最近は気温30度を大きく超える日が続き、いよいよ大排気量バイクにはシンドイ季節になって参りましたね。そこで今回は夏のSC79ゴールドウイングの実態についてインプレしたいと思います。

リッターオーバーの多気筒エンジンに乗った経験のある人は、「1800ccの6気筒??そんなものはさぞかし熱かろう。」って思っているかもしれない。「地獄バイクだ。」と考えているかもしれない。でもね。違うんですよ。

国内で購入可能なバイクの中で最大排気量であるにもかかわらず、ゴールドウィングは大排気量水冷バイク特有の地獄のような排熱地獄から解放されてます。それはなぜか?ラジエターの配置が普通のバイクとは違うからです。ゴールドウイングはペッタンコの水平対向エンジンを、地面すれすれの低い位置にぶら下げてるんで、エンジン上のスペースに余裕がある。普通のバイクならエンジンのあるべきスペースに何もないから、ラジエター配置の自由度が高いんですね。そのアドバンテージをフルに生かし、ゴールドウィングは昔からラジエターを左右に縦配置するツインラジエター構造を採用してます。

F6Bに乗ってた頃は、このツインラジエターとカウルの隙間に「コウモリが挟まってミイラ化する」というホラーな状況が発生したりしましたが、それくらいゴールドウィングってカウルの中を空気が抜ける構造になってる。

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(こういう曇り空の日が案外ジリジリ暑い。見晴らし最高な高台でコーヒー沸かして一服です。)

ラジエターを二つにすると何がいいのか?まず冷却面積を大きくできます。ラジエターが二つなら冷却ファンも左右に二つ配置できるから、ファンを回して強制空冷に入ったときの風量は単純計算で倍になる。進行方向に対して縦配置されたラジエターは、走行風では冷えにくいため、冷却は自然放熱とファンによる強制空冷にならざるを得ないわけですが、私はF6B時代から通算8年、水温計の針が定位置から動いたのを見たことがない

気温40度超えの長野県松本市での地獄ツーリングの時でさえ、水温計の針は一切動かなかったですから、このバイクの熱安定性はハンパない。冷却ファンによる強制排熱のため、ゴールドウィングは走行中「ブワァアアアアアン」というホラ貝のようなファンの音が前方から頻繁に聞こえて参りますが、勇ましいのは音だけで、乗り手は実に涼しいもんです。

「だって、熱風が一切こないんだもん。」

冷却ファンはラジエターの冷却面に対して垂直に風を当てるように設置されてます。ラジエターを縦に置けば冷却ファンも縦置きになるから、排熱時の熱風はバイクの後方ではなく側面に向かって排出される。しかもゴールドウィングのカウルは、足をカバーするように出っ張ってるんで、乗り手の前方両側に放射された排熱はカウルによって足を避ける。うーん完璧。

水平対向エンジンってバイクではBMWとホンダしか採用していないし、エンジン特性による低重心や縦置きクランクによるヒラヒラ感ばかりが強調されてるけど、ホンダは平たい水平対向エンジンの特性を最大限利用して、乗り手の快適性を追い込んでいってるんです。空いたスペースを利用してダブルウィッシュボーンサス入れたり、ツインラジエターにして排熱対策したり、前進後退機構入れてみたり、「直列エンジンやV型エンジンにはできないこと」を水平対向でやってるんですよね。ホンダは性能や官能性だけでエンジンを選択するのではなく、大型バイクにおける合理的選択として水平対向エンジンを選んでる節がある。

しかし、残念ながらこれまでのゴールドウィングは夏にその美点を生かし切れているとはいえませんでした。排熱遮断という夏に強い特殊スキル持ちであるにもかかわらず、旧型のF6BはリッターSS以上に「夏に乗る気がしないバイク」だったんです。

それはひとえに巨大カウルの性能が良すぎたからです。あらゆる走行風を遮断し、乗り手を風から守るゴリアテの盾のような巨大カウルは冬場は無敵なんですが、夏は乗り手に一切風を送ってきませんでした。それはまさに

「無風地獄」

これが先代ゴールドウィングの夏だった。「排熱の熱さはないけど、風が来ないから乗り手がまったく冷えなかった」んです。

灼熱の日光が降り注ぐ中、F6Bは乗り手を走行風から過保護に守りすぎるあまり、ライダーを天日干し状態にしてしまっていたんです。クッソ暑い夏に前から風が当たらないって状態は乗り手には死活問題。しょうがないんで私は夏にF6Bに乗るときは水にじゃばっと漬けてから着る水冷インナーを着用してたんですよね。

でも今回のSC79はSC68に比べ、夏がそこまで暑くない。もともと排熱対策はバッチリだから、夏は乗り手に少し風をあてるだけで随分と乗りやすくなるんです。メーターの上部にワンプッシュ式のベンチレーション機能を付けたり、風を微妙に乗り手にあてるようにしたりと、夏と冬の快適性のバランスをなかなかうまくとってきているなぁと感じてます。つまり、「冬に寒すぎず、夏に暑すぎず」のレベルで体に風をあててくるようになったんですよね。そりゃ完璧じゃありませんよ。ダイナみたいに全身にくまなく風が当たって「うひゃーっ!涼しいーっ」て感じるわけじゃないけれども、旧型と違って太ももの外側や肩口にそよそよと風が当たるから、それだけで夏の天日干し状態がかなり緩和される。25度から~30度くらいまでなら普通に乗り出せますね。

