全国の選ばれしHAWK11ファンの皆さんこんにちは。9月29日の発売までいよいよあと数日となって参りましたね。モーターショーのお目見えから5ヶ月、メディア試乗会から3ヶ月あまり引っ張って夏の終わりにご登場という、まさにバイク業界の重役出勤。既に納車日が決まってる方もいらっしゃると思いますが、私はまったくもって納車の気配もありません。

営業のおねーさんに、「いつ頃納車ですかぁ~」って聞いてみたら、「うーん。発売日に来る予定だった人が1ヶ月も伸びちゃってぇ~、いつなんでしょうねぇ~。レブル1100は1年待ってた方がそろそろ納車なんですよ~」という絶望的な回答が返ってきました。ホンダの新車生産の現場には、屋久杉の樹齢のような悠久の時が流れているようですね。

いずれにせよ発売日の9月29日までには各ディーラーに1台ずつレンタル用車両が行くらしいので、それ以降は多くの方が華やかな試乗動画を上げるはず。テキストだけで競争力のまったくない私のブログはマジ不要、資源ゴミ状態になりますな。

私のブログがゴミ化するまでに、できるだけテキスト叩いとこうっていうことで、今回もまたHAWK11について語っていくわけですが、なんせ手元に現車がないんで書けることは限られている。そこで今回は「なんで私がこのバイクを予約しちゃったのか?」ってところを少し説明しておこうかなと。

「え?知ってるよ。それってロケットカウルだからでしょ?お前がロケットカウル変態だからじゃないの?」

シャラッーーップ!!このブログを強制終了させる気ですか?まぁ確かにスタイリングについては「待ちに待った日本メーカーによる和製ロケットカウル」がヤバすぎるくらい刺さりましたよ。この良さがわからぬ奴は私とは種族が違う、お前はエルフで、俺はドワーフくらいに感じてますよ。ディーラーで現車を見ましたが感動しかなかったですよ。(ちなみに写真より実車の方が数倍良いです。)

IMGP5201(ディーラーの自動ドアが開いたら、目の前に現車がっ。一目見た最初の感想は「かっ、かっ、可愛いいぃぃいいいい!!!!!!」。なにこの愛らしくって、きゃる~んとした感じ。「買って♡」ていわれたら金出しちゃう。はぁ~好き。マジでロケットカウルなでたくなる。)

このバイクってベテラン向けってことになっていて、私は一応ホンダのいうベテランライダーのカテゴリーに入る年齢層だと思うんです。その私が飛びついたってことは、ホンダのマーケティングに私がものの見事にハマっちゃったってことなんですよ。まぁ、このバイクのスタイリングとかホンダ開発陣の主張が、私の琴線にブッ刺さってしまったってことですが、別の見方をすれば、ホンダが仕掛けておいた落とし穴に、ものの見事に落ちてしまったとも言える。あとは眠り玉で眠らされ、日本円という希少素材を剥がれるだけ。度し難いバカさ加減です。

私がこのバイクの予約入れたのは6月の後半でしたから、まだインプレもロクにない段階。情報とれるの試乗会の動画とホンダのスペシャルサイトくらいでした。そんな中で、私がまず「んあっ??」ってなったのがスペシャルサイトの冒頭にデカデカと出てくる

楽しさは、数字じゃない

ってキャッチです。まぁアフリカツインのエンジンとフレームでスポーツバイク作るわけですから、チューンしても馬力はそんなに出るわけじゃないでしょうけど、あろうことか開発陣はアフリカツインの馬力そのままで出してきたんですよ。そしてデカデカと「楽しさは、数字じゃない」という開き直り。いやースポーツモデルでそんなことフツーあります??せめてベースエンジンから少し馬力を盛るとか、上が回るようにするとか、商品力のためにそんな仕立てをするじゃないですか。

でもホンダの開発陣はそういう「営業上の都合をあえてガン無視」してきたわけです。別に出力変えられなかった訳じゃないと思うんですよね。エアクリーナーボックスの容量が制限されて、パワーの維持がもの凄く大変だったらしいけど、「それならハイカム入れりゃ良いでしょ?カタログ数値も上がるし全部解決じゃん。」と思うじゃないですか。でも、開発陣はあえてそれをやらずに吸気系を苦労して取り回して馬力を維持し、エンジンの出力特性に手を入れずに、そのまんま出してきた。私は馬力を下げなかったことより、上げなかったところに、ホンダ開発陣の明確なメッセージがあるように感じるんです。

でも、それは普通ならなかなか理解されないと思うんですよ。このバイクはホンダの中でも賛否両論だったらしいですけど、反対意見って、ほとんどが営業畑の意見だったはずです。

