今年のきんつば嬢の総括ですが、総走行距離は8300㎞でした。タチゴケして私の精神が「心療内科に通いたい」っていうほど落ちていた昨年後半とは異なり、今年は特段のトラブルもなく、かなり気持ちよく走ることができたと思います。

これまできんつば嬢は、冬専用バイクとして巨大カウルとグリップヒーターを武器に、寒さでパキーンと引き締まった空気の中を駆け抜けていく役割がメインでしたが、昨年より私の妻である聖帝様の専用玉座として才能を一気に開花させた結果、休日に活躍する頻度も増え、距離も順当に伸びました。

納車初年度は低回転トルクが分厚くリニューアルされた水平対向6気筒エンジンと、バイク業界初のダブルウィッシュボーンサスの乗り味が印象に残りましたが、バイクに馴染んできた昨年中頃から今年にかけては「旅バイクとしての優秀さ」が染み入ってきております。

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(ツーリング中の一場面。きんつば嬢は耐寒性能が高いから、日が沈み、気温が低下するのを恐れず遠出できます。このため夕日を横目に走ることが多くなるんですよね。)

このバイクの凄いところは、タンデムしようが大荷物を満載しようが、その全てをバイクが軽々と受け止めてしまう基礎体力の高さ。タンデムはバイクの操縦性に多大な影響を与えるため、ライディングの爽快感が大きく削がれるのが常識。しかし、このバイクはタンデムによる挙動の変化が他のバイクに比べてメチャクチャ少ないんですよね。

SSをスピードに特化したサラブレッドだとすれば、ゴールドウィングは筋骨隆々の引き馬。鉄製のチャリオットを軽々引っ張り、遙か彼方まで大量の兵員を輸送できる戦略性の高さが持ち味。SSのように200km/hでのドッグファイトはできませんが、200㎏を積載してもロングライドが可能な強靱なシャーシとブレーキ、バカトルクのエンジンを備えてるんですね。

このゴールドウイングの旅バイクとしての潜在能力を、ボッチライダーの私はこれまでまったく実感できていませんでした。一昨年から聖帝様を後ろに乗っけてロングツーリングをするようになり、ゴールドウィングオーナー8年目にして、ようやく世界を代表する大陸横断ツアラーの能力を知ることとなったわけです。また、奥様を後ろに乗せてタンデムすることにより、ロングツアラーに必要なものについてもいろいろと理解できるようになりました。

そもそも女性とのタンデムって、ただ後ろに乗ってもらって「快適だね、楽しいね」ってだけじゃダメなんですよ。そこにはいろんなイレギュラーがある。まず時間通りに出発するのが困難です。お肌の曲がり角を過ぎ、鋭角に肌年齢が下り始めた女性は、日射しに対向するための出発準備にクッソ時間がかかるんですよ。出撃時には顔が日焼け止めで「エクソシストの悪魔!?」って感じになってんですよね。いつもは下道メインの私も、タンデムツーリングでは効率よく目的地に着くために高速を多用する。それゆえ安定した高速巡航性能が必要です。

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(強い直射日光から肌を守るためとはいえ、エクソシストのサブリミナル悪魔のようになった奥様にはホラー映画ファンの私もドン引きを禁じ得ない。)

あと「メチャクチャ荷物が多くなる」。女性ってそもそも荷物が多いんです。一人の時は「サイドパニア左側しか使わねー・・」ってぼやいていた私が、聖帝様とのタンデムでは、GIVIの46L入るトップケースつけてなお「積載足りねぇ・・」って感じてるんですから追加兵装の増加量は著しいことになってる。数年前のマイナーチェンジでゴールドウィングのリアトランクの容量が増えましたが、「積載量が多いことはツアラーにとって正義である」ってことがよく理解できました。

中年男のタンデムライドの真実って「日頃から頭の上がらない奥様への贖罪」なんです。だから「奥様に楽しんで頂けたか?」で成否が左右される。「ちょっとしたデイキャンプでおもてなしを・・」なんて考えてると、チェアワンや、横になれるコットや、ミニテーブル、食材モロモロを積み込むことになり、一人の時に比べ荷物が3倍~4倍くらいになるんです。当然バイクは重くなり、運動性の面で大きなハンデを抱えることになりますが、女性は乗り心地とかギクシャク感に非常にうるさい生き物で、そこに妥協はありません。日焼け止めを土壁のように塗りたくって「連邦の白い悪魔」と言いたくなるような怖い顔になってんのに、快適性で不興を買うと、背後からたっぷりと呪詛を浴びた上にエクソシストの神父みたいに首を180度にねじ切られかねない。

