今回の比較試乗は必然的に3台のインプレになりますので、一台一台ガッツリ書くとブログがものスゴく長くなる、かといって手抜きインプレはしたくないので、前編、後編に分けようと思っていたのですが・・ですが・・・GSのインプレだけで7000字の大長文になってしまいましたぁぁぁぁあああああ(笑)、おぃぃいいいい!!やべぇよこれ、今までのブログで一番長ぇよ。400字詰め原稿用紙17枚オーバーですよ!!!バカなの?死ぬの??いやまだ死ねぬ!しょうがないので前編ムルティストラーダ、中編R1250GS、後編パンアメリカって構成でお送りしたいと思います。
二台目 「R1250GS」
こちら、言わずと知れたアドベンチャーの王者「R1250GS」です。外見は皆さん見慣れてると思います。尖ったお口と異形ヘッドライト。デザインずっと変わってないし、バイクが集う道の駅に行けば必ず1台はお目にかかるバイクですから、誰もがデザイン見れば「あーGS」ってすぐわかる。乗り出し価格を考慮すると「ちょっと走りすぎでは?」という気がするくらいの鉄板の大人気車、BMWモトラッドのドル箱ですね。ムルティストラーダより安いような気がするけど、オプション付けてくとあっという間に300万円に到達する。
(誰もがどこかで見たことあるバイク。それがGS。前からでけぇオフ車キタ!と思うと大体コレ。この日本でGSがそこら中に溢れるとは一体誰が想像していただろうか?)
試乗車にえいやっと跨がってみると足つきにまったく問題はない。ビックタンクの奴なんて「タンクがちゃぶ台みたいにでけぇ!こんなん足つくのか?」と最初は思うけど、オンロードバイクに比べてサスがガッツリ沈みますから足は普通につきます。とはいえ、車格が車格ですので、身長168㎝の私では片足つま先付け根までって感じ。でも気にしない。私みたいな低身長野郎が重くて足つき悪いバイクに乗る秘訣は、「足つきなんぞ無視する」こと。だってしょうがない。足伸びないんだから。「一定以上傾いたらどうせ支えられないんだから、どんだけ重くなっても同じだよね~」って開き直ることなんですよ。ですから、私が足つきでチェックするのは停止時に真っ直ぐ自然に足を下ろせるかってことと、つま先のつけ根が接地するかどうかだけ。それがクリアできれば選択の対象から外れることはないので「足つきは問題なし」と評価しちゃってます。だから微妙な足つきの差にこだわる人は私のブログはまったく参考になりませんから注意してください。
ちなみに今回の3台は車体がスリムで真っ直ぐ足を下ろせて片足つま先付け根まではちゃんと接地するので、信号待ちなどの停止時に気を遣うってことはなかったです。唯一ムルティのスポーツモードだけは、モード切替で突然足つき悪くなってビビりましたけど。
ちなみに重量車が扱い易いかどうかは車重より低重心かどうかってのがすごく大きい。だから大きくて重いバイクは低重心を徹底するんですね。で、このGSは低重心の権化とも言えるフラットツインを搭載するので、あらゆる意味で非常に楽。サイドスタンドからの引き起こしも軽々と直立する。
跨がってインパネ見ると、ぶっちゃけこの三台の中では一番チープです。「おいおい、これが乗り出し250万円のバイクかよ・・」って正直思う。カウルの内側はプラ剥き出しで塗装もないし、インパネ類に加飾もほとんどない。フル液晶メーターも表示は質素で遊び要素なし。外装も艶っぽい色味より塗装自体の強さを重視してる感じ。ある意味硬派、ある意味安っぽい。車でもドイツ車は質実剛健っていわれたりするけど、裏を返せば華がないんです。それはドカティやハーレーみたいに塗装に力入れてないところが多分にありますよね。たまに力を入れたな~と思うととんでもない価格の専用色だったりするし。ただ、GSの上手いところはこの外見のチープさを冒険バイクの雰囲気にうまく還元しているところ。要は「デカいオフ車」ってたたずまいをムンムン発散させているから、このチープさが逆にホンモノ感に繋がってる。ハンドル位置はムルティストラーダに比べるとちょっと遠いけど、乗りにくいわけではなく、身長168㎝でも十分リラックスできる姿勢です。
ではこのいかついバイクの走りはどうか?もうね。乗り出した最初からカマしてくれます。クラッチ繋いで走り出した瞬間。
「オィィィイイイイイ!!なんじゃあぁぁああ!この乗りやすさと優しさはぁぁぁぁぁああああ!!」
