「ダメだ・・・もう我慢の限界だ・・」

とある峠の停車場。バイクの横で男は一人たたずみ、呆然と空を見上げていた。・・このときが来るのはわかっていた。しかし、こんなに早いとは・・。少し前からホームコースのコーナーを3速で立ち上がるたび、メーター横でTCと書かれたランプが夏の蛍のように光って消えるのが見えていた。やがてそれは確かな明滅になり、走るたびに、より顕著になっていった。

スパコルがナナハンのパワーを受け止められないなんてことはあり得ない。そう、明らかにグリップが落ちているのだ。コーナー立ち上がりからのアクセルオンでリアの踏ん張りが出てこない。トラコンがない昔の大型なら確実に尻を振り出しているはずだ。

しかし、男の経済的合理性、もったいない精神がそれを認めるのを頑なに拒んでいた。「もう少し持たせたい、もう少しなんとかならないのか?」男は天に願った。しかし、それは叶わぬ願いだった。衰えたグリップは、もはや二度と回復することはなかった・・。

当たり前である。

男は、やがて静かに目を閉じ、スマートフォンを手を取り電話をかけた。数回のコールの後電話口に出た相手に男は涙目でこう叫んだのである。

「ねぇ店長!!!もうちょっと持ちのいいタイヤないの?!!」



DSC_1881(私がホームコースを走るのは黄昏時の30分。この時間帯になると人も車も消え失せて、峠には鹿やタヌキやニホンザルしかいなくなる。こちら走り終えてクールダウン中のストリートトリプルRS。夕日で絵ヅラがゴッドファーザーみたいなセピア色ですね。)

・・・ご報告です。ザラブ嬢に装着していたピレリ・ディアブロ・スーパーコルサSC2の溝がこの度めでたくなくなり、タイヤとしての寿命を迎えました。走行距離約3100㎞。センターはまだ全然あるんですが、センターからヘリまでの中間領域、コーナー立ち上がりでトラクションをかけたときに一番踏ん張ってくれそうな部分の溝が綺麗になくなってしまいました。

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(経済性最悪の減り方。タイヤは当然ながら一番酷使するところから減っていきます。峠ではバンク深いところからガバ開けしちゃうとぶっ飛びますから、一番寝かせたところから、少しずつアクセル当てて起こしていって、アクセルが一番開くのが丁度この部分なんだと思う。)

「マダマダァ!!ミゾが完璧になくなってからが勝負だぜ!!ここからここからっ!!タイヤなんてカーカスが出てナンボだって!!」っていう猛者もいるかもしれない。たしかに「安タバコをフィルターまで吸い尽くす」ようにタイヤの耐久性を限界まで攻めるクルーザー乗りの猛者達もこの世にいることは承知しております。

しかし、こちらはサーキットでのレースを想定したSC2。クルーザータイヤのような土俵際での粘り腰はございませんし、そもそも一番グリップして欲しいところでグリップ抜けちゃうんじゃ

ハイグリップタイヤ履いてる意味がないんじゃぁああああ!(発狂)

「お前・・発狂するほどのケチ臭さなのになんでサーキット用タイヤなんて履いちゃったの?」って不思議に思う人もいるかもしれない。それはまさしく偶然でした。このSC2、前回お店が公道用のSPと間違えてサーキット用のSC2を誤発注し、何の因果かうちのザラブ嬢のリアに収まったんですよね。お店は「すいません!すぐSPに取り替えます!」って言ってくれたんだけど、ケチ臭い私は、「いやそれもったいないでしょ?SC2に興味ないわけじゃないし、ここは値引きで手を打たない?」って提案し、その結果、大幅お値引きで私の元にやってきた純サーキット用ハードコンパウンドタイヤなんですよ。

