ダイナが車検でディーラーにお預けになってネタがないので、今回もいろいろと話題となっているハーレーの中型クラス参入について書いていこうと思います。来る10月20日、ハーレーのX350とX500が正式に発売されました。おめでとうございます。トライアンフのスピード400、スクランブラー400Xも少し遅れて価格が解禁になりました。ちなみにその価格ってのは

〈ハーレー・ダビッドソン〉

X350  
69万9800円

X500 
 
83万9800円

この価格について、私の素直な感想を申し上げますと、「・・プライドの高いハーレーにしてはエライ安い価格で出してきたな・・」ってのが正直なところ。ちなみに私の予想価格は約80万円前半でした。「その価格なら乗り出しで、ギリギリ100万円以下に収まるだろう」という判断でしたが、しかし、なんとハーレーはX500の方をそのラインに設定してきたんですよね。結果X350はさらに安くなり、乗り出し85万円程度で収まるような価格になってます。プロトが輸入していた同型モデルのベネリTNT249Sの価格は75万円あたりでしたから、輸入台数のロットが違うとはいえ、ハーレーの名を冠しつつも、それより6万円も安いってのは、かなり頑張ってるといえる。

ちなみにトライアンフの価格はこちら。

〈トライアンフ〉

SPEED400 
69万9000円

SCRAMLER400X 
78万9000円

私が8月にブログで書いたSPEED400の予想価格は69万8000円でしたので、こちらは「ほぼドンピシャ」といっていいのではないでしょうか?私のようなド素人に価格をズバリ当てられちゃうと腹が立つのでトライアンフが価格を1000円上方修正したまである(笑)「我ながら見事な読みなのじゃぁあああ!!」って胸を張ってブリッジするくらい反り返りたいけど、トライアンフやハーレーの販売戦略面を考えると、このラインに設定するのが妥当なんですね。

中排気量帯に参入する海外製バイクの仮想的は、ズバリ国内4メーカーです。日本製バイクとガチでやり合って、こいつらの圧倒的シェアを少しでも削らなきゃ日本市場で勝利したとは到底いえない。そのためには最初は無理をしてでも、一定の成功を収める必要があります。初期段階で戦果を上げられないと、二の矢、三の矢が打てないですから、最初の一手でコケると後がジリ貧になる。そのため、価格面での大きなインパクトが必要になってくるんですね。かといって、あまりにも安くして消耗戦を仕掛けると、今度は店舗の仕立やサービスの質が維持できず、ブランドのプレミアム性に影響しちゃうから、とりあえず収益分岐点ギリギリに設定してくるだろうというのは容易に想像できるわけですよ。ライバルの国産勢の価格と比較してお値打ち感を出しつつ、海外ブランドとしてのメンツもなんとか維持したいってことになると、エリミネーター400SEとGB350の中間、価格でいうと70万円あたりに落ち着かざるを得ないってことになるんです。

X350の外観の評価については、10月20日に発表されて以降、すでに動画も次々と上がっており、沢山の人が現物を見て触ってインプレしておりますし、海外製バイクってのはデリバリー当初は提灯記事が溢れるのが通例ですから、褒めるのはそっちに任せます。デザインや質感は百聞は一見にしかずですし、個人の感性もありますから、ディーラーで確認して頂いた方が手っ取り早いでしょう。私は、そこはあえてやらずにテキスト向きの論点から評価を加えたいと思います。

以前も述べたとおり、X350はベネリのブランドを買い取った中国のQJ(銭江)モーターサイクルが基本設計したバイクを、ハーレーが外装とエンジンを小変更してデリバリーしたモデルです。ハーレーの設計ではなく、「中国産のバイクにハーレーが味付け」したものですね。

この点についてはハーレーのブランドアイデンティティの面から、これまでいろいろと文句つけてきましたが、発売された以上、もはや何も言いません。価格的にはX350もSPEED400もかなり頑張ったと思うから、コンセプトの是非は市場の選択に任せたい。私がこれからやろうってのは、日本仕様のスペックから紐解く、中国製バイクの実力についての技術的考察です。

まず、X350のベースモデルを製造したQJモーターサイクルがどのようなバイクを作ってるのか?ってのを調べてみると、中国企業らしく、どこかにある元ネタをブラッシュアップしたようなデザインのバイクが多いです。ラインナップのデザインモチーフにも統一感があまりなく、無国籍な印象。これはいろんなブランドのデザイン要素をつまんでいるからでしょうけど、それについては「実績のないメーカーが新しいものを作るときにはまずは模倣から入る」というパターンの典型例のようにも見えます。そもそもX350のベースになったベネリの302Sってからして、10年前くらいのカワサキ・パラツイン「ERー4N」にソックリなんですよね。

ER-4N1
(こちらが各モデルのデザインを比較したもの。トラスフレーム入れときゃ、日本のカワサキもイタリアンになれる!そして外装変えたら今度はアメリカンにぃ!)