だって売る側としたら、このバイク大変ですよ。

「あのね。このスタイリングじゃアクが強すぎて数が出ないんじゃないの?」

「オィィイイイ!!これNT1100やアフリカツインと馬力変わんないじゃない!こんな見栄えしないスペックのスポーツバイクをどう売れと?!」

「ちょっとぉ!この時代にガチマニュアルってどういうこと?DCTか、せめてクイックシフターつけなさいよ!!」

なーんてツッコミが、販売方面から絶対入ってるはずです。

でも開発側はこういう意見を頑として受けつけなかったんじゃないでしょうか。私は発売前に定年しちゃった開発責任者の後藤さんの人柄は良くわからないけど、その後を継いだ吉田昌弘責任者代行はとても朴訥で、見るからにいい人ですよ。町工場の工場長みたいな風体で、たたき上げの技術責任者って雰囲気が漂ってる。「裏ホンダです」なんて口ではいってるけど、まったく裏がなくって、ど真ん中直球しか投げられない人にしかみえません。だから、この人の言う「裏ホンダ」って、表に出せない本音「裏ホンダ」って言ってるだけで、裏でも何でもないんだと思うんですよ。

企業の中にいる人はわかると思うけど、商売の世界では営業側の意見が最も強いんです。開発は営業の意見を聞き、それを摺り合わせてバイクを作る。しかし、このバイクは開発陣の本音と信念だけで押し通ったバイクじゃないか?って感じがするんですよね。表が関与してないから「裏ホンダ」、そんな気がするんです。

だから、私はHAWK11を選んだ。私にだって今のリッターSSの現状について色々言いたいことがある。それは裏ホンダならぬ裏本音。それを今ここで吐き出してみます。

「正直言って今のリッターSSの性能インフレは目に余る。」

そう。これが私の本音です。この世の中には、公道にマッチしないリッターSSそのものが不要という意見をお持ちの方もいますが、私はリッターSSの存在価値と必要性は否定してません。認めてます。でも、上限なき性能インフレは全く支持しておりません。

使い切れない馬力を必要以上に盛ることで、価格も上がり、危険度も増す。それってバイク乗りにとっていいことなんでしょうか?これまでメーカーの販売競争、技術競争の中で、リッターSSは性能インフレを続けてきました。モデルチェンジごとに性能のより高いものがリリースされ、最高出力は200馬力に到達し、トラクションコントロールと電制サスの組み合わせなど、メカ的にも行き着くところに行き着いた感がある。それは多くの業界がこれまで幾度も経験してきた「技術の天井」です。バイクメーカーは消費者の要望に忠実であろうと努力し、技術競争に邁進した結果、いつしか顧客の技量や要望を大きく超えたところでの競争となり、高額・過剰・異常質感のスペックモンスターができあがる。今の超高額化したリッターSSはその極みともいえるものです。

そして一度、顧客の求める性能の上限ラインを超えてしまうと、価格もそれに比例するように許容上限ラインを超えていく。当然顧客はそれについていけない。でもインフレ競争を続けていた企業は後戻りができません。そんなときに、その価値観を揺さぶるものがあらわれると、その瞬間、その市場が一気に崩壊してしまうんです。90年代前半まで続いたレーサーレプリカブームが、ゼファーやCB400SFの登場で終焉を迎え、あっという間にネイキッドブームに取って代わられましたが、そんな現象になってあらわれるんですよ。これは大メーカーが陥る「イノベーションのジレンマ」です。

楽しさは数字じゃない3
(現車を見ましたが、車両部分は見事に質感が統一されてて良い感じなのに、マフラーはカンペの耐熱塗料で塗っただけって感じの仕上がり。もうね。そこだけあからさまに手抜きしてあって笑う。初手から「モリワキマフラーに換えて♡」っておねだりしてきてます。指名料がマフラーとは・・これが大人のバイクなのか・・)

今回のHAWK11はそんな性能インフレの流れに、真っ向から反旗を翻してきた。インフレどころか、これは馬力半減のスーパーデフレ・バイクですよ。このバイクの価値はエンジン・フレームがどうのこうのではなく、「ワインディングスポーツをうたい、スポーツバイクのスタイリングをまといながら、性能インフレを明確に否定し、それに背を向けた。」ところです。(性能インフレの否定という点では、私はYZF-R7も高く評価しています。)ネオレトロなネイキッドや、小排気量でやったんじゃなくて、リッターのスポーツバイク、しかも大パワーを扱う技術があるベテラン向けと銘打って出したことに価値がある。

なんせこのバイクは100馬力しかありません。600ccのSSより馬力少ないんですよ。「これまでステップアップを繰り返し、200馬力級を乗ってきた腕自慢が、パワー半分のバイクに乗り換えるわけないだろ!」ってフツーは思うじゃないですか。

でもこのバイクに乗り変えたライダーの筆頭は「CBR1000RR乗り」だったってところに今のリッターSSの現状がある気がするんです。本来、この層は順当に行けばCBR1000RR-Rに乗り換えるはずなんですね。にもかかわらず「馬力が大幅に少ないHAWK11を選択した」ってことはどういうことなのか?そういう人達は、おそらく自分の扱えるパワーの天井と支払える価格の天井を冷静に認識して、もはやその上を求めることをやめ、別の価値観を模索していた状況だと思うんですよ。

