ハーレーで発売が決まったX350関係についての記事を見ていたら、そのからみで「昨年から日本で売られてるハーレーはアメリカ生産ではなく、タイで生産されている!そんなのダメじゃん!」的な書き込みが目に入ってきました。

興味が湧いたんでちょっとばかし中身を調べてみたら、これまでハーレーの日本向け出荷分はアメリカ生産だったんだけど、2022年からタイ工場で生産されているようなんですよね。で、これに対していろいろとネガティブな意見を述べている方が多いようです。私は「この手の内ゲバ的な罵り合い・・実にハーレーらしいわぁ~」と思うと同時に、「・・なにかものっ凄いデジャブを感じるな・・」って、遠い眼差しになったんですよ。

なぜかというと、その昔、車の世界で同じような議論があったからなんです。ずっーーとドイツ生産だったBMWが、ある時期、日本出荷分の3シリーズの右ハンドル車を南アフリカ生産に切り替えたんですよね。それから数年間は

「俺はドイツ生産の左ハンドルしか買わねぇ!」

とか

「右ハンドル仕様は南アフリカ生産だから真のBMWとはいえないのだぁあああ!!」

っていう人が出てきて、右ハンドル購入者をひたすら煽るっていう内ゲバ現象がおきたわけです。もう20年くらい前だったでしょうかねぇ・・。今のハーレーの生産国に対する反応って、その当時のBMWの状況にそっくりなんですよ。

E46
(BMWは結構前から南アフリカ工場やメキシコ工場で日本向けを作ってます。ブランド価値を売りにするメーカーでは、ちょっとでもそれを傷つけるようなアナウンスがあると、検証もせず情緒的否定意見が巻き起こるんですよね。)

「じゃあ、お前は生産地についてどう思ってるのよ?」って聞かれると、私は「え?そんなのどうでも良くない?」って感想でしたんで、迷わず南アフリカ製の右ハンドルを買ってます。「ええっ?この前、X350の話題で反対のことをいってなかった?」って言う人もいるかもしれないけど、私はブランド・アイデンティティの面から、中国企業傘下のイタリアン・ブランドの外装変更、横滑りを問題にしてたんで、生産地が中国だから悪いとか、そんなこと言ってないんですよね。

私はこれまで「ハーレー社は、単なるバイクメーカーの枠を超え「アメリカ」という国そのものを象徴する存在といっても過言ではありませぬ!」みたいな戦意高揚プロパガンダをハーレー・メディアから散々聞かされてきたわけです。

私はハーレーだろうがホンダだろうが、Vツインだろうがパラツインだろうが空冷だろうが水冷だろうが乗り味さえ良ければどうでもいいという節操のない男なんですが、ハーレーの内ゲバ体質とマウント攻撃力とレスバの最強ぶりを知っているだけに、X350への風当たりは相当強いんじゃないかと感じてます。兵力が不足してるからって、今さらイタリア戦車のカルロ・ベローチェにシャーマン戦車の偽装つけて、アメリカ軍です!っていわれても、最前線でハーレー帝国を守ってきた古参の戦車兵達がそれをヨシとするはずがないと思う。

「ハーレー・ジャパンは百戦錬磨のマウント攻撃力を持つシャーマン戦車の大部隊がたむろする道の駅へ、偽装したカルロ・べローチェで乗り込めっていうのか?そんなのムリだろ?酷だろ?怖すぎるだろ?」ってことなんです。

カルロヴェローチェ(カルロ・ベローチェの勇姿。小さく軽く、紙装甲に低火力だけど、愛らしさは最強。知る人ぞ知るイタリアのマイナー戦車ですが、女子高生との高い親和性とアニメファンの判官びいきで九七式中戦車と並ぶガルパン屈指の人気戦車となってます。