誤解なきように申し上げますと、私は別にそれが悪いって言ってるわけじゃありません。「ハリウッドだって宇宙刑事ギャバンをパクってロボコップ作ったし、そのロボコップネタを、本家の東映が今度は宇宙刑事ジバンでパクり返す」というパクパク戦争を繰り返しているわけですから、人気のある作品を模倣するのは、どの世界でも過去に散々繰り返されてきたことなんです。一口で模倣と言っても、「パクリとオマージュとパロディの境界は微妙すぎて私にはわからない」し、技術で先行する老舗ブランドに新興メーカーが対抗するには、デザインに力を入れなくては勝負にならないわけだから、まずは模倣でもなんでも、ガワをしっかり作ろうとするのは当然といえる。今回のX350なんて、ハーレー本家のお墨付きで名機XR750からデザイン引っ張ってきてますから、もう外しようがないわけですよ。

harley-xr750
(XR750。不要なものを一切削ったことによって生まれるヤバすぎる格好良さ。)

新興メーカーについては、他の業界も似たり寄ったりで、例えば機械式時計にニューカマーが参入するときも、過去のオマージュを洗練させて採用することが多いです。とにかく見た目や意匠については大手もびっくりってほどこだわってる。でも、計時精度や耐久性や信頼性の方はなかなか思うようにはいかないんですね。

もう時効ですから言いますけど、約15年ほど前、とある有名時計師の名を冠し、結構人気のあった新興メゾンの「1千万円近くする複雑機構の永久カレンダーが壊れまくる」って噂が時計マニアの間でまことしやかにささやかれたことがあったんです。で、バラしてみたら「設計自体がまともに動くものではなかった」ってオチだった。つまりハナから100%壊れる設計だったってことなんですよ。当然、何回直してもまともに動くはずがない。1千万円のものがまともに動かないってヤバイですけど、その事実は公にならず、極めて少数の時計マニアだけの秘密として闇に葬られてます。購入した人はどうなったかというと、直す、壊れる、を繰り返してるうちに保証期間が切れるから、捨て値で売却するしかないってことになる。

機械式時計について一定の知見がある人だと文字盤見た瞬間、「これは・・ヤバイかも・・」ってわかるんですけど、ブームに乗って参入してきた新規顧客はそんなことわかりませんし、小規模ブランドのマニア時計に手を出すというのは自己責任に近いものがあるけど、そのリスクもわかってない。機械モノの世界は、どんなに高額であっても、製造に関する一定のノウハウがないと、往々にして、そういうことが起きちゃうんですね。


だからX350で検証するべきなのは、模倣すればある程度格好がつく外装面ではなく、「日本ではほとんど未知の中国メーカー、QJモーターサイクルの技術の現在地がどこら辺にあるか?」ってことだと思うんです。小排気量バイクは日本メーカーも中国で組み立ててたりするから、それをコピーすれば、ある程度こなれたものを作れるような気もするけど、「400ccクラスの排気量帯での実力がどの程度なのか?」ってのは未知数です。

「さて、どんなもんかな・・」ってエンジンスペックのデータをざっと見ていくと、平均的な数値の中に、一つだけ目を疑うようなデータがある。この数値を見る限り、この中国製エンジンと日本製エンジンの間には、まだまだ大きな技術格差があるんじゃないかと思うんですよね。では目を疑うような数値って一体なんなのか?

それは燃費です。

このX350は「WMTCモードの燃費数値が異常なくらい悪い」んです。とりあえずこの点について、ライバルになりそうなパラツイン勢との比較を載せておきます。なお、X350のデータはヤングマシンが掲載していたものから引っ張ってきました。燃費は全てWMTCモードです。

ハーレー X350
 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒 352cc 
 36馬力 ハイオクガソリン 
 燃費 20.2㎞/L

ホンダ 400X
 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒    399cc 
 46馬力 レギュラーガソリン
 燃費 27.9㎞/L

ヤマハ MT-03
 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒 320cc 
 42馬力 レギュラーガソリン
 燃費 25.4㎞/L

カワサキ エリミネーター400
  水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒 398cc 
 48馬力 レギュラーガソリン
 燃費 25.7㎞/L