って、ほとんどの人が叫ぶと思う。このガタイでこの出で立ちですから、なんか「ひたすら強靱で、パラレバーのクセがバシバシで敷居の高いバイクなんじゃないの?」と思っちゃうじゃないですか。大パワーのオフ車って下手すると低速からブワーッと加速してフロント上げてぶっ飛んでくイメージですからね。でもGSは違うんですよ。その硬派な見てくれに反して、ひたすらフカフカ、トロトロでメチャクソ乗りやすい。シャーシもエンジンも懐の深い優しさに満ちてるんで、デカい車体を意識しながら乗ると、拍子抜けを食らいますよ。
エンジンは以前乗ったR1250Rよりも、低回転ではトゲのない鼓動感で「トロトロ」とまろやか。アクセル開けると中回転は「トロロロロロロロロ」、シフトカムが入る高回転域では「ドビューン」と回る。トルク特性はフラットで、ダイナミックモードに入れるとレスポンスもパワーも上がるけど、それでも節度は失わない。排熱もよく考えられてて全然熱くない。いやぁやっぱりBMWのフラットツインはあらゆる意味でジェントルで品がありますな。全てのトゲが取り払われて、実に扱い易いまろやか系の有能エンジンです。
(こちらGSの心臓部、伝統のフラットツイン。名前の通りペッタンコ。2気筒なのでクランクも短く、しかも縦置き。これが重量車の常識を覆す独特の運動性を生むんですね。)
味付け自体は薄味ともいえるけど、ヘンにパンチがあってガタガタいってるエンジンよりも「オフロードで粘ってくれそう」って感じがする。ドカティは楽しいけど、BMWは温泉に浸かってるように心地良い癒やしがある。
シャーシもなんつーか、でかいバイクと思えないほど素直で、重さを感じない。バンキングも減速時も一切トゲがないんですよね。アクセル開けようが、ブレーキ掛けようが、バンクしようが、挙動の質感が統一されてて、違和感がまったくない。テレレバーも日頃ゴールドウィングでダブルウィッシュボーンに慣れちゃってるんで、クセっていうほどのものは感じませんでした。この系のサスはブレーキング時や外乱に対するフロントの安定感に優れる一方、激しく体重移動する「キャピキャピ」した走りには向きません。ただ、流して走ってる時の乗り心地と安心感はピカイチなんですよね。
このバイク、外ヅラはバリバリの冒険ルックで「おいおい、がさつな山ガールじゃないの?」と思わせつつ、乗って走り出すと「ものッすごい気配りできて、乗り手を甘やかせ、尽くしてくれるタイプ」なんですよ。いやもうね。只者ではない雰囲気纏ってるのに、灰皿見るだけで、スッとタバコ出して口まで持ってきてくれて、ライターで火をつけて、流し目でニコって笑ってくれる感じ。もう胸おさえて「ズキュゥウゥゥン」ってなる。乗り出した瞬間からギャップ萌えで心を揺さぶってくるんです。これにやられてお買い上げになったオーナーは結構いるんじゃないですかね。
あとGSはこの3台のバイクの中でオフ車風味がもの凄く濃い一台です。街中走りながら「これならオフロードもいけるかも・・」って思わせてくれる。GSはテレレバー機構の構造上の特性で高速走行減速時のノーズダイブを抑えてるから、サスのプリロードを必要以上に締め上げなくてもいいんでしょうね。だからハイパワーエンジンを積んで高速走行を想定しつつも、ストロークがあって柔らかいオフ車感を色濃く残せる。
電子制御のセミアクティブサスを採用してるってことなんですが、ムルティストラーダみたいにモード切替でプリロードと減衰をガッツリかけてノーズダイブを抑えにいくようなところがなくって、電制ギミックが過度に強調されてる感じもない。サスペンションの物腰の柔らかさとエンジンのトロトロトルクのマッチングは秀逸で、排気量全然違うんだけど、なんとなく昔友人に借りて乗ったホンダXLR・BAJA(バハ)の優しい乗り味とか雰囲気を思い出しちゃいました。ちなみにバハは高速走ったら、120km/hで車体ヨレまくって「アバババババババ」ってなりますけど、GSは高速でも問題なくぶっ飛ばせる車体剛性がある。
実際のところオフロードでは、車重が災いして七転八倒になるんだろうけど、それでもオフロード走行の可能性を強く感じさせてくれるところが王者としての風格を作ってるんだと思う。GSはムルティストラーダみたいに「歌って踊ってヨゴレもできるスーパーエリート」っていうよりも、「ヨゴレやってた女の子が歌って踊れるようになりました!」って感じがするバイクなんですよ。ヨゴレの雰囲気がなくなるとこのバイクはオーナーから「軟弱!!軟弱ゥゥゥウ!!」ってボコボコにされるんじゃないでしょうか?もう乗り味から、過酷な環境からたたき上げたって雰囲気が漂ってますし、それがGSの最大の売りでしょう。
