全国のロケットカウル戦闘団の皆様。おはようございます。へっちまんです。皆さんもご存じのとおり、HAWK11は開発陣から「裏ホンダ」と言われています。そう、このバイクのキャッチには「大人の楽しみ」「裏ホンダ」などというという、どうにも怪しげな単語が並んでるんですね。で、顧客ターゲットはベテラン層。想定年齢50代から60代。それくらいの年齢の大人が「さぁ裏ホンダで楽しむゾ♡」なんて言い出すと、周囲はかなりザワついてまいります。

「ええっ?なんだなんだ、裏ってなんだ?」

「ホンダは一体何をする気なんだ?」

「山道で気持ちいいようだぞ!」

「そうか!山道できっとナニをするんだ!」

「え?ナニですか?」

「ナニです。」

みたいな会話になって、大概「いかがわしい方向」に流れていくんですよね。確かにHAWK11は外装ディティールがとにかくフェチズムを刺激してエロいし、エッチなバイクと言えばエッチなバイクですよ。しかし、スペシャルサイトは真面目だし、ロケットカウルには仏具のような神々しさまであるので、「性的方面の裏を目指した」とは思われない。となると「裏とは一体何ぞや?」ってことになる。

この裏ホンダというワードはかなりの曲者で、どんなツッコミを受けても、ほぼこの謎ワードで乗り切れちゃうんですよ。

「なんで日本専売なんですか?」

「裏ホンダですから~」

「なんで今時好みの分かれるロケットカウル採用なんですか?」

「裏ホンダなんで~」

「なんでこんなところにミラーがあるんですか?」

「いや~これは実に裏でしょ~」

もうね。あらゆるツッコミに、山本リンダよろしく「ウララ~ウララ~」って言ってれば、ほぼ全ての質問を右から左へ受け流すことが可能。

新車発表会で報道関係者から、表側の基準を根拠に「なんでこうなってるの?」「これおかしいでよすね?」「チグハグですね」って言われても、「それが裏ってもんなんだから当たり前だろ?あぁん??」って答えでいいわけなんです。

責任者の後藤LPLも現場にいないし、吉田代行は噛みまくってるし、結局全てが謎のまま。なぜ裏ホンダと言われてるのかの説明もメディアの記事を見る限り全然わからない。わかるのは「どうやら神のようなLPLによって、いにしえのバイク作りの猛威がふるわれたらしい」という約束の民の証言みたいな事実だけ。これではまったく意味不明。

表と裏がある場合は通常、何らかのルールや約束がまずあって、それにのっとってるのが表、のっとってないのが裏なんです。無修正AVがわいせつ物の頒布禁止にあたるというルールがなけりゃ裏ビデオって言葉自体存在しえないってのと同じ。

では、裏ホンダであるHAWK11を語る上で必要な、ホンダの表ルールとはなんなのか?ってことなんですけど、それって結構壮大な検証になっちゃうから誰もやらないんですよね。

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(風景に溶け込むクラシカルな雰囲気を纏いつつ、過去のバイクの何ものにも似ていない。そこがいい。)

私って常々「ホンダは因果なメーカーだな~」と思ってます。だってねぇ。ホンダのバイクってとにかくケチをつけたくなるじゃないですか。私なんか、現状で2台のホンダもってるんですけど、もうね。小姑が障子の桟を履くみたいにああだこうだ言いたくなるんですよ。

テキスト打ってても、ホンダ以外のメーカーだと大らかに「この程度許してもイイかな~」って手心を加えて書くところでも、ホンダにはそんな気は微塵もおきない。「そんなの公平じゃない!」なんて言われても、ド素人の主観ブログに公平なんてものを求めても無駄。オーナーですらそんな厳しい目線なんですから、他メーカーのファンなんてちょっと穴があると、鬼の首を取ったみたいにツッコんでくる。

でもそれはね。もうしょうがないの。だってホンダはメチャクチャ強すぎるリーディングカンパニーなんだから。どんだけ文句いったって足をひっぱったって、足腰強すぎて全然後ろに下がんないし、倒れる恐れがない。だから容赦なくツッコめちゃう。まぁある意味で世界の誰もが認める王者ですよね。

「王道路線で、多くの人が満足するバイクを作り、しかもそれを長く続けながら存続している」ってのはなかなかに凄い。企業ってのは時代の流れとともに、浮き沈みをしていくんですが、バイクにおけるホンダはその浮き沈みが非常に少ない。

それは、ホンダのバイクが「世界中の顧客のために、質の高い商品を適正な価格で供給する。」という社是に基づいて作られているということが大きいでしょう。適正なものは安定している。そんなホンダを評価するには、性能だけではなく「価格に対して、どれだけ高性能で良いものを提供できているのか?」という適正・妥当の目線を入れないといけないと思う。湯水のようにコストをかければ公道レーサーのようなバイクも作れるし、そんなバイクを作る能力もホンダにはあるけど、RC213V‐Sみたいに2000万円オーバーじゃ庶民は一切手が出ない。手が届く価格に収めるために、ホンダは市販バイクにあっては「コストも大事な性能である」と考えてるんだと思うんですよね。