カイジ的にいうなら、
カイジ
って奴です。

で、乗って見たらこれがまた・・・メッチャ働くタイヤで、戦闘力は高いわ、路面からのインフォメーションも豊富だわ、微妙なミスは多少のことならタイヤがなんとかしちゃうわで、なんかもう凄いの。攻めたときの柔軟性とフォロー能力があってタイヤが乗り手のケツまで拭いてくれる。「アナタ、どんだけ有能なのかしらぁぁぁぁあああああ!!!」って、走りながら奇声を上げたくなるようなタイヤでした。まぁ適度な気温とドライ路面に限るならの話ですが。

でもねぇ。大体どんなものでも、超有能なアイテムは金がかかるってのがこの世のお約束なんですよ。だって超有能なものが安かったら「普通のものが売れない」ですからね。価格に大きな差があるのは当然。で、タイヤってのは価格が高すぎても売れない商品だから、一定の価格枠の上限の中で「耐久性がない」という形でハイコストに振れていくことになる。

もうね。SC2は2分山あたりから明確にグリップ力が落ちてきて、「おいしいところ終わりましたぁーーー!!私のお仕事はここまででーす。じゃあねーーっ。」ってタイヤが手をぶんぶん振ってきます。コイツは、メチャクチャ仕事できる癖に終業時間30分前になると途端にやる気がなくなり「今日はどこで飲みます?」って質問しかしてこなくなるダメ社員タイプです。

なんでこうなのか?このタイヤ、レース用だから交換時期をミゾで伝えるんじゃなくて「グリップで伝える仕様になってる」んだと思うんですよ。だからミゾがなくなるより先にグリップが落ちる。公道用とサーキット仕様の一番の違いってここかもしれない。2分山、1分山とミゾがなくなるにつれてホント明確にグリップが落ちてくるんですよ。そりゃそうですよね。サーキットではミゾ見てスリップサイン確認するなんてできない。損耗してきたらそれをタイヤ自らが乗り手に伝えるしかないわけですよ。そのタイミングもミゾが消えてからじゃレインコンディションでぶっ飛んじゃうから、ミゾがあるうちに少しずつ滑り出すって形でコーションサインが出てくるんだと思う。おそらくそれが3分山ぐらいから徐々に出てきて2分山ぐらいで顕著になるんだろうけど、これって公道じゃ凄く切ないんですよね。だって「まだミゾがあるタイヤ捨てる」って普通できますか??感覚的にもったいないオバケが体の周りをグルグル回っちゃう。

あのね。別にいいのよ?それはとても正しいことなの。でもね。新品時で既にツーリングタイヤの5分山ぐらいのミゾしかないのに、さらにその2分山くらいでグリップ終わっちゃうって「実質4分山のタイヤ」ってことになっちゃうじゃない?前回履いてたSPは公道用タイヤの常識通りミゾなくなるまできっちりグリップがもったけど、純サーキット設定のSC2はそうじゃないんですよ。勤務時間終了前に明確にパフォーマンスを落としてくる切なさ。そしてそれを交換する踏ん切りがつかず、僅かに残ったグリップにすがりつきながら走る自分の惨めさ。でも、おいしいところが終わってグリップタレてきたスパコルなんて明らかに安タイヤ以下ですよ。

それがわかってて我慢して使うって実に切ない。まるで「弾切れのビームライフルを後生大事に持ち続ける貧乏くさいガンダム」みたいな気分になる。自分の補給線が細すぎて厭になりますって。

リアタイヤ交換してから走行距離3100㎞。滑るタイヤでなんとか粘ってこの距離だから、おいしいところを維持できてた距離数は多分2600㎞くらいだと思う。私もバイクに慣れてきたんで、ザラブ嬢は峠専用に割り切って使ってるし、昨年4速で走っていたコーナーを3速でちょっとばかしハードプッシュしたりもしてるけど(安全マージンはちゃんと取ってます)・・・ここまで損耗が激しいとは・・・。123馬力のザラブ嬢でこうなんだから、パニガーレとかCBR1000RR-Rの200馬力マシンで同じことしたら2000㎞前半でリアタイヤ終わるんじゃないだろうか?

