トライアンフが2023年6月27日にスピード400とスクランブラー400Xを日本に導入すると正式発表しました。ハーレーはX350というモデルを既に中国で発表済みで、CEOが日本市場での発売を検討中ってアナウンスしてます。ヤングマシンが日本での導入をやたら煽ってるんで、可能性は高いのかもしれない。
トライアンフは過去にブログでも書いたとおり、インドのパジャージと資本提携を伴わないパートナーシップ契約を結んでいて、両社の共同開発で中排気量バイクを製造・販売していくという発表をしておりますので、それがいよいよ現実の製品になったのがスピード400とスクランブラー400Xってことなんでしょう。それをトライアンフのエントリーモデルとして日本に導入するってのは、販売戦略的にも理にかなってると思う。
(トライアンフのスピード400。写真で見る限りトライアンフらしいなって思う。エンジンもご自慢のバーティカルツインをシングルスポーツにしたような意匠だし、全体のデザインも新しさの中にイギリス風のクラシカルさがあります。)
一方のハーレーはインドではヒーロー・モトコープと合弁会社を作り、そこでX440っていう中型バイクを製造してるわけですけど、日本に導入されるのはそっちではなく、中国生産のX350になりそうだというのが大方の見方のようです。
(こちらX350です。デザインはXR750に寄せてますけど、フレームはトラスで、エンジンはパラツイン。ぶっちゃけメカ部分にハーレーのアイデンティティは一切ない。画像は中国のハーレーサイトから拝借です。)
ハーレーは2022年は日本国内で約1万台を売っており、最盛期には届かないものの、一番最悪の時期の売上げ(8000台を割るレベル)に比べたら、かなり頑張ったといえるでしょう。この御時世にあれだけの価格のものをよく1万台も売ったな・・って思いますけど、バイクブームの後押しと、国産モデルの納期遅延、フォーティーエイトのラストモデル1300台など、2022年はプラス材料が多かった。しかし、今後はよほどのことがなければ、ハーレーが日本市場で売上げを伸ばしていくなんてのは望み薄だと思います。なんせ円安で価格が上がりすぎて、主戦場の乗り出し200万円までの価格帯に売り物がない。「エントリーモデルを担うには、ナイトスターの値付けが高い!」って私が指摘した後、さらに価格上げてますから、これはもうどうしようもありませんね。
ガソリン価格の高騰や、中国のバブル経済崩壊による世界経済の失速など、先行き明るい話題がない中で、現在の高価格設定は、あまりにもリスクが高い。経営の安定化のためには、リーズナブルなモデルが必要なのは言うまでもありません。購入顧客も高齢化しており、今後ハーレーの顧客層は減少の一途をたどる。そんな中でディーラーが収益を確保しようとしたら、新たな市場を狙ってエントリーの400ccクラスに打って出るしかないって事情もわからんではない。
私自身はノンポリのバイク乗りで、メーカーにまったくこだわりがありませんので、消費においていろんな選択肢が増えるってのは無条件にウェルカムですし、各メーカーの販売戦略を眺めてること自体が楽しいので、今回のトライアンフとハーレーの400ccクラス参入はもの凄く興味を持っているんです。
日本製バイクが独占する400ccクラスって海外勢にとってはブルーオーシャンに見えたりするのかもしれないけど、この排気量帯は海外勢にとっては鬼門。日本製バイクは長い歴史の中で、中型クラスを主戦場として国内4社で熾烈な戦いを演じてきましたんで、この排気量帯のバイク作りを知り尽くしてる「百戦錬磨の四天王」なんです。そこに中型クラスに慣れてない海外メーカーが適当な戦闘力で挑んでも、返り討ちに遭う可能性が極めて高い。
評価の定まってる日本の4メーカー相手に価格的にもブッ飛んだ値付けはできない。頭のネジが外れたジャンキーが買う大型バイクと違って、中型クラスは実用と性能を兼ね備えた賢い消費選択であり、コスト意識も厳しく求められる。
空冷単気筒のGB350に対して水冷単気筒のトライアンフが競争力を出そうとしたら、60万円台後半から70万円前半でデリバリーしなきゃならないでしょうが、トライアンフの攻めの値付けには定評があり、今回も唸るような価格でデリバリーしてくるような気がする。私はズバリ69万8000円と予想します(笑)
問題はハーレーですよ。日本への導入が検討されてるらしいX350のベースモデルは、なんと中国資本のイタリアンブランド、ベネリ302Sです。この時点で「はぁ?」ってなるけど、これをボアアップして350ccにしたバイクを「一体いくらで売るのよ?」ってことですね。
強気の価格を掲げて、ハーレーブランドの葵の御紋で売るのか、ガチの価格勝負に打って出るのかは悩みどころになると思うけど、ハーレーってホント値付けがわかんないんですよね~。ヘタするとこれに100万円とかつけてきそうで恐ろしい。昔発売したストリート750は85万円でしたし、スポスタの883を88万3000円で売ってたこともあるから、ハーレーの収益のボトムラインは80万円台あたりでしょう。よって、値付けは80万円から100万円の間あたりと予想します。