これだけアドベンチャーが数ある中で、なんであんなに販売面で強いのか。それはGSがアドベンチャーバイクを売るのに一番必要なものを既に備えてるからなんです。それはエンジンパワーでもシャーシ性能でもない。「多くのオーナー達と長年にわたって世界を股にかけて冒険をしてきた」という歴史と実績です。
冒険という曖昧でハッキリしない価値観を前面に出すアドベンチャーでは、あまたの過酷な環境を制覇してきた実績がバイクのタフさと能力を証明する。実績から生まれる物語や信頼感が、カタログ性能や、テスターの試乗インプレ以上に重要なんですね。要はどんなにステータスや装備品が凄くても、モンハンの世界でハンターランク1の冒険者はハンターランク5の冒険者の信用には遠く及ばないのと同じことです。アドベンチャーはその信頼を買うカテゴリーだからGSが強い。車体設計もその実績を裏切らないように作り込まれてるのがわかります。
いやーそんな長い試乗じゃありませんでしたが、もうサスもエンジンも素晴らしいし、バイク乗りとして主観を交えず性能評価すれば、この出来映えになんの文句があるのか?ぐうの音も出ません。ってところでしょう。「さすが王者は違うな~」と素直に感動する。で、感動しておいて何ですけど、はっきり申し上げましょう。「やっぱりこのバイク、私には合わない。」
「ええええ!!ここまで持ち上げといて結論真逆なのかよ!!」
って方もいるかもしれない。でも素晴らしい出来映えであることと、自分がこのバイクを選択するのか?ってところには大きな大きなミゾがあるんですよ。同じ地平線の向こうを目指す旅路を想定していても、人の本質はおそらくBMW派とハーレー派に分かれる気がする。
BMWはストレスになる刺激成分を可能な限り柔らかく肌触り良く変換することによって、乗り手の疲労を低減するっていう方向性なんですよね。フラットツインはアクセルをガバッと開ければ加速力は十分だけれども、乗り手の頭にアドレナリンがドバッーーーと出るような吹け上がり方はしない。パワーは常に余裕の方に割り振られ、いついかなるときでも乗り手の意志に沿う忠実なツールとなる。高性能かつ乗り手に従順なBMWは、それゆえに「理性的であれ」と私に求めてくるんです。
力あるもの、高貴なる者には常にその責任がつきまとう。ああ、それはまさにノブレス・オブ・リージュ。アルバトロスDⅢで大空を舞うリヒトフォーフェンのような騎士道精神が求められてる気がする。少なくとも「白目になってヨダレ垂らしながらアクセル開ける馬鹿面」は乗っちゃいけないバイクじゃないか?って乗る度に思うんですよ。
そんなバイクだから私との折り合いは最悪。こち亀に出てきた本田はバイクに跨がると武闘派の人格に変わってましたが、私はバイクに跨がるとアホの坂田になります。もう頭に吉本新喜劇の「ホンワカパッパ、ホンワカパッパ~♪」ってテーマが鳴り響いちゃうわけなんです。実際ハーレーの乗り手とBMWの乗り手のビジュアル比べてもしてもわかるでしょ?ハーレー乗りは「ノブレス・オブ・リージュ?ああん?その酒、度数何度なん?」って感じで頭湧いてる人達の集団ですよ。
ハーレーは、そんな快楽主義者のバカ共を、なんとかまともに走らせるために、低回転域でどんだけエンジン面白くするか?ってところを徹底してやってる。「バカは常にトリップしたいんだから、低回転域にバッドメディスンなトリップポイントを持ってきとけばいいんじゃね?」ってことなんですよ。だからハーレー乗りはそのトリップレベルに異様にこだわるんですね。また、バイク寝かせてスリルを味わいたいって脳筋には、物理的にバンクできないようステップからマフラーまで、ありとあらゆるところをゴリゴリ地面に擦り付けて抵抗する。ダイナはビックツインスポーツなんて言われてましたが、公道レベルにそぐわないスポーツ走行はバイク自身がそれを明確に否定してきます。
そこにあるのは乗り手とバイクの価値観の戦いですよ。騎士道精神を求めるどころか「そもそもコイツにはそんなもんは期待できん!」ってバイクが乗り手のバカさを見切ってるんですね。こっちがちょっとでもボケようとすると、「アホ!なにやっとんねん!」って後頭部をドツいてきます。もうね。BMWとハーレーではフェンシングと乳首ドリルくらいの違いがあるんですよね。
BMWからすれば、ハーレーは一定の性能を保証すべき大排気量バイクとしてあり得ないかもしれないけど、「何に乗っても更生できなかった私を立派に更生させた」実績がありますから、ハーレーの思想と方法論の正しさに疑いの余地はありません。
