福井の越前海岸を見下ろす高台での光景、緩やかな傾斜の袋小路に前から止まるゴールドウィング。その横にたたずむ男女2名。


「いいか?今傾斜に前から頭を突っ込んでいるだろ?こういう前下がりの場所にバイクを停めてしまったら、旧型のゴールドウィングだと決死の覚悟でバイクを押して脱出しなけりゃならなかったのだ。・・その厳しさたるや・・(黄昏ながら海を眺める)・・なんせ400㎏近い巨体だからな。」

「たしかに、誰もオッサンがアブラ汗流しながら、こんなの押してる姿は見たくないわね。オッサンの汗は若者と違って見るに堪えない、絵ヅラも汚い。」

「あまりの酷評にデリケートでセンシティブなハートが崩壊しそうなんだが・・」

「は?デリケート?バリケードの間違いでしょ?なにがハートよ、メンタルゴリラは黙ってなさい!」

「・・・・・・・・・(涙目)」

「続けて続けて」

「・・・とりあえず、これまではそうだったんです。でも、このバイクはニュートラルに入れて、リバースボタンを押してから、バックボタンを長押しすることで電動モーターによってバックするんです。こんな傾斜に前から入れても難なく脱出できるというわけなのです。」

「なるほど、さすがアナタのバイクね。後ろ向きだわ。」

「・・・・・・・・・(涙目)」

「はい、続けて」

「・・・それではやりますので、見てて下さいね・・」

「ええ」

男、Rボタンを押しリバースに入れてから、後退スイッチを押す。

カラカラカラカラカラ・・・(バイクはまったく動かない)

「・・・・・・・・・・・」

もう一度スイッチを押す。

カラカラカラカラカラ・・・(バイクはまったく動かない)

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

(男と女、無言で顔を見合わせる。)

カラカラカラカラカラ・・・(バイクはまったく動かない)

「・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・」


「グガァァアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

(男・・決死の覚悟でバイクを押し始める。女・・顔を真っ赤にして震えながら笑いをこらえる。)

のっけから暑苦しくも悲惨な光景ですが、立ちゴケ以来、バッテリー上がったり、リバースギア空回りしたり、ゴールドウィングがなにかと不機嫌なんですよね・・・。悪いことって重なるもんで、流れが悪いとえてしてこういうことになりがち。電動バックギアなんて普段は使わないもんだから、いつからギアが空回りして動かない状態になってたのかすらわからないんですよね。

前任車のF6Bは385㎏の巨体を押し歩きするという非常にストイックなバイクでした。現行ゴールドウィングの車重は箱なしが365㎏、ツアーが389㎏ですから、旧型は箱のない状態で今のツアーの重量だったんです。F6Bの取り回しを7年やってた私としては、現行ゴールドウィングで電動バックギアを使う必要性をまったく感じてなくって、購入してからこれまででバックギア使ったのは3回だけです。最初は納車された時、バックギアが動くかどうか点検確認するために使って、次は1年くらい後、砂利の駐車場で「足場悪くて押すのめんどくせぇな」って使いました。そして3回目が冒頭の光景。もうね。奥様に「オラのバイクスゲぇんだぞ!」ってとこ見せようとしたら、見事に空回り。くやしいですっ!!

いやー、それにしても腹立たしいですね。言葉を失いましたね。こんなの「人生初の混浴風呂にドキドキで突入したら、湯煙の向こうには男しかいなかった」ってレベルの強烈な不満ですよ。しかも、傾斜に深々と頭から突っ込んじゃって、こんなのもうどうすんの?ええ、どうにもならない。電動バックギアが空回りしちゃえば、残るは人力バックギアしかないんですよ。自分で傾斜に突っ込んで自分で出す。これほど無意味で無駄で天元突破なマッチポンプがあろうか。いやない。

傾斜をクリアして平地に至るまでに、古代ピラミッドで労働に従事する奴隷の気分をたっぷり味わったわけですよ。なんとか脱出した頃には、もう滝汗で「男の汗の香り&加齢臭の濃厚フレーバーむんわり」状態。完全に異臭モンスターに成り果ててたわけですね。(食事中の皆さんすいません。)

