延々続く一連の試乗ブログ。今回も6000字オーバーコースで、実は次に書き切れなかった総括があるんで、トータル2万字超えの比較試乗ブログになりそうです。さて、いよいよ3台目に登場しますのは、ハーレーダビッドソンのパンアメリカです。パンアメリカは、以前気温30度オーバーの中で試乗した際の感想をインプレしてるんですが、今回の気温は15度、試乗環境も違うし比較試乗で見えてきたこともありますので、もう一度、一からインプレを書き起こしたいと思います。

三台目「パンアメリカ」

まず最初に外観の印象ですが、これは非常に良いんじゃないかと。外装質感は高く、造形も力強い。存在感を明確に主張してて、つや消しのメカメカしさと重量感が印象的。車体デザインも色によってはミリタリー感があって、ぶっちゃけ自衛隊の特科連隊に配備されててもまったく違和感がないデザインだと思う。当初は華やかさを出そうとタンクにオレンジを設定してましたが、外観のデザインからグリーンやカーキがとても似合うバイクになってる。

(オフロード爆走のメチャメチャ凄い走りですが、日本だとウンコ漏れそうにならないとこんな走りにはならない。まさにデッド・オア・大)

パンアメリカはアドベンチャーの強さの演出として、プロユースとか、ミリタリーギア的なタフさをイメージしたんじゃないかと感じるんですよね。そこら辺はJeepのラングラーあたりに通じるところがあるんじゃないかと。車体色によっては革ジャン、ジーンズというスタイルや、フライトジャケットなんかでも違和感なく乗れそうな気がする。

デザイン的には他のアドベンチャーと差別化して独自の世界観を作ってると思うし、多くのアドベンチャーがともすれば「シルエットが皆同じ」に見えてしまう中、ディティールで小細工することなくデザインの基本要素で個性を主張してます。

普遍性があって飽きが来ないデザインだと思うんで、年数が経って見慣れてくるほどジワジワ染みてくるんじゃないでしょうか。唯一マフラー周りやリアキャリア周りが地味で芸がないのが違和感あるけど、「自分で変更して金落としてね♡」ってことなんでしょう。最後のダルマの目入れをオーナーに有料で委ねてくるあたり、ハーレーのいつもの商売です。

跨がってみると、ステアリングがちょっと遠くて低い。ムルティは完全殿様乗り、GSではちょっとハンドル遠くなったかな?って感じになり、パンアメリカはGSよりもうチョイ低いかなって印象で微妙な前傾になります。これ、ウィンドスクリーンの防風性能との兼ね合いで下げてるのかもしれないけど、私としてはステアリングは少しアップしたい感じ。

サイドスタンドからの引き起こしでGSの感覚でエイヤ!とやったら、パンアメリカは起きなくて、「ウガギギギギギ・・」ってそこからメチャクチャ頑張る羽目になりました(笑)。もう足ツりそうになったんですが、よく考えたらイグニッションをオンにしないと車高下がんないんだっけ・・。クッソー、先にイグニッション入れてから跨がれば良かった。

それにしても、さすが250㎏。はじめの勢いを一旦受け止められて、力勝負になったときはかなり手強い。これはビックアドベンチャーはどれも同じだと思いますね。よく低重心設計なんてインプレされてるし、私もGSでそういうこと書いてるんですけど、実際は、オフロード走行のために最低地上高をバカみたいに上げてるから、どんなに低重心だろうが普通のバイクに比べればメチャ腰高なんですよ。アドベンチャーの低重心っていうのは上げて下げるという矛盾をはらんでるんですね。

なんとかバイクを直立させてインパネ見ると透明なフロントカウルの内側は独特な眺め。パーツがシンプルに並んでるだけなんですけど、逆に面白いなと思う。ウィンドスクリーンの支持パーツがまるで野戦砲みたいで、スクリーン越しに照準をあわせてるような、そんなイメージ。パーツ一つ一つは加飾されてるわけじゃないし華美じゃないけど、安っぽい感じもしない。プラスチック部品も少し表面を荒らしたり、マットにしたりして安っぽく光らせないことで質感を演出してる。この点はハーレーらしく、小憎らしい仕上がりになってます。

クラッチ繋いで走り出すと、エンジンのフィールは前の2台に負けてない。GSみたいにエンジンの爆発感が意図的に丸められてるところもなくて、良い按配にダバダバいってるし、しっかりと慣性力を感じる回り方です。私的には丈夫でデカいピストンを十分な爆発力でズコズコ回してる感覚がハーレーエンジンの醍醐味だと思いますが、そういう風情はこの3台の中では一番ありますね。一発一発の爆発の小気味よさはムルティですが、力強いドスドス感はパンアメリカ。ここらへんはやっぱりキャラが違う。

