今回は私には珍しくバイクの比較試乗記です。(最初に謝っておきますが、ぶっちゃけ長いです。)前半に私のアドベンチャー観なども長々と書かれておりますが、最初にこれ書いておかないと、私のインプレ視点が伝わらないですからしょうがない。なお、このブログが書けてるのは、取引先のバイク好きの営業さんから、「ライコランドでビックアドベンチャーの乗り比べをやってるよ。」って情報をもらったおかげ。

乗り比べたバイクはドカティの「ムルティストラーダV4S」とBMWの「R1250GS」とハーレーの「パンアメリカ」。これらのバイクは県内に正規ディーラーがあるので、乗ろうと思えばディーラー行けば試乗できるのかもしれませんが、ディーラーをいちいち回るガッツがないんですよね。短期間にとっかえひっかえ乗り比べができる機会って滅多にないし、買わない前提でも気が楽そうですからこのイベントに飛びついたわけです。

それにしてもこの贅沢極まる3台の乗り比べって、「世界有名No1キャバ嬢が今夜一同に介しておもてなし!!」って感じですよね。あまりの人気に「行ってみたら順番待ちの整理券状態だったらどうしよう・・」とスッゴク心配してたんですが、実際は待ち時間ほとんどなし。バイクが「高額」「デカい」「重い」の3重苦だったからなのか、試乗を申し込む人はほぼいなくて、実質数名がグルグル回し乗りしてるって状態でした。

ライコランド
(こちらライコランド金沢のホームページから転載です。何という豪華な取り合わせ。スポSが浮いてますが、試乗申込みが1番多かったのはスポSだったんじゃないかな。)

アドベンチャーってカテゴリーはある時期から急速に普及して、現在は一大勢力になってますが、私は「いろいろ大変なカテゴリーだなぁ」と思ってます。

大排気量エンジンを積むビックアドベンチャーって、あらゆるところを走破するという夢を実現したバイクですよね。デカいエンジン積んで、いろいろな荷物を積載し、道なき道を走りながら遙か彼方の地平を目指す。アイドルでいうと「歌って、踊れて、ヨゴレもできる」っていうスーパー器用系なんですよね。でもバイクとしてはいささか論理矛盾を起こしてる。

ビック・アドベンチャーはデカいエンジン積んでるから元々の車重があるとこもってきて、長距離走行のために燃料タンクがデカい。荷物を満載するために車体も大きく、丈夫に作らなきゃならないから必然的に重くなる。

2輪においては重さとデカさは乗り手に大きなストレスを与える2大要因ですよ。ハーレーなんかは、徹底的に足つきを良くすることで、乗り漕ぎを可能にして重量ストレスを緩和してるけど、アドベンチャーは悪路走るための最低地上高がいりますから、車高を下げることができません。

つまり、何の対策もしないと、デカくて重くて足つき悪いという始末に負えない3重苦がそろっちゃうことになるんです。

同様に足回りのセッティングもいろいろと厳しい。悪路を走破するためのオフロード性能って路面追従性を上げるためのサスペンションのストロークと衝撃吸収のための柔らかさが必要です。その一方で、デカい排気量あるだけに、長距離高速移動もしたくなるわけですよ。そうなると一定程度の速度域のクルーズも想定しなきゃならない。そこで、問題になるのは減速能力です。でかくて重いバイクで速度出そうとするとここをしっかりしないとどうにもならないんですね。でもオフロードを快適に走れるようなフカフカサスペンションであんまりスピード出すと、減速時にサスが派手にノーズダイブしちゃって、姿勢も不安定だし、サスに制動力食われて止まれないなんてことになりかねない。

じゃあ足回り固める?

でもそれじゃ悪路はどうすんの?

車体が沈まないから足つきさらに悪くなるよね?