(BMWは二輪部門をモトラッド、四輪部門をモトーレンと呼称してます。バイクは縁がないんですが、車の方ではこれまでBMWとの付き合いが長いんですよね。ホンダもそうですが、同一メーカーでも車とバイクでは目指すものは全然違ってるのが面白いですね。)
BMWのバイクは「バイクとは、大排気量とは?大パワーとは?それを与えられた乗り手は如何にあるべきか?」っていうややこしい問題をいつも私に投げかけてきます。その点ではバイクに一本の思想的な芯があり、凡百のメーカとはやはり違うと感じる。BMWが提示する長旅における安全とは「乗り手に不必要な負担をかけないこと」であり、そのために「バイクは高速で長距離を移動できる快適で従順なツールであるべき」なんです。一方、ハーレーは「乗り手をスピードに誘うことなく刺激や面白さを提供すること」だと考えてる。BMWとハーレーの考え方は同じ旅をテーマにしながらも、まったく対極で、バイク乗りとして踏み絵の構造になってます。どちらも安全というものを突き詰め、バイクというモビリティはどうあるべきかを考えて至った果ての結論ですが、そのどちらを選択するのかはユーザーの旅に対する価値観や、スピードに対する向き合い方次第だと思うんですよね。
で、この私がリッターバイクに200万円超えるプライスを払って求めるもの。それはもう一も二もなく快楽なんです。だからパワー与えると絶対スピード出すんですよ。大パワー与えられて、そこに理性を強要されるのだとしたら、私はハナからミドルクラス以下を選択します。だってリッターバイクのパワーを理性的に扱える自信がないですから。そういう意味では私は全然大人じゃない。見てくれオッサンの中身ガキ。つまり51歳児なんです。
そんな私も、遙か昔、バイクとは別の趣味で「品のある高み」を目指し、素敵な大人になろうと背伸びしたことがあります。でも、「分不相応なもので着飾ってもモブキャラが主人公になることはない」という真理に到達し、自分自身に凄く冷めたんです。そして背伸びして買ったものを、みんな売ってしまいました。だって自分の正体がわかってしまうと、それにそぐわないものが周囲にあると逆に辛くなるんですよ。その中には今トンデモないプレ値になってるものもあるんですけど、まったく後悔はしていません。それはいくらプレ値になったところで、自分がもっている限り何の価値もないものなんです。
結局人は自分のレベルにあったものしか似合わない。それが長年の散財で私が理解した数少ない結論の一つです。私が「バイクは排気量も馬力も無視して好き嫌いで選んでいい」っていつも言ってるのは消費って突き詰めると「自分が一体ナニサマなのか?」を探す旅にすぎないからです。で、蓋を開けてみると自分は自分が考えているより、大した人間じゃないんですよ。消費って短期的に自分の気分を大きくアゲてくれる反面、長期的には大枚はたいて「自分のレベルを客観視させる」という凄く残酷な行為なんですよね。でもそれに気づくといろいろな憑き物が落ちて楽になったりする。
私はBMWモトラッドのバイクに乗る度に自分のバカさを再認識して、ちょっとほろ苦い気分になるんです。そして私をこんな考えにさせたってことは、R1250GSがとりもなおさず「BMWらしい思想に貫かれている素敵なバイクだった」ってことなんです。
二台目 「R1250GS」
こちら、言わずと知れたアドベンチャーの王者「R1250GS」です。外見は皆さん見慣れてると思います。尖ったお口と異形ヘッドライト。デザインずっと変わってないし、バイクが集う道の駅に行けば必ず1台はお目にかかるバイクですから、誰もがデザイン見れば「あーGS」ってすぐわかる。乗り出し価格を考慮すると「ちょっと走りすぎでは?」という気がするくらいの鉄板の大人気車、BMWモトラッドのドル箱ですね。ムルティストラーダより安いような気がするけど、オプション付けてくとあっという間に300万円に到達する。

試乗車にえいやっと跨がってみると足つきにまったく問題はない。ビックタンクの奴なんて「タンクがちゃぶ台みたいにでけぇ!こんなん足つくのか?」と最初は思うけど、オンロードバイクに比べてサスがガッツリ沈みますから足は普通につきます。とはいえ、車格が車格ですので、身長168㎝の私では片足つま先付け根までって感じ。でも気にしない。私みたいな低身長野郎が重くて足つき悪いバイクに乗る秘訣は、「足つきなんぞ無視する」こと。だってしょうがない。足伸びないんだから。「一定以上傾いたらどうせ支えられないんだから、どんだけ重くなっても同じだよね~」って開き直ることなんですよ。ですから、私が足つきでチェックするのは停止時に真っ直ぐ自然に足を下ろせるかってことと、つま先のつけ根が接地するかどうかだけ。それがクリアできれば選択の対象から外れることはないので「足つきは問題なし」と評価しちゃってます。だから微妙な足つきの差にこだわる人は私のブログはまったく参考になりませんから注意してください。