ホント、毎回シミジミ実感しますけど、バイクっていうのは、謙虚にしてれば大概大丈夫なんですが、イキろうとしたときに、絶妙のタイミングで落とし穴にハメてくる乗り物なんです。今回も「ワクワク→驚愕→不満→地獄」というお約束のパターンですよ。旧車オーナーなんて定期的にコレを繰り返してるんですから、マジ愛がないとやっていけない。

DSC_1728(海辺のゴールドウイング。このような平地での取り回しはまったく問題ありませんが、少しでも傾斜があると365㎏の重量がおんぶオバケのようにのしかかってまいります。

ちなみに「ゴールドウィングの電動バックギアってどんな感触か?」っていうと、トイザらスとかに子供が乗れる電動バッテリーカーみたいなのあるじゃないですか、正にあの動きですよ。ギアをモーターに直結させてますから、強制動作に強制停止。動力切った時に惰性で前進するってのがないんですね。ボタン押すといきなり「ウィィィィィィン」って唐突に後退し、ボタン放すとビタって止まる。「わぁ~なにこれ?子供の頃を思い出すわぁ♡」なんて嬉しくなってる場合じゃない。その時のモーター音がまたなんとも苦しげで、凄く電力使ってるのがわかっちゃうんですよね。

作動音聞いてるだけで、バッテリーの負担が凄いのが感じられてゾクゾクしてくる。重量車はセル回んなくなったらクソ重いだけの石地蔵ですから、バッテリーは可能な限りフル充電に近い状態を維持しときたいんですけど、それがゴリゴリ減ってるわけですからキャーってなるわけです。最近のバイクって電子キーとか時計とか、止まってる時でも細々と電気食ってるんで、バッテリー上がるときには「え?なに?ないの?」って感じで唐突に上がる恐怖がある。加えて、ゴールドウィングはハーレーと違ってウニャウニャいいながら懸命にセルを回そうとしてくれる根性系ではなく、電圧が一定ラインを割り込むと、セルモーターを一切回そうとしないハンスト系ですから余計タチが悪いんですよ。

「気合いだ!努力だ!根性だ!!!」って力の限りクランク回そうとした結果、圧縮抵抗に負けてバッテリーが息絶える脳ミソきんに君なダイナ嬢と違って、「はぁ?これ以上の頑張りはバッテリー劣化の原因になりますから。もうなにもしませんよ。セルモーターのスイッチ連打しても無駄ですよ。バカなんですか?電源管理できてないオーナーの自業自得ですじゃないですか。さっさと充電してくださいね。」ってジト目で冷静に言い捨てるのがきんつば嬢なんです。いや、どっちが正しいかっていうと、バッテリー保護としては後者の方が正しいんですよ。理論的には正しいのはわかってるんですけれども、使う側としては

「実に可愛げがない。」

とにかく電圧がある一定以下になるとブンむくれちゃってまったく取り付く島がありませんから、非常に困るんですね。「出先でエンジンかけずにオーディオ操作してたらセルが回んなくなって、レッカーでドナドナ」みたいな話もある中、電動バックギアの使用は自分で死亡フラグ立てにいくみたいな気がしてならない。私的には「よっぽど危機的なときに使用する」エマージェンシーなイメージなんですよね。

その点、DCTモデルは前進後退機能をクラッチで行うようになったんで、バッテリー容量に対する気遣いは不要になってます。これは取り回しを前進後退機構に依存する上でかなり大きな変化だったと思うんですよ。クラッチ制御でエンジントルク使う方が前進方向にも活用できるし、パワーもあるし、バッテリー減らないしで画期的。こういう便利装備って、「使うときに気を遣わない」っていうのが一番大事で、不安要素やストレスがあると、非常に使いづらいんですよね。最近他メーカーの大型バイクが電動バックギア採用してますが、ゴールドウィングの前進後退機構は頭一つ先を行ってます。

