今回はお別れにあたり、私が約3年間共に過ごした、ストリートトリプルRSの総括をしたいと思います。

DSC_2356(さらば、我が暁の戦闘機。その驚異の走りを私は死ぬまで忘れない。といいたいところだけど、認知症になったら忘れちゃいますんで、そこは許して欲しい。)

まず最初に言いたいのは、

「この3年間で不具合は何一つありませんでしたっ!」

ってこと。

よく「海外製バイクは日本車に比べて故障が多い」っていうけれど、もうね。完っ璧すぎるほどの健康優良児でしたね。納車直後にブレンボのブレーキパッドのリコールがかかりましたけど、これは他メーカーでも同様のリコールがかかったんで、トライアンフの問題ではなく、ブレンボの品質管理の問題ですし、デリバリー直後の迅速なリコールでしたから、不具合としてはカウントしておりません。

同じ年に購入したゴールドウィングが3年間でバックギアが空回りしたり、ヒルクライムアシスト警告灯がついたり、スロットルの違和感でさんざん苦労してたらマップにリコールがかかったりと、まー何回もドリーム店を往復したのと対照的でしたねぇ・・。

よく海外製は製造における個体差が大きいって言われてますけど、私のはアタリだったのか、それともトライアンフの製造品質が高いのかはわかりません。でも少なくともこの3年間、「ここが柔いな~」とか、乗ってて「ここが壊れそうだな~」とか不安を感じる点はまったくありませんでした。個人的には「出力に対してチェーン剛性がちょっと低いかな・・」って思いましたけど、あくまで感覚的な問題だし、さらなる剛性感が欲しいなら、自分で社外チェーンに変更すればいいだけ。

唯一「なんとかならんのか・・」って思ったのは、バーエンドミラーのミラー部の支持剛性がないこと。ちょっと元気に加速するとミラーが風圧でアッチ向いちゃうんですよね(笑)

「公道ではミラーが曲がらない程度の加速でお願いしますね!フル加速なんてダメですからっ!!フンッ!!」って感じですぐにむくれてアッチ向いちゃうんですよ。

「それが嫌なら、別売りのスポーツミラー買ってください!」ってことなんでしょうけど、あのね。純正のスポーツミラーってマジボッタクリで4万円以上もするんです。トライアンフはベース車両の価格は非常に良心的でお買い得なんだけど、オプションつけてくとすぐプラス20万とか30万とかになるんですよ。どのパーツも異様にお高くて「そうですか、では買いましょう!」なんて簡単に言えないんですね。しょうがないんで、加速する度に機嫌を損ねたミラーを「まぁまぁ、そんな不機嫌にならないで・・ね♡」って感じで直してました。

後はサーキット路面での高負荷走行を想定したリアサスが、雪国の田舎道の凸凹アスファルト路面に対してあまりにもハードであることですが、バイクの性格的に、サスもシャーシもソリッドだからバンピーな路面で吸収性が不足するのはやむを得ないかなと。最初はプリロードもおかしくて路面追従性最悪だったけど、サス調整でかなりマシにはなりましたから、そこまで責める気にはならない。

このバイクで気になったのは以上の2点くらい。後は「公道におけるスポーツバイクとしてこれ以上、一体何を求めるの?」っていうほどレベルの高いバイクでした。私がこのバイクで特に素晴らしいと思ったのは、実はメカ的な部分ではありません。何より感動したのは「走りに気骨があって、魂が入っている」ところ。

要はスポーツ走行というものに対して真摯でガチなんですよ。エンジンの機械的な洗練度は正直言うと、一昔前の日本車レベルですけど、バイクの良さは製造品質で決まるものじゃありません。それで決まるんなら旧車は全部ゴミってことになる。

このバイクの美点は絶対的スピードもさることながら「走りの熱さ」です。気の遠くなるような実走と、運動性をストイックに磨き上げようという飽くなき渇望、そして自らの破滅すら許容する強い覚悟がないと決して出せない「熱さとひたむきさ」がある。そしてその能力は公道で解き放っていいレベルを完全に超えてますね。

