私のゴールドウィング無印(きんつば嬢)が2万㎞を超えました。

久しぶりに「無印」って書いたような気がするんですけど、これで箱のない無印のゴールドウィングがディスコンになってから、はや半年が経とうとしています。私の乗るMTモデルが鬼籍に入ってからは約3年ですね。

「はぁ~・・時の経つのは早いものですなぁ・・」(「ゴールドウィングMT」と書かれた墓に手を合わす。)

消え去って以降も「まったく惜しまれている気配がない」というのはさすが私の選択したグレード、我ながら清々しいです。今回は「無印ゴールドウィングがどのように没落していったか?」を所有者視点で自虐的に語るという内容になっておりますが、私には一切の気遣いは無用ですので、メシウマでお読みくださいね。

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(ある晴れた日のきんつば嬢の勇姿。最近ツアーはよく走ってるのを見ますが無印は見る機会がほとんどないですね。)

現在はディスコンになってしまった無印ですが、ゴールドウィング発売当初の出陣ぶりは堂々たるものでした。前作のF6Bを引き継ぐように男らしくMT一択。「無印は走りのグレードなんです!新型の運動性と新設計のフラットシックスの性能を存分に味わって下さい!!」って胸を張ってた感じだったんですよね。ネーミング見る限り、今回はバガースタイルがホンダの推しで、「ツアーはバガーの豪華版なんですよぉ!」ってくらいの勢いだった。

スタイリングも「タンデム専用バイクから後席を取り去りました!」ってのが誰の目にも明らかだった尻の長いF6Bに比べ、バガーモデルとしてのバランスがしっかりとれた造形になっており、巨大でふくよかなあんこ型だったF6Bに対し、ギュッと絞られたソップ型。乗り味も「ちょっと古典的だけど、とてもバランスがいいね」っていう旧型から、現代的で洗練されたものに進化してたんですよね。

そんなホンダの走りに対する自信と気迫が感じられるモデルだったわけですが、残念ながら、開発陣の熱い想いは私のような「デブ専変態野郎」にしか刺さらなかったようなんです。前作のF6Bの素晴らしい走りを存分に楽しんでいた私には、今やポルシェ(6気筒は一番安いモデルで1377万円!!)とホンダだけになったフラットシックスで走りを求めていく意味も理解できたんですが、一般層には365㎏のバイクでスポーツするってのはなかなか理解できなかったんだと思う。

重いバイクの良いところって、速さがなくてもメチャ満足できるところなんです。重量級バイクは車体が重いから慣性の法則がものっ凄く働いて、ソコソコの速度でもコーナリングの手応え感がハンパない。小型バイクで超高速コーナリングをしているときと同様の手応えが法定速度のちょっと上くらいで味わえたりするんですよ。

そんな走りが楽しい無印なんですが、スタイリングの迫力という点では前作のF6Bに及んでない気がします。スタイルのバランスがとれてるが故に、F6Bにあった「なんてエグいんだ!」っていう怪物的異形感を失ったんですね。この手のモデルはスタイリングにインパクトがないと、天守閣のようにそびえ立つパッセンジャーシートを擁するツアーに、どうしても迫力で負けてしまう。

しかもDCTを設定するツアーには、ゴールドウィングの超重量を帳消しにする新機構、前進後退機能という切り札がセットメニューでついてきた。この機能の商品力が圧倒的だったんですな~。「いやいや、無印はツアーより25㎏も軽いじゃん!前進後退機能なんかなくても無印には軽さという武器があるよ!」って開発陣は言うかもしれないけど、220㎏が195㎏になるんならそりゃ「すげぇ軽くなったぁ!嬉しいよぉ~!!」ってなるけど、390㎏が365㎏になったからどうだというのか?「いずれにせよ・・クッソ重いのではナイカ?」って感想になるだけ。この巨体を喜んで押してるのは私を含むデブ専の変態とドリーム社員くらいですよ。

結局、取り回しの優位性の前には、スポーツ魂なんてクソの役にも立たなかった。電サス、前進後退機能、DCT、シートヒーター、ツートン塗装と、売りを満載したツアーに対して、男気を全面に出し、シンプルさで挑んだ無印MTは「単なる廉価モデル」として完全なカマセ犬になってしまったワケですね。まぁ、足つきの良さでレブルが売れてる時代に、あえて足つきの悪い重量級バイクに走りとストイックさを求めていくという修行僧のようなライダーは既に絶滅していたということでしょう。

新型はバックギアなんか使わなくても押し引きがF6Bに比べて楽勝なので、私としては、どうせ売れないんならこの際バックギアも外し、もう15㎏軽量化するというトガりをみせて欲しかったんですけど、市場のDCT人気に迎合するように無印にもDCTを搭載したことで、MTモデルの廃番は確定路線になってしまいました。

そういえば、つい最近も無印の不人気ぶりを象徴するような出来事がありました。それはヤングマシンの人気投票。最新の集計でクルーザー部門(←クリックで飛びます)でゴールドウィングはレブル250に次いで2位、なんと「昨年から順位上げてる」んですよ。わかりますか?無印がディスコンになって順位が上がっちゃったんですよ!これは切ない。

「フハハ・・お前なんていてもいなくても人気に影響はないのじゃあ!それどころかお前は足を引っ張っていたのじゃあ!」ってツアー乗りにドヤ顔で言われてしまう結果になっているじゃないですか!

