昨年HAWK11が納車され、今のところ晴れた日があると重点的にHAWK11に乗ってます。そろそろ慣らしも完了で、エンジンは上までキッチリ回るようになったし、スポーツ走行も楽しいんですが、一方で、このエンジンはレブル1100のベースになったものでもありますから、流して走ると、クルーザー的な味わいもある。

HAWK11に乗ってると、同じ2気筒のダイナ嬢との差が際立つんですよね。ダイナは大排気量2気筒でも、古き良き空冷V型を採用する典型的な殿様乗りのクルーザー。それに対して*のじゃ子*(HAWK11)は準SSみたいな前傾姿勢でワインディングスポーツを売りにするバイク。どちらも流せば2気筒エンジンの美味しさをたっぷり楽しめるっていう点は共通してます。でも、この2台を比べると、同じ2気筒でもスポーツライクな前傾姿勢と、長旅を想定としたアップライトポジションの違いが明確になるんですね。

私的にはアップライトな殿様乗りとセパハン+前傾姿勢は、バイクにおけるコインの表と裏みたいなものじゃないかと思ってます。この2つのポジションはバイクという乗り物に宿命的に存在するもので、良い悪いで語るべきものではないんだと思う。それは、まさに日常と非日常。

「やっぱ、どちらもバイクの魅力デスヨネ・・」

って感じちゃうんですよね。最終的にどちらかに落ち着くにしても、通過点としては避けて通れないものなんじゃないかと思うんです。

「自分は走り重視の前傾姿勢しか受けつけない」とか、「前傾きつそうだからアップライトポジションのバイクにしか乗らない」とか、片方だけで縛っちゃうのは、ちょっともったいないなって気がします。まぁこれは所詮私の意見なんで、バイクなんか好みと相性だからどっちでもいいんですけどね。

私のダイナは実はハンドルを3回変更してるんです。いろいろ試した結果、最終的には7㎝バックのコンチハンを入れ、その広すぎる両側を2センチずつブッタ切って調整したオリジナルハンドルになってます。けっこうなプルバックなんで、完全に上体が起きた見事な殿様乗りになる。いやーミもフタもないですけど殿様乗り、やっぱ超ラク。シートが良くって尻の痛みさえなければ、いくらでも乗っていられるし、変な緊張もない。ライディング理論的にはいろいろとあるんでしょうけど、要は我々日本が世界に誇る「ママチャリ」ポジションなんですよね。

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(ご覧の通り、私のダイナのハンドルはノーマルより、かなりプルバックしてます。走りより王様気分を重視した、ゆったりポジションですね。)

私がダイナのハンドルをプルバックしたのは、ノーマルが私にはちょっとばかり遠かったってのもあるんですけど、何より、「ダイナがプルバックしても全然大丈夫なバイク」だったからなんです。この世のバイクには、いろんなポジションがあるんですけど、想定されたポジションにベストマッチするアクセルレスポンスやエンジンフィールって、ちゃんとあると思うんですよ。ママチャリと同じようなポジションで、ママチャリの3倍~4倍の速度を出そうとすれば、それを成立させるための仕立てがバイク側にちゃんと必要になるわけですけど、ハーレーはそこの許容度がめちゃくちゃ広いんですよね。

バイクは上体が起きるほど、パワーの出はじめや減速時に体が前後にもってかれやすくなる。だから、加速初期と減速初期に、乗り手が姿勢を崩さないようなマイルドさが必要です。ハーレーの空冷Vツインってめっちゃトルクあるけど、アクセル開けた時の初期のトルクの出は、結構ダルで優しく調整されてるんですよ。リッターバイクで開けたら即「筋肉本舗!ハイズドーーン!」なエンジン特性だと、体が爆発的な初期加速で後ろにもっていかれ、ハンドルにしがみつくとさらにアクセルが開いちゃう。殿様乗りは重心も後ろにあるから、ホイールベースが短く軽いバイクだとあっさり前輪がピンコ立ちになり、そこからヘソ投げ式のバックドロップに移行ってパターンが、昔のリッターバイクでは割とあったんですよね。

でもダイナではそんなことは絶対に起きない。だって車重300㎏でエンジン出力たった50馬力なんだから。ロングホイールベースも相まって前なんか上がりようがないですよ。車体の敏感な反応をバカみたいな車重で抑え込み、エンジンの初期レスポンスを削り、ベルトドライブで駆動ショックも消してある。大トルク低回転型2気筒エンジンの宿命ともいえる低速のギクシャク感のトゲをまろやかに取り去って、力強さを残しつつマイルドに調整してあるんです。「んもう!せっかくの大排気量バイクから加速の刺激を抜くなんて、一体何やってんの?」って指摘する人もいるかもしれないけど、トゲを抜いたって1600ccが400ccになるわけじゃないんで問題ない。

そういう特性だから「思いっきりアップライトにして天下太平気分を味わおう」って気になるんですよね。ハーレーは排気量のでかさにこだわって毎年のようにボアアップする割に、「これだけ排気量あるんだから、こんな走りをしなきゃならない」っていう縛りがない気がするんですよ。小型や中型というバイクの区分がないアメリカならではの感覚なのかもしれないけど、しっかり自分の走りの独自ルールを持ってて、他のバイクに影響されない。人あたりが優しく、力強さと、包容力と、筋を曲げない男気がある。それって「男が惚れる男」を、そのままバイクにしたような特性なんですよ。無理な厚化粧がないというか、飾らないというか、自然体なんです。