ちなみに今回の3台は車体がスリムで真っ直ぐ足を下ろせて片足つま先付け根まではちゃんと接地するので、信号待ちなどの停止時に気を遣うってことはなかったです。唯一ムルティのスポーツモードだけは、モード切替で突然足つき悪くなってビビりましたけど。
ちなみに重量車が扱い易いかどうかは車重より低重心かどうかってのがすごく大きい。だから大きくて重いバイクは低重心を徹底するんですね。で、このGSは低重心の権化とも言えるフラットツインを搭載するので、あらゆる意味で非常に楽。サイドスタンドからの引き起こしも軽々と直立する。
跨がってインパネ見ると、ぶっちゃけこの三台の中では一番チープです。「おいおい、これが乗り出し250万円のバイクかよ・・」って正直思う。カウルの内側はプラ剥き出しで塗装もないし、インパネ類に加飾もほとんどない。フル液晶メーターも表示は質素で遊び要素なし。外装も艶っぽい色味より塗装自体の強さを重視してる感じ。ある意味硬派、ある意味安っぽい。車でもドイツ車は質実剛健っていわれたりするけど、裏を返せば華がないんです。それはドカティやハーレーみたいに塗装に力入れてないところが多分にありますよね。たまに力を入れたな~と思うととんでもない価格の専用色だったりするし。ただ、GSの上手いところはこの外見のチープさを冒険バイクの雰囲気にうまく還元しているところ。要は「デカいオフ車」ってたたずまいをムンムン発散させているから、このチープさが逆にホンモノ感に繋がってる。ハンドル位置はムルティストラーダに比べるとちょっと遠いけど、乗りにくいわけではなく、身長168㎝でも十分リラックスできる姿勢です。
ではこのいかついバイクの走りはどうか?もうね。乗り出した最初からカマしてくれます。クラッチ繋いで走り出した瞬間。
「オィィィイイイイイ!!なんじゃあぁぁああ!この乗りやすさと優しさはぁぁぁぁぁああああ!!」
って、ほとんどの人が叫ぶと思う。このガタイでこの出で立ちですから、なんか「ひたすら強靱で、パラレバーのクセがバシバシで敷居の高いバイクなんじゃないの?」と思っちゃうじゃないですか。大パワーのオフ車って下手すると低速からブワーッと加速してフロント上げてぶっ飛んでくイメージですからね。でもGSは違うんですよ。その硬派な見てくれに反して、ひたすらフカフカ、トロトロでメチャクソ乗りやすい。シャーシもエンジンも懐の深い優しさに満ちてるんで、デカい車体を意識しながら乗ると、拍子抜けを食らいますよ。
エンジンは以前乗ったR1250Rよりも、低回転ではトゲのない鼓動感で「トロトロ」とまろやか。アクセル開けると中回転は「トロロロロロロロロ」、シフトカムが入る高回転域では「ドビューン」と回る。トルク特性はフラットで、ダイナミックモードに入れるとレスポンスもパワーも上がるけど、それでも節度は失わない。排熱もよく考えられてて全然熱くない。いやぁやっぱりBMWのフラットツインはあらゆる意味でジェントルで品がありますな。全てのトゲが取り払われて、実に扱い易いまろやか系の有能エンジンです。

シャーシもなんつーか、でかいバイクと思えないほど素直で、重さを感じない。バンキングも減速時も一切トゲがないんですよね。アクセル開けようが、ブレーキ掛けようが、バンクしようが、挙動の質感が統一されてて、違和感がまったくない。テレレバーも日頃ゴールドウィングでダブルウィッシュボーンに慣れちゃってるんで、クセっていうほどのものは感じませんでした。この系のサスはブレーキング時や外乱に対するフロントの安定感に優れる一方、激しく体重移動する「キャピキャピ」した走りには向きません。ただ、流して走ってる時の乗り心地と安心感はピカイチなんですよね。
このバイク、外ヅラはバリバリの冒険ルックで「おいおい、がさつな山ガールじゃないの?」と思わせつつ、乗って走り出すと「ものッすごい気配りできて、乗り手を甘やかせ、尽くしてくれるタイプ」なんですよ。いやもうね。只者ではない雰囲気纏ってるのに、灰皿見るだけで、スッとタバコ出して口まで持ってきてくれて、ライターで火をつけて、流し目でニコって笑ってくれる感じ。もう胸おさえて「ズキュゥウゥゥン」ってなる。乗り出した瞬間からギャップ萌えで心を揺さぶってくるんです。これにやられてお買い上げになったオーナーは結構いるんじゃないですかね。