オマケ HAWK11(*のじゃ子)
 水冷4ストロークOHC2バルブ並列2気筒 1082cc 
 102馬力 レギュラーガソリン
 燃費 21.2㎞/L


皆さんもう理解できたと思いますけど、X350のエンジンは「ありえないくらいガスを食う」んですよ。しかもハイオク(涙)・・ハーレーらしくプレミアムな燃料をガブ飲みするエンジンなんです。その点だけはビックツインにも引けを取らない。バイクを見ると一応O2センサーがついてるんで、これもう確信犯的に燃調濃くしてるとしか思えないんですよね。普通はこれだけ燃料をタップリ吹けば馬力が出るんだけど、このエンジンは36馬力しか出ていない。おそらくパワー出すためじゃなくて、夏にクソ暑い東南アジアや日本での冷却マージン取るために燃料を濃いめに吹いてるんじゃないかと思うけど、それって、エンジン内部の熱損失が相当大きいってことですよね。今の時代に、400ccクラスでハイオク指定のリッター20㎞は、「極めて前時代的なシロモノである」と断言せざるを得ない。「元のベネリ302Sから無理矢理ボアアップしたから悪くなったのかな・・」って思ったけど、ベースモデルに特段手を入れていないX500の方もリッター20.6㎞しか走らない。

パラツインを採用する同排気量の国産勢は全て40馬力以上を叩き出し、レギュラーガソリンでリッター25㎞以上の高燃費。要はハイパワーで熱効率がいいんです。ウチの*のじゃ子ですら、レギュラーでリッター21㎞走りますが、*のじゃ子はご存じのとおり、「1100ccの102馬力、トルク10.6kgf.mのゴリラ」ですから。リッターバイクに燃費で負けてる350ccってどうなのよ?ってことですけど、これが中国製エンジンの技術的な現在地だと思うんですよ。

「いや燃費っつっても、年間1万㎞走るとして、3万円から4万円程度の差でしょ?そんなの気にしないし・・」っていう人もいるでしょうけど、燃費って経済性だけじゃなくて、エンジンフィールにも大きく影響するから問題なんです。

燃費はエンジンの熱効率の差であり、それはとりもなおさず、エンジン設計のノウハウと製造技術の差ともいえる。ガソリンの高圧噴射、熱効率改善、ピストンやシリンダーのフリクション低減、吸排気の圧力損失低減、未燃焼損失低減、車体の軽量設計など、ありとあらゆる基礎技術をよってたかって積み上げて、ようやくリッター1㎞の燃費が改善できる。そんな地道で気の遠くなるような努力の積み重ねによって、実用馬力を落とすことなく、長い月日をかけてジワジワと底上げされてきたのが国産バイクの高燃費なんです。馬力と燃費の両立は、レベルの高い日本の4大メーカーが互いに切磋琢磨してきて到達した高みであるといえるかもしれない。

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(国産が誇る高燃費バイクの代表。GB350。しっかりと実用トルクを出しながら、圧倒的な航続距離で乗り手を地平の彼方へ運ぶ。WMTCモード燃費は驚愕の39.4㎞。乗ると「クリーンにガソリンが燃えて、気持ちよ~くピストンが上下動してる」ってのがシミジミとわかる。それは、まるで、月の砂漠をラクダで旅するような心地よい世界観。現代のゆとりあるバイクシーンにもベストマッチ。バカ売れして当然といえる。)

燃費というのは目立たないようで、「バイクの目に見えない製造技術やノウハウが数値として可視化されているもの」です。コスト要求の厳しい中型クラスで、これだけ高効率でハイパワーなエンジンを作るから、ほとんどの海外製メーカーは日本市場で国産バイクの牙城を崩せないんですね。

燃費データを見る限り、ハーレーのX350が搭載するQJモーターサイクル社製エンジンはインジェクションのくせにキャブ車並みに効率が低い。水冷の小排気量エンジンでここまで悪い数値が出ちゃうってことは、エンジンフィールも、きっと前時代的なものになってることでしょう。乗ってみるとエンジン内のフリクションロスによって、かなりのザラつきを感じると思うし、そういうエンジンにリッチ気味に燃料を吹けば昔の重厚な空冷エンジン風のフィーリングになるのかもしれないけど、その代償がハイオク+リッター20㎞ってことなら、「今の時代のエントリーモデルがそれじゃダメだろ?」って正直思う。そのような技術面の遅れを逆手に取った味付けは、フレーム、サスペンション、ブレーキ、いろんなところで垣間見えるのではないかと想像しています。まぁ、それを「気遣いがいらなくて楽だな~」って感じる人もいるでしょうけど・・。