でも日本では、そこまで肩の力が抜けたリッターバイクにはなかなかお目にかかれない。日本においてリッターバイクの意味するところは原付バイクから連綿と積み上げられた商品ヒエラルキーの頂点です。400ccクラス、600ccクラスを超える商品力を出すため、それらのバイクに「何らかの特別」を積み上げたものがリッターバイクになる。

「大型バイクはイイよぉ」っていうマウントは嫌われるけど、それはある意味では事実なんですよ。大型バイクって、どんな人が乗っても「良いバイクだな、凄いバイクだな」って感じられるように作ってあるから、全方位的に満足度が高い。シャーシにもエンジンにも余裕があり、その余裕を生かして良いバイクの演出に余念がないんですね。

しかし、そのようなバイク作りをしていくと、リッターバイクは、必然的に「日常+α」の存在にならざるを得ない。なぜなら国産メーカーは400ccという限定された排気量で、公道での普段使いに何ら支障のないバイクを突き詰めてきたからです。日本の中型の公道バイクとしての完成度は世界に誇れるものがある。そこからさらにいろんなものを盛っていけば自ずと過剰になるのは当たり前。

私自身、ある時期まで性能ヒエラルキーの頂点を目指してましたから、バイクにスピードや刺激という非日常を求めてましたし、「リッターバイクって基本的に中型からのステップアップだ」「中型との明確な性能差がないとリッターバイクの意味がない」と思ってました。しかし、ハーレーにはそういう常識は通用しなかった。そこには日本のリッターバイクでは想像もしなかった、特別な性能を求めない極めて当たり前の日常がありました。

私はハーレーはもっともっとトンデモないバイクだと思ってたんです。でも全然違った。ハーレーのリッターとは思えない気負いのなさは「エンジンがついた超巨大なママチャリ」のようでした。日本のバイクがいろいろと工夫を凝らしたフルコース料理だとすると、超絶に旨い家庭のカレーなんですよね。ラインナップ見ても、トッピングにトンカツのせてカツカレーにするとか、ハンバーグカレーにするとか、ちょっと辛さを変えて大人風にするとか、そういう変化をつけてるだけで、私が購入した頃のハーレーは「性能差をもってヒエラルキーを作る」という考えは微塵もなかった。ママチャリにカゴをつけるとか、後ろに子供用の席つけるとか、色をメタリックにするとか、そんな違いだったんですよ。

結局ハーレーってバイクは、日常のバイクなんです。アメリカは旅することこそが日常で、その日常を壊さず、そこに溶け込むことを大事にしてる。だから、アップライトな殿様乗りで、エンジンは初期のツキがマイルドで、回転は低速に張り付いて、やたらドコドコと気持ちいい。日常に不要なパワーは出さないし、日常に不要な速度域も必要ない。もの凄い個性のある特殊な作りの大排気量エンジンなんだけど、ナベの蓋を開けると、毎日食べても飽きのこない超美味い普通のカレーが出てくるんですね。

「バイクは排気量を一周回って原付二種にたどり着く」なんて言われてますけど、人は紆余曲折を経て、「最後は日常に戻る」んだと思うんです。アップライトな殿様乗りは日常系バイクの専売特許。だからこそ大排気量バイクでも殿様乗りがしたいんです。レブル1100や、ヤマハのボルトは殿様乗りはできるけど、殿様気分になるにはバイクの機動性がいささか高いんですよね。日本のリッターバイクらしく、立ち回りもできる暴れん坊将軍になってる。だから凄くアクセル開けたくなるんですよ。「コラァ中型ぁ!ナメたらアカンでぇ!」っていう熱い滾り、番付へのコダワリを感じるんですよね。

でも、私はダイナに乗ってリッターバイクでの「真の殿様乗り」を理解しました。殿様乗りっていうからには、格好だけじゃなくて、やっぱバックにエルガーの威風堂々がかかるような雄大な気分にならなきゃいけない。それには優しく分厚いエンジントルクと細かいことはどーでもいい。あくせくするの嫌い。っていう投げやりなシャーシが必要なんです。でもそんな設計は真面目で合理的で、ハイプライスの根拠を求められる日本のリッターバイクには不可能なんです。

心をおる
(国産のハイレベルな走りに慣れた私には、ダイナの走りはまさに心折設計。でも、そのおかげでバイク乗りとしての寿命が20年は延びた気がする。)

中型にナメられてもいいんです。カブと並走したってかまわない。日常の中で悠々と公道を走り、小さなことにこだわることなく安心感と爽快感と気持ち良さを存分に味わう。それがハーレーの提案する殿様乗りなんだろうと感じてます。

日常を大事にした、どこか自堕落で退廃的な乗り味はハーレーのお家芸。キング・オブ・バイクなんていわれてるけど、王様の解釈が日本と根本的に違うんですよね。