・・とまぁ、商品展開の上っ面をなでるだけなら、そういう感想になるんですが、もし現状のまま発売されたなら、勝ち負けは明確に分かれると思うんですよ。ぶっちゃけ言うとトライアンフはこの市場でも健闘するけど、ハーレーは惨敗になるでしょう。
トライアンフは近年日本での販売台数を順調に伸ばしていて、その勢いのまま中型市場になだれ込むという攻めのイメージですけど、ハーレーは大型の価格が上がりすぎて、やむなく廉価なモデルを発売せざるを得ないというイメージなんですよね。
その証拠にトライアンフがスピード400とスクランブラー400Xの日本導入を即決したのに対して、ハーレーはX350を日本に導入するか否かでグズグズ悩んでる。それって「商品に自信がない」「戦略に自信がない」って言ってるようなもんなんですよね。
トライアンフは一見古い歴史を持つようですが、一度倒産して歴史から姿を消し、1990年代に復活した新興ブランドで、いろんな苦難を経験しながら、一歩一歩地力をつけてきた経緯がある。要は老舗の看板掲げてるけど、ブランド価値で日本製バイクに対してオラオラしようとは思ってない。日本車の強いところを巧妙に避け、常に自分たちのブランドの立ち位置を考えている、戦いどころの舵取りがうまいブランドだと思ってます。
実際、今回中型クラスに投入される新型400cc水冷シングルエンジンも実に巧妙。現在日本製バイクのラインナップに400ccの水冷シングルってバーグマン400以外ありませんからね。水冷だけどトライアンフは味を作り込むのが上手いし、「スピード」400ってネーミングですから、かなり速いはず。懐かしのスポーツシングル、SRX400やGoose350好きだった人には待ってましたの風味が出てるんじゃないかと思うんですよ。
加えて、トライアンフ内部での製品ヒエラルキーの整合性もバッチリ。現在トライアンフは古典的な走りを体現したバーティカルツインと、MOTO2のベースエンジンとして名をはせる3気筒で、クラシック路線とスポーツ路線の両方をケアしてます。そこに排気量の小さいシングルエンジンを追加というのはヒエラルキーがメチャわかりやすい。
つまり、リーズナブルで扱い易く、パワーソコソコのシングルエンジンからエントリーして、ライディングに自信がついたら、ステップアップで気筒数と排気量をアップさせていくっていう流れなんです。顧客の好みに応じて「キレとパワーのトリプルか、質感と味のバーティカルツインか、お好みで選んでね♡」っていうことになるわけですな。高額商品へ誘導する導線として、小憎らしいほど良く考えられてるんですよね。
今回のスピード400もスクランブラー400Xも、生産はパジャージですが、インドでもトライアンフディーラーで売られる商品だし、トライアンフの世界戦略車ですから、しっかりと手綱を握って作ってると思うんですよ。パジャージの安い労働力を利用して浮いたコストを質感に回して、トライアンフの名付けにふさわしい仕立てにしてきてると予想してます。
(イタリアのベネリのガワを変えてハーレーになれるのなら、*のじゃ子だって外装キットでハーレーになれるでしょう。でも誰がどこから見たってホンダはホンダ。正体はすぐバレる。だからそんな馬鹿げたことはどこのメーカーもやらないんです。)
これに対して、ハーレーのX350には不安しかない。ハーレーは、これまで他のブランドに対して明らかなプレミアプライスを設定してきましたけど、それが成立するのは、100年を超える歴史と、そこで育まれてきたデザイン、アメリカ文化を体現したような骨太で大らかな乗り味などがあるからです。高額商品の個性って「他のメーカーがどんなに頑張っても決して手に入れられないブランドとしての正統性を持っている」ってことが重要で、長い歴史を持つハーレーのVツイン・クルーザーは、現代の付加価値戦略においてはもの凄く強力なんです。古くさい空冷プッシュロッド式のOHVエンジンを水冷サイボーグ化してまで延命しようとしてるのも、ハーレーのブランドアイデンティティを維持するためのアイコンとして、このエンジンが必要不可欠だと判断しているからでしょう。
ハーレーはこれまで、自身のブランドアイデンティティを高めるために、他メーカーに対して、徹底した差別化戦略をとってきました。ディーラーだって、プレミアムプライスに見合った外観や内装を要求されているし、接客も同様。ハーレーは情緒やライフスタイルにアプローチすることにより、性能に依存しない価値を徹底して追求してきたんですね。だからこそ、性能に優れる日本製バイクを向こうに回し、大型バイク部門で国内売上げ1位の座を手にすることができたんだと思うんです。