良心のあるバイク評論家の方は、この悪すぎる燃費に言及するべきだし、環境問題が叫ばれる中、燃費を犠牲にする味付けを是とするべきではないと思う。そもそもハーレーは2018年のサスティナビリティレポートで「当社の長期的な環境サステナビリティ目標を達成できるように、2027年までに全車両平均燃費を50 mpg(日本の燃費換算で21.3㎞/L)より高くするという目標を設定しました。」って世界の顧客にアナウンスしてるんですよ。だからCVOにVVT入れたり、部分水冷にしたりして、熱効率を上げ、必死に環境対策をしてるし、インドで発売したX440は灼熱の環境でもリッター35㎞も走る。

そんな燃費改善の企業努力をアピールする一方で、たいしてレベルの高くない燃費目標値すら割り込む中型バイクを日本でエントリーモデルとして売るって、一体どういう了見なの?

リッターバイク以上にハイオクをガブ飲みする燃費極悪の350ccがエントリーモデルなんて、環境に対する企業姿勢を疑われちゃうんじゃないの?

消費者意識が高くて、高性能な日本製バイクに慣れ親しんだ日本で、わざわざ環境に悪いバイクを売る理由ってなんなの?

サスティナビリティレポートで顧客に約束したことと、やってることが完全に矛盾してるようにしか見えませんが、そこんとこどうなの?


あのね。私はね、売上げを上げることだけ考えるんじゃなくて、「顧客が胸を張れるような商売をしろ」っつってんですよ。それはすなわち、顧客が納得できるバイクを造って、価値に見合った価格で売るってことです。そういう方面から見ると、ここ最近のハーレーはマジで目を覆いたくなりますよ。内部のゴタゴタを文春にスッパ抜かれたり、水冷モデルについて値上げを繰り返したあげく、高すぎて売れないとみるや今度は50万円近い大幅値下げ。その一方、空冷のストリートボブやソフテイルスタンダードは水冷モデルと明確に価格帯をわけるためか、ケタ外れの大幅値上げときた。そして今回の環境問題に逆行するかのような、中国製エントリーモデルのデリバリー。ハッキリ言いますけど、私から見ると、ハーレーは日本の顧客に対して極めて失礼なことを繰り返してるんですよ。今のハーレーには顧客重視、販売店重視の姿勢が根本的に欠けていて、重視してるのは総輸入元の売り上げだけのように見える。消費者はそんな姿勢をちゃんと見てるし、信用を売る高額商品で、そんなやり方が受け入れられるはずがないでしょ?



あーーースッキリした!貯まっていたモノを全部吐き出したぜ!!



ということで、ここまでX350とハーレー・ジャパンについて色々と言いたい放題して参りましたが、数値に関する部分はともかく、フィーリング面は燃費から味付けを想像してるだけの戯れ言ですから、この想像が当たってるか外れてるかは皆さんが実際に試乗して検証してみて下さいね。燃費の悪さは「今時こんな贅沢にガスを吹いてるエンジンはない」と肯定的に評価することもできるので、「ガソリンをたっぷり吹きながら、ゴリゴリ回すオールドな野性味が俺は好きなんじゃああああ!」って人には、とことんハマる可能性もあります。バイクメーカーの姿勢はともかく、乗り手である消費者の選択はまったくの自由なので、いろんなものを飲み込んだ上で、このバイク買うのも全然アリだと思うんですよ。

私は、企業に対してはアタリが厳しいですけど、身銭を切って購入した消費者の選択は最大限尊重したいし、これでもダイナをこよなく愛し、メインバイクに使い続けるハーレーファンなんですよ。でも盲目的にハーレーのすべて支持するっていう従順な顧客でもない。支持するものは支持する。できないものはできない。そこは企業と対峙する消費者として、根拠をもってしっかりと分けていきたいんですよね。







(オマケ漫画「カルトH」。本編とはまったく関係がありません。)
カルトH4
(ホンダに限ったことではなく、国産4メーカーは同じような開発スタンスだと思います。環境問題への意識は極めて高い。スズキの油冷シングルも燃費の鬼です。)


それにしても今日は最高の天気でした~。
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(福井から岐阜にかけての、酷道157号線って道は最悪なんですけど、景色は最高なんですよね~。たまには刺激的な道を走ろうと、一念発起し、きんつば嬢で往復してきました。すれ違うのはハンターカブとオフ車ばかり。サスを底づきさせつつも無事完走です。)