とするかはメーカーによって様々だと思うけど、モトグッチはイタリアンブランドらしく、独自の美学で押してくる。それゆえに、「え?浪漫?なにそれ?パワーよこせ!ガンダムどこ?」って人にはまったくといっていいほど刺さんないんですよね。

それにしても、こういう面倒臭い調律重視型の空冷エンジンが、今のおいしく味付けされた最新型万能水冷エンジンを向こうに回し、平気な顔で生き残っているというのは「もはや奇跡」じゃないかと思う。しかも、多くの空冷エンジンが消滅し、水冷&電スロ搭載が当たり前の時代だからこそ、このエンジンのオーガニックな味わいと、頑固親父みたいな主張が際立ってきているんですよね。乗ればどっちもさすがの気持ち良さなんですけど、根底にある価値観はまったく別物。モトグッチは現代の群雄割拠のバイクシーンを、性能で戦うのではなく「価値観と浪漫で戦ってるイカレたブランド」です。性能や利便性を度外視して、浪漫の香りで勝負するならモトグッチの誇る「空冷90°V型OHV2バルブ」は現代の最新バイクに負けてない。それが、このエンジンの存在意義であり、モトグッチがこのエンジンにこだわり続ける理由なんじゃないか?と私は思っております。



なお、今回は私の超主観的なエンジンインプレでしたが、テキスト熱が冷めないうちに車体の方も書いておきたいんで、次回も引き続きモトグッチ・ネタでいこうと思ってます。



だが断る・ペン入れ
(この手のバイクって、地下アイドルみたいなもんで、メジャーにならないからこそいいんですよ。HAWK11もV7も私の近隣では誰一人として乗ってませんけど、それがいい。やっぱこんな浪漫120%の変態バイクが、そこら中に走ってちゃいけないし、メジャーになると往々にして本質が変わっちゃう。だから、モトグッチさんには悪いんですが、知る人ぞ知る存在でいいんです。)