新車で購入してから8300㎞。マラソンウルトラなら、まだミゾが半分残ってる距離ですよ。でもザラブ嬢は今回入れるとタイヤ交換だけで前後3セット目。価格的にも現状でタイヤに17万円くらい使っちゃってる。現在までのコストを距離で割ると・・

1kmあたり20円!(白目)

ハイオクがリッター200円になったところで、うちのザラブ嬢でリッター16㎞くらい走るから、せいぜいキロあたり13円くらいですよ。にもかかわらずタイヤのコストがキロあたり20円ってどういうこと??

慣らしも兼ねた最初の1セット目はフロント3500㎞、リア5000㎞もったけど、そっからはライフが減る一方。あのね。このペースで5万㎞くらい走ると「タイヤとガソリンのコストがバイクの車両本体価格を超えちまうんじゃがっ!!」やべぇ、やべぇよスーパーコルサ。まさにピレリの超疾走する悪魔。あらゆる意味でぶっ飛んでおる。乗り手のマネーを吸い取りながらそれをグリップ力に変えるんですね。わかります。

ザラブ嬢がまったくカスタムしてないのに、激しくコスト高なイメージあるのは、このタイヤが原因といってもいいでしょう。これじゃ黒く丸い物体に金を全部食われて、カスタムに金回す余力なんてビタ一文ありませんよ!!(まぁ完成度高すぎてカスタムの必要性はまったく感じてないけど)

ちなみに春先に交換したフロントタイヤのSPはどうかな?って前に回って見てみると、

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「クォラァァアアアアア!!ヘリがもうスリップサイン出てんじゃねぇかぁぁぁああああ!!」

「オィィイイイイイイイ!!まだ2000㎞走ってねぇだろ??1900㎞くらいだろ??」

「センター山ほど残ってんのにモヒカンみたいに横だけなくなってんじゃねぇぇえええええーーーーー!!」

ってこれまた魂の叫びがもれる。いやね。確かにバイクにとってタイヤは命ですよ。スポーツバイクになればそれはなおさら。でも人にも我慢の限界点っていうものがありますからね。とりあえずフロントについては、2000㎞未満の交換は厳しすぎる。でもこれじゃあ持たせてあと1ヶ月。そしたら前も4セット目入れなきゃいけない。1年でフロント2回、下手すりゃ3回交換って・・無理ぃいいいい・・。とにかくフロントはギリまで粘るとして、とりあえずリアを入れよう。

「店長!!せめて峠走って5000㎞くらいもってくれるタイヤないの??」

「あーー、そういやこの前ロッコルのクワトロがでましたね。かなりグリップするみたいですよ~。まだ入れたことありませんが(笑)」

「おお!クワトロ!!そのタイヤ、クワトロ・バジーナ?つまりシャアなの?3倍のグリップなの?」

「んなわけないだろ。下位モデルだぞ?でも、今回のはウェット落としてドライ性能上げたみたいなんで、ある程度スパコルの代替にはなるんじゃないですか?」

「じゃあそれでいい!それ入れてっ!!一度試してみるっ!!!」

ああ、一縷の光明が見えて見えてきましたよ。これで私も安らかに眠れる・・。その翌日お店から早速電話がかかってきました。

「へっちまんさん。ご注文のロッソコルサ・クワトロなんですが・・」

「はい♡」

「お値段3万5千円(税込)です。」

「おおーー」

「今注文すると半年後の納期だそうです。」

「・・・・・・・・」

「SPならすぐ入るそうです。価格は4万円(税込)です。工賃入れますと約4万8千円です。」

「・・・・・・・・・」


「どうします??クワトロ半年待ちますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・SPでお願いします。」(目から血の涙)