「これだからオッサンハーレー乗りは!!」って言われるかもしれないけど、ガチガチの価値観を植えつけて、ジーク!ハーレー!!な量産型ハーレー乗りを作ったのは、これまでのハーレー・メディアの長年にわたる洗脳ですから、いわば自業自得。それを棚上げして今さら頭が堅いなんて言われても困る。

このように過去の販売上のプロパガンダから、ハーレーのブランド・アイデンティティにこだわる私ですが、バイクの生産地に関しては、あんまり興味がないというか、どうでもいいかな~ってスタンスです。だって「メイド・イン・アメリカ」を語ろうにも、バイクや車などの工業製品には米国製と表記するための妥当な基準自体が存在しない。アメリカ製の定義って「最後にアメリカの工場から完成品として出荷された」ってことだけなんですよね。

生産国の定義って言っても、いまいちピンとこない方が多いと思いますけど、この生産国表記について、古くからケンケンガクガクやってる業界があるんですよ。それは時計業界です。機械式時計の老舗高級ブランドはほとんどがスイスに集まってますから、「SWISS MADE」っていう生産国表記がもの凄く力をもってる世界なんです。近年は日本のセイコーも評価されるようになったし、ドイツの高級ブランドも頑張ってるから、そこまでスイス製がどうのこうのってことはなくなったと思うけど、1990年代~2000年代の初め頃までは、高級時計=スイスという「スイス一強支配状態」だったんで、当時スイス製を名乗れるってことは、もの凄く名誉なことで、販売面で大きなアドバンテージになったんですね。

2000年代になって、日本でも機械式時計ブームが巻き起こっていきますが、手作りがほとんどだった当時の機械式時計の製造原価は、ほぼ人件費。でもスイスって物価や、労働者の給料がバカ高いんですよ。必然的に「労働力の安い国で作れるだけ作って、可能な限り人件費を削減し、スイスの工場に持ってきてスイス製の肩書きをつけて売る」ってのが生産コスト削減の王道になるわけなんですよね。でもそれだと、スイスの国内産業が空洞化しちゃうんで、スイスの時計協会がスイスの産業維持のために、文字盤に「SWISS MADE」と記載できる時計の定義を明確にしてる。ちなみに、その定義のひとつがスイス製ムーブメントを搭載していること。です。

ムーブメントというのは時計を動かす機械。バイクで言うとエンジンです。スイス製を名乗るためには、ムーブメントについて次の要件を満たさなきゃならないんです。

①スイス国内で技術開発が行われていること

②組み立てをスイス国内で行っていること

③最終検査がスイス国内で行わわれていること

④外装を含め、製造コストの60%以上にスイス製部品が使用されていること


まぁ、スイス製を名乗るのならスイスにガッツリ金落とせ!ってわけですけど、この中で大人の事情を感じちゃうのがやはり④ですよ。スイス時計協会は「4割までならスイス以外の部品が入っててもいいです」って、ハナから妥協しちゃってるんですね。噂によると、当初スイス時計協会はスイス内コスト基準を8割まで上げたかったみたいなんですけど、「いざ蓋を開けてみたら、頼りにしてたスイスの有名ブランドのほとんどが安い国外工場で部品を作ちゃってました~♡てへ(笑)」ってことだったわけですよ。

屋根裏で時計を作るカビノチェって文化があるスイスは「機械式時計はスイスの伝統」ってアナウンスをしてるから、その信用を維持するためにしっかりした基準を設ける必要があるわけですけど、バイクは工業製品ですからそんな基準などハナからない。基準がないから、中身もわからず評価もできぬということになるわけなんですよね。

例えばアメリカの工場で最終組み立てがなされていたとして、組み付けされる部品の8割がアメリカ以外の国で作られて持ち込まれたものだったら、それってアメリカ製といえるの?ってことですよね。このように、現代のバイクは「世界中で使られてるグローバルな部品たちの集合体」ですから、そんな状況の中で「バイクの生産地にこだわることに意味があるの?」っていうのが私の感覚。工業製品で私が重視してるのは、その製品がもつ「消費者にとっての価値や、商品の訴求力、製品クォリティであり、それに対して企業がしっかり責任を持つこと」ですから、それが担保されていれば、どこで生産されているかは私にとってどうでもいいってことになる。

