ホンダは昨年、販売する二輪車及び四輪車の電動化に関するロードマップを掲げました。

バイクは軽量で電気そこまで食わないし、大陸横断のクルーザーでもなければ、航続距離も車ほど必要ない。なにより充電して走るEVは家にコンセントというエネルギー補給装置がある。だからバイクは電池が主流になっていくんじゃないかなって思うんですよ。「問題はいつ、どのモデルからEVになっていくのか?」ってことです。

ホンダが電動化を徹底的に推し進めるとすると、とりあえずは試験的かつ実験的なトライアルモデルを最初にデリバリーし、ある程度市場に馴染んでから、どこかで「エイヤッ!」って主要モデルを電動化してくると思うんです。その場合、最量販モデルでの象徴的な存在と、フラッグシップモデルを電動化することが、対外的にホンダの電動化に対する意気込みを示すことになる気がする。

要は「質を担う象徴」と、「量を担う象徴」を電動化するんじゃないかと。

それは市場に対し、「質と量の両面で電動化をリードしていく」というアナウンスになりますし、それをやらないと、ハタから見て「ホンダの動力のメインストリームがエンジンから電気に変わってねーじゃん?」ってことになりかねない。

クルマについては、「2040年に世界で販売する新車をすべてEVもしくは燃料電池車(FCV)にする」ってことで、かなり過激。バイクも、「2026年までに全世界で電動バイクを100万台売り、2030年には電動バイクを350万台販売する体制に持っていく」ってことですが、バイクに関してはそこから先はアナウンスされてない。

ホンダはバイクではトップメーカーですから、リーディング・カンパニーとして率先してカーボン・ニュートラルをやらざるを得ない。トヨタが「電動化にはいろいろな選択肢があるべきだ」と言っているように、カーボン・ニュートラルの達成にはいろんな方法論があるけど、どのメーカーも社会的使命としてやっていくのは同じです。そして私はバイクについては「基本EVになるんだろうなぁ・・」と思ってます。

で、ホンダの二輪の「量の象徴はカブ」「質の象徴がゴールドウィング」ってことになるんじゃないかと思うんです。

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(現代の多気筒ガソリンエンジンには、消えゆくものの哀愁がありますね。)

ヨーロッパ勢はハイブリッド勝負ではもうどう頑張っても日本勢には勝てない。技術云々よりノウハウの蓄積が追いつけないところまで開いちゃってるから、EVによる早期ゲームチェンジを目指してるんですよね。「ガソリンを残していい」ってことにしちゃうとハイブリッドの優位が動かないから、ガソリンを徹底して排除しようとしてることは誰の目にも明らか。

そんなEUのエゴ丸出しの姿勢はともかく、企業としては地球温暖化の解消に向けてカーボン・ニュートラルにヤル気を見せないと、企業の社会的使命に疑問符がついて株価がダダ下がりになる。消費者の意見は一番大事だけど、その一方で株主の意見も無視できないし、大企業は税金面の特例措置でメチャメチャ恩恵を受けてるから、お国の顔色も伺わなくてはならない。だから株主と消費者とお国のご機嫌をとりつつ、電動化を進め、説得力のあるモデルを販売していくのがカギになります。

カブの方は日本郵政の赤カブ様を電動化すれば日本だけで10万台くらいはいく。もう一方のゴールドウィングの電動化も、価格帯が高いからなんとかやれるでしょう。収益への影響も少ないし、歴史のあるフラッグシップだから、電動化すれば市場に対して、「ホンダはやります!本気です!技術ブチ込んでます!!」っていうメッセージにもなる。

ゴールドウィングはモデル的にも購入層的にも販売台数的にも「走る実験室」をやれるから、「かなり早い段階でマイルドハイブリッドになり、やがては全固体電池使ってEVになるんじゃないか?」と私は予想しています。全固体電池が実用化されるまで一時廃番って可能性もありますけど、これだけ市場にブランドが浸透したモデルを廃番にすることはないんじゃないか?ってのが希望的観測。

モーターの無振動で、滑らかで、静かで、フラットなトルク特性はゴールドウィングの目指すエンジン特性やDCTとの相性がとてもいいし、車重があるから回生ブレーキで効率よくエネルギー回収できるでしょう。だからモーターアシストのマイルドハイブリッドはどこかでやってくるんじゃないか?と私は思ってる。その後はEVになると思うけど、その移行時期は全固体電池の実用化と、主要消費国アメリカにおいてどの程度EVインフラが充実するか次第じゃないかと予想しています。

