全国のロケットカウル戦闘団の皆様、お待たせ致しました。今回ついに、ついにHAWK11のエンジンインプレでございます。本来なら5月の連休明けにはUPしてる予定でしたが、予期せぬ事故とか色々あって結局は6月も後半になってしまいました。

最初に申し上げたいことがひとつあります。

私が過去にインプレした「速くない、でも少し速い」の正体(HAWK11レンタル試乗記)←こちらのブログのインプレは、いったん全て忘れてください。

納車から既に4000㎞を走り、エンジンにアタリのついた今では、あのインプレは「僅か12㎞しか走ってないおろしたてのエンジンを、ゴリッゴリに回した結果、中間回転域しかまともに機能しない状態で行ったインプレであった・・」って感想しかない。

レンタルで時間代金を払ってるんで、元を取るべく回しまくりましたけど、バイクのエンジンってある程度しっかり慣らしをやってからインプレしないとやっぱダメ。コールドスリープから目覚めてすぐのエンジンを、リハビリはおろか、ラジオ体操もさせずに、体力測定に持ち込んで、「さぁ走れ走れ!!」ってやったんだから、まともな結果が出るはずがないんですよね。アタリがついてないから、下はガクガク、上はギュウギュウしてたんです。

やっぱバイクは、ある程度つきあってからじゃないと「正しい姿」はわかんない。私が*のじゃ子のエンジンのインプレをずっと引っ張ってたのも、「乗れば乗るほど新たな発見があって印象がどんどん変わっていく」からなんです。それほど大型バイクのエンジンは懐が広く、奥が深い。4000㎞走った現在だって正確な姿を伝えられるかは、はなはだ疑問です。

だから「試乗インプレの僅かの体験をバイクの本当の姿だって捉えちゃうのはどうなのか?」っていつも思うんです。雑誌のテスターさんや評論家さんはそのスタンスでいいんですよ。彼らは短期試乗限定でどこまでバイクの本質を捉え、しっかりとバイクを表現し、言葉を選んで伝えられるかを仕事にしてるわけですし、短期試乗のアバンチュールでそのバイクを楽しんだ人達の印象も、それらのテスターの方々とほぼ一致するものでしょう。

でも私は身銭を切ってバイクを買ってる純粋消費者ですから、超長期間で評価がすることができます。とはいってもライダーとしては「完全なポンコツ」ですので、機械的な分析はできないし、その点には、あまり興味もありません。だから、シャーシやエンジンが流用だとか割とどうでもいいんですよ(笑)

アル中が酒の成分にこだわらないように、「どんな素材だろうが、自分がウマく感じりゃなんでもいい」ってのが私の評価の基本。

文系って理系と違って、科学的に検証することに、あまり興味がないんですね。メカを語るよりも、「自分が感じた言葉にしづらい感覚を、あらゆる手練手管を使っていかに相手に伝えるか?」っていうところにこだわりがある。これを高尚かつスマートにやると文学になるんですが、ひたすら泥臭く低俗にやるのが私。商業インプレとは立ち位置がまったく違ってますから、その差を楽しんで頂けたら、って思ってます。

って前置きはここまでにして、いよいよ*のじゃ子のエンジンインプレに入ります。それでは・・・ゆっくりしていってね♡

DSC_2781(*のじゃ子、地震後の能登路を行く・・です。)

とりあえず最初に、このエンジンの最大の特徴から申し上げましょう。それは「天下一武道会出場を目指してない」ってことですね。このエンジンは戦闘力に優れる花形戦士達のためのものじゃない。

どっちかというと、「自分をミスターサタンである」と受け入れ、他人との比較や、他人の評価のためではなく、自分の気持ち良さのために走る人のお友だち。「魔神ブウ」じゃなくて「ミスター・ブウ」なんです。だから、天下一武道会を夢見る方は素直に200馬力級のエンジンに乗るべきですし、その方が後悔がないでしょう。

ドッカンバトル
(ミスター・サタンってバカにされてますけど、一応人間界最強っすから(自称)。ドラゴンボールは超人達が人類を救うんじゃなく、最後は弱っちいオッサンの人間味と生き汚さが人類を救うという素敵な物語になっている。格好悪くても、自分らしく正直に生きるサタンを私も見習っていきたい。)

最強を捨てた1100ccというリッター超え排気量のスポーツエンジンが我々に提供するものは何なのか?