しかも私の選択したのは、不人気の無印の中でも超絶不人気のMTモデル。リコールで判明しましたが、日本でのMTの売上げは総販売台数の約12%程度という、これまた惨憺たる販売状況になっている。そもそもゴールドウィングって年間の日本割り当てが500台くらいしかない希少種なんです。発売から6年目になりますけど、知名度の割に大して走ってないんですね。で、この年500台のうちの12%って僅か60台くらいでしょ?で、無印が全体の10%。となると単純計算で年間6台。無印の方がMT選ぶ人の比率が多いと思うんで、それを考慮してもせいぜい20台程度だと思うんですよ。全国で年間20台。出会う確率なんてほぼゼロ。実際、私は3年間きんつば嬢と走ってきて、MTに乗ってる人を1人たりとも見ていません

この空気のような存在感は「ヤマハのルネッサ」を彷彿とさせる。もはや限りなく透明に近いといえるでしょう。

ルネッサ
(僅か3年ほどでディスコンとなったヤマハのルネッサ。攻めまくったデザインで爆死したのではなく、珍しく王道デザインでの爆死例。存在の透明感、比類なし。)

結局ホンダに満足な利益を上納できなかった無印ゴールドウィングは、発売から約5年で家禄召し上げ、御家断絶となり、カタログから姿を消すことになりました。ちなみに前述したヤマハのルネッサは3年ほどでカタログから消えてますから、なんとかルネッサには勝ちました。やったぜ!!(ガッツポーズ!)

しかし、このゴールドウィングにはルネッサにはあり得なかった構造的な問題があるんですよ。そう、廃家になった不人気グレードがゴールドウィング本家のネーミングを背負っちゃってる問題です。しかも残されたツアーが本家に繰り上がるわけでもなく、いまだ分家状態のまま。この名付け問題はホンダの取り返しのつかないミステークだと言わざるを得ない。なぜ売上が少数派のバガーモデルに「ゴールドウィング」という本家筋の名付けをしてしまったのか?小一時間問い詰めたい。

私がF6Bに乗ってるときですら

「これなんてバイクですか?」

「ゴールドウィングです。後部座席とバックギア取り払ったモデルなんですよ。」

「へぇー、ゴールドウィングにこんなのあったんですねぇ・・」

程度の認知度だったんです。つまり、世間ではゴールドウィング=パッセンジャーシートを備えた威風堂々のメガクルーザーって捉えられているわけなんですよ。

新型も世間の認識をなぞり、箱付きを本家、バガーモデルを分家にしてくれれば何の問題もなかったんですが、「親の思いだけで、力のない子に家禄を継がせると、本家も分家も不幸になる。」という没落型時代劇で良くあるパターンの典型例をやらかしてしまったんですね。

DN01.2
DN-01+1
(ホンダ伝説の短命車種「DN-01」。消されたくないのでコメントは控えます。)


「廃家になったからには、ツアーを正調ゴールドウィングに昇格させて欲しい」っていうのが私の切実な願い。母屋を取られているにも関わらず名前だけは立派って、もの凄く切ないんですよ。現状では多くの人が、こう思っちゃうはずなんです。

「凄い!このでっかいのなんていうの?」

「ゴールドウィング・ツアーっていうんだ?」

「ちなみにベースモデルのゴールドウィングってのはどこにあるの?」


「え?ない?不人気でディスコン?・・本家の方が?」

「ふーーん・・・」

「プッ(笑)」


この「プッ」っがいやなんじゃあああああ!!この「プッ」が!!!(首を振り回して狂乱)

もうね。「不振続きで戦力外通告を受けた自分の背番号が永久欠番」みたいな感じでいたたまれないの!今のところは海外で無印が残ってるから、グローバルモデルとしてはツアーの名前を変えられないのかもしれないけど、海外で無印がディスコンになったら

即ネーミング変更お願いします!!

数年後にどっかのバイクギャグ漫画が「天下のホンダのフラッグシップ、本家が廃家!重すぎる名付けが生んだ悲劇!」なんてのを描いて笑いを取る光景が目に見えますよ。私はネーミング問題を自虐ネタ化してますけど、これは「人にイジられる前に、自分でイジってやれ!」って無印オーナーの開き直りです。

でも、私はこの悲劇の無印MTモデルがとにかく大好きなんですね。なんせウチで飼ってるきんつば嬢は、MTが廃番になると知って風神雷神図みたいな足の回転で駆け込み購入した「国内MT最後の1台」なんですから。人気がないのはその時点で重々わかってましたけど、それは私の性癖にまったく関係がない。そして、「その選択に3年経過した今でも一片たりとも後悔はない」と胸を張って言えます。

だってぇ、このエンジン素晴らしいんだもの。2万㎞走ってなお、このフラットシックスは日々フィーリングが良くなり続けてるんですよ。今では納車時の硬さと重さが信じられないほど、エンジンが羽のように軽く回る。それをマニュアルで存分に堪能できる喜び。そして、この喜びを自分だけが知っているというヒキコモリ感。たまんない。

だからさっさと本家なんて重い地位から自由になって、ヤマハのルネッサのように、限りなく透明になりたいんです。デビルマンの不動明と牧村美樹のように、バイクと二人「誰も知らない知られちゃいけない」孤高でエッチな世界に旅立っていきたいんですね。

それが超絶不人気グレードに乗る私のささやかな夢であり願いなんです。



(夕日を背に疾走するバイクが美しいデビルマンのエンディング。人の世に愛と夢があるように、バイクの世界にもバイク乗りの数だけ愛と夢があります。その美しいものをお互いに守っていかなくちゃならないはずなんですが、実際は今日もデビルなマウント合戦。それがバイク乗りの日常なんです(笑)