っていろいろとジレンマに陥るわけなんですね。

つまり、大パワーによる高速走行、ワインディングでのスポーツ性、悪路走破性、乗り手のストレス軽減や使い勝手っていうものはすべてが相反してて、それを全部なんとかしようってことになると、フツーは無理なんです。でも、最近はトラコンとセミアクティブサスの進化で、そこを上手くクリアし、ツジツマを合わせてきてるんですね。でも、徹底した電子化によって価格も跳ね上がり、バイクで冒険に行く前に資金調達で冒険しなきゃいけないというシャレにならんことになってる。

それでもアドベンチャーは売れてます。なぜか?アドベンチャーはストロークのあるゆったりとした乗り味を提供できるんで、乗り手にとても優しいバイクなんですよね。そこに大排気量エンジンの余裕が加わり、ちょっとした未舗装路も走れる高速ツアラーとしての使い勝手が凄くいい。しかもその乗り味の優しさに対して、イメージはタフ。まさにフィリップ・マーロウの

タフでなければ生きて行けない。 優しくなれなければ生きている資格がない」

を地で行くバイク。何でもこなす汎用性とタフな男を演出できるイメージ商品力の高さで快進撃を続けてるんですよね。


でもねぇ・・オンとオフの両立って高い次元ではどだい夢物語なんですよ。そりゃバイクは恐ろしく進化してますよ。ただ、長年バイクに乗ってきた人は「バイクは所詮タイヤ」ってのは良くわかってると思う。サスやエンジン特性って最終的にはタイヤを路面に押しつけるトラクションを向上させるためにあるわけだし、それはオンでもオフでも変わりません。で、いくらサスとエンジンの特性を変えたって

「一番大事なタイヤをボタン一つで切り替えられるわけじゃありませんから」

どんだけ多用途をうたっても、まずはトレールタイヤの選択の段階でオフ寄りかオン寄りかの選択を迫られるんですよ。で、この手の大排気量アドベンチャーでは、ほとんどの人はオン寄りのタイヤを選択するはずなんですよ。だって日本で長旅することを考えればほとんどが高速道路なんだからタイヤはオンロードのグリップ重視の選択が妥当。となるとオフロード性能は推して知るべしってことになるわけですが、それでいいんですよ。だって今の日本には翔んで埼玉の群馬県みたいに巨大生物の足跡が発見されたり、空に怪鳥が舞う秘境の地は存在しないんだから。にもかかわらず、この日本であえて不毛の荒野を爆走するオフロードイメージを前面に出して売っているのがビックアドベンチャー。そこにこのカテゴリーにおける商売の本質があると私は思ってます。

今回乗った3台も、いろいろな困難をなんとかつじつまあわせつつ、「歌って踊れてヨゴレもこなす」ってのを、高いレベルで達成しようとしてるのがわかる。でもビックアドベンチャーって矛盾を内包しているが故に、解釈というか正解が一つじゃないんです。その手法や考え方がメーカーごとにさまざまだし、乗ると出自の違いも明確になる。乗れば乗るほど「うーん。アドベンチャーって雲を掴むようなカテゴリーだな・・」ってちょっと禅問答みたいになるところもありますので、そこら辺を頭に入れながらブログ読んで頂けると良いかなぁと思います。


一台目「ムルティストラーダV4S」

Ducati-V2
(ドカのホームページから転載。大自然の広大な眺めの中のアドベンチャー。実に絵になる一枚ですが、「なんで乗り手がガチなレース用革ツナギなの?」って思いますよね。でも、これこそがムルティストラーダの本質なんです。)

まずこいつ。今回の試乗車では美人度ピカイチ。お値段350万円相当の超高級美女、あまりの色気に鼻血ブーです。指名料が一番高いだけあって豪華装備も満載。しかも、試乗車なのにガード類が一切ねぇよ。側面にはワケのわからんプラスティックの羽が出てて、コカしたらこれが割れることは明白。「なにかあったら・・アンタ結婚して貰うわよ。」っていうバイクの無言の圧に、興奮の鼻血の中にストレス性の鼻血が混じりはじめる。

フロントにレーダーがあって前車追従式のレーダークルーズコントロール着いてるし、セミアクティブのスカイフックな電サス驕って、エンジンはドカの最新鋭のV4グランツーリズモエンジンを積んでるとあっては、ムルティV4が名実共にドカの高級おもてなし路線の最高峰ってことでしょう。

バイクも当然それに見合うように質感高くてスタイリッシュ。塗装も素晴らしくイタリアンレッドが目に痛い。もはやアドベンチャーというより、「富豪用の大型クルーザー船」的な贅沢感すら漂ってます。