しかし、有能メイドのきんつば嬢は仕事量が増えても給仕の所作の優雅さ、乗り心地を含めたおもてなしのクォリティ、いずれもまったく落ちませんからライダーとパッセンジャーのストレスが大きく緩和されるんですよね。

そんなきんつば嬢のベテランメイド感を支えてるのはやっぱ強靱なフロント回り。きんつば嬢に採用されたダブルウィッシュボーンは車重が増えても、岩のような剛性感でノーズダイブも最小限。このサスは「軽くて良く動くのに高負荷にもしっかり耐える」っていうテレスコ型の高性能サスとは真逆で、「極めて高い剛性を持つ重量級サスペンションが異常なくらい良く動く」って設定が施されてますから、安心感の基礎になる骨格自体がテレスコと根本的に異なってるんですね。

サス自体が強固なら、ブレーキングをつかさどる6ポッドキャリパーのストッピングパワーの容量も凄まじい。これは短距離で強烈に減速力を吐き出すSSのブレーキとは違い、「車重がどれだけ増えても、速度がどれだけ上がっても運動エネルギーを確実に殺す。」ってところを重視したブレーキです。車重の増加に対して、ここまで安定したブレーキ能力を発揮するというのは、ちょっとバイク離れしてる。私はリアとフロントが同時にかかるコンバインドブレーキは小細工ができないからあまり好みじゃありませんが、その「安定しきったフィーリング」「どれだけ車重が増えようと、減速力に不足なし」という底の見えない感覚は、「ええい!連邦のモビルスーツはバケモノか?」って思わず呟いちゃいそうになる。ゴールドウィングのド安定のブレーキマナーに慣れちゃうと、テレスコのバイクがいかに乗り心地や運動性能と停止能力の折り合いに苦労してるのかってのが良くわかるんですよね。

こういう基礎体力系の造り込みって極めて地味なんですけど、面倒くさい特殊機構を採用してまで高次元の安心感を目指したところに、ホンダらしさとゴールドウィングの歴史を感じる。このバイクはいろいろな新機能が盛り込まれていますけど、それは全て「攻めるためではなく、受けるためにある」んです。目指してるものは派手さではなく、「道中のイレギュラーをがっぷり四つに受け止めて、技術で正面から圧倒する」というホンダらしい求道的な横綱相撲なんですよね。

でも、そんな東の正横綱にも私は言いたいことがある。それは登場して以降、ラインナップを縮小して、廉価なモデルをどんどん廃止してる点です。販売実績からするとゴールドウイングオーナーはチープなモデルを求めてないのかも知れないけど、売れないからラインナップを削るってのは賛成しかねます。

ツアー一択にしたことによって、ゴールドウィングはとても重たいイメージになっちゃったような気がするんですよね。キング・オブ・モーターサイクルと言われた初代GL1000から47年、ホンダのフラッグシップを張り続けてきたんですから、そういう重たさがあるのはしょうがないけれど、このままじゃ「社長椅子みたいなイメージのバイク」になっちゃうんじゃないか?って危惧してる。

旧モデルのF6Bはバックギアを外して価格も落とし、色プラ外装を採用して、「金がない奴ァ、チープに走れ!貧乏人は体を使え!」って言わんばかりだった。でも、それがゴールドウィングのイメージを随分軽くしてくれていたんですよ。重量車を取り回す技術さえあれば、凄くお買い得なプライスで6気筒エンジンが手に入れられたし、軽いから走りも良かった。私は今でもF6Bが凄く好き。性能ではなく、あのストイックなバイクの在り方がとても好きなんです。

GLには横綱審議委員会ならぬGL審議会みたいなうるさ型の古参ファンがいて、キャピキャピした振る舞いや、羽目外しがあったりすると、「こんな態度はGLらしくない、品格に欠ける。」とお気持ち表明がなされ、「注意勧告」が出ちゃったりするバイクです。ちなみに横綱審議会における横綱の品格とは