一本のカムシャフトで吸気バルブを直押しし、排気側はロッカーアームを介して稼働するホンダお得意のユニカム機構も、「え?カムシャフト一本しかないの?」って思うけど、乗ると公道常用域でメチャクチャいいんですよ。そりゃ吸排気でカムシャフト2本カマせば高性能になるかもしれないけど、ヘッドは大きく重くなるし、コストもそれなりに上がる。「コンパクトでリーズナブルで、性能もしっかり出す」ってところを知恵で詰めていくのがホンダなんだと思う。

こういう価格と性能のバランスを組み込んだ視点で見ていくと、俄然浮上してくる伝説的バイクがありますね。そう「スーパーカブ」というお化けです。

スーパーカブ
(初代スーパーカブC100。本田宗一郎を中心として開発され、もはやバイクの枠を超えて存在する世界的超弩級アイテム。ホンダがDCTやEクラッチなど、執拗にクラッチレスの開発にこだわるのは、スーパーカブの理念に回帰したいんじゃないか?って勘ぐっちゃうくらい支配的存在です。)

ガソリンエンジンの時代が続く限り、このバイクに勝てる小型車は出てこないでしょうけど、こんなの異常事態だと思うんですよ。だって、スーパーカブって65年前から基本設計変わらずそのまんまなんですよ?しかも、この世のほとんどの新興メーカーは敷居の低い小排気量クラスから二輪の戦いに入ってくるわけですよ。つまりスーパーカブは新たなチャレンジャー達の挑戦を受け続けているんです。

中国やインドなどの新興国での小排気量クラスの激戦度は異常で、現地のいろんなメーカーがホンダの壁を突き崩そうと躍起になって挑んできてる。にもかかわらず、スーパーカブはそれをものともせず、各国で売れ続け、累計生産台数1億台以上。現在も絶賛記録更新中です。

この手の商品って、普通は時代の流れに押し流され、生産中止から長い年月を経て歴史上の名車となり、「ノスタルジーという思い出補正がかかって美化されながら語られる」ってのがお約束なんですけど、スーパーカブは現役だから思い出補正なんぞ一切ない。

ボトムラインに創業者発案の最強の王様がまだ健在って、マジでプレッシャーがヤバイでしょう。もうね。同人誌即売会場で、全身全霊を捧げて作ったスラムダンク同人誌を1000円で販売しようとしたら、自分のブースの隣で井上雄彦本人がスラムダンクのセルフ同人誌を500円で売っていたってくらいヤバイ。

それはもはや度を超した異常。しかもこの王様、パンツ一丁とタンクトップで、発売から65年たった今でも世界中で無双し、信頼を振りまいてるから始末に負えない。

幕下最下位に65年も引退しない創意工夫の固まりのような伝説力士がいて、商品開発の見本みたいになってんですよ。その上の番付の力士って「これもうどうすんの?俺たち一体どうすりゃいいの?」って呆然となると思うんですよね。

消費者にとってホンダへのイメージや期待、信頼って今でもこの「スーパーカブ」がベースになってる気がする。だから、他のメーカーなら笑って許してもらえるようなことでも、ホンダはそれが許されない。結果、サイドスタンドが出しにくいとか、足下ろしたらステップ当たるってだけで、ネチネチ言われちゃうんです。

ハッキリ言っときますけど、外国製のバイクじゃそんな些細なこと触れられもしませんから。じゃあ海外製バイクはスタンド出しやすいか?足がステップに当たらないのか?っていうとそんなこと全然ない。私はハーレーのサイドスタンドトラップでスタンド出てないのに出てるって錯覚して2回コカしてるし、グッチのV7なんてサイドスタンド遠いし堅いし、センタースタンドと、足の引っかけがどっちがどっちかわかんなくなるし、もう出てすらこないです(笑)

ことほど左様に、他のメーカーならスルーされることでも、ホンダに関してはちょっとでもアラがあると、「あそこがダメ、ここが気になる」って容赦なくいわれる。

で、ホンダがナニクソといろんなところを綺麗に潰して、全方位的にレベルの高いバイクを作ったら作ったで、「ホンダは優等生でつまらない」ですよ。開発陣は「どないせーっちゅーねん!!!って思ってるかもしれないですけど、それはね。生ける伝説のスーパーカブをボトムとし、実用価格帯で勝負するリーディングカンパニーの宿命というもの。

私的には、そもそも100万円を超えるような高額商品が「顧客に許されている」ようではダメで、ホンダくらい色々言われるのが普通だと思うんですけど、趣味商品ってのは利便性や性能とプライスがリンクしているのはある程度の価格帯までで、そこを超えてくると、費用対効果が崩れ、個性とか希少性、趣味性のような、性能以外のものが選択の根拠としては強くなる。海外製のバイクが細かいこと言われないのは、信頼性や利便性で少しばかり劣っても、その他の部分を重視した選択がされているからです。これに対してホンダはスタンダードど真ん中だから、性能とか利便性でキッチリ評価されるってワケです。