(全固体電池って何?っていう人はこちらの動画をご覧下さい。このアナウンス見る限り、充電はやい、容量大きくて本体小さい、劣化しない、安全性高い、温度変化もものともしない、と夢のような電池ですが、夢を現実にするには大概時間がかかるもんなんです。)

ゴールドウィングのハイブリッド化の時期は電動バイク100万台の第一期目標を達成し、「2027年頃からはじまる電動化本格始動の350万台販売体制移行あたりではないか?」と私は勝手に想像してます。そこらで環境基準はEURO6に移行しますから、排ガス規制はさらに厳しくなる。EUは「効率悪く、エコでないものは全て絶滅させる」っていうEV至上主義の石頭ですから、ピストン6つもかかえたエンジンや200馬力も出してる贅沢な内燃機がそのままで生き残ることは難しい。

なんとかEURO6は乗り越えられたとしても、次のEURO7は、「内燃機自体が危機的状況になるように設定してくる」はずですから、純粋なエンジンとして残れるのは、環境対応に金をかけ、馬力を抑えて効率を上げまくったエンジンじゃないと無理でしょう。そんな事情があるから、国産メーカー各社は環境規制がクリアしやすい中低速トルク重視のバランス型パラツイン系エンジンを開発してるんだと思う。

厳しい見方をするなら、純ガソリンで走るこの贅沢極まる6気筒エンジンは、早ければあと4年程度の命って可能性もあります。

私は電動バイクの選択肢が増えるのはかまわないんです。実用的な航続距離と充電インフラがあるなら、私も電動バイクを所有してみたい。でもその一方で「電動バイクしか選択肢がなくなるのは凄くイヤ」なんです。私が電動化に対して抱いている最大の違和感は、「環境という御旗の下に消費者の選択肢が強制的に奪われている」ように感じるから。私は環境に優しくありたいと思ってるからクルマはPHEVに乗ってはいますが、

大枚はたいて買った某ドイツ製のPHEVは戦車みたいにムダに重く、環境に優しい乗り物だとは思えない。

だって電気での航続距離が大したことないくせに、電気切れたらクソ重いガソリン車に成り下がるし、乗り味も重すぎて前時代的。乗ってて軽やかなエコ感がないから、逆にとても後ろめたい。トヨタのハイブリッドにはじめて乗った時「これはエコだぁ!!」って感動したけど、PHEVはまったくエコだと感じられない。「価格が高いのに、買い手が心からエコだと思えないもの」なんて普及するわけがありません。マジで環境詐欺電化プロパガンダって言葉が頭をよぎります。

今のドイツ製PHEVとかEVはね、「排ガス出さないんならクソ重くても良いでしょ?」っていう、そもそもの考え方が乗り物としてダメだと思うんですよ。だって重いからタイヤもブレーキも減るし、道路負荷も高い、トータルで見ると「絶対に環境にストレスかけてるな・・」ってのがわかっちゃう。

正しい消費選択は、電気と内燃機の両方を比べたとき、「電気の方がエコにも経済的にもメリットがある」って顧客がちゃんと実感できる製品を作ることで、そんな商品ができれば、規制しなくてもEVの方に行きますよ。それを作れていないのに、国の作ったルールや法律に現実を無理矢理あわせようとしたって上手くいくはずがないと思う。

私は現実が伴っていないのに「内燃機を一切認めない」ってお上が決めて強制的に「EV一択にもっていこう」とするゴリ押しは「ナチスの全体主義と何が違うの?」って思う。

それは「一部の人間による環境に名を借りた幸せの押しつけ」であって、そういうのをディストピアって言うんです。「不満だし、不便だけど、環境にいいから幸せだなぁ♡」って皆でサイリウム振って喜びましょうって、まさに「幸福安心委員会」そのものじゃないですか。

(ディストピアを明るくシニカルに歌いきった名曲「幸福安心委員会」。最大多数の最大幸福は過激になると「多数意見の押しつけによるマイノリティの排除」になる。)

現実に沿っていない施策の押しつけには誰もついてこない。実際にEUでは拙速なEV移行に反対意見が出はじめてます。ロシアのウクライナ侵攻などで電気代が高くなっちゃったから、話が違うじゃねーか!ってなってるんですよね。消費選択を限定して突き進み、不都合が起きたらそれは本来、選択を強制した側の責任。でも官僚機構は自分の間違いを決して認めないから、ババを引くのはいつも消費者なんです。