SC79はSC68に比べ、あらゆる速度域、あらゆる季節、あらゆる場面で汎用性をより高める方向に振ってる気がする。だから、特定のシュチュエーションでは旧型にかなわないところもあるけど、トータルでは断然使えるバイクになっているんです。

空調服
(いんちきメイドきんつば嬢。この世に悪の栄えたためしなし。私も一度この手の空調服試してみたいんですけど、水冷インナーあるからなかなか踏ん切りがつかないんです。え?ダサイ?そんなモノで怯む中年ではない。)

今回の排熱対策にも見られるように、目立たないところに気配りした造りってのはホンダのお家芸。「大排気量バイクは熱いのが当然」なんていうと、技術者の頭の中で本田宗一郎の霊が「バカヤロウ!300万円もするクルーザーがカブよりも熱いなんてあり得ねぇだろ!金払ってくれてる人をなんだと思ってるんだっ!なんとかしろ!」って言うんですよきっと。だから、トンデモエンジンとサス積んでバカみたいな巨体になっても、ホンダは「バイクとしての当たり前」を地道に追求してきます。でも、それって追求すれば追求するほどバイクは普通になっていくから、個性の面ではマイナスなんですよね。

ゴールドウィングは水平対向6気筒を採用してますけど、ポルシェみたいな加速はしないし、ハーレーのウルトラのようにデザインの派手さもない。小さなバイクでは当たり前のことを巨大クルーザーでも実現しようとしてるから、SC79のいいところってすっごく地味。でもね。

使ってみると超優秀なんだなぁ・・

乗り心地とエンジントルクは豊潤でゴージャスなのに、ストレスがビックリするほど少ないから、フラフラと引き寄せられるように乗っちゃうんですよ。「ちょっとそこまで・・」って感じで乗り出して、なんだかんだと遙か彼方まで行っちゃうから距離がズルズルと伸びていく。

私は現行のゴールドウィングって良い意味で「デカいカブだ」って思ってます。私にとってカブって神様みたいなバイクですから、これは立派な褒め言葉。カブって何の変哲もない単気筒のお仕事バイクなんだけど、あのバイクの変わりになるものって世界のどこにもないんですよ。機械としての究極のバランス点がそこにある。CB系やゴールドウィングに乗ると「超優秀な普通」っていう「カブの血統」をもの凄く感じるんですよね。

で、歳食うほどそういうのが素敵だなって思うようになるんです。ホンダって初心者用ってよく言われるし、私も初心者からしばらくの頃はホンダを乗り継いでました。だって乗りやすかったし、性能抜群に良かったし、安心だったから。

やがてバイク屋で勤務するようになり、買い取ったバイクの点検試乗でいろんなバイクに乗るようになると、ホンダ以外のバイクを買うようになる。ちょっとばかし乗れるようになってホンダの当たり前が物足りなくなったんですね。カワサキ乗りの頃はマジで「アンチホンダ」でしたよ。「ホンダなんて、面白みのない優等生で教習車みたいなもんだろ!!」って思ってたことも正直ありました。でも結局今、私はぐるっと一周まわって、またホンダに乗ってます。

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(ゴールドウィングという名前と裏腹にまったくゴールドなところがない。妻からは「マット・ゴキブリ」とまで言われる始末。でもボッチの私にはこれくらいが丁度いい。)

ただ、今の私がホンダを選んでる理由は昔とは違うんです。ホンダが乗りやすいから乗ってるんじゃなくて、純粋に「ホンダはやっぱ凄いな・・」って思って選んでるんです。各バイクメーカーはいろんな凄さや個性、固有の武器を持っていて、だからこそどのメーカーにもファンがいるわけですが、それらのバイクメーカーのどれが刺さるのかって、その人の人生観や、バイクに対する考え方、それまでの消費経験にも大きく左右されると思うんですよ。

私もある程度歳食って、その間凄いバイクっていわれてるものにいろいろ乗るわけじゃないですか。で、そのうちに「本当の凄さってなんなんだろう?」って首をひねるようになるんですね。

凄い性能だけど使いどころがない。

格好いいけど維持費が高い。

ゴージャスなんだけど使いにくい。


そんな大型バイク達と長い間つきあっていると、やがて尖ったものほど反作用もでかいってのが身に染みてくる。それがわかると煽り文句に動じなくなり、徐々に心が動かなくなってくるんですね。バイク乗りとして去勢されて来た頃に、ホンダの優秀な普通って凄く染みてくるんですよ。

バランスの高いものって、「天才的なヒラメキ」「コツコツとした地道さ」のどちらかからしか生まれない。今のゴールドウィングは40年以上に及ぶ地道な改良の結果、コツコツと積み上げられたノウハウとバランスの上に存在してます。

ゴールドウイングはバイクがぐいぐい前に出て「どうだ!」って胸を張るわけじゃない。うちのきんつばは色も地味だし、メガクルーザーの華やかな雰囲気も全然ない。でも私はそれでいいかなって思ってます。アメリカ的なゴージャスさに振ったところがあった先代より、派手さを捨てて顧客価値を引き上げた今のSC79の方がくも悪くもホンダらしいんじゃないか?って感じてるんです。

ハーレーのような華やかな芸風はないけど、いろんなバイクを経験し「超優秀な普通」と、あらゆるところに目配りして練り上げられたトータルバランスの凄さに感動できる心境になった人にお勧めしたい。ゴールドウイングはそんなバイクですね。