相撲に精進する気迫。
地位に対する責任感。
社会に対する責任感。
常識ある生活態度。
その他横綱として求められる事項。


らしいですが、これをゴールドウィングにおきかえると

走りに精進する気迫。
地位に対する責任感。
社会に対する責任感。
常識ある走行マナー。
その他GLとして求められる事項。


って感じになるのでしょう。ホンダもそこら辺のうるさ型の声を意識して造ってると思うし、そういう顧客層がついていること自体が歴史なんだから、それは最大限尊重すべきです。でも、その一方で私みたいに「地位も名誉もいりません。純粋に6気筒エンジン積んだ走りの楽しいバイクが欲しいんです!」っていう乗り手もごく少数だけど確実にいるはずですなんですよね。だから、そういうモデルも残して欲しかった。

まぁ私がブログで散々自虐しちゃったから呆れちゃったのかもしれないけど、ゴールドウイングが純粋なバイクとして大事にしなきゃならないのは「箱なしを買うような層」なんだと思うんです。旧型はモデル末期に存在感の軽いモデルを投入し、そのイメージを変えようとしたのに、ホンダはせっかく作ったその流れを「売れないから」といって切ってしまったんですね。でも、それによって失われるイメージの方が大きいんじゃないか?って私は思うんです。

現行モデル登場時は「若返りをコンセプトにして、スポーツ性やファッション性を高めます」なんてアナウンスしてたのに、ハーレーに比べグラフィックも地味なままだし、廉価モデルを次々廃止して、価格も上げる一方。中古もタマ数出ないし高いしで、正直「若い層は買えないし、魅力を感じないモデル」になりつつあると思う。こんなことやってると、ライト層に敬遠され、どんどん存在が重く保守的になって、バイクも乗り手も蛸壺化していっちゃうんですよ。流れがトヨタのクラウンに完全に重なってますよね。

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(きんつば嬢の水平対向6気筒は人に例えるなら腹筋シックスパック。「北斗の拳」ならぬ「極度の筋」ですね。)

私はお堅いゴールドウィングのイメージをできるだけ柔らかくしたいから、マンガやテキストでは他のバイクより意識してイジるようにしてますけど、実際、箱なしって胸張って乗るようなバイクじゃないし、そこがいいんですよ。SC79は旧モデルに比べて、スタイリッシュで気軽にサラッと乗れるとっつきやすさがあるし、便利機構の採用で、取り回しも楽になり、コケても安いなどユーザーの間口は確実に広くなってるんです。でもその一方で、イメージ的な間口は旧モデルに比べて随分狭くなっちゃった気がする。販売効率や生産効率を優先しすぎると、どんな商品も夢がなくなり、蛸壺に入る。だって効率って夢の排除ですから。私は「ホンダを象徴し、夢を売るべきフラッグシップが、そんな方向性で本当にいいの?」って疑問を感じてます。

販売の現場では「重量級バイクで温泉に浸かってるような快楽に浸りたい」って人が大多数なのかもしれないけど、「重量級バイクで腕試しをしたい」って層も確実にいると思うんですよ。各メーカー見渡しても重量車でこれだけ走れるバイクは少ない。だから売れなくても、ゴールドウィングには「走りを楽しむグレード選択肢を残して欲しい」ってのが、私の偽らざる意見。それが結果的にゴールドウィングのイメージの固定化を防いでくれる。私はF6Bの登場でゴールドウィングのイメージが全然変わりましたし、軽量化のためにバックギアまで斬り捨てた割り切りが超好きで、今でもあのバイクを支持してるんですよね。あれは本当のバイク好きが覚悟を決めて作った、古参向けの走りのモデルだったと思うし、発想がホンダには珍しくバカっぽくブッ飛んでて面白かった。

そういうモデルは売れる売れないの問題ではなく、「ゴールドウィングというバイクの存在をどう定義するか?」に関わるものでもある。「高齢層の旅バイク」という立ち位置に引きこもるんなら今の路線で良いけれど、そこに他の可能性を残したいなら、ゴールドウィングの可能性を広げるモデルも用意するべきだと思う。ハーレーみたいに年ごとにブッ飛んだグラフィックのオシャレモデルを世界限定300台くらいで出すとか、走りに特化したモデルを数年に一度出すとか。どうせ少量生産なんだから、HAWK11みたいな面白い仕掛けをどんどんやればいいと私は考えてるんですよね。