あとGSはこの3台のバイクの中でオフ車風味がもの凄く濃い一台です。街中走りながら「これならオフロードもいけるかも・・」って思わせてくれる。GSはテレレバー機構の構造上の特性で高速走行減速時のノーズダイブを抑えてるから、サスのプリロードを必要以上に締め上げなくてもいいんでしょうね。だからハイパワーエンジンを積んで高速走行を想定しつつも、ストロークがあって柔らかいオフ車感を色濃く残せる。
電子制御のセミアクティブサスを採用してるってことなんですが、ムルティストラーダみたいにモード切替でプリロードと減衰をガッツリかけてノーズダイブを抑えにいくようなところがなくって、電制ギミックが過度に強調されてる感じもない。サスペンションの物腰の柔らかさとエンジンのトロトロトルクのマッチングは秀逸で、排気量全然違うんだけど、なんとなく昔友人に借りて乗ったホンダXLR・BAJA(バハ)の優しい乗り味とか雰囲気を思い出しちゃいました。ちなみにバハは高速走ったら、120km/hで車体ヨレまくって「アバババババババ」ってなりますけど、GSは高速でも問題なくぶっ飛ばせる車体剛性がある。
実際のところオフロードでは、車重が災いして七転八倒になるんだろうけど、それでもオフロード走行の可能性を強く感じさせてくれるところが王者としての風格を作ってるんだと思う。GSはムルティストラーダみたいに「歌って踊ってヨゴレもできるスーパーエリート」っていうよりも、「ヨゴレやってた女の子が歌って踊れるようになりました!」って感じがするバイクなんですよ。ヨゴレの雰囲気がなくなるとこのバイクはオーナーから「軟弱!!軟弱ゥゥゥウ!!」ってボコボコにされるんじゃないでしょうか?もう乗り味から、過酷な環境からたたき上げたって雰囲気が漂ってますし、それがGSの最大の売りでしょう。
これだけアドベンチャーが数ある中で、なんであんなに販売面で強いのか。それはGSがアドベンチャーバイクを売るのに一番必要なものを既に備えてるからなんです。それはエンジンパワーでもシャーシ性能でもない。「多くのオーナー達と長年にわたって世界を股にかけて冒険をしてきた」という歴史と実績です。
冒険という曖昧でハッキリしない価値観を前面に出すアドベンチャーでは、あまたの過酷な環境を制覇してきた実績がバイクのタフさと能力を証明する。実績から生まれる物語や信頼感が、カタログ性能や、テスターの試乗インプレ以上に重要なんですね。要はどんなにステータスや装備品が凄くても、モンハンの世界でハンターランク1の冒険者はハンターランク5の冒険者の信用には遠く及ばないのと同じことです。アドベンチャーはその信頼を買うカテゴリーだからGSが強い。車体設計もその実績を裏切らないように作り込まれてるのがわかります。
いやーそんな長い試乗じゃありませんでしたが、もうサスもエンジンも素晴らしいし、バイク乗りとして主観を交えず性能評価すれば、この出来映えになんの文句があるのか?ぐうの音も出ません。ってところでしょう。「さすが王者は違うな~」と素直に感動する。で、感動しておいて何ですけど、はっきり申し上げましょう。「やっぱりこのバイク、私には合わない。」
「ええええ!!ここまで持ち上げといて結論真逆なのかよ!!」
って方もいるかもしれない。でも素晴らしい出来映えであることと、自分がこのバイクを選択するのか?ってところには大きな大きなミゾがあるんですよ。同じ地平線の向こうを目指す旅路を想定していても、人の本質はおそらくBMW派とハーレー派に分かれる気がする。
BMWはストレスになる刺激成分を可能な限り柔らかく肌触り良く変換することによって、乗り手の疲労を低減するっていう方向性なんですよね。フラットツインはアクセルをガバッと開ければ加速力は十分だけれども、乗り手の頭にアドレナリンがドバッーーーと出るような吹け上がり方はしない。パワーは常に余裕の方に割り振られ、いついかなるときでも乗り手の意志に沿う忠実なツールとなる。高性能かつ乗り手に従順なBMWは、それゆえに「理性的であれ」と私に求めてくるんです。
力あるもの、高貴なる者には常にその責任がつきまとう。ああ、それはまさにノブレス・オブ・リージュ。アルバトロスDⅢで大空を舞うリヒトフォーフェンのような騎士道精神が求められてる気がする。少なくとも「白目になってヨダレ垂らしながらアクセル開ける馬鹿面」は乗っちゃいけないバイクじゃないか?って乗る度に思うんですよ。