これもう選択肢なんてないでしょ?ミゾなくなってグリップツルツルになってるSC2をあと半年使ったらザラブ嬢は確実に廃車になってますよ。選択肢のない資本主義なんて共産主義と何が違うの?ナチュラル独占禁止法違反ではないの??私の淡い希望はまさに真夏の夜の夢でした。現在はフロント・リア共にディアブロ・スーパーコルサSP・V3という元サヤに戻ってます。リアタイヤの達人レベルは下がったけど、その分こっちもザラブ嬢には慣れてきてるんで大丈夫。リアタイヤの鬼グリップも超回復で、ザラブ嬢の123馬力を叩きつけた程度ではビクともしておりません。

タイヤコスト2
(タイヤ交換をねだるザラブ嬢。滑るタイヤでもなんとか走れるのは優秀なトラクションコントロールのおかげ。私はこの手の電子制御には否定的で「自分のライディング強度を下げる」って考えてたんですけど、実際体験するとマジ優秀。昔ならコーナー出口でケツを振り出すところをスリップ感知してトラコンがパワー抑えるから、グリップなくなっても横に滑るんじゃなくて「縦に推進力が出ない」という症状になるんですよ。どっちが安全かというと、そりゃ比べるまでもないですよね。)

ということで、今後もラバウル攻略戦のような激しい消耗戦が続いていくことが確定したわけですけど、ちょっとばかしホッとしてる自分もいる。やっぱりタイヤって馴染んだものを使い続けるのが一番無難だし、スパコルの減りっぷりはしんどいけど、このタイヤはグリップ感が濃密で、それが路面ミューが変化する峠での大きな保険になってるんです。なにが起こるかわからない峠では絶対的なグリップ力より、接地感の情報密度の方が安全な走りに繋がると私は感じてるんですが、このタイヤはそこがとても優れているんですよね。ただ、趣味としてのコストバランスはメッタメタ。SC2はもの凄いタイヤだったけど、私の使い方ではコストバランスがあまりにも悪すぎだし、ミゾがあるうちからグリップ抜けてくる特性は公道には向いてない。トラコンないバイクだとマジ危ないから。

使い方や走るシュチュエーションを変えればもう少し持つのかもしれないけど、タイヤにあわせて自分の走り方を変えるなんて、アマリング消しと同じで「タイヤに支配され、乗り手がタイヤのいいなりになってる状態」になっちゃう。仕事でいろいろ我慢してるド中年は「バイクくらいワガママを貫いて好き勝手やりたい」わけですよ。タイヤの見てくれを気にして走るとか、タイヤの耐久性気にして走るとか、漫画の主人公の真似して走るとか、格好よく走るとか、そういうのもうどうでもいいんですね。

大型のガチ系スポーツバイクってあらゆる意味で悪魔です。その悪魔とダンスを踊ろうとすればそれなりの代価がいる。本領を引き出して走るほどその損耗はハンパなく、オーナーの財布を圧迫する。私なんて性能とコストのバランスを考慮して750クラスを選んだけど、それでもザラブ嬢のハイパフォーマンスとそれに伴うおねだりは趣味で遊ぶ領域を超えてると思う。これからスーパースポーツを購入するって人は、その点は覚悟しておいた方がいいでしょう。

ということで、今回はピレリ・ディアブロ・スーパーコルサSC2のライフとコストパフォーマンスについてインプレしてみました。最後にSC2を擁護しておくと、交換時点でセンターにはまだ全然ミゾがありましたんで、峠をあまり走らないとか、近くに峠がなくって街乗りがメインっていう人はもっともっと持つと思うんです。タイヤのライフなんて、その人の走る道路事情や走り方によって大きく変わります。ですから、このブログはあくまで参考程度にしておいて下さいね。




なお、こちら過去の関連ブログです。

ピレリのレーシングレプリカタイヤ、ディアブロ スーパーコルサSPを語ってみる

ストリートトリプルRSのリアタイヤ交換で心の闇があふれ出した件について

ワルキューレの騎行(現代のハイグリップタイヤをシミジミと語る)