それは「多彩さと豊かさと優しさ」です。

私がこれまで乗ってきたスポーツバイクのエンジンは鮮やかなビビットトーンの単色でした。ツインはレッド、トリプルはグリーン、インラインフォーはブルーって感じでエンジン形式ごとに色彩は違うけど、どれも「とてつもなく色鮮やかな原色」だった。

回せば回すほど、パワーを出せば出すほど、色の鮮やかさはどんどん増していき、高回転では、ほとばしるような色彩の鮮烈さと麻薬的な刺激に心臓と脳を射貫かれる。パワーバンドを外れるとその彩度はガクンと落ちるけど、基本的な色彩は変わらない。私にとってのスポーツユニットはそんなイメージなんです。

でも、このエンジンは違う。ツインだから赤系は赤系なんだけど、オレンジもあれば、朱色もあるし、紫もある。選択したモードやアクセル開度、回転域によって、エンジンが違う味と色彩を出してくる。エンジンの表情の変化は、2つのピストンの上下振動が明確に伝わる2気筒ならではの持ち味ですけど、その中でも大排気量アドベンチャー、アフリカツインのエンジンは、「リッターらしいパワー感と乗り手を飽きさせないための演出を両立させている」んですね。いや~、これいいエンジンですよ。公道で過度の馬力を求めなかった代わりに「エンターティナーとしての能力値」がとてつもなく高い。

低速では猫が喉を鳴らすようにゴロゴロ優しく頭を擦り付けてきて、アクセルを豪快に開ければ路面にタイヤを突き刺すような縦振動。中回転域に入るとそれは厚みのある揺れに変わり、高回転域では振動を収斂させつつドビューンと延びていく。それらのパルス全てにカドがない。

乗ってて思うんですが、このエンジンはまさに「電スロ時代に生まれたキャラ変の申し子」のようなエンジンって気がする。だからこそ、古いものを味わってきた多くの人に、これまでになく新鮮に映るはず。

それをしみじみ実感できるのが、スタンダードモードとスポーツモードです。このバイクのスタンダードモードは

「アクセルをステイしたときに、なんとも言えない気持ち良さと癒しがある。」


数多のスポーツバイクに乗ってきた人は、このモードに入れた瞬間「はあああ?なにこれ!!なんなの!?」って面食らうと思うんですよ。とにかく羽毛で顎下をなでるように優しくパワーを出してくるし、アクセルのツキも柔らかい。エンジンの鼓動感は小川のせせらぎのように心地よく、挙動も安定。乗り手をぬるま湯に浸かってるみたいにマッタリ巡航させてくれる。でも開ければちゃんとパワーも出てくる。ただ、パワーの出が穏やかなだけに、ロングホイールベースが強調されるモードでもあります。なーんせHAWK11は、いにしえの1100カタナと同じくらいのホイールベースがありますからね。穏やかな入力ではどうしても車体は安定方向に振れる。

私は最初このモードに入れてワインディングを走ったとき、「なんじゃあぁあ?この優しいパワーの出は!ロングホイールベースでおっとりしてるし・・これが大人のスポーツバイクなのかなぁ??」って思ったんですよ。だから最初の1500㎞くらいは、ほとんどこのモード使わずスポーツモードで走ってました。しかし、春になり遠方の峠道に遠征するようになってから、「いやいやいやいや・・このモードの存在はHAWK11に必要不可欠であったわ・・」と思うようになってます。

だって、このモードは乗り手を疲れさせずに、ひたすら遠くへ運んでくれる能力が突出してるんですよ。このおかげで、はるか遠方のワインディングまでが遊びの範囲に入ってくる。ワインディング入口まではスタンダードモード、ワインディングに突入したらスポーツモードという風に使い分けることで、ウチの*のじゃ子は

「戦略爆撃機のような行動半径をもつ戦闘機」

になっているんです。しかも、その道中は、アドベンチャーであるアフリカツインの旅適性をそのまま横滑りさせたような心地よさ。「はぁぁああ?スポーツバイクでこんなに癒やされちゃってどうすんの?これって堕落じゃん
?!」
って昔の私ならいっていたかもしれないけど、今は「温泉浸かってるような穏やかな気分で、峠まで行けるって最高じゃない!聚楽よ~ん♪」って拳を上下に振って大喜びしてしまう。

振り返ると、この世には走行性能にこだわるあまり、「得意とするワインディングまで、乗り手に拷問を強いるスポーツバイク」が如何に多いことか?