結局のところ、消費者にとってのエコって「安いこと」なんです。みんな高い金払ってHVとかPHEV買うのは、「車両本体は高くても、燃費が良くなってガソリン代が安くなるじゃん?それで環境にいいなら頑張ってみようかな・・」って思ってるからです。それが実はトータルで電気の方が高かったってことになればキレ散らかすに決まってる。

少なくともEVがガソリンより安価で便利でおトクになるか、高価でもメチャ楽しいかのどちらかにならない限り、電動バイクへのシフトなんか進むわけがない。今の日本ではEV買う理由がどこにもないから、どんなに煽ったところで、賢い消費者ほどEV買わない。今の段階でEV万歳なんていってるの都市部の意識高い系の金持ちばっかりでしょ?本当にEV普及させたかったら、「スマホもロクに使えないドケチ年金生活で、将来の環境なんかどうなってもいい田舎の年寄りにも売れる」くらい乗り物として説得力のあるもの作んなきゃダメなんですよ。消費者はバカじゃないから、いくら政府が旗振ったって高価で不便で心躍らないものを身銭切って買うはずがない

加えて、バイク乗りは内燃機に対するこだわりがものっ凄く強い。電気どころか、いまだに「空冷エンジン万歳!!」とか、「4気筒の400ccが復活ぅ~、カンパーイ!」って熱く盛り上がってる業界ですよ。ここまで顧客層が保守的だと、変革への舵取りが難しい。実際ハーレーは電動どころか、水冷という当たり前のエンジン形式を受け入れてもらうだけでクッソ長い期間がかかってる。そんな市場で電動バイクを売っていくって簡単じゃありません。利便性と運用コスト重視のシティコミューター系は売れるでしょうけど、趣味の世界で電動バイクを売っていくのは茨の道だと思うんです。

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(内燃機はEVに比べると、なんかとても人間的な感じがするんですよね。人もエンジンも「酸素を取り込んでエネルギーに変え、二酸化炭素を吐き出す」という意味では同類だからなのかもしれない。ちなみに一番下のメイドロボは「とあるマンガに出てくるキャラ」なんですが、わかった人は凄いです。)

そんな中、ゴールドウィングがハイブリッドやEVになったとして、私がそれにどのような感想を抱くのかは乗ってみないとわからない。私は内燃機にこだわってるんじゃなくて、私が求めるようなトルクフィールや便利さがあればいいっていうタイプだから、走ってて今以上に気持ちよく、癒やされるのであれば、それでまったく文句ない。「やっぱ電動っていいわ~♡」って感想になるかもしれない。

そんな私ですら「内燃機は、やがて消えてしまうんだろうなー」って思うと、なんともいえない情緒的な気持ちになるんですよ。

そしてこう思う。

「今のうちに思いっきり楽しむべきじゃね?こっちもコロナみたいな得体の知れない病気でポックリ逝くかもしれないし・・悔いのないよう楽しまなきゃ!!」

その結果、はじまってしまったのはサバトのような

「エエジャナイカ祭り」

末世的ヒャッハー思想に陥り欲しの王子様」と化した私は、ふと気がつくとムダの極みともいえるような大型4台体制になっていた・・ああ・・バカですね・・・。

でも、それは私にとってもバイクにとっても「滅びの宴」。長年我々の生活を支え、今地球温暖化のA級戦犯として消えていこうとしている内燃機と、別に誰の役にたったわけでもないけど、老いてポンコツとなり、Aランクの無能と化しつつある自分の姿が見事に重なる。そう、そこにあるのは

負け組特有の連帯感です。

内燃機の未来と同様、私みたいなロートルバイク乗りも、「やがて相手にされなくなるんだろう」って心のどこかで感じてるんですよね。それが時の流れっていうものだし、決して止められないっていうのも理解してる。

バイク乗りってバカで刹那的だから、環境に優しく、小綺麗で、理知的なEVより、火をガンガンくべてその上で踊り狂う内燃機に惹かれるんですよ。「豪快な焚き火とバイクはバカの本能」みたいなもんなんです。

元気に吠えていられる時間は、高齢者もバイクもそう長くはない。滅びの宴だからこそ、より一層盛大に。まぁ、そんな言い訳してるから、私はバカって言われるんでしょうね・・・。






(イラストに出てきたロボットメイドの回答はLaLaに連載中の「機械仕掛けのマリー」(←クリックで漫画の説明に飛びます)に出てくる戦闘用メカ「マリー2」です。「お前ェェ!これ少女漫画じゃねーのか!」っていう人もおられると思いますが、私は20代から少女漫画も当たり前に読んでます。)