跨がると大柄な車体からは想像できないくらいポジションはコンパクト。ステアリングとシート間が短くてハンドルが近いんですよ。ドカってLツインエンジンの前後長が長いからハンドルが遠くて、前傾姿勢のイメージあるけど、V4にしてエンジンがコンパクトになったせいか、ハンドルが一気に手前に来てる。ドカであることを忘れるくらいの殿様乗りで、この時点で「おおっ」て思う。

私の身長だと今回の3台の中で腕が一番が楽で取り回しもしやすい。この時点で大きさによる圧力はかなり消えちゃいますけど、かといって小さいバイク的な貧相感は一切ない。なんせフロントカウルはデカいしメーターはフル液晶で煌びやか。カウル周りの質感も高いから、巨大で豪華なバイクに乗ってる満足感はたっぷり。

足つきはアーバンモードなら身長168㎝でも、つま先付け根までつくんでまったく問題ない。サイドスタンド状態からの引き起こしも普通に起こせる。とりあえずアーバンモードで走り出すと、動きは軽快でキビキビしてます。車両重量240㎏で試乗した3台の中では一番軽いのも効いてる。Lツインの特性で凄まじい切り返し能力を持つドカの基準からしたら随分ゆったりなのかもしれないけど、それでも今回の他の2台のビックアドベンチャーよりも明らかに軽快感がある。

鳴り物入りのV4エンジンは、昔乗ったVFRのV4とも、V-MAXのV4とも異なり、低速ではLツインのドカのイメージどおり「ダカダカ」いいつつも、高回転ではドラムロールのように「ダラララララッ」と駆け上がるような、ドカおなじみの回転感。昔のドカの荒々しいエンジン知ってるドカティストはどう感じるのかわかんないけど、私みたいな何でも乗る系ライダーは、「やっぱりドカの作ったV4だな~」って納得できる個性があります。スポーツモードでワイドオープンしたらフロントサスが伸びきって接地感がほとんど消えたんで、パワーも十分。レスポンスはスポーツモードでも過激ってほどではなくアドベンチャーらしくしつけてある。私の記憶の中のLツインにあるナーバスさもないし、実に使いやすいですね。さすが最新鋭エンジン、全域でマナー良いです。しかも、覚悟して乗ったけど、意外や意外あまり熱くないんですよ。熱地獄のドカティに、股火鉢のV4の組み合わせって地獄巡りのイメージしかないんですが、コイツは熱くない。なんでなの?って調べたらアイドリングの時には、股火鉢の原因となる後ろの二気筒を休止してるらしい。賢すぎるぅ。ただこれV4っていってるけど90度バンクだから、これまでの常識ならL4って呼ぶべきなんじゃないのだろうか?

デスモセティチストラダーレ
(こちらムルティに搭載されるグランツーリスモエンジン。パニガーレのデスモセディチストラダーレからデスモ取っ払ってます。賛否はあるようですが、タフさが要求されるアドベンのエンジンに繊細なデスモはどう考えてもミスマッチですからこれが正解。デスモ外したおかげで随分軽いんですよね。)

お次はシャーシですが、跨がって最初に感じるのは「基本オンローダーだな~」ってことです。170馬力のエンジンも、それを支えるシャーシもオンロードバイクのもの。足回りはストローク感たっぷりだし、柔らかくって乗り心地いいけど車体は堅い。高性能オンローダーにどうやって悪路走破性をプラスしようか?って考えで作られてるんだと思うんですよね。

で、この圧倒的オンロードポテンシャルのバイクをオフロードで走らせるための方法論が電子制御のフル活用。搭載されてる電子制御サスはスカイフックサスペンションっていうらしいですが、特定の安定線をバネ上に設定し、そこで揺れがゼロになるように、アクチュエーターでダンパーを緻密に制御するらしい。たしかにアーバンモードではサスも沈んで足つきも良いし、メチャクチャ乗り心地も良いです。