最近まで私の愛機だったストリートトリプルRSは、走りに対して極めてストイックで、遠出すると予期せぬ路面の凹凸による突き上げで腰が悲鳴を上げるし、タイヤはヤバイほど減るし、バイク自体が「ご主人!とにかくワインディングに連れて行って下さい!早く早く今すぐ即!!」ってせっついてくるしで、近場ばっかり走ってたんです。そのかわり、いざ峠に持ち込んだときの走りっぷりはそりゃもう凄いキレッぷりで、フォーカスをギュッと絞った「刺激性の強いここ一番の戦術戦闘機」でした。ポジションは起きてるけど、本質はSSと変わんない印象だったんですね。

しかし、HAWK11は「デイリーでがぶ飲みできる戦略戦闘機」になっている。ストリートトリプルRSよりポジション前傾してんのに、購入してから片道100㎞とか、片道150㎞の遠方のワインディングにガンガン遠征していける。タイヤだってそんな減らないし、ガソリンレギュラーだし、流してる時の気分も極めて平和で視界も広いから、道中の景色だって存分に楽しめちゃう。

低い目線から見上げる景色は凄く新鮮で、「はぁ~・・なんかこれ、今までにない新しい世界を見せられてるゾ・・」って気になってくる。

で、お目当てのワインディングに到着したら、お気に入りの革ジャンの袖と襟を絞め、モードボタンを下にワンクリックして、エンジンパワーをスポーツモードにキャスト・オフ。指を天に向け、仮面ライダー気分で決め台詞を呟きましょう。

おじいちゃんはい
(このセリフ、とても格好いいんですけど、すでに自分がおじいちゃんの歳になっちゃってるのに愕然とする・・。)

なお、自分自身に酔いすぎると、オーバーランして路肩に生えてる樹木に刺さり、仮面ライダーカブトどころか、樹液すする方のカブトになってしまうので注意が必要です。

峠用に作られたと思われるスポーツモードは、ステイして癒されるスタンダードモードと異なり「しっかりアクセルを開け閉めした時に本領を発揮する」仕立てになってます。エンジンのパルスが明確に感じられるようになり、加速と減速にメリハリがついて、猫を被っていた1100ccパラツインの本来のキャラクターが目を覚す。そのキャラは「明るく楽しく元気良く!!」で、まるでニチアサの「スーパー・ヒーロータイム!!」のよう。そこには、ガチのSSマシンのようなストイックで背徳的な非日常感はありません。

スタンダードモードに比べ、アクセルレスポンスが敏感なので、低い回転域ではいささかナーバスなところもありますが、3500回転くらいから6000回転くらいまで、車体を角の取れたパルスで揺らしながらコントローラブルなトルクを吐き出し、6000回転からトップエンドの8000回転まで、もう一延び吹け上がる。でも上はちょっと頑張ってる感が出てくるから、やっぱ6000回転までがいい感じです。このバイクをワンディングで元気良く走らせると、この3500回転から6000回転までの一番豊かなゾーンに回転が収まるから、バイクも乗り手もご機嫌さんになれる。

そりゃ高回転高出力型のバイクと比べりゃ、トップエンドでのドラマはありません。でも、そのかわり、このバイクには低中回転域で繊細で丁寧なアクセルワークを要求する「ハイレスポンス、ハイトルク型」のドラマがある。このバイクでワインディングを走ってると、「やっぱ大排気量車ってのは、アクセルコントロールが基本中の基本だな~」って改めて初心に還る。

このバイクのスポーツモードはマイナストルクが強めだけど、バイクが「アクセル開けるときだけじゃなく、閉じ側も上手く使うともっと楽しいのじゃ~♡」っていってきてる。このエンジンがこだわったのは数字で出てくる馬力じゃなくて、決してカタログ数値では出てくることのない、ギッシリ詰まった極上のパルスとトルク変動なんです。