そんなバイクだから私との折り合いは最悪。こち亀に出てきた本田はバイクに跨がると武闘派の人格に変わってましたが、私はバイクに跨がるとアホの坂田になります。もう頭に吉本新喜劇の「ホンワカパッパ、ホンワカパッパ~♪」ってテーマが鳴り響いちゃうわけなんです。実際ハーレーの乗り手とBMWの乗り手のビジュアル比べてもしてもわかるでしょ?ハーレー乗りは「ノブレス・オブ・リージュ?ああん?その酒、度数何度なん?」って感じで頭湧いてる人達の集団ですよ。
ハーレーは、そんな快楽主義者のバカ共を、なんとかまともに走らせるために、低回転域でどんだけエンジン面白くするか?ってところを徹底してやってる。「バカは常にトリップしたいんだから、低回転域にバッドメディスンなトリップポイントを持ってきとけばいいんじゃね?」ってことなんですよ。だからハーレー乗りはそのトリップレベルに異様にこだわるんですね。また、バイク寝かせてスリルを味わいたいって脳筋には、物理的にバンクできないようステップからマフラーまで、ありとあらゆるところをゴリゴリ地面に擦り付けて抵抗する。ダイナはビックツインスポーツなんて言われてましたが、公道レベルにそぐわないスポーツ走行はバイク自身がそれを明確に否定してきます。
そこにあるのは乗り手とバイクの価値観の戦いですよ。騎士道精神を求めるどころか「そもそもコイツにはそんなもんは期待できん!」ってバイクが乗り手のバカさを見切ってるんですね。こっちがちょっとでもボケようとすると、「アホ!なにやっとんねん!」って後頭部をドツいてきます。もうね。BMWとハーレーではフェンシングと乳首ドリルくらいの違いがあるんですよね。
BMWからすれば、ハーレーは一定の性能を保証すべき大排気量バイクとしてあり得ないかもしれないけど、「何に乗っても更生できなかった私を立派に更生させた」実績がありますから、ハーレーの思想と方法論の正しさに疑いの余地はありません。
(BMWは二輪部門をモトラッド、四輪部門をモトーレンと呼称してます。バイクは縁がないんですが、車の方ではこれまでBMWとの付き合いが長いんですよね。ホンダもそうですが、同一メーカーでも車とバイクでは目指すものは全然違ってるのが面白いですね。)
BMWのバイクは「バイクとは、大排気量とは?大パワーとは?それを与えられた乗り手は如何にあるべきか?」っていうややこしい問題をいつも私に投げかけてきます。その点ではバイクに一本の思想的な芯があり、凡百のメーカとはやはり違うと感じる。BMWが提示する長旅における安全とは「乗り手に不必要な負担をかけないこと」であり、そのために「バイクは高速で長距離を移動できる快適で従順なツールであるべき」なんです。一方、ハーレーは「乗り手をスピードに誘うことなく刺激や面白さを提供すること」だと考えてる。BMWとハーレーの考え方は同じ旅をテーマにしながらも、まったく対極で、バイク乗りとして踏み絵の構造になってます。どちらも安全というものを突き詰め、バイクというモビリティはどうあるべきかを考えて至った果ての結論ですが、そのどちらを選択するのかはユーザーの旅に対する価値観や、スピードに対する向き合い方次第だと思うんですよね。
で、この私がリッターバイクに200万円超えるプライスを払って求めるもの。それはもう一も二もなく快楽なんです。だからパワー与えると絶対スピード出すんですよ。大パワー与えられて、そこに理性を強要されるのだとしたら、私はハナからミドルクラス以下を選択します。だってリッターバイクのパワーを理性的に扱える自信がないですから。そういう意味では私は全然大人じゃない。見てくれオッサンの中身ガキ。つまり51歳児なんです。
そんな私も、遙か昔、バイクとは別の趣味で「品のある高み」を目指し、素敵な大人になろうと背伸びしたことがあります。でも、「分不相応なもので着飾ってもモブキャラが主人公になることはない」という真理に到達し、自分自身に凄く冷めたんです。そして背伸びして買ったものを、みんな売ってしまいました。だって自分の正体がわかってしまうと、それにそぐわないものが周囲にあると逆に辛くなるんですよ。その中には今トンデモないプレ値になってるものもあるんですけど、まったく後悔はしていません。それはいくらプレ値になったところで、自分がもっている限り何の価値もないものなんです。