これ90年代のレーサーレプリカブームの終焉の時と構造がまったく同じですね。

私も123馬力のザラブ嬢でお腹いっぱいどころか、ほぼ脱腸してますからね。第三京浜を走ってた頃ならともかく、ワインディングしか走らなくなって久しい今日この頃、「馬力ってそこまでいりますか?」ってことです。

馬力が上がると高速走行での余裕が全然違うから、アウトバーンでの高速走行を想定するメガクルーザーなら200馬力を盛る必要があるのはわかります。でもリッターSSはまがりなりにもコーナリングマシンですからね。コーナーを攻めるのなら、乗り手の技量と路面を無視して馬力だけ盛ってもしょうがありません。

現代の200馬力級SSが今後も進化していくとしたら、それはもはや公道バイクではなくレーサーとしての進化ですよ。SSのインプレによく「本領発揮させたいならサーキットへ行きましょう」っていうのがあるんですけど、私はそれにもの凄く違和感があるんです。「え?高い金払って公道バイクを購入したんだから、公道で乗るに決まってるじゃん。なぜサーキット行かなきゃならないの?」って素朴な疑問が返ってきたら、レーサーを公道用バイクとして売ってしまったメーカーはどう回答するんですかね。

公道バイクは「公道で金額に見合う働きをし、安全に乗れなければならない」のが原則です。サーキットで本領発揮するバイクはすなわちレーサーですよ。ならレーサーとして販売すればいいんです。公道バイクとして購入した以上、買った人は公道でシゴくに決まってる。バイクに300万円の大枚を払わせておいて綺麗事もクソもないですよ。だって日常の中の未知なる体験に300万円払ってるんだから。

バイク業界は「レーサーを公道で走らせる」という罪深さを理解しているはずです。だからレーサースペックのリッターSSを売るというのは、確信犯的行為なんです。私から見ると今のバイク業界は、その昔、レーサーに限りなく近いバイクを若者達に供給し、多くの若者を峠で殺めた罪を、金のあるリターンライダー相手に再演してるようにしか見えません。金のある人なら分別があるだろって?そんなのありませんよ。それ言うんなら分別があるかないか人格テストしてから売るべきです。

雑誌にはこの手のバイクが公道でも扱えるかのように書いてありますが、普通に考えて一般人が200馬力なんて扱えるわけがない。だって90年代初期のGPマシン、NSR-500が150馬力だったんですよ?その馬力ですらパワーオーバーでタイヤがサーキット路面をつかみきれず、パワースライドしてたんです。それ考えたら公道の路面とエスケープゾーンもない狭いコーナーに200馬力って明らかにおかしいですよ。

雑誌のライターは鼻薬が効きすぎてるのか、それに一切疑問を投げかけません。私の感覚では200馬力を公道路面で制御するには分厚いトラコン制御でグルグル巻きにしなきゃならないですが、それは「激辛ラーメン作ったけど人が食えるシロモノじゃなくなったんで、砂糖をぶち込んで中和しました~」って言ってるようなもんですよ。200馬力を全開にして半分馬力を削ぐのなら、ハナからノートラコンで全開にできる100馬力の方が気持ちいいんじゃね?って疑問を抱く人は多いと思うし、相当優秀なトラコンを搭載しない限り、実際その通りの結果になる。

そんなリッタースポーツのジレンマをHAWK11は「楽しさは、数字じゃない」って言葉でさらりと指摘しちゃったんです。こんなことメーカーが言っちゃうと、ある種の自己否定になっちゃうんだけど、もうどうすんのこれ(笑)

でもこのキャッチに共感したから、私はHAWK11を選んだってところがある。これに共感できない人は、スピードトリプルのRRを選べばいい。あっちは盛りに盛ったり180馬力。でも日本のタイトな峠でどっちが楽しいか?っていうと、私はHAWK11の方が楽しいと思うんですよ。だって、今乗ってるストリートトリプルに60馬力上乗せされても、自分の技量と環境じゃ「上乗せされたパワーは、ほぼ全部使えないな」って感じてますから。

HAWK11はスペシャルサイトでちょこちょこ出てくる抽象的なワードが、いちいち刺さっちゃうんですよね。見る度に「公道をよくわかってる人が、販売側の事情に流されずに作ったんだろうなぁ」って思うんです。アフリカツインから一切馬力変えなかったのも、これ以上は馬力はいらないよっていうメッセージだと思うし、私もそれに共感してます。私がこのバイクを購入したのは、こういうバイクを腹をくくって世に送り出した、開発陣への賞賛とエールみたいなもんですよね。

HAWK11には、他にも「速くない、ちょっと速い」という謎ワードがあるんですけど、これも考察するとブログ一つくらい軽く書けるんで、これについては次回以降にしたいと思います。


HAWK11関連のブログ記事へのリンクです。

変態バイク「HAWK11」を全力で擁護してみる

HAWK11のロケットカウルについてのいい加減な考察