それは、まだ日本においてレーサーレプリカが「幸薄い若者達の戦闘機」で、何が起こっても「腕がないのが悪い!自業自得!!」という自己責任論で片付けられていた80年代、90年代に、多くの国産バイクからオーラのように立ち上っていた「突っかかってきたバイクを片っ端から噛み千切る」ような闘争性。派手さを斬り捨て、余計なものは外し、魂とエンジンを熱く燃やした、あの頃のスポーツバイクの熱量がこのバイクの中にはあるんです。まぁ、逆に言うとガラが悪くて品がないとも言えるけど、それこそが一昔前のスポーツバイクそのものではなかったか。

DSC_1373(現代的な外観とは裏腹に、内に秘めるのは黎明期の原始的なファイティングスピリット。速さもさることながら、沸々と湧き上がってくるような熱き滾りがこのバイクの本質。私のようなオジサンがそれに呼応できるかは、心の中の残り火次第かも。)

回すほどに、ギャオスの鳴き声のように空気を引き裂き脳髄を刺激する排気音、エンジンのトルク感につながる絶妙なフリクション、ビートの高まりがタコメーター代わりになる微振動、そして「スーパースポーツ何するものぞ」と言わんばかりのキレ上がり。それをセパハンではないポジションで受け止めることによる速度感。

このバイクは確かに速い。でも多くのSSと違って、速度麻痺は起こさない。速さがちゃんと乗り手のストレスとなってきっちりフィードバックされるんです。だから回せば回すほどに乗り手の心臓も縮む。その感覚が、乗っててとても懐かしいんですよ。あの頃の野蛮なレーサーレプリカとは洗練度が天と地ほども違うけど、当時の2ストレーサーレプリカと同様、峠では何か思い詰めたような、身を削るような走りをする。

その加速フィールは、パワーとトルクと車体の軽さにモノをいわせて往年の2ストのよう。しかしエンジンはあくまで4ストだから、エンブレのない2ストとは違い、アクセル閉じると排気量に見合ったエンジンブレーキがかかる。その調教がまた素晴らしくて、スポーツモードではアクセルオン時のプラストルクの出とアクセルオフのマイナストルクの出が寸分違わず一致するんです。これはデカくて曲がらない重量級バイクを、「アクセルのオンオフと重心移動を連動して曲げる」ってことを叩き込まれてきた「古くさい大型バイク乗り」には、待ってましたの特性なんですね。

30年ほど前、私は大型バイクの「限定解除試験!絶対合格!!」を売りにする白バイ隊員主催のスクールに半年ほど通ってたんですけど、その鬼のスクールで延々とやらされたのが「左手を挙げての小旋回8の字走行」でした。要は「ステアリングを一切使わずトルクの出し入れと重心移動だけで曲がる」ことを徹底して仕込まれたんです。

私が思うに昔から大型バイクの特徴は一にも二にも「パワーとトルクのメリハリ」です。古い大型バイクは高速域の直進安定性を出すために立ちが強く、重心移動だけじゃ曲がらなかったんで、それにエンジントルクの出し入れとブレーキをうまく連動させて曲げていこうってことだったんですよね。1本の矢で曲がらないなら、3本の矢をあわせて曲げる。それが昔の大型の曲げ方だった。

ストリートトリプルは、素でも凄く曲がるバイクですけど、それに加えてエンジンのトルクデリバリーを十全に生かした曲がり方ができる特性になってるんです。エンジンがコンパクトでジャイロの少ない3気筒。しかも車体は超軽量。このため車体が横方向に敏感に反応します。そこにトルク変動で挙動を後押ししていく大型バイクならではの「アクセル曲げ」を加えることができちゃう。

その結果、どうなるか?

「ヤバイくらいに車体がキレるんですよぉぉぉおおお!!」

アクセル開けると車体がズバッと起きて、アクセル閉じると車体がスパンと寝る。これに重心移動を併用すると、切り返しがペタペタというレベルではなく、「ズバズバズバーーーー」って、まるで座頭市の居合抜きのようになるんですよぉ。このエンジンの軽さと扱い易いトルクの出を生かした横軸の機動性こそ3気筒の真骨頂だと私は思うし、トライアンフはその強みを理解し、徹底的にそこを磨いてるんで、中低速域での挙動のキレがハンパない。もうね。日本刀のようにキレますよ。このためタイトコーナーが連続する日本のローカルな峠道との相性が抜群にいいんですな。つーか、中低速のトルクもパワーも日本の峠にあつらえたようにピッタリ。田舎の山道で、こんな速いバイクはちょっとない。