圧倒的馬力と車体のキレでコーナーを次々と攻略し、他のバイクをブッチギるというのが、ファイターであるSSの本質ですが、HAWK11はコーナーとも戦わないし、他人とも戦わない。セパハンで大排気量を搭載したリッタースポーツのくせに「楽しむ以外に背負ってる荷物がない」んです。だから乗り手は気楽になれる。このバイクに乗ると、ワインディングのコーナーは攻略対象じゃなくなって、乗り手とバイクのデートスポットになるんです。

「なーにセカセカしとるのじゃ?公道はサーキットと違って早食い競争の場所ではないのじゃ。せっかくの晴れた週末じゃ、極上のトルクでコーナーをじっくりたっぷり味わうのじゃコ!」ってバイクが明るく笑ってる。だからコッチも自然に笑顔になる。そういう価値観のバイクなんですね。

まぁ、そんな風流なこといってますけど、なんせホンダの1100ですからね。・・凄く・・速いです(小声で)

*のじゃ子・2
(ニュー*のじゃ子の勇姿。動いてナンボのスタイル設定にしましたんで、全身絵がメインになって描くのが大変。)

あと、最後に一つ。私は*のじゃ子で電子制御スロットルのバイクを所有するのは3台目なんですけど、電スロのバイクにいささか不満があったんです。私は電スロ技術の可能性や素晴らしさを高く評価してるし、最大効率でパワーを出すには人間の動作の雑味をコンピューターで補正するというのは論理的だとも思う。また、尋常ではない大パワーを人が安全に扱うためにも、電スロは必須の技術であることも理解してます。ただ、電制スロットルのバイクには、ワイヤースロットルのバイクに絶対的にあったものがないんです。

ワイヤースロットルのバイクって、自分が「スロットルバルブの開け閉めを介して、空気の流れを直接的に握ってる」っていう安心感があったんですよ。電スロは確かにレスポンスもいいし、合理的にパワーが出てくるんだけど、バタフライバルブをワイヤーによるアナログ制御から電子的なモーター制御にした結果、「乗り手が直接エンジンの火力調節をしてる」っていう実感が希薄になっちゃったんです。

ABSもトラコンもなかった頃に我々が大パワーのバイクを操る時、空気の入りを押さえてるという「アナログ的な安心感」は拠り所としてとてつもなく大きかった。

私がきんつば嬢のスポーツモードを酷評してるのも、「パワーはあるけど、アクセルがただのスイッチで、自分が空気弁を握ってる感覚が全然ない」からなんですよね。ストリートトリプルRSの電スロは凄く良くできていましたけど、理想的なパワーデリバリーとアナログ感覚との両立は難しいのか、その点のデジタル感はゼロではありませんでした。ただ、私自身は「速さを求め、より効率的な制御を行う以上、スポーツバイクが昔のワイヤースロットルと同一の感触に戻ることはないんだろうな・・それが進化なんだから、しょうがないよね・・」ってプラス方向に受け入れてました。

でも、HAWK11のスポーツモードは「えへへ、これワイヤースロットルですから~」って言われたら、「ですよねー、やっぱワイヤーはいいなぁ!!」って言っちゃいそうなくらい操作に違和感がなかったんです。スロットルを介して空気の流れがちゃんとわかるし、手綱をこっちが握ってる感覚がある。「これ電スロと偽ってるけど、実はセパハンの中に極細ワイヤー仕込まれてるんじゃね?」って思ったくらい。でもそれだと「ライディングモード選択ってありえないよな・・」ってことになる。

私は「このスロットルの躾けだけでもこのバイクを買った甲斐があった」と正直思いました。絶対的なパワーとか、峠最速の性能より、私にとってはそっちの感覚の方がよっぽど大事なことなんです。だからロートルの私にとって、このバイクの白眉はスポーツモードです。

HAWK11は性能よりも「性能向上や進化の過程で、変化を余儀なくされていった大事な感覚」をもう一度今の素材を利用して再構築したバイクだって気がする。でも、失われたものの愛おしさって、「失われる前を知ってる人にしかわかんない」んですよね。電スロ世代の人にとっては、電スロのフィールこそが常識だから、この仕立ては「単に効率の悪いスロットル設定」に感じられちゃうのかもしれない。でもそれこそが時代の流れ。決して逆行することはありません。そういう意味でもHAWK11はベテランが乗ると、より感慨深いバイクなんじゃないかなって感じてます。

この次はシャーシ編。シャーシもいろいろ書くことあるんで、凄く難産になると思いますけど、気長にお待ち頂けると幸いです。