このような高付加価値型ブランド戦略に大事なのは、顧客が「ステータスによる幸せを感じられること」です。要は「他ブランドに対してオラオラできる」ことが重要なんです。ハーレー乗りは態度がデカいって言われてますけど、逆に言うと「このバイクに乗るとデカい態度ができるゾ」と乗り手が感じてくれてるってことなんですよね。ここがとても重要。優越感に浸れないブランドに、人は付加価値を支払わないですから。
つまりハーレーの生命線は付加価値の維持なんです。そのための商材に必要な要素は、
①ハーレーが企画、設計、製造に責任をもったものであること、
②他社にないハーレーらしい個性やアイデンティティがあること、
③顧客が納得できるクォリティが維持されていること、
あたりだと思うんですよ。ハーレーが過去日本市場に投入して失敗しているモデルは、「このうちのどれかが欠けている」と顧客に判断されたから消えていったんです。で、今回中国で発表されたX350は、この視点から見ると「絶対に日本じゃ成功しないモデル」なんですな~。だって中型クラス自体がオラオラできる土俵じゃないし、そこもってきて「ベースのエンジンとフレームが中国のQJ Motorcycleが製造するイタリアブランドのベネリ」なんですよ。あのね。ハーレーのブランド代を払って中国企業が作ったバイクに乗るなんて、オラオラ感とはほど遠いっつーんですよ。
(上がハーレーX350、下はベネリの302S。基本構成はほぼ同じです。厳しく言えば、イタリアンテイストのバイクをボアアップしてハーレーの外装キットつけただけ。このモデルは多くの古き良き老舗ブランド(ハーレーを含め)が必死に守っているアイデンティティの自己否定です。そういう意味では発想のベースが、「何でもいいから売ってナンボ」の安易で中国的なものといえる。)
誤解のないようにいっておきたいんですが、私は別に「中国製だから悪い」って言ってるんじゃないんですよ。今や中国、インド、タイは世界の工場で、世界のほとんどのメーカーがそこで部品の製造や組み立てをやってるんです。だから中国で作られたものを否定しているわけでは毛頭ない。ただ、どこで作っても「そのブランドのオーナーとしての誇りと夢を見られるような製品でなくてはならない」と私は考えてます。
このモデルについて言いたいのは「これ買ってオーナーが夢をみられるの?」ってことですよ。高額消費というのは半分は夢を買うものですから、顧客が夢を見られるようにするのがブランドの義務ですよ。そこをぶん投げちゃってるから、X350はハーレーの今後のためにも「成功してはいけないモデルである」と私は考えてる。
だってねぇ、これを「ハーレー・ダビッドソンですっ!」と言って売ってしまうと、「はぁぁ?じゃあ、ハーレーの考えるハーレーらしさってのは一体何なの?」ってことになっちゃうじゃないですか。ハーレーの設計でもなく、ハーレーの生産でもなく、アメリカ的でもないものに、ハーレーらしさが存在すると考えてくれる人は日本にはまずいないと思う。
新興国では輸入関税があるんでハーレーが欲しくても、とても手が出ない人も沢山いるから、中国資本のバイクメーカーとのコラボ商品を出して、ファッションバイクで上前はねる分には勝手にすればいいけど、そんな安易な手法が日本で通用すると思われるのは、日本市場がナメられてるようで腹立たしい。こんなものの導入を真面目に検討されてること自体が、私にはもう許せないんですよね。これをデリバリーするってのは、長年苦労して積み上げてきたブランド価値を毀損するリスクしかないと、私は断言する。
ハーレーに求められているものは、「ハーレーというバイクだけがもってる、形のない情緒的なもの」なんですよ。そして、それは「ハーレーという企業だけが生み出せるものだ」と多くの人が信じているし、ハーレーも長年そうアナウンスしてきたんです。
だからこそ、中国企業の企画・生産したイタリアンブランドのバイクが、ハーレー製品として日本で受け入れられることはないと思う。一定数売れても、購入者は「ハーレーブランドなら何でも良い」っていう人ばかりになっちゃうでしょう。そういうミもフタもないことでいいのか?ってことですよね。だから、ハーレー愛に満ちた日本市場でやっていくなら、着せ替えじゃなくて、ハーレーが日本人の顧客層のことを真剣に考えながら、企画、製造した本気モデルで戦わなきゃならないんです。しかし、残念ながら、X350にはそんな本気度は毛ほども感じられません。
まぁ、私みたいな木っ端消費者が一企業の戦略にどうこういう筋合いはないんですけど、トライアンフについては「頑張って400ccクラスを活性化させてね!できればリーズナブルな価格でお願いね☺️」ってエールを送りたいですが、ハーレーについては「好きにすりゃ良いけど、あんなナメたモデルを発売しても、絶対に良い結果にはならないですよ💀」っていうのが本音です。
もしX350を発売したら、過去最大級の黒歴史になることは間違いないと思いますけど、これは私の個人的な見解ですから・・さて、どうなりますやら(笑)