もうね。体がね。バイクの動きにまったくおいつかないですから。何回か切り返すと、バイクの上で変質者みたいにハァハァ息切らしてる自分がいる。

「・・あの・・ちょ・・ちょっと・・しんどいんだけど・・」

「何言ってんですかご主人!!まだ半分も走ってないじゃないですか!!」

250ccあたりのスポーツバイクなら、アクセル全開で常に乗り手がバイクのケツを叩いて走る感じなんで、「はっはっはっ」って笑っていられますけど、このバイクはあろうことか乗り手の私がバイクに常時ケツを叩かれてる感じになっちゃってる。峠から帰る頃には私のお尻はシバかれまくって真っ赤っかです。

こんな悲しい主従逆転があっていいのか?

ポジションもセパハンの深い前傾ならともかく、ちょっと前傾なだけの上体が起きたネイキッドスタイル。とりあえずケツはSS並に上がってるから、尻を思いっきり下げてシングルシートの最後尾に当てると体は前傾姿勢になるんですけど、ハンドルが上がってるから、スタイルが猫にゃんにゃんになる。このポジションで横の重心移動で体振って、縦の加減速のGを支えるのは、鈍った体にはクッソしんどい。あと20歳若ければもっともっと楽しめたんだろうけど、オジサン体が全然ついていかなかったです。

このバイクで峠走る度に「・・くそっ・・俺にはもう若者らしいプラーナは残ってないのか・・」っていつも悲しくなりました。30代後半からハーレーでだらけてた10年間でプラーナが強制排出されちゃったみたいなんです。そんなわけだから、気合いと体力が持続する最初の20分くらいはいいんだけど、それ以上はシェパードに引きずられてる飼い主みたいに情けない状態になっちゃってました。

でも、その一方で、シゴいた走りをしてもこのバイクは全然怖くなかった。80年代、90年代のスポーツバイクと違うのは、進化したタイヤとシャーシ、エンジンの安定した出力特性が、走りの土台をしっかりと支えているところ。現代のバイクの性能向上は、昔のレーサーレプリカにあったコーナリングの危うさをことごとく排除してしまった。特にこのバイクが純正で履いてくる「スーパーコルサSP V3」の能力は昔のラジアルとは天と地ほどの差があります。

タイヤサイドの減りっぷりは涙ながらに語れないレベルですが、寝かせれば寝かせるほどグリップが増してくる安定感と安心感は、「自分の感覚がおかしくなったのかにゃ?」と感じるほどでした。なんせこのタイヤ、直立してるときより深く寝かせてるときの方が安定してるんですよ。ありえなくない?昔はサーキット路面でしか感じられなかったような安心感を、公道の質の低いアスファルト路面で得られちゃうところが凄い。空気圧もいろいろ変えたりしてみましたが、最後の頃は、純正指定空気圧に戻して走ってましたし、とにかくメチャ減ることと、雪解け水などを踏んでタイヤ温度が下がるとあっという間にグリップ失うこと以外は隙が一つもない。

「トラコン切ってパワースライド楽しみたいゾ」ってくらい腕のある人にはスパコルはイージーすぎるタイヤかもしれないけど、グリップに対する安全マージンが極大だから、奥方様との約束で絶対コケられない私はこのタイヤに身を委ね、脳死状態で3年間を過ごしました。なお性能は最高でしたが1万1000㎞でフロントタイヤ3回交換、リアタイヤ2回交換ってことになり、経済性は最悪という評価に落ち着いております。

このようにスポーツ性能にはまったく文句のなかったザラブ嬢ですが、それ故の悩みもなくはありませんでした。まず「タイヤの寿命がカゲロウのよう」ですので、必然的に「一番楽しめるところで使わなきゃ損じゃね?」って考え方になっちゃう。結果、峠しか走らないヒキコモリバイクになっていきましたね。この3年間、高速道路を走ったのは実は1回だけで、ほとんどが自分のなじみのホームコースの往復だったんです。だから距離が伸びなかった。でも、距離で計算するとホームコースを約120回くらい往復してる勘定になるんです。こんなのもう中毒ですよ。それほどこのバイクでのワインディング走行には、取り憑かれるような魔力があったんです。