切り返しも前の2台がヒラヒラしてるのに対し、車格なりの手応えがあります。しかし、運転しにくさは全くない。フロントタイヤがデカい割にハンドリングがスッキリしてるのは、カウルがフレームマウントなのでステアリングに重量物がついていないからでしょう。

巨体から想像できないほど軽くバンクするムルティやGSに比べると、重すぎず軽すぎずのスタンダードな操縦性。あと、サスはノーマル設定で乗ってる限り、この3台の中で一番減衰が効いてた気がする。この重量のバイクを高速域から減速させようとすると、テレスコサスでフカフカ設定は難しいですね。今回比較試乗した3車の中では一番しっとりしてて「オンロード指向のサスだな」って感じたバイクでした。オフロードモードにするとサスがかなり柔らかくなるんで、フラットダートの林道くらいなら走れそうだけど、試乗した限りではやらないと思う。だって外装質感高いし、重いし、転倒上等はやっぱ無理かなと。それやるならもっと安いバイクでやりたい。

panamerica(こちらハーレーのホームページから転載。このデザインでグリーンやカーキ、迷彩色あたりにされるとまさに多目的軍用二輪車って感じで、ミリオタはたまんないと思う。)

ちなみに私、ここまで一般的なアドベンチャーとしてパンアメリカを普通にインプレしてますけど、そもそも私の知るハーレーってこんなんじゃないですから。クルーザーのハーレーは曲がるというより、「乗り手が入力して曲げる」って側面が強いし、ブレーキもABS装着前は、止まるんじゃなくて、「止まれそうなところから先読みして減速する」ってバイクでした。ハーレーの価値観を理解しないと乗ってられないところもあったわけですよ。

それがどうですか?こんなに走りが良くなっちゃって!!(笑)「あの・・君どこのバイク?」って言いたくなる。偏差値高いムルティやGSと乗り比べても、アドベンチャーとしての偏差値で見劣りしてないですよ。それどころか、良い物感や、タフさ感では一部上回ってるところもあります。製造クオリティというか、組み上げレベルが高いんで、機械としての造りの良さからくる安心感があるんですよね。車重は同じなのに分厚い金属で作られてる感じはパンアメリカが一番ある。新型モデルにありがちな揺らぎも特段感じない。実際、今回の試乗企画はハーレーが仕掛けたんだと思うんですが、先発で実績のあるGSやムルティを乗り比べ対象に選んだってのは、ハーレー側にそれだけの自信があったんだと思うんです。

ただ、残念ながら、このパンアメリカには明確な欠点が一つある。それは排熱。当日外気温は約15度、私の装備はモンベルのモモヒキに、PMJの防弾ジャケット素材の裂けないジーンズでしたが、やはり試乗後半では他の2台に比べて内太ももにジワジワと熱を感じていました。前回、外気温30度オーバーでジーンズ1枚で乗ったときは「熱くてアクセル開けられない」ってくらいの排熱でしたんで、これについては言及しないわけにはいかない。パンアメリカのインプレで、この排熱に言及していないものについては「大人の事情により口を閉じている」だけでしょう。

ドカのムルティはパニガーレから45馬力もデチューンした上で、エンジンが冷えるように送風板をつけてるし、BMWのフラットツインはシリンダーに風が当たってよく冷えるとこもってきて、136馬力と無理せずバランス重視型のエンジンにしてあるからそもそも排熱自体が少ない。その一方でパンアメリカは二気筒で152馬力を絞り出す、ハーレーで最もハイパワーなエンジンを載せてきた。結果、このバイクから生み出される熱量は「ハイチューンエンジン特有のもの」になってるんですよね。

私はただやみくもに「熱いのがヤダ」ってゴネてるわけじゃないんです。この程度の熱量のバイクなんて過去にいくらでも乗ってきましたよ。ただ、私はこのカテゴリーで、革パンツ履くのがいやなんです。大排気量のスーパースポーツや最高速自慢のメガツアラー、加速命のドラッガーなら排熱はいくらでも我慢します。だってそれらのバイクはエンジンに火をくべてナンボなんで「熱さこそ性能の証明」なんだから。また空冷エンジンの信号待ちの熱さも我慢します。それが嫌なら水冷選べばいいんだから。これらのエンジン熱は「こちらが求めている価値を実現しようとして必然的に発生しているもの」ですからまだ納得できるんです。脳内で「HOT LIMIT」流してやせ我慢するのもまた一興。