トライアンフは過去にブログでも書いたとおり、インドのパジャージと資本提携を伴わないパートナーシップ契約を結んでいて、両社の共同開発で中排気量バイクを製造・販売していくという発表をしておりますので、それがいよいよ現実の製品になったのがスピード400とスクランブラー400Xってことなんでしょう。それをトライアンフのエントリーモデルとして日本に導入するってのは、販売戦略的にも理にかなってると思う。
一方のハーレーはインドではヒーロー・モトコープと合弁会社を作り、そこでX440っていう中型バイクを製造してるわけですけど、日本に導入されるのはそっちではなく、中国生産のX350になりそうだというのが大方の見方のようです。
(こちらX350です。デザインはXR750に寄せてますけど、フレームはトラスで、エンジンはパラツイン。ぶっちゃけメカ部分にハーレーのアイデンティティは一切ない。画像は中国のハーレーサイトから拝借です。)
ハーレーは2022年は日本国内で約1万台を売っており、最盛期には届かないものの、一番最悪の時期の売上げ(8000台を割るレベル)に比べたら、かなり頑張ったといえるでしょう。この御時世にあれだけの価格のものをよく1万台も売ったな・・って思いますけど、バイクブームの後押しと、国産モデルの納期遅延、フォーティーエイトのラストモデル1300台など、2022年はプラス材料が多かった。しかし、今後はよほどのことがなければ、ハーレーが日本市場で売上げを伸ばしていくなんてのは望み薄だと思います。なんせ円安で価格が上がりすぎて、主戦場の乗り出し200万円までの価格帯に売り物がない。「エントリーモデルを担うには、ナイトスターの値付けが高い!」って私が指摘した後、さらに価格上げてますから、これはもうどうしようもありませんね。
ガソリン価格の高騰や、中国のバブル経済崩壊による世界経済の失速など、先行き明るい話題がない中で、現在の高価格設定は、あまりにもリスクが高い。経営の安定化のためには、リーズナブルなモデルが必要なのは言うまでもありません。購入顧客も高齢化しており、今後ハーレーの顧客層は減少の一途をたどる。そんな中でディーラーが収益を確保しようとしたら、新たな市場を狙ってエントリーの400ccクラスに打って出るしかないって事情もわからんではない。
私自身はノンポリのバイク乗りで、メーカーにまったくこだわりがありませんので、消費においていろんな選択肢が増えるってのは無条件にウェルカムですし、各メーカーの販売戦略を眺めてること自体が楽しいので、今回のトライアンフとハーレーの400ccクラス参入はもの凄く興味を持っているんです。
日本製バイクが独占する400ccクラスって海外勢にとってはブルーオーシャンに見えたりするのかもしれないけど、この排気量帯は海外勢にとっては鬼門。日本製バイクは長い歴史の中で、中型クラスを主戦場として国内4社で熾烈な戦いを演じてきましたんで、この排気量帯のバイク作りを知り尽くしてる「百戦錬磨の四天王」なんです。そこに中型クラスに慣れてない海外メーカーが適当な戦闘力で挑んでも、返り討ちに遭う可能性が極めて高い。
評価の定まってる日本の4メーカー相手に価格的にもブッ飛んだ値付けはできない。頭のネジが外れたジャンキーが買う大型バイクと違って、中型クラスは実用と性能を兼ね備えた賢い消費選択であり、コスト意識も厳しく求められる。
空冷単気筒のGB350に対して水冷単気筒のトライアンフが競争力を出そうとしたら、60万円台後半から70万円前半でデリバリーしなきゃならないでしょうが、トライアンフの攻めの値付けには定評があり、今回も唸るような価格でデリバリーしてくるような気がする。私はズバリ69万8000円と予想します(笑)
問題はハーレーですよ。日本への導入が検討されてるらしいX350のベースモデルは、なんと中国資本のイタリアンブランド、ベネリ302Sです。この時点で「はぁ?」ってなるけど、これをボアアップして350ccにしたバイクを「一体いくらで売るのよ?」ってことですね。
強気の価格を掲げて、ハーレーブランドの葵の御紋で売るのか、ガチの価格勝負に打って出るのかは悩みどころになると思うけど、ハーレーってホント値付けがわかんないんですよね~。ヘタするとこれに100万円とかつけてきそうで恐ろしい。昔発売したストリート750は85万円でしたし、スポスタの883を88万3000円で売ってたこともあるから、ハーレーの収益のボトムラインは80万円台あたりでしょう。よって、値付けは80万円から100万円の間あたりと予想します。
・・とまぁ、商品展開の上っ面をなでるだけなら、そういう感想になるんですが、もし現状のまま発売されたなら、勝ち負けは明確に分かれると思うんですよ。ぶっちゃけ言うとトライアンフはこの市場でも健闘するけど、ハーレーは惨敗になるでしょう。
トライアンフは近年日本での販売台数を順調に伸ばしていて、その勢いのまま中型市場になだれ込むという攻めのイメージですけど、ハーレーは大型の価格が上がりすぎて、やむなく廉価なモデルを発売せざるを得ないというイメージなんですよね。