結局人は自分のレベルにあったものしか似合わない。それが長年の散財で私が理解した数少ない結論の一つです。私が「バイクは排気量も馬力も無視して好き嫌いで選んでいい」っていつも言ってるのは消費って突き詰めると「自分が一体ナニサマなのか?」を探す旅にすぎないからです。で、蓋を開けてみると自分は自分が考えているより、大した人間じゃないんですよ。消費って短期的に自分の気分を大きくアゲてくれる反面、長期的には大枚はたいて「自分のレベルを客観視させる」という凄く残酷な行為なんですよね。でもそれに気づくといろいろな憑き物が落ちて楽になったりする。
私はBMWモトラッドのバイクに乗る度に自分のバカさを再認識して、ちょっとほろ苦い気分になるんです。そして私をこんな考えにさせたってことは、R1250GSがとりもなおさず「BMWらしい思想に貫かれている素敵なバイクだった」ってことなんです。
コメント
コメント一覧 (16)
BMWとハーレー、どちらも経験がある身としては、今回の内容は、全くそう思いますね。
激しく同意します。
GSの汚れをやってたのが歌って踊れる様になった表現は絶妙です。
へっちまん
が
しました
この前の日曜日、ウチのドカちゃんの実家でサービスさんに手伝って貰いながらゴソゴソとミラーを取り付けてると、セールスさん誕生日休暇の代役で本家の社長さんが!今週末のムルティV4S試乗、何卒ヨロシクって頭下げときました。何故?買わないから!
ところでこのGSインプレッション、S1000を乗り継ぎM1000に辿り着くもSS担当はF4RCに一本化してGSに乗り換え、まだまだ続きます、つい先日いつかはドカを叶えて3台目にパニガーレV4を迎え入れた友人49歳児に是非とも紹介したいと思い至りました😮💨。
へっちまん
が
しました
バイクに対する姿勢って大事だと思います
へっちまん
が
しました
最近またザラブ嬢のサス沼にはまってます。
所で自分はBMWだけは試乗しないようにしてます。
なぜなら絶対BMWのバイクは正解、若しくは模範解答だから。
乗っちゃうと、バイクがつまらなくなりそうで、恐い感じが
するのです。まあ偏見でしょうが。
でも50を超えた今死ぬ前に乗っておこうかな〜
ちなみに、沼は、前後のバランスで混乱中。
へっちまん
が
しました
そういやココ関西でもそのBMWは猛威を振るっています
峠はもちろん高速やワインディングでもよく見かけますが
そんな高価なバイクとは知りませんでした
金額は置いといて
たぶん自分には一生縁のないバイクでしょうw
バイクとしての機能は申し分なくツールとしては最高なんでしょうねw
ロングツーリングや旅にはもってこいだと思います
でも天邪鬼で生粋のバイク好きではない私は
バイクはガキに戻れるタイムマシンみたいなもんで
ヘルメット被って隼にまたがった瞬間 50過ぎたくたびれたおっさんが
ピチピチの17歳の精神状態になって若返りを楽しんでします。
変な意味はありませんが私にとってバイクの存在ってのはその程度なんです
とは言え食わず嫌いかもしれないので機会があれば
またがってみたいですw
へっちまん
が
しました
キングオブアドベンチャー!やっぱり売れてるのには理由があるんですねぇ〜
パラメーター表すと大きな欠けがない高いレベルのレーダーチャートができそうなバイクですね
個人的には縦?横?4?3?6?と無節操にしてるKシリーズが好きだったりしますが
気持ち良くなるために大枚はたいたのに現実見せられてバッドトリップするのはよく分かります!
否が応にも自分の適正や限界を浮き彫りにされますね、その現実飲むのにもまた拒否反応で苦労する…
バイク乗り始めたときはクルーザーバイク買うとは思わなかったなぁ……
デカい〜重い〜と思いながら走る頻度が増えたのは苦い経験が多少は生きたからと思いたいですね
へっちまん
が
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R1250Rのインプレをすでに見ているものとしては、やはりこの辺が着地点になるんだなと思います。
私はバイクに対してそんな複雑な感情を抱くことはないですが、そんな大層なバイクなんですかね?好き嫌いに上下はない以上、別にこのバイクが好きじゃないからってほろ苦い感情を持つ必要はないのでは?なんて思います。
まあきっとこれは私の修行が足りず、感性が鈍いからそう思うのでしょうが。
後編のパンアメリカも期待しています。
へっちまん
が
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