でもパンアメリカについては「この排熱を許容してまで152馬力っているのかな?」って根本的な疑問が消えない。オフロード走れば50馬力もあればタコ踊りだし、実際トラコンでパワー抜きまくってるわけでしょう。オンロードにしたって余裕を持って走行できれば十分なんであって、フル加速して最高速を叩き出す必要性はまったくないと思うんですよね。そういう意味では現代のアドベンチャーはどんどんスーパースポーツ化してるんですけど、オンオフ両用のトレールタイヤを履く宿命上、そんな無理してどうするの?ってことなんですよ。

MAX
(パンアメリカの心臓。レボリューションMAX1250。パンアメリカの高回転域のパワーは確かに凄いんだけど、いささか過剰感がある。この仕立てでナイトスターの975ccを乗せた奴が出たら、もっと魅力的になるんじゃないかなーなんて考えちゃいます。)

多くの人が冒険に夢見てるものは、道なき道を越え、雄大な荒野を旅して夕日を眺める「ハックルベリーフィンの冒険」であって、大汗流して害獣を狩り続ける「モンスター討伐型の大冒険」ではないはず。だからこそ、パワーを滾らせるんなら快適性を崩さない範囲でやって欲しい。じゃないとアドベンチャーがサバイバルになってしまうから。

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(昨年ツーリング先で撮影した一枚。最果ての地でこんな雄大な眺めを独り占めするためにアドベンチャーはあるんだと思う。)

実のところ私はハーレーには「アロハにジーンズで走れるような気楽なアドベンチャー」を提案して欲しかったんです。ハーレーの良さは使い方を乗り手の発想力に委ねる気安さにあると思ってるんで、「重くてデカいのに着流しのように気楽に乗れるアドベンチャー」を提案してくれるといいなーなんて思ってた。

ビックアドベンチャーって、何でもできるという触れ込みだけど、実際はそれなりの技量がないと何でもやるのは容易ではないんです。そんな大排気量アドベンチャーに気楽さを持ち込んで、真の意味で何でもできるアドベンチャーにしてくれたら・・って期待してたんです。で、パンアメリカのスタイリングや、リアサスを下げて足つき良くするアダプティブライドハイト機構を見た時、私は「ひょっとしてそんなバイクができちゃったんじゃないのかー!?」って盛り上がったわけです。でも乗ってみたらスペック重視のガチのハイパワー系アドベンチャーでした。

panamerica5
(パンアメリカ嬢。ミリタリールックに仕立ててみました。ちなみにセリフを日本語訳すると「買うか買わないかだろ?悩む必要なんてないぜ!」って感じでしょうか。)

ただ振り返ってみると、パンアメリカはこれが正解だったと思うんですよ。現状のビックアドベンチャー市場は群雄割拠で競争が非常に厳しく、これまでのクルーザーイメージは足かせでしかない。だからハーレーは「あらゆる意味で全力を出さないとダメだ」と考えたんだと思う。そして、謙虚に誠実にそれをやった。初期モデルにして、この完成度は開発段階で相当実走をしてないと実現できないレベルでしょう。馬力を出せばサスもレベルの高いものを要求されるし、車体剛性も上げなきゃならない。しかしあえて高い目標を掲げ、妥協せず、きっちりバイクを仕上げてきた。そういう意味ではパンアメリカのエンジンの排熱は、ハーレーが新世代バイクに込めた熱量そのものかもしれない。

初期モデルの目標は「まずは市場に殴り込んで、そこに食い込み認知されること」です。だから往々にして尖ってることが多いんです。そして、この初期型は切り込み隊長としてちゃんとその役目を果たした。だって、このバイク発売して1年くらい経ちますが、販売現場でも当たり前のように受け入れられてるし、ビックアドベンチャー買う人の選択候補の中に無視されることなく、それなりに上がってると思うんですよね。ハーレーが作ったアドベンチャーとして、メチャクチャ叩かれてるかっていうとそんなこともない。選択されないまでも多くのアドベンチャー乗りが「このスタイリング・・気になる・・」って心のどこかで思ってるはず。

市場に認知さえされてしまえば、足つきとデザインいいんで、ハーレーの販売力を生かして今後ジワジワとアドベンチャー市場を侵食していくんじゃないかと思う。その過程でキャラも作り込まれていき、アドベン界での立ち位置も明確になっていくんじゃないでしょうか。そして、10年後にふと振り返ったとき、間違いなく「ハーレー新時代の象徴」と言われるようになってるバイクだと思うんですよね。

最後に一言。「ハーレーさん。こいつの975cc版出してくれ~。」

ということで、これでムルティストラーダV4SR1250GSパンアメリカ、3台のインプレ全てが終了致しました。次回は試乗の総括として、今回の試乗で私が抱いたビックアドベンチャーに対する雑感をちょっとばかし書いて終わりにしたいと思います。