その証拠にトライアンフがスピード400とスクランブラー400Xの日本導入を即決したのに対して、ハーレーはX350を日本に導入するか否かでグズグズ悩んでる。それって「商品に自信がない」「戦略に自信がない」って言ってるようなもんなんですよね。
トライアンフは一見古い歴史を持つようですが、一度倒産して歴史から姿を消し、1990年代に復活した新興ブランドで、いろんな苦難を経験しながら、一歩一歩地力をつけてきた経緯がある。要は老舗の看板掲げてるけど、ブランド価値で日本製バイクに対してオラオラしようとは思ってない。日本車の強いところを巧妙に避け、常に自分たちのブランドの立ち位置を考えている、戦いどころの舵取りがうまいブランドだと思ってます。
実際、今回中型クラスに投入される新型400cc水冷シングルエンジンも実に巧妙。現在日本製バイクのラインナップに400ccの水冷シングルってバーグマン400以外ありませんからね。水冷だけどトライアンフは味を作り込むのが上手いし、「スピード」400ってネーミングですから、かなり速いはず。懐かしのスポーツシングル、SRX400やGoose350好きだった人には待ってましたの風味が出てるんじゃないかと思うんですよ。
加えて、トライアンフ内部での製品ヒエラルキーの整合性もバッチリ。現在トライアンフは古典的な走りを体現したバーティカルツインと、MOTO2のベースエンジンとして名をはせる3気筒で、クラシック路線とスポーツ路線の両方をケアしてます。そこに排気量の小さいシングルエンジンを追加というのはヒエラルキーがメチャわかりやすい。
つまり、リーズナブルで扱い易く、パワーソコソコのシングルエンジンからエントリーして、ライディングに自信がついたら、ステップアップで気筒数と排気量をアップさせていくっていう流れなんです。顧客の好みに応じて「キレとパワーのトリプルか、質感と味のバーティカルツインか、お好みで選んでね♡」っていうことになるわけですな。高額商品へ誘導する導線として、小憎らしいほど良く考えられてるんですよね。
今回のスピード400もスクランブラー400Xも、生産はパジャージですが、インドでもトライアンフディーラーで売られる商品だし、トライアンフの世界戦略車ですから、しっかりと手綱を握って作ってると思うんですよ。パジャージの安い労働力を利用して浮いたコストを質感に回して、トライアンフの名付けにふさわしい仕立てにしてきてると予想してます。
(イタリアのベネリのガワを変えてハーレーになれるのなら、*のじゃ子だって外装キットでハーレーになれるでしょう。でも誰がどこから見たってホンダはホンダ。正体はすぐバレる。だからそんな馬鹿げたことはどこのメーカーもやらないんです。)
これに対して、ハーレーのX350には不安しかない。ハーレーは、これまで他のブランドに対して明らかなプレミアプライスを設定してきましたけど、それが成立するのは、100年を超える歴史と、そこで育まれてきたデザイン、アメリカ文化を体現したような骨太で大らかな乗り味などがあるからです。高額商品の個性って「他のメーカーがどんなに頑張っても決して手に入れられないブランドとしての正統性を持っている」ってことが重要で、長い歴史を持つハーレーのVツイン・クルーザーは、現代の付加価値戦略においてはもの凄く強力なんです。古くさい空冷プッシュロッド式のOHVエンジンを水冷サイボーグ化してまで延命しようとしてるのも、ハーレーのブランドアイデンティティを維持するためのアイコンとして、このエンジンが必要不可欠だと判断しているからでしょう。
ハーレーはこれまで、自身のブランドアイデンティティを高めるために、他メーカーに対して、徹底した差別化戦略をとってきました。ディーラーだって、プレミアムプライスに見合った外観や内装を要求されているし、接客も同様。ハーレーは情緒やライフスタイルにアプローチすることにより、性能に依存しない価値を徹底して追求してきたんですね。だからこそ、性能に優れる日本製バイクを向こうに回し、大型バイク部門で国内売上げ1位の座を手にすることができたんだと思うんです。
このような高付加価値型ブランド戦略に大事なのは、顧客が「ステータスによる幸せを感じられること」です。要は「他ブランドに対してオラオラできる」ことが重要なんです。ハーレー乗りは態度がデカいって言われてますけど、逆に言うと「このバイクに乗るとデカい態度ができるゾ」と乗り手が感じてくれてるってことなんですよね。ここがとても重要。優越感に浸れないブランドに、人は付加価値を支払わないですから。
つまりハーレーの生命線は付加価値の維持なんです。そのための商材に必要な要素は、
①ハーレーが企画、設計、製造に責任をもったものであること、
②他社にないハーレーらしい個性やアイデンティティがあること、
③顧客が納得できるクォリティが維持されていること、