私が考える「表ホンダ」ってのは世界の一般大衆のために、「その国の顧客が手が届く適正価格で高品質のバイクを作ろう」としているメーカーです。ヤマハとスズキも、そのスタンスに多少の違いはあれ、同じような感覚なのだと思います。地に足のついた顧客層を相手にしてるんで、過度にプレミアムなところはそもそも目指してない。(カワサキは最近はプレミアムを目指しているフシがありますが・・。)だから顧客層を脱日本製バイクに設定している一部の海外勢に対しては、いささか地味に見えるけど、それは手が届く価格にバイクを抑えるためだし、質感を高めすぎると使ってナンボから離れていくから、実用を優先し、日常使いである程度雑に扱ってもサマになる、必要十分レベルの質感に設定してると思うんですよ。

つまりホンダってのは基本的に広い裾野の人を満足させるような、マスの製品開発をしているんですよね。これに対してHAWK11はというと、ターゲット層が非常に狭いどころか、発案者の内田氏個人ですよ。つまり最小単位のピンポイントです。だからこそ「裏」であり、デザインがブッ飛んでるんでしょう。ホンダ社内でデザイン畑にいる内田氏の要望で作るのに、普通のカフェとかホンダの主流デザイン提示したって、「は?ナニコレ?普通じゃん?」って状態になっちゃうから、「質の高い面構成と切れの良いエッジを融合させて、未知の変態方向に尖らせた」のはコンセプト的に当然といえる。その特殊性が、ソコソコ濃い性癖の私を強烈に引き寄せたんだと思う。

しかしその一方で、このバイクは走り出せば、まさにホンダワールドそのもの。アクセルを開けると、裏どころか王道中の王道を爆走する。だって、このバイクのベースは、ホンダのフラッグシップアドベンチャーのアフリカツインと、欧州で年間1万2000台を販売するベストセラーツアラーのNT1100です。

つまり、ホンダのリッター戦線の最前線で戦う、使ってナンボ、走ってナンボの心臓と屋台骨が使われてるってことなんです。多くの人は流用だって言うけれども、実績があって一番いいものを素材として選び、ホンダの若手の精鋭を投入し、よってたかって峠仕様にメーカーチューンしたんだから、悪かろうはずがないといえる。

私はフラッグシップのゴールドウィングに対してですら、あれやこれやとブツブツ言うワガママでウルサイ小姑ですし、どんなバイクでも、必ずどこか1箇所くらいは気に食わないところがあるんですけれども、HAWK11は私のライディングレベルと使用環境では、ほぼケチをつけるところがないんですよ。それはこのバイクが完璧であるとか万能であるとか、そういうことではなくって、あちらを立てればこちらが立たずの制約の中、HAWK11はポジションにしろサスにしろ、スロットルレスポンスにしろ、ギリギリのところまでスポーツの方向に振っている。にもかかわらず、それは公道環境で不満が出る手前で絶妙に止まってるんですね。

だからこのバイクは公道を走って不満が出ない。セパハンスポーツらしくスポーツライクな疲れは出るけど、すぐ抜けるレベルで、我慢との折り合いも絶妙だから、乗ると楽しさがモリモリ湧き出てくる。その作り込まれた「ギリ感覚の絶妙さ」って長年公道であれやこれや調整に苦労してきた人には、それなりにわかると思うんです。

先日能登ツーリングでご一緒したときに、LPLの後藤さんに「HAWK11は大人の上がりバイクってアナウンスされてますけど、上がりバイクってどういう意味なんですか?」って質問したときに、後藤さんはノータイムであっけからんとこう答えたんですよ。

「だってさー、誰しも人生の上がりには、いいバイクに乗りたいじゃない!」

実にシンプルな回答だったけど、私にとってはかなりの衝撃で、それ以来「いいバイクってなんだろう?」って、自分なりに真剣に考えるようになってるんですよね。「いいバイクが欲しい」っていうのは誰しも思うことだけれども、いいバイクの定義って企業の中でも違うし、乗る人や環境によっても違うから、ピンポイントの正解ってなかなか出ないんだと思うんですよ。

私自身もまだ「いいバイク」っていうものに明確な結論は出てないし、浮気性でアホな私では結論が出ることは望み薄なんですけど、私がバイクに乗り始める以前から、ホンダの大型バイクの設計に関与し、長年ホンダを支えた方が提示した「いいバイク」のサンプルが、今私の目の前にあるという事実は、この見果てぬ命題を考える上で凄く大きなヒントだと思える。

ホンダは、そういうバイクをあえて台数を作らない「裏設定」、しかも日本限定で、ベテラン層にお裾分けするように、そっと出してきた。巨大市場を相手にする企業の意思とその中にいる個人の意思は、まさに表と裏で、決して一致はしないものですし、スタイルを見てもそれは鮮明になってると思う。

でも乗ってみると、そこにあるのは、まぎれもなくホンダの王道一直線なんですよ。表を行こうが裏を攻めようが、行き着くところは王道路線。良いバイクに表も裏もない。このバイクに乗ると少なくともそれはわかる。その結論が、なんともホンダらしいな・・って思ってます。


(オマケ漫画。本文とはまったく関係ありません。)
ユニカムパンチ2