これをスポーツモードに切り替えると、同じバイクなの?と思うほどサスが締まる。エンジンレスポンスが大きく変わるのは他のバイクでも良くありますが、電サスでここまで設定変わるのはちょっと珍しいんじゃないでしょうか。普通はシュチュエーションなりに「より走りやすくする」ってレベルの変更だけど、ムルティは性格変わっちゃったんじゃないの?ってほど変化する。プリロードが相当かかるのか、最初の交差点で止まったときに足つかなくなってかなりビビりました。ノーズダイブもすごく抑制されてアドベンチャーっていうよりネイキッドバイクみたいな感じになる。サスの味付けを電子制御で大きく変えることによってあらゆる局面に適用させようってのがムルティストラーダの考え方なんだと思う。いわゆる仮面ライダー電王。人格の多重憑依です。

とにかくモードごとに明確にキャラ変えて振り切ったところ目指そうってことですよね。でも、これだけ大きく変化しちゃうとお付き合いする側の安心感はどうなのか?って気もするし、ほとんどの乗り手がアドベンチャーに求めてる優しさは中間のアーバンモードにあると思うんで、最後はそこに落ち着くような気がする。「電王も最後はソードモード」ってのと同じですね。で、肝心のアーバンモードがとってもバランス良く出来てるから、そこんところはドカもちゃんとわかってるんだと思う。

うわきげんば2
(3台もあるのにまだアドベンチャーに色目を使うのか?とバイク達の不満が爆発中。私の命が風前の灯火ですが、タダで乗せてもらえるのなら、何でもかんでも乗りましょう!ってのは、バイク乗りの業のようなものじゃないだろーか。)

そろそろまとめに入りますが、総評としては、ドカティらしく乗ってて楽しいです。メリハリはこの3台の中では一番ありますね。びっくりしたのは、これドカなの?ってほど、もの凄く乗りやすいこと。刃物みたいにスパスパとバンクして、アクセル開度によってはバラつくエンジンと折り合いを付けながら走るような濃いイメージで乗ると、乗りやすくてビックリすると思う。昔の900SSを知るものとしては「ドカティも随分大人になったなぁ・・」って印象。これなら乗り手を選ばず誰でもオススメできますね。

デカさの割には軽快で、エンジンも回転感がクッキリしててキャラがスカッと明るい。そんなキャピキャピしてると疲れるでしょ?っていう人もいるかもしれないけど、私はアドベンだからといって、このキャピキャピ感失われちゃうとドカじゃないと思いますから、その点は逆に個性として評価したい。

ただ、あまりにもたたずまいが清楚で繊細な造形ですから、農家の嫁みたいに泥まみれで田植えをさせることは難しい。ヨゴレも出来るけど、せいぜい「舗装されてない砂利の一般道も大丈夫です」的な立ち位置で、ハードなオフロード走行は想定してないと思う。

でもそれでいいと思うんですよ。だって出で立ち見ればオンロード寄りだってすぐわかるし、電サスにエンデューロモードの設定はあるけど、このバイクにゴリゴリのブロックタイヤ履かせる奴はいないでしょう。普段使いではアドベンらしく優しくストローク感ある乗り味を堪能し、そこにモード切り替えによるキャラ変というお楽しみを加えていくって感じ。でもそれって、実際の使い方考えるとド正論なんですね。オフロードをメインフィールドに想定してないから、この高級感のある車体が作り込めてるところもあるでしょう。

やっぱね。高い金払う人の一定数は高額に見合う高級感を求めるんですよ。ドカのムルティは、そこちゃんとわかってる。高級感と泥臭さはフィールド的に相容れないから、オフロード部分は遊びや気晴らし、エマージェンシーとして提供し、オンロードをガチでやってる感じ。そういう意味では「生粋のアドベンチャーとして陸の王者たらんとしているGSのライバル」というより、アドベンチャーの「何でもできるというディアルパーパス性を商品力として捉えてる」気がする。だって冒険バイク特有の汗臭さがないんだもの。ドカは冒険する予定がなくても欲しくなるようなバイクとしてムルティストラーダを提案してると感じますね。乗り味もスタイリングもドカらしい華やかさで彩られていて、私はすごく好きです。

ということで、最初の一台ムルティストラーダV4Sのインプレでした。既に6500字の大長文になっちゃってるんで、GSとパンアメリカは(後編)に回そうと思います。