あたりだと思うんですよ。ハーレーが過去日本市場に投入して失敗しているモデルは、「このうちのどれかが欠けている」と顧客に判断されたから消えていったんです。で、今回中国で発表されたX350は、この視点から見ると「絶対に日本じゃ成功しないモデル」なんですな~。だって中型クラス自体がオラオラできる土俵じゃないし、そこもってきて「ベースのエンジンとフレームが中国のQJ Motorcycleが製造するイタリアブランドのベネリ」なんですよ。あのね。ハーレーのブランド代を払って中国企業が作ったバイクに乗るなんて、オラオラ感とはほど遠いっつーんですよ。
(上がハーレーX350、下はベネリの302S。基本構成はほぼ同じです。厳しく言えば、イタリアンテイストのバイクをボアアップしてハーレーの外装キットつけただけ。このモデルは多くの古き良き老舗ブランド(ハーレーを含め)が必死に守っているアイデンティティの自己否定です。そういう意味では発想のベースが、「何でもいいから売ってナンボ」の安易で中国的なものといえる。)
誤解のないようにいっておきたいんですが、私は別に「中国製だから悪い」って言ってるんじゃないんですよ。今や中国、インド、タイは世界の工場で、世界のほとんどのメーカーがそこで部品の製造や組み立てをやってるんです。だから中国で作られたものを否定しているわけでは毛頭ない。ただ、どこで作っても「そのブランドのオーナーとしての誇りと夢を見られるような製品でなくてはならない」と私は考えてます。
このモデルについて言いたいのは「これ買ってオーナーが夢をみられるの?」ってことですよ。高額消費というのは半分は夢を買うものですから、顧客が夢を見られるようにするのがブランドの義務ですよ。そこをぶん投げちゃってるから、X350はハーレーの今後のためにも「成功してはいけないモデルである」と私は考えてる。
だってねぇ、これを「ハーレー・ダビッドソンですっ!」と言って売ってしまうと、「はぁぁ?じゃあ、ハーレーの考えるハーレーらしさってのは一体何なの?」ってことになっちゃうじゃないですか。ハーレーの設計でもなく、ハーレーの生産でもなく、アメリカ的でもないものに、ハーレーらしさが存在すると考えてくれる人は日本にはまずいないと思う。
新興国では輸入関税があるんでハーレーが欲しくても、とても手が出ない人も沢山いるから、中国資本のバイクメーカーとのコラボ商品を出して、ファッションバイクで上前はねる分には勝手にすればいいけど、そんな安易な手法が日本で通用すると思われるのは、日本市場がナメられてるようで腹立たしい。こんなものの導入を真面目に検討されてること自体が、私にはもう許せないんですよね。これをデリバリーするってのは、長年苦労して積み上げてきたブランド価値を毀損するリスクしかないと、私は断言する。
ハーレーに求められているものは、「ハーレーというバイクだけがもってる、形のない情緒的なもの」なんですよ。そして、それは「ハーレーという企業だけが生み出せるものだ」と多くの人が信じているし、ハーレーも長年そうアナウンスしてきたんです。
だからこそ、中国企業の企画・生産したイタリアンブランドのバイクが、ハーレー製品として日本で受け入れられることはないと思う。一定数売れても、購入者は「ハーレーブランドなら何でも良い」っていう人ばかりになっちゃうでしょう。そういうミもフタもないことでいいのか?ってことですよね。だから、ハーレー愛に満ちた日本市場でやっていくなら、着せ替えじゃなくて、ハーレーが日本人の顧客層のことを真剣に考えながら、企画、製造した本気モデルで戦わなきゃならないんです。しかし、残念ながら、X350にはそんな本気度は毛ほども感じられません。
まぁ、私みたいな木っ端消費者が一企業の戦略にどうこういう筋合いはないんですけど、トライアンフについては「頑張って400ccクラスを活性化させてね!できればリーズナブルな価格でお願いね☺️」ってエールを送りたいですが、ハーレーについては「好きにすりゃ良いけど、あんなナメたモデルを発売しても、絶対に良い結果にはならないですよ💀」っていうのが本音です。
もしX350を発売したら、過去最大級の黒歴史になることは間違いないと思いますけど、これは私の個人的な見解ですから・・さて、どうなりますやら(笑)
コメント
コメント一覧 (23)
中型のハーレーは酷い、酷すぎる💢
私にとってバイクのメーカーは関係なく、もっと言うなら排気量も性能も関係ないです。乗って操って“かっこえ〜”と思えること、洗車を含めバイクとの時間が充実した時間である事が大事です。
デザインどうこうでなく、トキメキが感じられない。
Goose350 に乗ってたこともありトライアンフは欲しいと思います。単気筒って排気量に限界があって中型までがベストと思います。ちゃんとビジネスと顧客を向いた中型戦略と思います。
メーカー名でも排気量でもない、良いものは良い🙆トキメキを与えてくれないバイクには命懸けで乗れない!日本のバイク馬鹿を舐めてもらっては困るって思っちゃいました。
へっちまん
がしました
BMWさんがインラインの4気筒を作った時にも愛好者からはダメ出し貰ってたね?