前のゴールドウィングもマジで凄いバイクだったんですけど、やっぱ気を遣うというか、乗り手を選ぶというか、それなりに覚悟しないと手に負えない感のある超巨大バイクでした。アメリカが主戦場なだけあって、どっちかというとハーレーのウルトラっぽく「ある程度のステップを踏み、重量車を扱うスキルを上げないと乗れない」的な立ち位置にいたと思うんですよね。

一方で現行のゴールドウィングは、以前のSC47にあった敷居の高さ、とっつきにくさはほとんどない。引き越こしも軽いし、立ちゴケしても1000円以下で新品に戻っちゃうし、前進後退の便利機構もバッテリー容量気にせず使えるし、旧モデルに比べて細かいところの利便性が上がってるんですよ。雇うときは旧モデルより100万円以上高いけど、雇った後の気楽さが比較にならないんですね。

前回ビックアドベンチャー試乗でロングストローク&セミアクティブサスの乗り味に完全にトロけてましたが、やっぱり腰高感のある車体と、足つきの悪さの組み合わせは普段の取り回しでそれなりに気を遣うところもあります。でもゴールドウィングは400㎏近くあるのに250㎏級の重量級アドベンチャーより気楽なんじゃないか?と感じるんです。乗りにくいバイクを創意工夫で乗りやすくってのは、ホンダのバイク作りのお家芸ですが、さすがフラッグシップ。その徹底ぶりには執念すら感じますね。

よく「国産バイクは個性がない」なんていいますけど、逆に言うと、海外性はこういう徹底した「理」を追求するバイク作りができないんですよ。だから個性に振るしかない。日本人ってきめ細かなコダワリが凄くて、製造面でもそれを追い込んで実現することができるから、理詰めのバイクが作れるんです。海外性はその領域では日本勢に太刀打ちできないから、製造品質の低さからくる振動や適当さを個性って言い切って勝負してるところもあるんです。だから個性を作り込めたり、適当さを力でごまかせる大排気量方面は強いけど、実質的な使い勝手が良く、低コストで耐久性も高いバイクが重宝される小排気量になると日本車に全然勝てないんです。

きんつば
(なんとなくこんなイメージしか浮かばない今回の一件。なんかバイクにもて遊ばれた感がハンパないんですよね。)
ザクレロ2
(ジオン屈指の有名MAザクレロ。「足など飾りですっ!」って豪語したジオン軍のメカニックがいましたが、こちらはもう「顔以外飾りですっ!」って感じ。傾斜地でゴールドウィングを押してるときの私の顔そのもの。押せなきゃジ・エンドですから、必死なんです。)

話を戻しますが、バックギアが作動不能になっても、私の普段使いには特段問題になることはなく、定期点検時期がくるまでこのトラブルは放置してました。点検で「ついでに直してよ」って伝えたら、「いやー、そんな症状、聞いたことないですが・・」ってメカさん頭ひねってましたが、ピットで確認した結果「症状が確認できました。こりゃダメですね。」ということで、その場でドリーム預かりとなりました。

「長期入院になるかなぁ・・」なんて思ってましたが、予想に反して一週間ほどで直ってきてビックリ。なんか、ギアのクリアランスを調整する部分があって、そこ調整したらアッサリ動くようになったみたい。当然保証の範囲の無償修理です。

それにしても、全然使ってないバックギアのクリアランスがおかしくなるってのも納得いかん話。なんというか、そこにバイクのヨコシマな意志のようなものを感じるんですよね。「マジでからかわれただけじゃないのか?」っていぶかしんでます。

ちなみにバックギアは点検終了後に1度動作確認しただけで、その後は一切触っていません。だって触らなければ壊れることもないし、もし壊れていたとしても気づかなければ壊れてることにならない。認知の領域外の事象は存在しないのと同義なんです。

使うところは敏感に、使わない部分は鈍感に。どうでもいいところは必要以上に気にしない。敏感力と鈍感力を使い分けるってバイクを長く維持する上で割と大事なことじゃないかと思ってます。