長いこと大型バイクに乗ってると、経験で速度慣れとパワー慣れはするんです。でも一方で体のキレは加齢と共にどんどん落ちる。「スポーツバイクってやっぱり速度より、体のキレだなぁ。若いうちに乗らないとダメだな~」って改めて実感した次第です。逆に体のキレに自信のある人にとっては、「公道上限はこのバイクでいいんじゃね?」ってマジ思う。これ以上に速いバイクはリッターSSいけばあると思うけど、速さの質は高速コーナー向きになると思うし、どうしても馬力絞るしかなくなるし、近年は進化の過程でバイクが冷静でスマートな速さを身につける傾向が強くなってますよね。

でもこのバイクは修行してバイクの挙動に慣れれば公道でギリパワーバンドに入るし、ポジション起きてるから乗り手にスピード感もビシビシ伝わる。本領発揮すると公道レンジに収まってると言い難いけど、横軸の機動性を生かして中低速コーナーで楽しめるから、フラストレーションが溜まるほどじゃない。だから「魂を燃やせる」。ある意味では、乗り手を危険な領域に誘う危ないバイクだとも思いますけど、でも「スポーツバイクなんだから、危険な香りがしないとつまんないでしょ?」って熱い人には超オススメ。あの頃のバイク乗りは「ぬおおおお!!懐かしいぃいい!コレじゃあ!コレなんじゃぁああ!!」って思うんじゃないかな。

え?ワインディング以外はどうか、って?そこはご安心を。猫をかぶってれば極めて普通のバイクですし、ポジションもセパハンに比べたら全然起きてるから、ワインディング走った後で「ちょっと街中流してクールダウン」ってのもスッゴク楽しいですよ。ゆっくり走るストリートトリプルRSは、まさに「ブラジャーをかぶったオオカミ」です(笑)

この3年間、トラの歴史と定評のある3気筒を思う存分楽しませてもらって、この形式のエンジンを積むバイクの強みは、ある程度理解できた気がします。バイクってエンジンは形式は様々ですけど、そのエンジンなりのベストな走り方ってあると思うんです。今回、人生初の3気筒を体感したことによって、自分のエンジンに対する理解がさらに深まったような気がする。

この世には「絶対の優位性を持つエンジン」ってのはなくて、各々のエンジン形式で得意とする走りのあり方が違うんですよね。3気筒の良さを知ることによって、4気筒の良さ、2気筒の良さが今までよりさらに理解できるようになったりするから面白い。

何よりもバイク人生で「3気筒?いいですよぉ・・もちろん乗ってたことがありますよ。トライアンフの・・あのMOTO2のトリプルをね・・(フッ・・決まったな・・)」って言えるのは大きい。現実にはそんなマウントをする人もいないんで、自己満足に過ぎないんですけど(笑)

皆様も乗ってみて頂ければこのバイクの凄さはすぐわかると思う。店の周り乗るだけじゃフツーのバイクですけど、ひとたびワインディングに飛び込めば、なぜ私がサルのように120回も峠に通っちゃったか理解できるはず。中低速コーナーにおける、このバイクの熱い走りとトンデモないキレっぷりに不満が出る人は絶対にいないと思います。

でもね。このザラブ嬢でもっとも素晴らしいのは何を置いてもカラーなんですよ。バイクではありそうでなかなかない「ウルトラマンカラー。それが最高。そこは購入したときから絶対に譲れないところです(笑)

ということで、少し長くなっちゃいましたけど、英国製の熱きスポーツバイク、ストリートトリプルRSことザラブ嬢の総括でした。まだまだ書きたいことは一杯あるけど、もう既に7000字。細かいこと書き出すと5回シリーズくらいになっちゃいそうなんで、ここらで締めたいと思います。


最後に一言。


「さらば遊星からの兄弟よ!!この3年間本当にありがとう!」


さらばザラブ
(振り返ると、私はザラブ嬢の相方として分不相応なヘタレオーナーでした。現代の大型スポーツバイクは、いざ楽しもうとすると、乗り手にも強靱な肉体を要求してくる。でもだらしない私は「じゃあバイクにあわせて鍛えますか!」なんてことにはならなかった(笑)アスリート系スポーツ女子のお相手はダレた爺には厳しいですな・・。)