BUELLさんも水冷式のVツインも苦労してたから、3つの要素は重要だと思う。
とは言え何処か琴線に触れる人も居るかな?
トラは王道ですね?後ろ周りは別仕様も簡単そうに作れそうな構造だから派生車も有るだろうね?
安心感のあるスタイリングとパッケージなので売れる気がします。
まだまだクラシカルと言うかオーソドックスな路線は続く感じでしょうね?
ホンダさんには排気量を上げて戦おうなんて考えて欲しく無いですね!(笑)
今年のmobilityshowに出展してくれるかな?楽しみに待つようです。
へっちまん
がしました
アエルマッキ傘下で作った250cc単気筒「アエルマッキアラベルテ250」
https://batmci.exblog.jp/23147848/
これくらいの質感で製品化出来れば ブランドイメージも損なわれないどころか
アンチハーレーの私でも欲しくなります
私の過去記事も登場
https://mannenna.hatenablog.com/entry/33259259
へっちまん
がしました
またしてもギターに例えちゃうんですがこれはまさにトライアンフがフェンダー(とグレッチ)、ハーレーがギブソンですよ。
ハーレーとギブソンってやり方がマジで似てるんです、もうまさに葵の御紋。年式関係なしにヘッドに燦然と輝く「Gibson」を見せ付けられれば「はは〜っ!」とひれ伏したものです。昔から一貫して20万30万と(今ならカスタムショップは100万オーバー!!)強気の値付け、まさに殿様商売でした。
ところがフェンダーはフェンダージャパン(グレッチならエレクトロマチック)というミドルクラスモデルを出してくれてました。価格も当時新品で10万、中古で7万を切ってたのでバイトすれば買えましたし、作りもちゃんとしてる。そしてヘッドには本家と何ら変わらない「Fender」ロゴ!もう何の不満もありません、見た目本家と何も変わらないんですもん。当時の高校生には嬉しい限り。パーツを変えて改造する楽しみもありました。今思うとハチロクやシルビアみたいだな…
ギブソンにもエピフォンってミドルクラスモデルがあるにはありましたがヘッドの形が…コレジャナイ(一部ではチ◯コヘッドと揶揄されてました)あの形が欲しかったら借金してでもウチの買え!って企業体質がもうミエミエでしたね…フェンダーとギブソンの楽器作りの向き合い方が違うから一概に比べるわけにもいきませんが…新しいやり方を模索してるのは同じですがギブソンはどこか保守的
楽器も今や大半は中国、韓国、インドネシアで作られてますが、現地にも腕のいい職人さんもいますし、実際何の不満もないですねぇ。
全然関係ないですが昨日のバスケW杯日本vsフィンランド、まさにスラムダンクみたいな試合でした!
スイマセン、また長くなりました…
へっちまん
がしました
そこでふと思うのは、英国の伝統を感じさせたテンプター のこと。存命であったならば、speed400、GB350、tempter400、で面白い巴戦が始まりそうじゃありませんか???