ハーレーはバイク自体が、巨大で丈夫なパーツをガチャンコガチャンコと豪快に動かしていく実に大らかな空冷バイクじゃないですか。「多少雑味があった方が逆に味が出ていいわぁ・・」なんて言う人もいるくらいのシロモノですし、大昔のハーレーなんて純正部品を組んでるのにパーツのネジ穴が合わなかったり、光軸調整ネジがないから、ブン殴って光軸あわせるなんてギャグみたいなことやってたわけですよ。そんな時代のハーレーが「鼓動感や味があるから最高!!」なんていわれてるわけですから、製造品質では勝負してないとこがある。それに加えて、そもそもハーレーのビックツインのような製造スケールの大きな汎用エンジンは、メーカー側で「工場が変わっても、品質にムラが出るような製造工程は組んでない」と考えてます。

(産業ロボットを駆使した現代のハーレーの生産ライン。前回のGLのチマチマとした優しい組み上げと比較すると、工員の組み付け方も「ドッカン!ズッコン!」って感じで豪快。これはどっちがいいとか悪いとかの問題ではなく、企業の思想や、風土、文化の差でしょう。この組みの豪快さもハーレーらしさの一部といえる。)

この動画のように製造工程のかなりの部分が機械化され、人はマニュアルに沿って大まかなアッセンブリー作業だけを行ってるのだとしたら、数年の訓練で工員の能力は一定レベルに達すると思うんです。しかもハーレーのタイ工場は2019年稼働ですから、生産設備は最新で効率も極めて高いはず。

タイ工場って日本市場だけじゃなくて、欧州市場向けの輸出拠点でもあるわけで、重点戦略地域である成熟市場を担当する最先端工場が品質で劣るようなことになっているわけがありません。このように、機械化された製造ラインであれば、最終的にハーレーが適用した一律の品質基準で検査、管理されてる限り、「クォリティには一切の問題はない」というのが現代の工業製品の一般的な考え方ではないでしょうか。そもそもアメリカの工場で作られたものが、部品も含め純アメリカ製であるなんて時代はとっくに終わってるし、古くて歴史のある工場ほど生産設備も老朽化してるから、本国生産に過剰な夢見ててもしょうがないと思うんですよね。

生産国6

それでもなお「タイ工場製はアメリカ製に劣るのだ!絶対ダメ!!」というのなら、アメリカ製とタイ製を二つ並べて、その差を指摘するとか、試乗した上で、どっちがタイ製かあててみるとか、せめてそれくらいのことはしてもいいと思うんですけど、そんなことすると「タイ生産の方がいいじゃん」ってことになりかねないし、そもそも面倒だから誰もしない。

この手の議論をするときには、ユーザーの主観的な意見と、明確な根拠や基準に基づいた客観的評価を分けて語らないとおかしくなるんですけど、ハーレーの議論ってそこがごちゃ混ぜで、情緒に傾きすぎてるんですよね。そういうものに訴えかけるのが、ハーレーの武器でもあり良いところでもあるんだけど、だからといって、偏った情緒的主観だけで人のバイクを批評したり、評価したりすれば当然のように軋轢を生む。否定的見解を述べるにしても、そこに明確な根拠がなければ、ただケンカ売ってるだけなんですよね。

ハーレーってのは昔から、不毛極まる情緒的争いをひたすら続けてきてる不思議なブランドなんです。バイクとしては、とっても大陸的で大らかなんだけど、一部の乗り手は大らかじゃない。このため、内に対しても外に対しても、ハーレーの周りはいつも細かい小競り合いに満ちてます。最近話題になってる生産国マウントも、そういう根拠のない情緒的否定の典型だと思ってます。