じつは私の徘徊エリアに 3台のテンプターが現存していて、忘れた頃に遭遇するのです。道の駅とか、峠の入り口のコンビニとか、観光駐車場のトイレ前とか。うち 2台はいつでもSNSで動向が把握できます。んな訳で鈴菌テンプターが、現在マイブームのひとつなのです。
余談。X350か302Sどちらか一台進呈、となれば迷わずベネリを選びます。リセールバリューはハーレーの方かも知れませんが、素性が良いのは明らかにベネリ。
へっちまん
がしました
いや〜痛烈ですっっ。
ハーレーやトライアンフなどのブランドは戦後デビューの日本メーカーでは叶わない何かが喜ばれているのだと思います。
で両者共に「ウチこそが英国でございます」「ウチこそがUSオブAでございます」と、メーカー自身よりも強くポピュラリティのある「国家」のアイデンティティを含浸させることで、その何かをより強固に訴えているように感じます。
最近はロイヤルエンフィールドやインデアンなどもそうかもですが、それらのブランドには性能のワビサビ以外にも「私はお国柄の血の香りをマタグラに敷いて走る」的な所有の喜びもあるのでしょうね。
いや日本メーカーであってもホンダなど昔からの車名を使い回すブランドでは、新車が出るたびに「こんなの〇〇ではない」と原理主義者達からヤジが飛んでいますが、これはご存知のように自ら「地球的視野」な「ナイセストピープル」向けバイクメーカーと表明しているにも関わらずです。
よって上記の「所有感」的な情緒面は広くライダー達にとって重要なエレメントなのだろうと思います。
さてそこにもってきてこのハーレーでは「血」の説明がつかないし「実利」は日本車がおさえちゃってるじゃん。と短絡的に拝読させていただきましたが、いつの時代も売れなければ中途半端、売れればベストバランス。これは楽しみですね。
へっちまん
がしました
CL500も良いですが400cc前後のシングルが気になる所存
あとはファンティックのフラットトラック500も気になりますが割高感ががが……
世界各メーカーがインドという巨大なシマにナンとチャパティ担いでシバキ合いの様相ですね
昨年の二輪国内販売台数は41万とも言われてますが
ことインドにおいては年間1500万を超える販売台数!!!
そりゃこんな怪物需要を獲りに行かねぇわけはないです、プライドを捨て血眼になってでも…
テキトーなインドメーカー視点ですが…
TOP3のヒーロー(ホンダ)、バジャージ(カワサキ)、TVS(スズキ)は日本メーカーと合弁を背景に成長を遂げてきました
ボリュームゾーンの確保は成したが足りないとすればやはり高価格モデル!HONDAのH'NESS(GB350)のような…
過去パフォーマンスモデル需要を開拓した
ヒーローホンダのCBZに対するバジャージカワサキのパルサーのような外からの起爆剤が必要になる
次なるはブランド力の高いBMWやトライアンフを始めとした欧州メーカーとの合弁
これが一連の流れだと勝手に憶測してます
へっちまん
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同じく日本へ導入した場合はハーレーはあまり売れないように思います。
個人的に感じるのはハーレーはスポーツモデルでのブランドイメージが全く育ってないので、特にミドルクラスになるとワザワザ選択肢に入りにくいような気がします(汗。
これが過去あったビューエルブランドだったりすると、それだけでも少し違うように思いました。
ビッグツインは半世紀以上前の効率的とは言えないエンジンレイアウトのバイクを今でも新車で買えるのは大きな魅力ですが、母体も大きくなってそういうニッチな需要だけでは食べていけないんでしょうね。
でもきっとハーレーもこのままじゃダメだと思って色々考えてるのも応援したいと思いました。
へっちまん
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プッシュロッド風に見せるエンジンカバーとかも売っていて、雑誌の広告ではマルボロマンスタイルとか色々ありましたよね
天をつくようなスラッシュカットのマフラーにクソ長いロングフォークのSTEED達はみんなどこに行ったんでしょうw
クラブスタイルを先取りし過ぎたデスペラード400Xとか、各社から多数の車種が出ていて楽しかったなぁ(遠い目)
でもSTEEDからハーレーに乗り換えたというパターンは多かったと思いますし
要はあの頃のSTEEDの役割のモデルを作りたいんでしょうが、ベネリ製はコレジャナイ感の塊ですねw
へっちまん
がしました
という投稿を見たことがありますが、こんなことされちゃぁねぇ・・・。
私に限った話ですが、もしも
「ハーレーのエンブレムを外したらあなたはそのバイクに乗るんですか?」
と聞かれれば、
「ちょっと昔のソフテイル、ロードキング、スポーツスター、ウルトラ、ローライダーなら乗ります。むしろ今の愛車、ソフテイル・クラシックがヤマハの大型バイクだったらなおのこと喜んで乗ります♪
逆に今の作りのハーレーなら、たとえどんなに大型排気量でもドラッグスターのような外見だったら乗りません。」
と言います。
ハーリー・デイヴィッドスン モーサイクルズのあのセンスが好きでたまりません。
見た目も排気量も乗り味も。
整備性は・・・なんといっていいのやら(笑)
へっちまん
がしました
何か大変ですねハーレー日本法人の方々は本質的にビッグモーターの方々
と頭の中身は変わらないんですかね?https://bunshun.jp/articles/-/65523?page=1
へっちまん
がしました